第76話 美しい華には毒がある
「うわぁぁぁぁぁん!!!アイス落ぢだぁぁぁぁ!!!」
「なにやってんだよーどんくさいなー。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ほら、僕の食べろよ。」
「うぅ………でもにいにいのアイス………。」
「いいよ別に。ずっと泣かれたらうるさいし。」
「わーい!!!にいにい大好きー!!!」
そして歩くこと3分。
スンシーは派手にずっこけて膝を擦りむいた。
当然のように大声で泣き叫ぶスンシー。
ボーナはスンシーを呆れた顔でおんぶした。
最初こそキャッキャッはしゃいで喜んでいたスンシーだが、スヤスヤと寝息が聞こえる。
いつの間にか兄の背中で寝てしまったのだ。
頭の片隅に蘇る齢5歳の記憶。
(……………ホントに鈍臭い妹だよ。大人になってもずーっと………。)
ボーナの両腕は深い紫色に染まり、流れる汗が地面に落ちるとジュウ…と音をたてて穴を開けた。
のたうち回り血が混じった吐瀉物を吐き散らすトレイスト。
「ウォェエエエェェ!!!で………でめぇ…何だ……それ………!!!」
「毒遁って言ったろ。もう頭に毒回ったのか?」
「お前………毒遁なんか……つ…使えなかったろ…………!!!どこで………!!!」
ボーナは冷たい目でトレイストを見下していた。
いつからコイツは毒遁を使えるようになったのか。
それは、モス子がカフェで生まれ、ボーナがブサイクと罵って毒の糸でぐるぐる巻きにされた時だった。(第56話参照)
病院送りにされたボーナは苦しみつつもすぐに容態が落ち着いた。
モス子の毒の因子が、ボーナに眠っていた毒遁を目覚めさせたのだ。
そして月日は流れ、今の元ポーズトッポ組のわちゃわちゃが起きた。
ポーズトッポのアイドルの1人、ジェリーは毒遁使い。
なんとボーナは恥を忍んで、毒遁の使い方を教わったのだ。
元より毒遁使いは珍しい。
様々な資料をネットや図書館などで調べ上げたが、これといって良い情報が手にはいらない。
最初こそジェリーは驚いた。
「ボーナ…まさかアンタから私に聞きにくるとはね。ゲームマスターの私に惹かれたって感じぃ?」
「黙れ。なにが楽しくて元祖屁こき女に惹かれなきゃならないんだ。」
「元祖…2代目はサっちゃんか。可愛い後輩だわぁ〜。」
「なに惚れ惚れしてんだ気持ち悪い。」
「んー?そんな事言っていいの〜?教えてあげないよ〜?」
得意げな顔で煽ってくるジェリーに苛立ちを覚えるボーナ。
ジェリーはすぐに冗談だよ、と落ち着かせた。
「でも私、レッスンもあるしそんなに教えてあげらんないよ?そうだなぁ…時間作れて…1週間。毎日1時間。良くて2時間。どう?やる?」
人さし指を立てるジェリー。
ボーナは冷静な面構え。
「十分だ。僕はエリートだぞ。すぐにマスターしてやる。」
少し口を開きボーッとするジェリー。
エリートの自信に驚いたのか。
「…………十分でいいの?まぁ私も自分の時間残せるから楽でいいけど。」
「じゅうぶんだって言ったんだよ!!!誰がじゅっぷんつったよおい!!!これ小説だからそう読めるけど!!!会話なんだからわかるだろ!!!」
ズコー!!!
腹を抱えて謝るジェリー。
からかったお詫びとして、今から早速トレーニングしようと誘ってきた。
ボーナは苛つきながらもジェリーについていこうとしたその時。
バブリリリバリバリバリバリッッッッッッ!!!
「あ!ごめん!!!緩んだら出ちゃった!」
ボーナは気を失った。
「これも、ある種毒遁になんのかな?」
知らんがな。
「だ……だったらそのキショい名前なんなんだよ………!!!ヴェネなんちゃらって………!!!」
「ヴェネヌム・スンマ・クム・ラウデ。こんなにかっこいい名前をキショいって…お前頭に障害でもあるのか?」
先程のトレイストの言葉返しだ。
ボーナは自分の頭を指でトントンと叩きトレイストを煽る。
「ラテン語だよ。ヴェネヌムはウェネヌムを文字って、スンマ・クム・ラウデは最高位って意味だ。つまり、エリート。」
僕にピッタリだろう?
ボーナはバッバッ!と印を組んだ。
そしてパンッと手のひらを合わせた瞬間、トレイストの激痛は更に増した。
「ウォェエエエェェッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
しかし腐ってもヴィルホーン現役メンバー。
ゲロを吐きながらボーナに殴りかかった。
ボーナはそれをヒョイッと簡単に避け、足を引っ掛けて派手に転ばせた。
「グウウウゥゥゥッッッッッッッッッッッッ!!!!!い……いつだ……!!!」
「あ?」
「いづぼぐのがらだに毒を入れだんだぁぁぁぁぁッッッッッッッッッ!!!!!」
「最初だよ。」
「さ…………最初………?」
なにかに気づいたトレイスト。
ボーナがトレイストの悪事を録画したぞと携帯の画面を見せてきた時である。
トレイストは衝動的に携帯を奪おうと手を出した。
ボーナは携帯を上に掲げ、左フックでトレイストの顔面に一撃を叩き込んだ。
そのあとトレイストは鼻血を垂らし、軽く口を切った。
その時、ボーナの汗が粘膜を通して身体に入り込んだのだ。
「それだけじゃない。」
「……………????」
「ハァ…、アホを相手するのは疲れるね。お前がバカみたいに僕のことボコボコに殴って出血させたろ。僕の血液も毒なんだよ。飛び散った血は揮発性の毒ガスになってる。つまりーーーー」
この場所が毒ガスエリアになっているということである。
トレイストも異星人とは言え、呼吸をしなければ死んでしまう。
無意識にボーナの毒を大量に吸い込んでしまったのだ。
トレイストは視界が大きく歪み、だんだん呼吸もできなくなってきた。
耳鳴りは酷く、全身がグチャグチャにされているような痛みが続く。
頭に過るは「死」の文字。
ありえない。信じられない。あってはならない。
まさかこのスーパースターである僕がこんなところで、気持ちの悪いシスコン野郎に殺されるなんて。
「こ…………殺ずのか…………僕を……………!!!」
「正直、殺したいけど…お前にはまだまだ聞きたいことがある。拘束して警察に突き渡す。」
ボーナも成長したものである。
妹のスンシーを弄ぼうとした男を殺さずに生け捕りにしようとするとは。
ボーナは印を結び、拘束魔法をかけようとした。
「ふざげんなゴミクソ野郎ガァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!お前みたいなきんもちわりぃ野郎に負けていいわけないだろうがスーパースターがよおおおおおぉぉぉぉッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
「ッッッ!!!!!」
最後の悪あがき。
トレイストは全身から肉を裂いて飛び出してきたドロドロの触手を無差別にあちらこちらに叩き込んだ。
地面は大きく抉れ、建物も次々と崩れていく。
やはり事を大きくせずに終わらせることはできないのか。
「往生際が悪いクソったれだなテメェはよぉ!!!拘束ッッッ!!!キャッチ………」
ボーナが拘束魔法を飛ばそうとしたその時。
トレイストは自分の服を破いた。
両胸は気味の悪い口のような形状になっており、大量の血を吐きながらガバッッッ!と開いた。
そしてその口に両手を突っ込んだ。
身体が歪に膨れ上がるトレイスト。
マズイ。
ボーナは拘束魔法を解き、すぐに防御の姿勢に入ったが、間に合わない。
「ヤベッッッ……………!!!」
「死………………………ね………………………。」
ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
ガラガラ……………
パサッ………
パキキ…………
ボーナは、地形とともに跡形もなく吹き飛んだ。
………と、思いきや。
「お前……………。」
「大丈夫にいにい……………?」
ボーナは巨木の中で抱きしめられていた。
そう、スンシーが助けてくれたのだ。
巨木はスンシーの木遁。
木遁は毒遁よりも珍しい属性遁である。
「………なんでわかったんだ………。」
「これ。」
可愛らしくピコピコと触覚を動かすスンシー。
この触覚は特殊な電磁波を飛ばしたり受け取ることができる。
街中を歩いていたスンシーが、たまたま少し離れた場所で戦っていたボーナから危険信号をキャッチ。
そしてギリギリのところで木遁を使い、兄を助けたということだ。
「私ね…ずっとにいにいに助けられてきたばっかりだったから…。」
「…………………。」
「やっと恩返しできた。エリートの妹だもん。」
エヘヘと笑うスンシー。
ボーナはゆっくりと目を閉じた。
そして急に開いた。
忙しいなこいつ。
「お前!!!平気なのか!??!」
「?????」
「僕の毒だよ!!!」
「にいにいの毒は昔から慣れてるよ?」
「そうじゃない!!!僕は毒遁が使えるんだ!!!だからここら一帯も毒ガスに覆われてるんだよ!!!」
「にいにい毒遁使えるの!??!すごーい!!!」
パチパチパチパチ!!!
「話聞けよボケ!!!すぐに解毒………………もしかして………僕の血液由来の毒だから、効いてない…のか?」
確かにスンシーはケロッとしている。
呼吸も普通である。
それにさっきの爆発で毒が吹き飛んだ可能性も高い。
それならば良いのだが、まだまだボーナは毒のコントロールが下手である。
なんにせよ、このままでは危険だ。
「大丈夫だと思うよ。」
「えっ…?」
「私の出した木、お花咲いてるの。」
「なんの話………なんか…いい香りするな…。」
「セラピーフラワーのひとつ。これでにいにいの毒抑えられてるのかも。」
ボーナから滴る血がスンシーの服や巨木に付着しているにも関わらず、溶けていない。
たまたまセラピーフラワーに解毒作用があったのか。
はたまた、スンシーが無意識で出したのか。
どちらにせよ、エリートの妹だ。
そして少しうつむいて寂しそうな顔を浮かべるスンシー。
おそらく、トレイストのことだろう。
「……………んな顔すんな…。あんなクソ男のことなんざ忘れろって…。」
「ん?違う違う!これがね…………。」
スンシーは紙袋を見せた。
コム・デ・ギャルソンだ。
「にいにいの服。似合うかなって買ったんだけど………さっきの爆発でボロボロになっちゃった…。」
「…………………。」
ボーナはゆっくりとその紙袋を奪うようにぶんどり、大事そうに抱きしめた。
「だったらなんだよ…。僕に買ったんだろ…。じゃあもう僕の物だ。………返さねぇからな。」
少しだけスンシーはボーナをキョトンと見つめたのち、クスッと笑った。
ボーナvsトレイスト
ボーナ 勝利
トレイスト 完全敗北
「魔薬…か。これまたとんでもねぇもん作りやがったな。」
ゴルズは事務所で資料を眺めていた。
目の前にはヤニを吹かすビンカンソ。
本来、外部の人間にそんな資料を見せるわけにはいかないのだが、ビンカンソの独断だろう。
「お前の言う通り、例のホストクラブ…やっぱし繋がってたわ。元とはいえ、ボーナくん大活躍やったの。」
ボーナは重傷患者として救急搬送。
全治一カ月の怪我と診断された。
今は病室のベッドで横になっている。
コイツは入院が似合う。
スンシーが毎日時間をつくり面会にきているのだとか。
「頭上がらねぇな。やっぱりエリートだわ。んで、ヴィルホーンの連中捕まえられそうか?」
「いや…それが嫌らしいことに上手いこといかんのやな。それにヤクザと違ってあぁいう連中は事務所構えへん。地道に追いかけるしかあらへんわ。」
腕を組み悩むゴルズ。
ジェリーとマヤもスッキリした顔こそしていないが、かつてのメンバーが生きてここまで情報を持ってきてくれたことが嬉しかった。
「ボーナやるじゃん。さっすがエリート。」
「トレイストのクソ野郎やっぱり裏切ってたんだ。社長いつから気づいてたの?」
「最初っからだ。……………変わらんかったか…。」
声に力があまり感じられない。
いつかわかってくれる。
そして心を入れ替えてくれる。
そう願っていたが、トレイストは腐ったまま終わった。
ジェリーたちはケロッとしているが、ゴルズは少し切ない気持ちがあるのだろう。
「アミーノたちにも、このこと伝えたの?キレてないアイツ?大丈夫?」
「ん?あぁ…アミーノたちには……………あ!!!」
なにかに気づき、目を開くゴルズ。
みんながどうしたのかと寄って集って尋ねた。
「アイツらにもうコンカフェ嬢しなくていいって言うの忘れてた……………。」
「エキスパートチェキ!えいっ!♡」
「旦那さまの〜♡癒しが刻まれてるメモ帳で〜す!」
「僕ちゃんが癒してあげるっすよー!」
「おかえりなさいませご主人さま〜!美味しいコーヒー、ありまっせ〜✡」
「ご主人さまおっかえり〜!!!」
今日も野郎どもの声が夜の街に響く。




