第77話 えぷしーたうんに遊びに行こう!
銀之助とパルムは忘れ物がないか、互いに確認。
携帯に財布、ハンカチやティッシュ。
書類や腹減った時の干し芋。
間違ってもサーシャに持たせてはならない。
よし、準備万端。なにも問題はない。
「よーし、忘れもんないな。あとはガンテ来るの待つだけや。」
今日はえぷしーたうんを見学する予定である。
この間、ガンテから連絡が来たのだ。
「フェスも近いことだし、地域の絡みの挨拶も兼ねて施設に遊びに来ないか?」
以前、祭りの手伝いをした時は、ほかの作業所や子ども食堂と軽く顔合わせの挨拶をした。
えぷしーたうんの職員も遅れて到着したが、その時はトレイストの毒入りカレー事件などのせいでそれどころではなかった。
それで日を改めて顔合わせをしようとの事だ。
なのでほかの作業所や地域の人たちも来るだろう。
本日、トリスコーヒーはたまたま定休日。
都合がいい。恵まれている。
「う〜ん、ガンテはん遅いな。連絡したら?」
確かに予定時刻を少し過ぎている。
トリスコーヒーの場所は伝えてるので、道に迷っているとは思えない。
銀之助は携帯を取り出し、電話をかけた。
「………………あ!もしもしガンテ?お疲れさんよ。大丈夫か?迷ってる?カフェどこかわからん?…………マジかぁ、お疲れさんやなぁ…ほなそっち今から行くわな。…おうおう、ほなの!またあとで。」
電話を切り、ポケットに仕舞う銀之助。
どうやらガンテは忙しくて迎えに来れないらしい。
パルムは、電話越しから申し訳なさそうな優男の声が何度も聞こえたので粗方察しただろう。
「俺が電話かけたタイミングで、アイツもかけようとしたらしいの。もっとはよ連絡寄越せよな。ほな行こか。」
「忙しいんならしゃーない。行こ行こ。」
モス子に留守番を頼み、2人はカフェを後にした。
ちなみに今日サーシャは学校である。
みんな忘れてるかもやけど、あの子JKやからね。
えぷしーたうんは駅前に作業所を構えており、駅を利用する人間ならば誰しもが嫌でも目にするだろう。
内容こそ知らずとも、その建物見たことあると返ってくるはずだ。
2人は玄関口のインターホンを押した。
すぐに返事がきた。
見学に来たと伝えると向こうは元気よくハツラツとこちらを歓迎。
そして待つこと一分程度。
「こんにちは!ご足労お疲れ様です!ささ!是非上がってください!こちらにスリッパがございますので!」
ヤビーだった。
スンシーの先輩職員で、ハキハキと喋りガタイが良いのでとても頼もしい。
それにひょうきんさもある。
2人はスリッパに履き替え、玄関の事務所に挨拶。
「はぇ〜!やっぱし広いっすね!」
「そうなんですよ!A型とB型が隣同士合体してますからね。建てるとき大変だったと思いますよ。」
銀之助が驚くのも当然の大きさ。
廊下の幅もしっかりと広く、手すりはもちろんのこと、どの扉も引き戸になっている。
車椅子などが通ってもガタガタ鳴らないかなり低い敷居である。
「こちらではパソコンでデータ入力などをやってもらってます。AI導入で仕事自体は確かに減少傾向にありますけど…。利用者のみなさんにはいつも助けてもらってますね。」
ドア上部に付けられた小さなガラスから中身を拝見。
いきなり変なやつが来た!と利用者を驚かせてしまうのを防ぐためだろう。
仕事中なので、部屋は静か。
全員それぞれのペースで仕事をしている。
「……………………。」
ボーッと中を見るパルム。
利用者の中には、見た目は普通の人も居れば少し身体の一部もしくは全体が曲がっている人もいる。
車椅子も普通のタイプではなく、しっかりとした魔道具タイプのものだ。
口を開けて、明後日の方向を向いている人もいるが、カフェバカ3人も油断したらそうなるので大差ないだろう。
「では次行きましょうか。お飲み物とかは大丈夫ですかね?もしよかったらご用意しましょうか?」
「いや!持ってまっせ!ありがとうございますヤビーはん!男前で気遣いもできるとは完璧ですわ。」
いやぁと照れるヤビーが次に案内したのは小物作りをしているスペースだった。
髪留めやアクセサリー、コースターなどを作っている。
さっきの部屋はみんな静かに作業をしていたが、こっちはワイワイ楽しそうにやっている。
そして2人を見るや否や、元気よく手を振り挨拶。
「こんにひわー!」
銀之助とパルムもこんちわ!と返した。
「銀ちゃんあのコースター可愛いな。」
「せやなぁ。何個か買ってもええかもな。今使ってるコースターボロボロやし。」
「あぁそうか!お二人はカフェやってはりますもんね!お気に召してくださったら是非とも!」
銀之助たちは利用者に手を振り、次の場所に移動。
長い廊下を歩いていると、なんだかいい香りがしてきた。
「むむ、なんか香ばしい香りが…。」
「お、気づきましたかパルムさん。これは向こうの棟で作ってる焼きたてパンですね。あっちはA型作業所なんですよ。」
作業所でパン作りはよく聞くが、B型ではなくA型でやっているのは珍しい。
より本格的なのだろうか。
ヤビー曰く、調理師免許の資格取得支援もしているとのこと。
立派なものである。
次に案内されたのはデイルーム。
これまた広く、自販機が3台も並んでおりカラフルなソファーとテーブルがいくつも備えられていた。
そしてそこでとある青年と顔が合った。
「銀さん!!!」
「エレン!……ってぇ!ガンテお前なにしとんねん!」
テーブルで寛いでいたエレンとクソガンテ。
エレンは休憩中だろうが、ガンテに関しては案内もヤビーに任せてなに寛いどんねん。
「すまん!銀之助!今から会いに行くつもりだったんだよ…。」
「嘘つけや。思いっきり生茶飲んでゆっくりしてたやんけ。」
平謝りするガンテに呆れ顔の銀之助。
エレンも目を細め兄を見つめる。
「だから言ったじゃん。そろそろ銀さんとパルムさん来るって。弟として恥ずかしいわ。」
「おまっ………そこまで言うか…。…………パルムくんも来てくれたんですね…。」
なんか少し目が怖い。
そんなガンテに対してエレンが車椅子をぶつけツッコミ。睨んでるぞ、と。
「あぁ…ごめんなさい…。そんな睨むつもりはなかったんですけど…ちょっと…ねぇ…。」
「なぁ〜にがちょっと…ねぇ…だよ。アホガンテ。ごめんなさいねパルムさん。」
パルムは両手で全然大丈夫とジェスチャー。
そしてここからはバトンタッチ。
ヤビーに代わり、ガンテが案内をすることに。
どうやらヤビーはほかに仕事があるのに案内をしてくれていたらしい。
ホンマにガンテこいつ。
「迷惑かけんなよガンテ。じゃあ銀さんにパルムさん!ゆっくり見学してくださいね!」
「あーい!」
「ありがとね〜!」
エレンは腕を振る代わりにお茶を振った。
マジックチョーカーで上手いこと動かしているのだ。
そしてキャップがついてなかったので、全部ガンテの顔面と服に飛び散った。
床やほかの場所には飛び散っていない。
マジックチョーカーだ。
「わっぺっぺっ!!!飛んでる飛んでる!!!なにしてんだよエレン!!!」
「あ!キャップしてなかった!ごめん…………生茶。」
「生茶かよ!!!」
ズコー!!!
トボトボ歩くガンテたち。
銀之助は大丈夫かコイツと心配そうな目で見ていた。
「よっし、案内するぜ。あっちがデータ入力…」
「聞いたっちゅうねん。ほんであそこがアクセサリー作ってて、あっちがパン工房やろ?」
「あ、そこまで聞いてたのね。じゃあ次はどこ案内すっかなぁ〜。ここ4階建てだしなぁ…。」
うーむ、と悩むガンテにパルムは職員はどんな仕事をしているのか尋ねた。
「…………………。」
また睨んできた。
「あのぅ………すんません、もしかして僕…なんかやってまいました…?毎度なんか…こう…睨まれてる気が…。」
ハッとするガンテ。
また先程みたく平謝り。
「ごめんなさい!!!またやってしまいましたね…。昔のことが原因でして…。」
「昔?」
「えぇっと………、周りに利用者とかは…おらんな…。よし!銀之助から聞いてると思いますが、昔僕が軍属だったころ、特科の後方支援組で爆撃してまして。」
そこで緑色の目で金髪の異星人が敵にいたので物凄く警戒してしまうとのこと。
昔の癖が抜けていない。
もう戦争は終わったのに非常に申し訳ない。
ガンテは両目をつむり何度も謝るので、パルムはそういうことなら大丈夫ですと汗を垂らしながら笑顔で答えた。
「さっすが!じゃあ気を取り直して次の場所案内行きまっしょー!」
ルンルン気分で前に進むガンテ。
パルムは睨んでくる理由がわかったので一安心。
ガンテについていこうと銀之助に声をかけた。
「…………………。」
「……?どないしたん?」
「いや………緑色の目で金髪………。そんな敵対種族おったかなって………。」
「アレやない?戦争やし、傭兵で雇われた異星人とかおったんちゃう?」
「うーん…確かにそうかもな。ほな、行くか。」
気を取り直して2人はガンテの後に続いた。
直後、どこからともなく女性の叫び声が聞こえてきた。
声を聞く限り、かなり怒っている。
ガンテたちはすぐに反応し、その部屋に向かった。
その部屋のドアには【相談室】と書かれていた。
私が悪いの?
私は悪くない
なんで私だけこんな不幸にならなきゃいけないの?
私だけが不幸なわけじゃない
なんでこんなに苦しいの
私は幸せになっちゃいけないの?
産まなきゃよかった
私は幸せダ
なんであの子は元気なのに
私ハ幸セ
この子は
私ハ
ワタシハ
健康に産んであげられなくてごめんなさい
ツー…ポタ…ポタ…
鼻の横あたりが切れ、少し流血するスンシー。
相手の女性に引っかかれたのだ。
女性は乱れた髪で、ハァハァと興奮していた。
しかしスンシーの怪我をさせてしまったからか、少し我に返った具合だ。
「あ………。」
「大丈夫ですよ…。これぐらい、ヘッチャラです。両親もスパルタでしたし。」
優しい顔で女性を見つめる。
ここは相談室。
A型にせよB型にせよ、ここに通うかどうかの話し合いだったのだろう。
通うのは女性ではなく、その息子。
ここには息子さんはいない。
違う部屋で待機しているのだ。
その間、職員が相手をしているので心配はない。
「誰も助けてくれないですもんね…こういうのって。それに大丈夫ですよ。魔力漏れが酷くても、ここにはコレがありますから。」
取り出したのはマジックチョーカー。
エレンが首に巻いているものだ。
トレイストはチンコにはめてたけど。
魔力漏れ…身体から意図せずに魔力が漏れ出すことである。
本来魔力とは宇宙から降り注ぐダークエネルギーを体内のコスモ受容体を介し、魔法に変換したものをさす。
しかし、魔力漏れはそれが周囲に漏れ出し影響を与えてしまう。
人にもよるが、臭いもキツく、ものによっては周囲のものが溶けたり変色したりする。
簡単に言ってしまえば、コントロールの効かない毒遁のようなものである。
魔力漏れは身体障害1級に該当する。
母である女性は色々な作業所に赴き、相談してきたのだがどこも門前払い。
薬で抑えているとはいえ、息子の魔力漏れはかなり酷いのだろう。
そして藁にもすがる思いで最後にえぷしーたうんを訪ねたのだ。
色々と話をしているうちに、感情が高ぶりスンシーにあたってしまったのだ。
まぁシンプルに腹立ったから引っ掻いたんかもしれんけど。
「スンシーちゃんやんけ…。魔力漏れか…これまたキッツイな…。」
「可哀想にな…。」
ドア越しで話を盗み聞きする3人。
向こうに聞こえない程度の声量でボソボソと会話。
銀之助とガンテは軍で色々と学んでいるのでよく知っているのだろう。
パルムも銀之助から話は聞いているので実態はさておき、概要は頭に入っている。
女性は顔を押さえ泣き始めた。
感情が溢れ出したのだろう。
スンシーは優しく背中を擦っている。
「マジックチョーカーて魔力漏れも制御できるんか?凄いな…。」
「完全にってわけじゃないけどな。薬と併用したらほぼ抑えられる代物だぜ。」
「でもエレンに会ってから知ったんやが。なんで世に広めへんねん。………まさかえぷしーたうんが開発して秘密裏にやってるんか?」
「ここまで組織がデカくなってんだぜ…。隠れてできるわけないだろ…。今はまだ認可が下りてない。言ったら銀河政府が実験してんだよ。データ集めって。」
「なるほどな…。要は…」
「利権だよ利権。マジックチョーカーなんか広まったらほかの福祉魔道具作ってるとことか、製薬会社も騒ぐだろ。それにマジックチョーカーはちょっと倫理的な問題も指摘されてる。」
「なんや?」
「性欲も抑えられるんだよ。言い方悪いけど、中には性欲高くて暴れる利用者もいるだろ?その性欲を仕事とか趣味とかほかのエネルギーに変換もできるんだよ。」
「便利…とも言えるけど難しいんかもな…。」
「そうだな。でもあの人の息子さんの魔力漏れは、なんとかなると思うぜ。」
部屋から女性の泣き声が聞こえてくる。
今度は怒りが含まれたものではない。
溜まっていたものをなんとか吐き出せたように感じる声だ。
スンシーはアホではあるが、同時に優しさも兼ね備えているのだ。
一件落着…といっていいものかわからないが、取りあえずは落ち着いたと見ていいだろう。
3人はこれ以上ここにいても仕方ないと、ゆっくりと歩き出した。
「えーっと、次はどうすっかな…。工場でも見るか?あ、【こうば】な。こうじょうじゃないぞ」
「親切やなガンテ。そこはどっちなんや?A?B?」
「A型だな。最低賃金よりも上乗せの時給だから、誰も辞めたがらないぜ。」
「はぇ〜。B型のほうは工賃なんぼなん?」
「あ?ヤビーから聞いてないのか?説明しとけよな〜アイツ。」
本来案内役お前なんだからお前がしろクソボケ。
どうやら1日なんと2500円も出るらしいのだ。
一律でどの仕事でもその工賃が出るという。
そもそも作業所のA型とB型の違いはなんなのか。
大雑把に簡単に説明すると…
A型は雇用契約あり
B型は雇用契約なし
その代わり働き方や体調面の融通が利く
といった感じだ。
A型はバイトや正社員のように、雇用契約を結んでいるのでB型と違って休みたい時にいつでも休める…というのは難しい。
その代わり、福祉の手厚いサポートなどがあるのでまだまだ安心して働ける。
B型は雇用契約を結んでいないので、時給などの概念は適用されない。
その代わり、心身ともに具合が悪く作業所に行けないなどの様々な面で休めるので、本格的に働くのが難しい人にとってはありがたいだろう。
どちらにせよ一般就労とは違い、利用者に寄り添った福祉サービスである。
まぁ一般就労には障害者雇用などもあるが、これはまた違う機会にでも。
しかし、中にはこの福祉の皮をかぶった極悪非道の作業所もあるのも事実。
外面は綺麗な顔をしているので、中に入らない限り実態は掴めない。
えぷしーたうんはそう見えないので、銀之助とパルムは安心して施設内をガンテとかいう頼りない兄ちゃんとともに徘徊できるのだ。
「………………。」
銀之助は歩みを止め、廊下の先を見つめる。
そこはドンツキ(突き当り)になっており、当然壁しか存在しない。
(前に掃除してた病院に似てる…。懐かしいな…。)
懐古の思いに浸っていただけだった。
なんもねぇのかよ。
「どした?」
「ん?あぁ、前に掃除してた病院とつくり少し似てるから懐かしいなぁ〜って。とくになんもないぜ。次どないするんやガンテ?」
「もうちょいしたら他所の作業所の施設長とかも来るから、集まって今度の祭りの話し合いでも出来たらなぁって感じ。ふわぁ〜〜〜、眠てぇ〜。」
見れば見るほどなんかだらしない。
しかし変に真面目でもないので、寧ろこれがかえってえぷしーたうんに合っているのかもしれない。
いや、少しはヤビーを見習ってほしいものではあるが。
「おいおい…トレイストのやつ…イキってた割に死にやがったじゃねぇかよ。」
「しかも魔薬のこともベラベラ喋った上でね〜。誰よアイツこっちに誘ったやつ。」
真っ黒な空間。
全員に影がかかっているのでシルエットのみではあるが、滲み出るオーラからマトモな人間ではないとすぐにわかる。
「ポリどもに魔薬が見つかるのは時間の問題だったからまだいいだろ。どうやって作ってるかはバレてねぇし。にしてもまぁ…トレイストは役立たずだったな。」
「スーパースターとか言い出してキモかった……なッッッ!!!」
トンッッッ!!!
投げたナイフが壁に突き刺さる。
ここまで聞けばわかるだろう。
ヴィルホーンである。
デスクに置かれた資料。
そこには、ポーズトッポ組の面々の顔写真。
「自警団ねぇ…。反社ごときがなにを勘違いしてるんだか。今のうちだけだぜ。甘い汁を吸えんのは。」
ボスと思しき男が、ナイフを資料に突き立てた。
刃先はゴルズの顔写真を貫通。
デスクに深く食い込んだ。
「アイツらからなんか情報入ってねぇのか。」
「まだよ。もうちょいしたら来るんじゃない?」
「そうか…。時間はまだある…。じっくり楽しもうか。」
外道のニヤけた顔が、静かに浮かんだ。




