第82話 科学者vs架嶽者
ガチャガチャ…
キュイーーーーーーンッッッ!!!
まるで骨のような形をしたアームがうねり、先端の回転刃が甲高い音を発しケロンバを襲う。
それを軽々と回避し、白衣をなびかせベイルに向かい走る。
「水遁・ガマ鉄砲ッッッ!!!」
片手から放たれる水流。
しかし、ベイル本人に当たることはなく電気シールドで防がれてしまう。
ケロンバはこの程度予測していたのか、ベイル付近にガマ鉄砲をやたらめったらに放ち始めた。
「感電でも……狙ってるのぉぉぉ?やっぱり………君……バカじゃぁん!!!!!まずこのシールドをどうにかしない限り無理って…………わからないのぉぉぉぉ!??!」
人差し指と中指を合わせ、腕を振るう。
部屋のあちこちのアームがそれに従うように動く。
魔法の類いか、科学の力か。
左右前後。
跳べば上下。
全方向から容赦なくアームが襲いかかる。
ケロンバは必死に回避しているものの、このままではジリ貧。
いつかは体力が底をつき、限界を迎えてしまう。
対してアームは機械なので疲れ知らず。
どちらが有利か、なんてものは一目瞭然。
「正義をなめるなゲロ!!!」
迫りくる回転刃をギリギリのところで避け、アームのボディに鉄槌。
ドゴンッッッと鈍い音が響く。
しかし、それと同時に液体が飛び散るような音も。
「ゲロッッッ!??!」
ケロンバの手は切り裂かれていた。
ボディ部分が蓋を開くように、丸鋸のような刃物が姿を現したのだ。
「それだけじゃ…………ないよ…………クヒヒヒ…。」
バビュンッッッッッッ!!!
丸鋸が勢いよく射出。
初撃は免れたものの、長いアームのボディからは次々と丸鋸が飛び出してくる。
一体何枚仕込んでいるのか。
全てはたき落とすのが望ましいが、ケロンバは数枚直撃を許してしまった。
「ゲボッッッッッッ!!!」
「前に……気を取られすぎじゃん………???」
何を隠そう、アームは何本も蠢いている。
なにも目の前の一本が全てではない。
後ろにもあるのだ。
ケロンバの背中にも丸鋸が深く突き刺さってしまった。
ドサァッと倒れるケロンバ。
ズキズキ痛む胸と背中。
魔法で治癒しようにも、まずは丸鋸を抜かねばならない。
「色々言ってたけど………結局は、正義を語るわけなんだね…………。さっきのは………自分に酔ってただけなんじゃないの…………?」
「ゲロ…………なんて凄まじい…科学力ゲロ………。か…完璧そのもの…。」
息が荒いケロンバ。
ベイルはその場から一切動かずに、這いつくばるカエルを見下していた。
「そうだよ………僕は天才なんだよ………!!!!!君みたいな……単細胞にも……わかるだろう……!!!この完璧な科学力……!!!アーハッハッハッハッ!!!」
手を広げ、高笑い。
ググ…と力を入れ起き上がるケロンバ。
よく見ると、なにか注射器を足に打ち込んでいる。
「これは免疫を上げる血清ゲロ…!!!どうせ刃の部分に毒塗ってることだろうゲロよ…!!!」
「…………ふぅん………、それぐらいはやっぱりやるよねぇ…………。」
「それだけじゃないゲロ!!!水遁・霧義理素《《きりぎりす》》ッッッ!!!」
先ほどケロンバが撒いたガマ鉄砲の水。
その箇所から一斉に霧が立ち込めた。
シュゥゥゥゥゥゥゥ……………
霧のせいでなにも見えない。
ベイルはだからどうしたとアームを操作。
熱探知機で動いているのだ。
霧の粒子など、あってないようなものである。
くだらない小細工だ。
「……………?」
何故か動かない。
それに全てのアームから、ギギギと金属の擦れる音が聞こえてくる。
「なんだ………?」
「わからないゲロか!?!!この霧に触れると機械は壊れるゲロ!!!蓋を開いて丸鋸を出してくれたお陰で、より内部に粒子が侵入できたゲロ!!!」
ズウウウゥゥゥゥゥンンンン!!!!!
次々と床に沈むアームたち。
「そしてそして!!!」
霧が少しずつ集まりだした。
やがてそれは形を成し、ある生き物の姿を彷彿とさせる。
「水遁・霧鮫ッッッッッッ!!!」
ギシャァァァァァァァァァッッッッッッ!!!
体長20mはあろう霧の鮫が口を開き咆哮。
狙いは勿論ベイル。
いくら電気シールドが強固なものとは言え、限度があるはずだ。
ケロンバはこれを一気に叩き込み、破壊する算段か。
霧鮫が飛びかかる。
「これが正義の技ゲロよ。」
霧鮫の牙が噛みつこうとする寸前。
ベイルは呆れ顔で口を開く。
「格好つけてるところ…………悪いけど………。」
パチンッ
「ゲロッッッッッッ!????!!ゲロァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!」
ベイルが指を鳴らした直後、ケロンバは全身を掻きむしり苦しみ始めた。
術者のコントロールが消えたからか、霧鮫は消滅。
皮肉にも綺麗な虹がかかった。
「さっきの……………毒じゃ……………ないんだよねぇぇぇぇ…………!!!」
したり顔。
ケロンバの皮膚はボコボコと隆起。
そして肉を突き破り植物が勢いよく生えてきた。
「アレは宇宙植物の種子を仕込んだ刃だよぉ…………毒なんて………そんな安直なもの………塗り込むわけないだろおおぉぉぉぉぉ?」
苦しみもがくケロンバ。
刺さっていた丸鋸は抜け落ちたものの、胸から背中から植物がニョロニョロと揺らめく。
その上、先端部分には鋭利な犬歯が光り、口を開く。
肉食植物だ。
「こんなもので……ヒーローは倒れない…ゲロッッッ!!!」
シュバババと印を組むケロンバ。
体の表面からメラメラと火が噴き上がった。
「火遁・火魔塵ッッッッッッ!!!」
植物はキュアァァァと叫び声を上げながら燃え上がる。
ケロンバは体の内側から表面にかけて燃やしているのだろう。
これならば、埋め込まれた種子ごと燃やし尽くせる。
しかし、ダメージは相当だろう。
炭と化した植物。
無惨にも床に力なく崩れ去った。
「ハァ………ハァ………!!!」
「凄いね凄いねぇ……………、でもさぁ………君さっきから魔法ばっかり使って………科学は………どうしたの……………?まぁさかぁ…………使えないんじゃないのぉぉぉ???」
ゲラゲラと気色悪い笑みを浮かべるベイル。
ケロンバは恐らく、わかっているのだろう。
ここは敵のアジトど真ん中。
こんな相手の土俵で勝ち筋など見込めるわけがない。
持ち合わせの道具も、この場では効果が薄いだろう。
はっきり言って、期待できない。
ならば、魔法で対抗するしかない。
だが所詮魔法も身体能力の延長線にあるもの。
そもそも体力という概念が、ほぼ存在しない機械を相手するには分が悪すぎるのだ。
「ゲロッッッ!!!」
腰のホルダーから、なにかをベイル目掛け投げつけた。
これも悲しきかな、当然のように防がれる。
「これは……………硫酸…………?まさか……こんなものでシールドを溶かそうと………?ほんとに君……科学者……って…………おい……。」
ケロンバは、千鳥足でとある場所に向かった。
ベイルのデスクである。
先ほどの硫酸投げはあくまでもその場しのぎ。
目眩ましだ。
体力が残っていないケロンバは汗だくで、息を切らしながらデスクの研究道具などをいじり倒す。
「ハァ………ハァ………、こんなところで………負けるわけには……いかないゲロ………。」
目の前には、ダイヤル式のボックス。
開けようにも番号がわからない。
「番号………番号を言うゲロッッッ!!!」
「あのさぁ…………プライドないわけぇ………?言うわけないだろう………。君…………滑稽だよね…………。」
「クソッッッ!!!さっさと言うゲロッッッ!!!卑怯ゲロよ!!!!!このままじゃ死ぬゲロ!!!早くッッッ!!!」
頭をポリポリとかき、ベイルはダルそうにしている。
ケロンバはベイルを目の前にし、全く手足が出せていない。
挙句の果てに、半泣きでボックスを何度も叩く始末。
早く番号を言えと、情けない声で連呼する姿はあまりにもつらいものがある。
「わかったよぉ…………04655…………。早く開けて使いなよ…………。ハァ…………ヤレヤレ…………。」
「もっと早く言うゲロよ!!!」
カチカチッ
ケロンバはダイヤルを言われた通りの番号に合わせ、力任せにボックスの取っ手をひねった。
ガチ
ボンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
……………………………
シュウウウウゥゥゥゥ…………
「アハハ…………ンハハハハハ…………アーーーーーハッハッハッハッハッッッッ!!!嘘に決まってるだろ!!!バッカじゃないのおおおぉぉぉぉぉ!???!!!」
番号は真っ赤な嘘だった。
正しくダイヤルを合わさずに開けようとした瞬間、ボックスの爆薬が作動したのだろう。
ケロンバの頭部は吹き飛び、抉れた肉は焼け焦げ血が吹き出すことも無かった。
「かっこわるいよぉぉぉぉ……………正義のヒーローさん……………。」
ケロンバvsベイル
ケロンバ死亡
ベイル勝利
「あら………?死んじゃった………。ハハ………アッハッハ……………アーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!」
パンッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
「………………………え?」
なにか衝撃が走った気がする。
瞬きを繰り返す。
何度も何度もパチクリとまぶたを動かすも、状況が理解できない。
なぜか壁のアームが床に沈んでいない。
と言うより、まず作動してない。
クラックが入った床も壁も天井もない。
なにより…ケロンバの死体がない。
「楽しかったゲロか?」
バッッッ!!!
後ろを振り返るベイル。
爆発で頭部が吹き飛んだケロンバがなぜか後ろにいる。
無傷そのもの。
なぜ生きているのか。
そもそもどうやって電気シールドの中に入ったのか。
そして…さっきまでの戦闘はなんだったのか。
「お前……………え………?え…、なに………え…どゆこと……………?」
「2分17秒。盛り上がってたゲロね。体動かして、僕は天才だのなんだの。」
目を細くしてベイルを見つめる。
まるで汚物を見ているかのような目。
「なんなんだ…………なんなんだよ…………なんなんだよッッッッッッッッッ!!!!!説明しろよッッッ!!!!!」
「電気シールドの内側に入れた理由ゲロか?簡単ゲロよ。このシールド。Y軸の下には効力がない。つまり、地面から入れば簡単に侵入できるゲロよ。」
下を確認するベイル。
しかし、なんの変哲もないただの床。
ケロンバ曰く、土遁・絖沼という床や地面を泥状にする魔法のようだ。
電気シールドは全方向に張られているが、Y軸の下…つまり、床下部分には影響がない。
絖沼で、自分の足下とベイルの後ろの床を泥状にしてそのルートを通ったのだ。
「そうじゃない…!!!さっきのは…………僕が見ていたのは…………なんなんだよ!!!!!!科学者なんだろ…………説明しろよクソガエルッッッッッッッッッッッッ!!!!!お前………さっき死んだだろうが!!!!僕の…科学力に………手も足も出ずによぉぉぉッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
「口クッソ悪いゲロね〜。それは…………ハァ…なんか説明するのもダルいゲロ。想像にお任せゲロ〜。」
金切り音でおがり倒すベイル。
ケロンバは両耳に指で塞いでいる。
うるせぇぞベイルお前。
と、言うことでケロンバの代わりに説明させていただきまちゅ♡
最初にケロンバがベイルと対峙したシーンを思い出してほしい。
ケロンバは、ゴム手をベイルに向け放り投げた。
しかしそれは電気シールドで黒焦げになった。
その時、ベイルは口を覆い笑っていた。
ケロンバはその【笑い方】を、癖なのか煽りなのかもしくはなにか理由があるのかを一瞬にして計算。
(電気シールド…。常に周りを覆っているタイプ…。何かに触れると目に見える形で発動…なるほどゲロ。)
次にケロンバはタバコを吸い出した。
そしてそれを投げた。
当然のようにベイルには当たらず、シールドで炭と化したが、ゴム手の時同様に口を覆い嘲るように笑っていた。
これでわかったのだ。
電気シールドは、物体を通すことはできないが呼吸はできる仕組みのはずだと。
ベイルが口を覆っていたのは、一応警戒していたのだろう。
ゴム手やタバコの焦げた粒子を吸い込まないように。
(当たりゲロね。)
実はこの時点でベイルは幻覚を見始めていた。
ケロンバの吸っていたタバコ。
アレは様々な物質を混ぜた特注だが、大きく分けて2つがメインである。
1つ目、とある宇宙大麻のひとつ。
これは本来リラックス効果をもたらすハーブの一種だが幻覚作用があるので銀河政府から危険視されている。
とあるルートで手に入れたが、栽培も叶わず絶滅危惧種なのでもう手に入ることはないだろう。
そして2つ目。
これは、パラボランのリーダーであるファニィの風属性・香遁である。
脇から出るフェロモン。セクシー。
これらを混ぜたタバコの煙には重度の幻覚作用がある。
部屋に広がる煙。
電気シールドで炭と化したタバコ本体の粒子。
ベイルはどちらも吸い込んでしまった。
「僕は…………天才なんだよおおぉぉぉ!!!!」
「おうおう、盛り上がってるゲロね。じゃ、土遁…の前に…。」
ケロンバは斜め後ろに目を移す。
そこにはベイルのデスクと研究資料や道具。
そして謎の箱。
ペトペトと近づき、軽く周りを見渡し箱に手をかけた。
「ダイヤル式ゲロか。」
耳を寄せ、コンコンと指でノック。
「112589か。」
ダイヤルを回し取っ手をひねる。
ガチャと音を立て開いた箱の中には、やはり例の魔薬が数本入っていた。
ケロンバは周りの道具を使い、なにやら魔薬を弄っている。
時間にしておよそ40秒。
そして踵を返し、電気シールドを解除し絖沼でベイルの背後に回った。
もっと観察しても良かったのだが、そこまでコイツに付き合う義理はない。
パンッッッと手を叩き、電遁で幻覚を解き今に至る…というわけである。
「どのタイミングで僕に幻術をかけたんだぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!酷いクソガエルがぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
ベイルが殴りかかってきた。
「ゲロァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
ケロンバはコークスクリューブローを顔面に叩きつけた。
ベイルの鼻、歯は数本へし折れ、上顎骨折、下顎粉砕骨折。
そのまま数十m吹っ飛んだ。
「ガ…………ガハ………な…………なんだよ……この………パンチ力…………!!!」
「科学者は一芸だけじゃ勤まらんゲロよ。アレもやってコレもやって…辛いところゲロね。」
ベイルはデスクに置かれていた鏡を見て発狂。
美しい僕の顔がと叫び倒し、ダイヤルを合わせ箱を開いた。
「発狂しながら冷静にダイヤル回すの、なんかシュールゲロ。」
「お前えええぇぇ……………!!!!!僕を………僕をバカにしやがってえええぇぇ!!!!!フィジカルで勝負したいんなら…………乗ってやるよッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
ドズッッッッッッ!!!
注射器を何本も打ち込むベイル。
トレイストが使っていた魔薬である。
もしかすると、ベイル専用で他の魔薬よりも強く作られているかもしれない。
知らんけど。
ボコボコと盛り上がる筋肉。
白衣はビリビリに裂け、砕けた顔面も修復。
より凶悪な風貌に染まっていく。
体長も数倍デカくなり、口からヨダレが飛び散った。
「ガァァァァァァ……………!!!!!死んで…………後悔しろ………クソガエルゥゥゥゥゥ!!!!!」
「………………。」
「死ねやァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
蹴り上げた床は崩壊。
両手を伸ばしベイルはケロンバに向かい突進。
したかったのだろう。
「あ……………あぇ…………?」
ベイルはダラダラと鼻血が流れ始めた。
「な………んで…………?完璧な………魔薬が…………。なにも…………調合は………間違ががが………テナイ……は………ズ………???」
ガチッ…
シュボッ
ポケットからタバコを取り出し一服するケロンバ。
今度こそ普通のタバコである。
「ハァ…………。」
「う……………うぅ…………???あ…………ぼ…………げげげ………ガガ……??」
「しゃーない。サービスゲロよ。さっきお前が打ち込んだ魔薬。改造させてもらったゲロ。」
「ゲゲゲげ????」
「どうせ注射するだろうと思ってたぜ。利用者から取り出したコスモトニン…それに反応するように他の物質を混ぜ込んだゲロ。」
ベイルは内側からボコボコと歪に膨らみ始めた。
頭も変に肥大化している。
頭を押さえ苦しむベイル。
やっとケロンバが説明してくれているのに、聞いているのかいないのか。
「それが体内で血液と混ざった。しかもそれを何本も打ち込んだ。血管を通して、全身に回ったゲロね。今まで散々いたぶってきた利用者の怨念ゲロ。」
ビシッ!と中指を立てるケロンバ。
「死んで後悔しろ。」
パァァァァァァァァンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
ベイルの頭部の一部、そして胸や腹が破裂。
臓器が飛び散り骨がむき出し、ドバドバの血が床を這う。
「あ、ちなみにファニィ様のフェロモンでそんな状態でも死ねないゲロ。だから………って、聞いていねぇゲロね。」
タバコを吸い終えたケロンバは、ポケット灰皿で火を消した。
「科学者が安易に白衣破くもんじゃねぇゲロよ。」
ケロンバvsベイル
ケロンバ死亡
ベイル勝利改め
ケロンバ勝利
ベイル完全敗北




