第84話 鞍上過剰SM嬢
ファニィの全身、とくに脇から滲みでる煌びやかな霧。
ピンク色で香りもよく、少し甘く感じる。
なんだったらいつまでも嗅いでいたい匂いである。
ジワジワと部屋中に充満。
この規模、当然であるがファニィ含め利用者もクリミナも吸っていることになる。
「香遁………?セラピストにでもなったつもりぃ…?」
瓦礫を怒りのままに押しのけ、クリミナはこちらを睨む。
利用者も先ほどとは打ってかわり、ファニィを見つめる瞳に光が宿っていた。
気に入らない。
クリミナはまるで自分のおもちゃを取られたような感覚に満ちた。
ずっとずっとえぷしーたうんで女王として振る舞ってきた。
マジックチョーカーと暴力で、完全に恐怖政治を完成させたはず。
にも関わらず、今利用者はファニィを眺めている。
今一度、本当の支配者は誰か体の芯に叩き込まねばならない。
目の前の、急に現れた偽物の女王を亡き者にして。
ジュク…………
「……………?」
全身に違和感。
よく見ると、傷が塞がっている。
目の前の利用者も同様に回復していた。
クリミナはニヤァ…とほくそ笑んだ。
利用者だけを回復させるつもりだったのだろう。
しかしこの密閉空間。
広いと言えど、充満速度が早いせいで私も回復している。
ファニィの腹の傷も癒えているのが気に入らないが、そこは目を瞑ろう。
「はぁぁぁ〜い♡回復しちゃった。可哀想にねぇ。後ろの魯鈍どもだけを治したかったんでしょうけどぉ〜。まさか、この女王ーーーー」
「大丈夫かい?土塊の布だけど、今はこれで我慢しなさいな…。」
ファニィは土遁で土布をバラまいた。
利用者はしどろもどろでそれを纏う。
ブシッッッ
クリミナが歯で下唇を切った。
また無視しやがった。
何度目だ。
直接殺してやる。
デスサイズなんざなくてもどうにでもなる。
今すぐに飛びかかって喉元を斬り裂いてやりたいが、なにかするかもしれない。
警戒しつつ、ゆっくりと歩みを進めた。
「よしよし。これで恥ずかしくないからね!んじゃ………ちょっと行ってくる。」
利用者がどこに行くのか尋ねようとした時。
ファニィはクリミナに飛びかかった。
「来ると思ったわアホ女。」
クリミナは軽くバックステップで、ファニィのパンチを避けた。
拳は床に直撃。
「アホはアンタよ。私の狙いは……………ッッッ!!!」
バキキキ………
ボゴッ………
「ま…まさか!!!」
ドガァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!
なんと床が大きな音を立て崩壊。
そのままファニィとクリミナは奈落に落ちていった。
「あ………………。」
利用者が見た女王の姿。
それはとても美しく、凛々しいものだった。
振り向きざまにサムズアップ。
死にゆくのではない。
生きて帰ってくる女の姿だった。
ドガァァァッッッッッッ!!!
パラパラ………
ズウウゥゥン………
上手く着地した二人。
周りを見渡すと、電気椅子や鞭、苦悩の梨のような酷い拷問器具の一群。
間違いなく拷問部屋の一つである。
あちらこちらに飛び散る血が、ここでなにがあったか物語っている。
「ここは拷問部屋の一つよ。」
さっき言うたことと同じこと繰り返すなボケ。
「やっと私を見てくれたんだぁ…嬉しいわぁ…♡まぁ、アイツら使い物にならないし…邪魔だものね?」
仕事も出来ない、なのに高らかに生きたいだの人間だのと主張するケダモノ。
そのケダモノをマジックチョーカーで、少しはマシにしてあげたのに全て壊され無に帰した。
クリミナは罵詈雑言を吐きちらし、指の部分に鋭い爪を纏った。
コイツは左足にマジックチョーカーを巻いている。
「気持ち悪いねぇアンタ…。…………泉北ってところはさ…自然豊かで空気が美味しいのよ。」
「あ?」
「そりゃ、みんながみんなとは言わないけど…差別
は、ほとんどない。あったとしても、それは理解できなかっただけで…分かり合えたら一緒にご飯食べるんだよ。」
「なに言ってるの…?私、あんたの頭も攻撃したかしら…?」
「なんやかんやでみんな頑張って生きようとしてるんだよ。この不条理な世の中を。異星人だの種族だのと争わず、魔力数値を評価せず…そんな中…アンタらみたいなゴミ溜めが現れた。」
「……………?」
「要らないんだよ。お前らみたいなゲスども。」
泉北は人口が多い。
その分、やはり障害者も相対的に多くなる。
しっかりとした作業所も存在する。
パン工房、工場、小物つくり、データ入力、菜園…。
みんな生きているのだ。
しかし、ひどい話だが税金対策のために作業所が減少傾向にある。
そんな中、えぷしーたうんが地球に進出。
聞こえだけは一丁前。
裏では搾取などの言葉では表せない残虐行為。
こんなやつらが現れることで、益々作業所に対する目が厳しくなるのだ。
邪悪以外のなにものでもない。
「アンタらのせいで銀河政府のアホがまた作業所を減らすだろうね。」
「……………フフフフ…ハハハ………アーハッハッハッハッ!!!!!」
腹を抱え笑い出すクリミナ。
気持ち悪い女なのだ。
こういう女は、全く面白くない場面で笑うもの。
ファニィは流そうとした。
しかし、クリミナは口を開き信じられないセリフを吐いた。
「私ら…言わば、銀河政府に雇われてる公務員だけど?つーか、利用者からコスモトニンの採取自体…一部の議員の政策なんだけどぉ???」
「な……………、なんで……すって………。」
この残虐な人と思えない外道行為。
これが銀河政府の政策の一つなどと抜かすクリミナ。
一体どういうことなのだろうか。
「わかるぅ?惑星や銀河には当たり前だけど色んな人間が生きてるでしょ?それが宇宙にはめちゃくちゃあって…しかもその宇宙の外には大量の宇宙が存在している…。」
「………その上宇宙は増殖傾向にある。」
「そう!!!棲める場所が増えれば人間は動く!!!そこで繁栄すればするほど人間は増える!!!当然、流れで木偶の坊も湧き出てくる!!!」
「まさか…それで福祉制度が間に合わないからこんなことを………。口減らしじゃないか………。」
クリミナはすんごい角度でポーズを取り、舐め回すようにファニィを見上げる。
「世の中綺麗事だけじゃ回らないのよ〜?私らぶっ倒したとて…その先どうするつもり?アハ♡」
確かに、障害者の数が増えれば増えるほど福祉が逼迫する。
否定はできない。事実である。
財源にも限度がある。
しかしそれで障害者を資源扱いし、搾り取ることができなければ使い捨てティッシュのように処理するのは、どう考えても人間のやることではない。
それにそんな銀河政府の政策など聞いたことがない。
クリミナが嘘をついているか、一部の議員が秘密裏に行なっているのだろう。
「それにSNS覗いてごらんなさいなぁ?やれ障害者は死ねだの、やれ殺せだので溢れているでしょう?要らないのよぉ〜障害者なんて…。」
ファニィは表情を変え、真剣な顔で口を開いた。
「じゃあアンタから先に死ねばいいだろう?」
「………………は?」
「アンタの理論で言えば、私含め大勢がアンタを【要らない】って言えばアンタは処理される側。それに、アンタが消えればアンタが食べるはずだった食べ物、着る服、水、電力…。その分浮くんだけどねぇ〜?」
クリミナは対話を諦めた。
目の前の女は、言葉は通じるが会話が通じない。
無言で爪を構え、狙いを定めた。
頭に浮かぶは処理の二文字。
ドゴォッッッッッッッッッ!!!
まずは手始めにローキック。
ファニィはタイミングを合わせ、これを脛で受け止めた。
クリミナは鉤爪で顔面を狙うも、これも腕で弾かれた。
だからどうしたと体をそのまま勢いで回し、何度も爪を振るう。
何故か先ほどから体が軽い。
まるで羽毛になったかのような感覚。
連撃の速度も上がり、ファニィの皮膚から血が流れ始めた。
「アーハッハッハッハッ!!!なんか体が軽いわぁ!!!わかったわよ!!!あんたがさっきやった香遁!!!回復だけじゃない!!!神経や感覚を安定させる作用もあるわよねぇ??!!?」
その通りである。
全身に酷い怪我を負った利用者を治療するために部屋に充満させた魔法。
パニックに陥らないよう、心を落ち着かせるための、セラピー効果も兼ね備えていた。
だから利用者は冷静だったのだ。
しかしそのせいで、クリミナにも影響が出てしまった。
いつまで持続するかはわからないが、ファニィに反撃され動揺していたクリミナはもういない。
「ホラホラホラホラッッッ!!!足下お留守よッッッ!!!」
またもやローキックが迫る。
ファニィは膝でブロックするつもりだったのだろう。
クリミナの蹴りが変則。
下段蹴りから一気に上段蹴りに移り、側頭部にクリーンヒット。
ふらついたファニィを嘲笑うかのように、そのまま顔面にかかと落としを炸裂させた。
「ガハッッッッッッッッッ!!!!!」
唾が飛び散り、悶絶するファニィ。
クリミナなお構いなしに、後ろ蹴りをみぞおちに放ちファニィを柱に叩きつけた。
「ゲホッッッ………ガハッッッ!!!」
四つん這いのファニィの顔面を下から蹴り上げ、そのまま踏みつける。
グリグリ………
「あらぁ〜?どうしたの〜?カッコつけた割にはショボいんだけどぉ〜?」
ゴブシュッッッ!!!
「あ?」
足首から出血。
ファニィが右手でクリミナの足を押さえ、左拳で殴りつけたのだ。
そして裂けた足首の肉に手刀を突っ込んだ。
「痛ッッッッッッ………づ!!!!!!」
バランスを崩したクリミナは、ファニィに組み伏せられ脇固めに持っていかれた。
「もらうわよ。」
べゴギッッッッッッッッッ!!!!!
「ーーーーーーッッッッッッ!!!」
クリミナの左肘関節はへし折れた。
ファニィは壊れたクリミナの左腕を何回転もぶん回し、遠くの柱に叩きつけた。
ジャイアントスイング。
お返しである。
「クソが……ん……?」
パラパラと砂煙が舞う中、クリミナは不思議に思った。
思ったよりダメージがない。
そればかりか、完全にへし折れた肘関節が動く。
痛みは多少あれど、動かすのに支障がない程度。
香遁の効果だろう。
勝利の女神はこちらに微笑んでいる。
「試しに…やってみるか…。」
マジックチョーカーが光る。
人さし指と中指を合わせ、高速でビー玉サイズの火球を飛ばした。
「イダッッッッッッッッッ!!!!!」
火球はファニィの肩を貫通。
ジュウゥゥ…と肉が焼け焦げている。
「いいわねぇこれ………いいわねぇいいわねぇッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
クリミナは狂ったように笑顔で火球を連発。
ファニィは部屋を走りまわり、回避に専念するもやはり全て躱すのは至難の業。
首や胸などが掠っていく。
「最ッッッッッッ高よこれぇ!!!あんたの魔法とマジックチョーカー!!!相性抜群だわ!!!魔法こんなに使っても疲れないもの!!!」
ビキキ……ビキ……
「ホラホラホラホラッッッ!!!踊れ踊れッッッ!!!」
ビキキキキ……
「アガッッッ!!!」
遂に火球がファニィの太ももを貫き、盛大にこけてしまった。
ビキキ……キキ…ビキ…
「さぁて…殺してあげたいけどぉ…ここまで楽しませてくれたしなぁ〜。どうしよ?ベイルの陰キャに改造してもらおうかしら?それとも奴隷として売りつけようかしらぁ♡」
ビキキ
「てかなによさっきからうるさいわね…………ん?なにこれ…。」
皮膚の表面に筋のようなものが浮かんでいる。
血管か?
いや、なにか違う。
しばらく見つめた後、頭に浮かんだもの。
神経。
なるほど、ファニィの香遁はどうやら自分にかなり適合しているらしい。
身体とフットワークはより軽く、魔法もフィジカルもより重い攻撃が放てる。
クリミナはヨダレをネチャァと垂らしご満悦。
猛スピードでファニィに接近し、サンドバッグを殴りつけるかのように痛めつけ始めた。
「イーヒャッハッハッハッハッ!!!マジで最高ッッッ!!!あんな木偶の坊なんかを気にかけたのが運の尽きねぇ!!!相手も強くしちゃってどうするの…………よッッッ!??!」
100発以上の殴打。
100回以上の斬撃。
ガードも綻び、前のめりで倒れそうなファニィの顔面に後ろ回し蹴り。
体重なんて概念は感じない。
痛みなんて幻想は必要ない。
今ここにあるのは、愉悦と絶頂。
世界の全てが私のためにある。
「ほぅら跳びなさいなッッッッッッ!!!」
下から顎目掛けハイキック。
一撃ではない。二段構え。
つまり、空中二段蹴り。
ファニィは天井まで吹っ飛び、ガラガラと瓦礫ごと落下。
下敷きである。
「さぁて…そろそろお遊びはやめにしましょ♡ボスに怒られちゃう。」
とどめを刺すために、一歩前に進んだ。
その時である。
ズキン
痛い。
全身に少し痛みが走った。
少し調子に乗りすぎたか。
いくら香遁が適合しているとは言え、遊びすぎた。
これはいけない。
さっさと息の根を止めて休もう。
そう頭の中で整理した。
ズキンズキン
「痛った………わかったわよ…。もう遊ばないっての…ッチ……めんどくさい…。」
ズキンズキン
ズキンズキン
ズキンズキン
スタッ…と足を止めた。
痛みが加速している。
痛すぎる。
着ている服が擦れる度に激痛が増す。
なんならなにも覆ったりしていないのに、顔すら痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
なんやこれゲシュタルト崩壊しそう。
「痛………痛い………痛い痛い痛いッッッッッッッッッ!!!!!」
その場でうずくまるクリミナ。
その動きすら心臓が飛び跳ねるほどの苦しみ。
息を吸うことすらままならない。
なんなのだ。
一体なにが起きているのだ。
「楽しかった〜?女・王・さ・ま♡」
いつの間にか目の前にファニィが立っていた。
驚くクリミナ。
急に現れたことに対してもそうだが、ファニィの身体。
傷が塞がっている。
寧ろ、肌質はプルッと潤い健康そのもの。
「な…………に…………こ……………………れ……………。」
「私の香遁。アレねぇ…治療にも使えるけど、本当の能力が別にあるのさ。それは…神経を過敏にすること。」
「か…………………び……………。」
充血した目でファニィを見上げるクリミナ。
「痛いわよねぇ?そりゃあそうでしょうよ。神経がモロ表に出てるんだから。空気に触れるだけで激痛よ。」
ビシッと指を立てるファニィ。
なぜか薬指。
変わった人やね。
「最初は勘違いしちゃうのよね〜。パワーア〜〜〜ップって…。フフフフ…地獄の入り口とも知らずに………ね♡」
パシンッッッッッッッッッ!!!
なにかをしならせるファニィ。
鞭だ。
ここは拷問部屋。
先ほど天井から落ちた時に拾ったのだろう。
「思い出すわぁ…20代のころ…私お金なくて定職にも就けなくて…夜の世界で働いてたのよねぇ…。なんのお店かわかる?フフフフ…。」
刹那。
パシイイィィィィィンッッッッッッッッッ!!!!!!!!
「ガアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!????!!」
鞭でぶっ叩かれ始めた!
もう言わんでもわかるだろう!
そう!ファニィ…いや、ファニィ様が働いていた世界…それは………!!!!!
「SMクラブで嬢やってたのさ!!!」
パシイイィィィィィンッッッ!!!
バシッッッッッッ!!!!!!
パァァァァァァァァンッッッッッッ!!!!!
白目をむき悶絶するクリミナ。
神経が浮き出ている箇所に鞭。
つまり全身。
例えるならば、今クリミナを襲う痛みは眼球にアイスピックを突き刺され、皮膚を剥がされ、髪の毛を毟られ、歯を無理やり引き抜かれるなどと同じ。
いや、本当のことを言えばそれらを合わせた100倍相当の痛み。
通常であれば、ショック死か失神は免れない。
なぜ生きているのか。
香遁のせいである。
この魔法のせいで、生命力が尋常じゃないほど上がっているのだ。
これこそ本当の生き地獄。
精神力も変に強くなっているせいで、気も狂えない。
クリミナは肉が抉れ始めるも、また再生。
そしてそこをまた鞭で叩かれる。
同じ箇所を何度も叩き、骨が露出しても関係ない。
ファニィにスイッチが入ってしまった以上は。
「ホラホラホラホラ〜ッッッ!!!踊りなさい踊りなさいなぁッッッッッッ!!!オーホッホッホッホッホッホッ!!!!!!!」
「ギイイイィィィヤァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!」
ドサァッと倒れるクリミナ。
しかしそれすらも激痛。
のたうち回る姿に、女王の形はない。
「ん〜???なんだい〜???」
「た…………………たす………………」
助けて、と言いたいのだろう。
降参。ギブアップ。
この時点で捕縛するのが本来の流れ。
しかし…
「足す?もっと叩いて欲しいのかいこのどうしようもないブタちゃんはああああぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!」
パァァァァァァァァンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
ダメだこりゃ。
「ガアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!イダイイダイイイイイィィィィッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
全身の穴から体液をぶちまけるクリミナ。
ファニィは静かに目を閉じ、クリミナの周りを鞭で包む。
「さぁて…ご利用ありがとうございました♡」
ギュルルルルッッッッッッッッッ!!!!!!
パンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
伸びた鞭が一気に収縮。
クリミナの全身を覆った。
「ァ…………………ァ………。」
鞭の間からドロドロと流れる鮮血。
「延長は…オプションかかるからね♡」
決着。
ファニィvsクリミナ
ファニィ勝利
クリミナ完全敗北
あまりにも強くなりすぎた女の末路であった。
ちなみに、なぜファニィには神経が浮き出ていないのか。
利用者は大丈夫なのだろうか?
そこは問題ない。
なぜならば…これはファニィの魔法だから。
コントロールなんてお手の物だよね♡




