第73話 歯車は止まらない
まだまだ人通りはあるとは言え、とっくにお天道様は眠りにつきお月さんが顔を出す宵の空。
ナトリたちが潜入捜査に赴いたので、代わりにポーズトッポ事務所に残っていた下っ端2人とゴルズが夜の街を警備という名目で練り歩いていた。
「まだまだこの時間帯は人おりますね。もうちょいしたら人少なくなるんすかね。」
「そうだろうな。まだ闇バイトの連中は顔を出さんだろうが…油断はできん。よく周りを見るんだぞ。」
下っ端たちが各エリアに分かれて目を配る。
まだ人が多いからとは言え確かに油断は禁物である。
いつどこから現れるかわからないのがそういう連中なのだから。
下っ端2人はゴルズの隣を歩きながら、ゆっくりと口を開いた。
「あの…社長に聞きたかったんすけど。」
「あ?どうした?」
「なんで社長って…ヤクザやってたんすか?前からちょっと気になってまして…いや!嫌ならええんすよ!答えんくても!」
「なんだぁ、んなことか。なんか怖い顔してるから何事かと思ったら。」
お前が言うな。
お前のほうが顔怖いだろ。
「そういや言ってなかったな。まぁ聞かれもしなかったからなんだが。んじゃ、供養として話すか。」
胸ポケットからジッポライターを取り出し、セブンスター…通称セッタに火をつける。
キチンと携帯用灰皿も構えているので、ポイ捨てなどはしない。
泉北はまだまだ郊外なので歩きタバコは珍しくない…と言いたいが、値上げとかしてるし少数派になってきてるかな。
ゴルズは地球人とドンケッツ星人のハーフである。
父親が地球人、母親がドンケッツ星人。
ドンケッツ星人は道具を作らせ、使わせたら右に出るものはそこまでいないとも言われるほど優秀な種族。建築などもお手の物であった。
もちろん母親のアイズもそうであった。
アイズは一族で魔法の杖を作っていた。
しかし、時代の流れや需要の問題で次第に廃れていった。
そこで次に考えたのが建築。
アイズの父親…つまりゴルズの祖父は建築にも通暁していたこともあり、アイズは地球の日本に赴いた。
「わざわざ地球に…来たんすか?」
「あぁ、おふくろは日本の神社仏閣の木組みに関心があってな。それで改めて勉強するために本場に赴いたってことよ。」
「本場…?」
「今じゃ教科書には載ってねぇが、日本の平安時代。その時に実は地球の日本人がドンケッツ星人に木組みを伝えててな。まだ宇宙貿易が始まる前だから本来接触禁止だったんだが。」
それで本場で木組みを学ぼうと、大阪を訪れた。
当時は既に宇宙貿易は始まっていたが、今ほど交流は深くなかったので異星人は珍しかった。
勿論宇宙から来た人間に拒否反応がある人間もいたが、アイズが赴いた神社の宮大工たちは快く受け入れてくれた。
住み込みで働き、学び、様々な地域の人たちと仲良くしてとても楽しい生活を送っていた。
修行は厳しいものではあったが、アイズも根性が据わっているので落ち込むことはあれど決してめげることはなかった。
そんな中、出会ってしまったのだ。
地球人の増田旗吉に。
「神社でヤクザの挨拶があってな。親父は当時からハゲてるわ歯はねぇわで見た目からもうボロボロだった。でもなぁーーーー」
「素敵…………。」
一目惚れだった。
ズコー!!!
そこからアイズは胸のときめきを抑えることが出来ず、少しずつ旗吉に接触していった。
旗吉はまだポーズトッポの幹部。
親分などではなかった。
しかしアイズには何かが刺さったのだろう。
挨拶から始まり、お弁当を作ったりお菓子など差し入れをしたりでそれはもう恋する乙女の猛アタックであった。
最初は旗吉も断ったり冷たく突き放したりしていた。
それもそのはず。
堅気ではないのだ。
こんな自分なんかに惚れるんじゃないと。
恋などと勘違いするなと。
だがそれがかえって寧ろアイズの恋心を燃え上がらせた。
動き始めた歯車。
止めることはもうできない。
周りも当然のようにアイズを説得したが聞く耳持たずの馬耳東風。
終いにはヤクザ事務所の近くや、よく出入りする店の前で待ち構えるなどを繰り返す。
「今で言うストーカーだわなぁ。それでも親父は断ってたらしいぜ。でもなーーーー」
「一緒になってくれないなら貴方を殺して私も死ぬッッッッッッッッッ!!!!」
魔法で三節棍や刀、手裏剣にトンファーなどを装備したアイズが旗吉を襲ったのだ。
ズコー!!!
「そこから付き合うことになったらしい。おふくろいわく、やっと恋が成就したって言ってたな。」
成就したって言わねぇよこんなもん。
脅迫じゃねぇか。
そこから少しずつデートを重ね2人は結婚。
アイズは世話になった宮大工や周りに頭を下げ、極道の世界に入ったというわけだ。
背中には立派な観音様の和彫。
異星人の強さと職人気質で旗吉を支えていた。
旗吉はトントン拍子とはいかなかったが、最終的には首領の地位まで上り詰めた。
そのあたりだ。
ゴルズが生まれたのは。
「初の息子ってことでおふくろにも親父にも愛されて育ったよ。まぁ、スパルタではあったけどな。若頭ってことで、周りにも可愛がられてた。」
ポーズトッポ組は昔から、ウリや薬には一切手を出さないヤクザとしてそこそこ有名だった。
ゴルズはそんな組織と親父に憧れ成長していった。
「す…凄いっすねお母様…。ドンケッツの親族の方はなにも言わなかったんすかね?」
「言わんわけないだろう。ヤクザなんかと結婚するなんざ職人気質のドンケッツからしたら言語道断だ。おふくろも家族と縁切る前提で親父と一緒になったんだからよ。でも親父は反対してた。ちゃんと親族とは付き合うべきだって。」
それで年に一回程度ドンケッツに里帰りすることがあった。
最初こそグダグダだった。
それでも旗吉のしゃべくりや真摯な対応で本当に匍匐前進のような進み具合でわだかまりは解消していった。
「ガキだったからよくわからんかったが、里帰りは楽しかったぜ。なんやかんやで従兄弟と遊んだりテーブル囲んで飯食ったり。」
ゴルズは吸い終えたタバコをポケット灰皿で押しつぶし、次のタバコを口にくわえた。
「おふくろも親父も楽しんでたよ。ヤクザつっても所詮は人間。それにその時は宇宙貿易も盛んになってきてたしな。………………………。」
人差し指と中指に力が入る。
今にもへし折れそうなそのタバコの震えからゴルズの思いが伝わってくる。
「俺が14歳の時だ…………………。アイツが来やがった…………………。」
「…………S級指名手配犯…怪人ディラス………っすよね…………!!!!!」
ゴルズが従兄弟と隠れんぼや鬼ごっこなどをして遊んでいた時、突如として爆発音が響いた。
従兄弟や友達がなんだなんだと慌てていたが、ゴルズは冷静にみんなを引き連れて家に戻った。
急いで家に駆け込み、変な音が響いたと大人たちに報告。
親族や近所の人たちがゴルズが伝えた方向に向かっていった。
その間子どもたちはアイズと旗吉、そして残った親族と家で待っていた。
小一時間程度経っただろうか。
帰ってこない。
なにがあったのだろう。
一応ドンケッツの警察には通報はしている。
しかし一向に動きが見られない。
親族の一人が様子を見に行こうと玄関の戸に手をかけた時、警察の影が見えた。
通報を受けて来たのだろう。
ガラガラと引き戸を開けると、確かに警察官が立っていた。
【首から上がない警察官】が。
親族の叫び声に全員が反応。
玄関に向かった親族が真っ二つに切り裂かれていた。
「ドンケッツ星人は…固くてマズイなぁ…。少しは美味しくなる努力しようよ。」
ゴルズは廊下の奥からその邪悪と目があった。
人間のそれではない。
邪悪を擬人化したような塊。
それが人の形を成しているだけ。
その男こそディラスであった。
親族たちは一斉にディラスに襲いかかり、ゴルズも続いた。
旗吉やアイズには止められたが、ヤクザの若頭としてのプライドもある上、目の前でこんなことをされて頭にこないやつはいない。
器用に印を組み、三節棍を出して火遁や雷遁を練り込みそれで殴打。
バギャァァァァッッッッッッッッッッッッ!!!
「ッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
全方向から叩いたにも関わらず、一瞬で三節棍は粉々に砕かれた。
そしてディラスは前蹴りをゴルズに炸裂させた。
軽く蹴っただけなのだろう、だがゴルズの内臓にとてつもない衝撃が走り肋骨が4本へし折れた。
ゴボッッッと吐血をしながら吹っ飛ぶゴルズ。
旗吉は上手く受け止め、自分も応戦しようと拳銃を取り出し魔力を込め発砲。
ディラスはそれを目に見えないスピードでキャッチ。
ならば近接で…とドスを引き抜き飛びかかろうとしたが、全員に止められた。
そして大声で同じことを叫んだ。
「逃げろ」
「俺ら家族3人は逃げるようにUFOに乗り込んだ。病院なんざ行ける余裕なんかねぇ。おふくろが必死に治療魔法を俺にかけてくれたよ。その後だ。」
惑星ドンケッツの住人の三割が殺害された。
銀河警察にも通報したが到着したのは、2日後。
話にならなかった。
ゴルズの親族や近所の優しいおばあちゃんや、仲良く遊んでいた友達は全員惨殺。
ゴルズはあの時の映像が今でもフラッシュバックのように鮮明に思い出すという。
「……………………すんません…。」
「なぁんでお前が謝んだ。俺が自分からベラベラ喋ってるだけだろうよ。」
「…………うっす………。それで………地球に帰ってきて、ポーズトッポを続けた…そんなとこっすか?」
「おう。あん時はなんも出来なかった。………親父から俺が引き継いで首領になって…そっからは必死だった。クリーンなもんじゃねぇ。暴力に恐喝に色々やってきたよ。褒められたもんじゃねぇ。」
「そうっすよね……俺もですけど…。それで…よくヤクザから自警団に鞍替えしようと思いましたよね。」
「これもまた時代の流れだわな。それに、この間親父が逝って踏ん切りがついたって感じだな。」
ドンケッツ星人の寿命は地球人とさほど変わらない。
先にアイズが病院で息を引き取った。
ゴルズとしては、旗吉よりも先に死ねて良かったとのこと。
アイズのことだ。
とても悲しむであろう。
旗吉が亡くなったのはアイズの逝去から1週間後だった。
アイズが我慢できずに旗吉をあの世に連れて行ったのだろう。
ゴルズは笑いながらタバコを吹かした。
そしてポケット灰皿でタバコを押しつぶし、下っ端の肩に手を置いた。
「暇つぶしにはちょうど良かったろ。んじゃ、見回りの続きしようぜ。」
「うっす!!!」
ゴルズたちは月明かりのもと、歩みを進めていった。
えぷしーたうんの作業所。
エレンはB型作業所でパソコン作業を終え、少し一息ついた。
首のマジックチョーカーを通じて、魔力をテレキネシスに変換し上手いことキーボードやマウスを操作しているのだ。
若干居残りはしてしまったが、これで明日の作業が楽になる。
ほかの利用者は全員帰っており、部屋にいるのはエレンとスンシーの2人。
「ごめんねスンシーさん、付き合わせちゃって。」
「んー?全然大丈夫だよー!それに最近成績下がってるから少しでも貢献しなきゃだしね!エヘヘ。」
「そうなのかな…。スンシーさん、可愛いしみんな喜んでるよ。もう十分じゃないかな。」
エレンはスンシーとたまに目を合わせ、ほぼ胸を見ている。
逆だろ普通。
バレるぞ。
「でもねー、私えぷしーたうん以外で働けないのよね。面接も落ちるし、長続きしないの。ここでも成績悪いし売上も良くないから注意はされてるけどクビにされない!それに私も楽しいよ!」
ニコニコと笑顔で語るスンシー。
ズケズケと色々言ってしまう性格のせいだろうか。
23歳にして職を転々としてきたようだ。
一応、銀河私立チンポノースジ大学を出ているので学歴としては十分である。
しかし、学力は必ずしも仕事とは結びつかない。
残酷である。
「でもねー、なんかこの間偉いさんにえぷしーたうんの違う部署紹介しようかーって言われたんだよね。」
「…………………………。」
「どんなところかはわからないけど、私に合うんだって!」
「………………行くの?」
「ううん、行かないと思う。だってここ楽しいもん。」
本当にここが楽しいのだろう。
パソコン作業が得意で、利用者との会話も好きなのでここの部署が合っているのだろう。
しかし説明不足だったりいらぬ一言で何度か保護者とはトラブルがあった。
先輩のヤビーは常にスンシーに手を焼いている。
「……………行かないほうがいいよ。てか、僕としても行ってほしくないよ。」
「そうだよねー。私も離れたくないなぁ。もしかしてエレンくん私のおっぱい見てる?」
バレてた。
「見てないよ。」
嘘ついた。
そんなくだらない会話で笑い合っていると、インターホンが鳴った。
はーい!と元気よくドアに向かうとそこにはガンテが立っていた。
「こんばんは。夜分遅くまでエレンに付き合ってくださりありがとうございます。」
「あー!ガンテさん!エレンくんお兄さん迎えに来たよ!」
エレンはつまらなさそうな顔をしながらガンテに車椅子を押される。
手を振り、エレンたちと別れるスンシー。
また明日も会えるのだ。
なにも心配することはない。
2人を見送ったスンシーは、自分も帰らなければと支度を始めた。
タイムカードを切り、ピンク色のリュックを背負い部屋の点検をしてその場を後にした。
駐輪場に向かい、自転車のチェーンに鍵を差し込もうとしたその時だった。
「こんばんは♫美人さん♪」
「???こんばんは???」
薄暗い街灯の下、トレイストが笑いながら挨拶してきた。
「僕のこと覚えてる?♫ほら…この前祭りの準備一緒に手伝ったでしょ…?♪」
スンシーはうーん…と考え上を見上げた。
そしてあっ!と手を叩いた。
トレイストは目をつむり誇らしげな顔。
「誰ですか??!!??!」
ズコー!!!
なにも覚えてなかった。
トレイストは必死に、会話もしたし一緒に荷物運んだでしょとあたふたしながら伝えるもスンシーの記憶には存在せず。
「ほら!名刺も渡したでしょ!」
「名刺………財布に入れたのかな…。」
取り出した財布。
パンパンに膨らんでおり、口を開けるとグチャグチャだった。
「うわ汚ッッッ!!!」
「むー!失礼ですよ!整理整頓苦手なんです!」
ムスッとしながら両腕で胸を挟むスンシー。
トレイストは急に顔つきが変わり嫌らしい目でそれを見つめる。
「ごめんごめん…♫よくみたら可愛い財布だもんね♪スンシーちゃんにピッタリ♬」
「そうですか?!エヘヘ!」
「では改めて…僕はトレイスト♪あのポーズトッポ事務所のスーパースターさ♬スンシーちゃんとお友達になりたくて声をかけさせてもらったんだ♪」
優しく肩に手を置くトレイスト。
キモい。
「そうだったんですか?」
「連絡先、交換しよ?♫」
「いいですよー!」
夜だから抑え気味ではあるが相変わらず声がデカい。
スンシーは流れるようにトレイストと連絡先を交換した。
「ありがと♪僕、実はホストで働いててさ…。もし良かったら、スンシーちゃん遊びに来ない?♫」
「郵便やさんですか?」
「ホストね、ホスト。それポストだから。じゃ…家まで送ろうか?♫」
「ダイジョーブです!一人で帰れますよー!そこまでバカじゃないです!」
そう言うとスンシーは自転車に跨り、トレイストに手を振って帰っていった。
「………………………フフハハッッッ♫」
トレイストは舌なめずりをして、携帯を触る。
「さてっと…そろそろ動き始めましょうかね…♫邪魔なゴキブリみたいな組織は叩き潰さないと…ね♡」




