第83話 クリミナルクィーン
ダッダッダッダッ……………
ビュンッッッ!!!
建物内を進む銀之助たち。
地下6階。
野望渦巻く反道徳の先。
ひとかたまりでの移動ではなく、WPホール(ワープパネルホール)でそれぞれに分かれることになった。
エレベーターホールのようなものである。
クエスチョナーとグレート。
ジェリー、マヤ、サーシャ、モチェットの女子軍。
モチェット男やけど。
そして、銀之助、ゴルズ、ナトリの3人。
アミーノは下っ端ディレクターを引き連れ、市街地に向かった。
銀之助は一応パルムに連絡は送っている。
返事があったのかは、わからない。
今はそれどころではない。
建物の玄関を真っ直ぐ進んだ奥。
そこにC.Bがいるのですぐわかるだろう。
「銀兄貴!!!社長!!!利用者のみなさん…生きてたらいいっすね………!!!」
「余計なこと考えんじゃねぇナトリッッッ!!!黙って走れッッッ!!!」
「ウス!!!社長!!!」
その言葉を聞き、銀之助は先ほどの会話を思い出していた。
廊下の奥。
パッと見、ただの行き止まりだがC.Bの解析によって見せかけの壁だったことが判明。
銀之助が慎重に壁を通ると、目の前に拳が真っ赤に染まったサイ男がこちらを見おろしていた。
「ワギャーーーーーーッッッ!!!」
「モーーーーーーゥゥゥッッッ!!!びっくりさせるな銀之助!!!」
「なんやゴードンかいな……ッッッて!!!そいつ誰や!!!」
床には無様に顔面陥没ヴァイスが横たわる。
「わちゃー、顔へっこんでるがな。ゴードンがやったんやろ?」
「サーシャの言う通りだ。メールがケロンバから送られてきてな。銀之助たちにも届いてるはずだ。だから来たんだろ?」
頷く銀之助。
信じたくないが、目の前のゴードンと横たわるブサイクな異星人を見る限り、嫌でも信憑性が増す。
それ以前に、ケロンバが軽々しくそんな内容のメールを送ってくるはずがない。
最初からわかっていた。
「見たことねぇ顔だな…。」
「そら顔凹んでるからな。こんな顔拳状に凹んでるもんそうそうおらんで。」
「そうじゃねぇよ嬢ちゃん。」
ゴルズはヴァイスの顔を覗くも、面識はないようだ。
「貴方…確かポーズトッポの社長さんですよね。」
「おう、兄ちゃんは秘密結社パラボランのサイ・ゴードンだな。よろしく…と言いたいが、今は時間がない。挨拶はまた今度な。」
ゴードンは軽く返事。
手短に事の状況を話し始めた。
最初こそパラボランの3人は、清掃員として作業をしていた。
その時遠くからヤビーの姿が見えたという。
表のグラウンドでは支援員や利用者、街のみんなが集まっているのでなにか忘れ物でも取りにきたのだろうと思っていた。
しかし、どこの部屋を清掃してもヤビーがいない。
不思議に思った矢先、ファニィがスクイージー(水切りワイパー)を落とし蹴り飛ばした。鈍臭い。
そしたらなんとビックリ、壁の向こうに消えてしまったではないか。
「元より空間が開いてたんか!!!」
「あぁ。だから俺たちがなにかしたわけじゃない。」
銀之助は、頭にエレンが浮かんだ。
どうにか細工でもしたのだろうかと。
そして、ケロンバたちは不思議に思い壁の向こう側に進んだということである。
清掃範囲として聞いていないが、シンプルに汚れていたからである。
しかし、それだけではない。
察知能力の高いものにしかわからない、特有の【邪気】を感じたとか。
「ほな、ファニィもケロンバも中に入ったてこと!?はよ追いかけらな!!!今頃どうなってるか!!!なんで行かせたんよ!!!」
「サーシャの言うとおりだ。しかし、そうでもしなければみんなに中で何が起きているかメールできなかっただろう。それにーーーー」
2人とも弱くない。
ゴードンはここに残り、警察の対応とここまで逃げてきたヴィルホーンの連中の相手をするとのこと。
それを聞いた銀之助たちは、先を進んでいった。
「みんな………頼んだぞ。」
綺麗な緑の髪をポニーテールに括り、清掃道具を持つスタイル抜群の美女がここに一人、廊下を歩いていた。
「それにしても広いねぇ。ケロンバとゴードンは大丈夫かしら。」
みんな大好きファニィ様。
もうとっくにケロンバからの連絡は受けている。
ここは残酷な場所だと。
あの天才科学者が言うのだ。
間違いはないだろう。
スンスンッ………
「血の臭い…。それだけじゃないねぇ。」
眉間に皺を寄せるファニィ。
清掃の経験からか、はたまた違う理由か。
血以外の臭いも嗅ぎ取っていた。
「ホンッッッッットに気持ち悪い場所だね。ホントに拷問施設なのかい?トラップがひとつもないじゃないか。」
ここまでファニィは無傷である。
監視カメラこそあるのかもしれないが、罠がひとつもない。
ケロンバが解除した可能性もあるが、アナログな罠はさすがに直接弄るしかない。
しかし、その原始的な罠すらここに至るまで見かけていない。
「切り捨てるつもりなんだろうね。別にここを放棄したところで、銀河中に拠点はある。えぷしーたうん…大きいからね。」
一見変哲もない廊下。
その長い道を何分歩いただろうか。
ファニィは足を止めた。
「……………。」
左の扉。
これまた普通の扉である。
慎重に手を伸ばし、ゆっくりと開く。
ドアノブを回し手前に引いた途端、なにかが勢いよく流れ込んできた。
「あぶなっ……なんだ……い……ッッッッッッ!!!!」
人だった。
髪の毛はボロボロ。
全身ズタズタに引き裂かれており、裸である。
目はかっ開いていて凄惨な姿だが、辛うじて男性とわかる。
酷い話だが、局部が切断されているので胸とガタイで判断したのだろう。
「アンタ大丈夫かい!!!」
脈に指をあてる。
微弱ではあるが、まだ生きていることがわかった。
しかし治療の術がない。
ファニィは印を結び、その男性に魔法をかけた。
ゆっくりと抱きかかえ、部屋の壁にもたれさせた。
「痛み止めしかできないけど…ごめんね…もうちょいで助かるからね…。」
「あ………………あぉ……………。」
「………?」
男性がなにかを訴えようとしている。
目線を横にずらし、ファニィは絶句した。
あ………………
ううぁ………………
ふ…………あ…………
部屋中に男性と同じような人がごろごろ転がっていたのだ。
「な…………なんだいこれ…………。」
床は血と糞尿がところどころに飛散。
ファニィは汗を流し、男性の頭を撫で奥に進んだ。
周りの倒れている男女はファニィを見つめ助けをもとめているが、ファニィ一人では限界がある。
心を殺し、少し小さめの広間に出た。
その部屋の奥。
階段になっており、高級な椅子に足を組みながら頬杖をつく女がこちらを見下ろしている。
「なぁ〜にぃ〜?もしかしてぇ掃除屋?掃除しに来てくれたんだぁ!!!」
「…………………。」
「私はクリミナ。歓迎するわよ。ま、殺すけど。」
「…………掃除しに来た…………ねぇ…。手当つくんかねぇ…。」
「なんの手当よ?」
ファニィは両腰に手を当て、うつむいた。
「目の前のデカい粗大ゴミの処理手当。」
「は?何言ってんのお前。」
「そのままの意味だけど?アンタがやったんだろう?酷いことするもんだねぇ…。」
顔を後ろにクイッと動かすファニィ。
少し間が空き、クリミナは笑い出した。
「アーハッハッハッハッ!!!そうだけどぉ!?私はねぇ…あの子たちが可愛くて可愛くて仕方がないのよぉ!!!」
「あの子たち………やっぱり利用者かい…。」
「そうよぉ!?可愛いと思わなぁい?魔力も低ければ、体が不自由!なのに一丁前に人間をやろうとしてる!健気で出来損ないでホンッッッッットに可愛い!」
顔が引きつるファニィ。
「私はねぇ…女王なの…。このえぷしーたうんの!!!男も女も関係ない!!!全員遊んであげてるの!!!そこに差別なんてものはないわぁ!!!」
ボロボロの体。
衣服がズタズタに引き裂かれ、異様な局部。
そして遊ばれた。
もうここまで言えば、先はいらぬだろう。
「で、どうするのぉ?あんた…私に向かってゴミ呼ばわりしたねぇ…。高くつくわよ。」
クリミナは足下の利用者を蹴り飛ばし、立てかけていたデスサイズを手に取った。
そして高く跳んだかと思えば、勢いよくファニィの目の前に着地。
顔を至近距離まで近づける。
「さぁて…どう遊んであげようかしらぁ…フフ…。」
「女王様ぁ?」
「あ?なによ?」
「汚い顔近づけるんじゃないよ。」
パァァァァァァァァンッッッッッッッッッ!!!
ファニィのアッパーカットが炸裂。
そして宙に浮いているクリミナを前蹴りで階段まで吹っ飛ばした。
パラ…………パラ…………
ガラ……
「女王様って言う割には…本人で殴り込みかい?可哀想にねぇ…人望ないのかい?」
「痛ッッッた…………お前…殺すわもう…。マジで…。」
ガカンッ
デスサイズを拾い直し、ゆっくりと歩くクリミナ。
今度は跳ばないみたい。
「どうぞ♡」
ブォンッッッ
「ッッッッッッッッッ!!!!!」
ザガンッッッッッッッッッ!!!!!
クリミナが軽く振ったデスサイズ。
そこから衝撃波が目に見える形で飛んできた。
最初こそ防ごうとしたファニィだが、とっさに横に移動。
後ろを見ると、床から壁にかけて大きく抉れていた。
「な…………!!!」
「驚いちゃった〜?そりゃそんな顔にもなるわよねぇ…♡でもねぇ…こんなもんじゃーーーーー」
「利用者には………当たって…ないね…。良かった。」
「……………。」
ビキキ…と、こめかみや手の甲に太い血管が浮かぶクリミナ。
1ミリもこちらを見ていない。
絶対女王である私を見ずに、利用者の心配をしていやがる。
自然界や殺し合いにおいて、相手から目線をズラす行為は侮辱そのもの。
クリミナはそれが許せなかった。
「へぇ〜?余裕ぶっこくのねぇ〜?怖くて仕方ないから、無理やり考え変えてる感じぃ?わかるわぁ〜。そんなにそんなに肉塊が好きなんだったら………」
ブンブンブンッッッッッッ!!!
「あんたごと斬り裂いてあげる♡」
何度もデスサイズを回転させ、衝撃波を連発で飛ばしてきた。
ファニィは印を組み、水遁で壁をつくりそれを防ぐ。
「厄介だねぇそれ………ッッッッッッ!!!」
水は切り裂けない。
しかし限度がある。
相手は魔法を使うのだ。
「ホゥラホラホラホラホラホラッッッッッッ!!!」
ザンッッッ!
ビチャッッッ
ガンッッッッッッ!!
ビチャビチャッッッ
ズザザザザッッッッッッ!!!
「防ぐだけぇ!??!情けないのねぇ!!!」
クリミナがまたデスサイズを振り回し始めた。
デカい一発を放つつもりか。
ファニィはそれを狙い、印を組んだ。
「水遁ッッッ!!!飛水弾ッッッ!!!」
床に散った水が一気に集まりだし、クリミナに向かう。
「まだだよッッッ!!!雷遁!!!雷熊拳ッッッ!!!」
ファニィの拳状の電撃。
それが飛水弾に接触。
強力な雷水弾となった。
そしてクリミナに直撃。
バリバリバリバリバリバリッッッッッッ!!!!!
(これで倒れてくれたら…………)
ブゥンッッッッッッ!!!
(んなわけないわよね…………。)
クリミナはデスサイズを横に振りかざす。
なんと魔法が刃先に吸収されているではないか。
「あらぁ…随分と優しいのね〜!パワーアップしちゃった!」
気色悪い笑顔のクリミナ。
「このデスサイズはねぇ…接触した魔法を吸収できちゃうの…♡あんたがおバカさんで助かるわぁ〜。」
デスサイズからは、水蒸気と電気がほとばしる。
ファニィは後退りしつつも、後ろを確認。
苦しみもがく利用者たちの一部がこちらを見ている。
「もうちょっと…もうちょっと我慢してね。」
優しくウインク。
クリミナは、また無視したファニィに対する怒りが増すばかり。
「あんた…………ハァ…まぁいいわ。頭悪そうだし、私が大人になるしかないわね…。深呼吸深呼吸…っと。それに…あんたさっき私に配下はいない…とか言ったっけ…?ウフフ…。」
なにか嫌な予感がする。
ファニィは警戒し、魔力を練った。
ガシッッッッッッッッッッ!!!!!
「うぇ!??!な、なにさ!???!!」
「あ…………あぅ………ごめ…………んなさ………。」
利用者が後ろからしがみついてきたのだ。
足下も掴まれ、動けないファニィ。
仕組みはわからないが、クリミナに操られているのだろう。
「そのまま…捕まえてなさいよぉ…役立たずの木偶の坊ちゃんたちッッッッッッ!!!」
(しまッッッッッッ…………)
ザシュッッッッッッッッッ!!!!!!!
クリミナのデスサイズがファニィの横腹を襲った。
ガチ………
デスサイズはファニィに食い込んでいた。
「………ッチ…土遁か…。」
ファニィが事前に魔力を練ったことが功を奏した。
腹回りを中心に土遁・土嬢骸で防いだのだ。
「ゴブッッッッッッ!!!」
吐血するファニィ。
タイミングがズレたのか、刺さってから魔法を発動したのだろう。
「だからなによぉ???まだこっちには……あんたから吸収した魔法があるってのぉ!!!」
バリバリバリバリッッッッッッッッッッッッ!!!
「ガァァ…………ガ………ッッッッッッ!!!」
体内に直接電撃を浴びせているのか、ファニィは激しく痙攣。
白目をむき、苦しんでいる。
「フヒヒヒッッッ!!!ど〜お???痛ぃ〜?苦しぃ〜?♡」
満悦なクリミナ。
しかし、なかなかデスサイズが抜けない。
本当ならば利用者ごと真っ二つにしたいのだが、ファニィに深く食い込んでいるせいで動かせない。
「コイツ……………この……ッッッ!!!」
ガシッッッッ!!!
「んなッッッッッッ!!!」
「これで…………動けない……わよ…………。」
ファニィがクリミナの腕をしっかりと掴み、髪留めを引き裂きポニーテールの髪型が本来のスタイルに戻った。
そして、針金のように尖った髪の毛が次々利用者のとある部分に突き刺さる。
バキッッッ
「あんた……まさか最初からこれのために……!??!」
ニヤリと笑うファニィ。
髪の毛が突き刺さった部位。
利用者に巻かれていたマジックチョーカー。
ファニィは、利用者を巻き込むまいとわざとクリミナをおびき寄せ、動きを止めた上でマジックチョーカーを破壊したのだ。
ケロンバから話は聞いている。
マジックチョーカーはただの福祉用具ではないと。
「さっき………言った……でしょ……。汚い顔………近づけんなってッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
ゴリュッッッッッッッッッッッッ!!!!!
ファニィ渾身のパチキ。
クリミナの顔面に深く刺さり、そのままふらついたところに股間を蹴り上げられた。
「ーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!」
言葉に出来ない痛み。
そして倒れ込んだ矢先、顔面に蹴りをいれられた。
靴の先端。
清掃の仕事を安全に進めるべく、ファニィの靴は安全シューズ。
鼻血を吹き出しクリミナはファニィから離された。
「まったく…………この髪留め気に入ってたんだよ…。えぷしーのB型のとこで可愛いから買ったのに…。」
腹のデスサイズを引き抜き、床に落とす。
ガランガランと音を立て、デスサイズはそのまま踏み壊された。
「怖いわよね…でも大丈夫…大丈夫だから…。」
利用者の頭を撫でる。
目も細く、息も荒いファニィ。
しかし力強い。
はたから見れば、瞳に希望を抱く利用者に囲まれるファニィこそが女王である。
シュバババと印を組み、パンッッッと手を合わせる。
「香遁・百香花」




