第72話 ケツの座り
「ビンカンソ警部少しいいでしょうか。」
黒いフォルダーを片手に若い警察官が話しかけてきた。
先程の交通事故についてだろう。
運転手のメタルスモーカーはメタル星人ということもあり、病院には行かずにエナジードリンクとタバコで回復。
その後、事情聴取をしたとのこと。
いや、病院つれていってやれよ。
「そこでスモーカーさんが言うには…事故が起きる直前、ダンスフェスなどの祭りがビッグアイであるのですが、そこに物資を運んだとのことです。」
「あぁ〜、例のフェスやろ?知ってる知ってる。俺の娘も出るしな。んで、そこに荷物運んだ後にあの事故か。」
「はい。それと…」
「ん?なんや。」
「スモーカーさん曰く、ビッグアイから出発する直前にトラックの近くに人が座っていたらしく…。」
ツンツン頭に色白。
そして頬には黄色い爪のような模様。
間違いない。
アミーノである。
つまり、アミーノがトラックに細工をした…と容疑をかけられている状態だ。
それを聞いてビンカンソは腕を組み、うーんと唸った。
「ポーズトッポんとこのアミーノっちゅう兄ちゃんに一致しとるな…。」
「事情聴取しますか。」
「ポーズトッポも祭りの手伝いしてるはず。まだおるやろうな…。せやな、いくか。」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、準備に取り掛かるビンカンソ。
「でもよ、俺はあの兄ちゃんがやったとは思われへんのよなぁ…。」
「それと。」
「………まだあんのかいな…。」
「祭りの準備に提供されたこども食堂からC-444が検出されたのことです。」
「トリプルフォーがぁ?どないなっとんねん!なんでわかったんな!?誰か食うたんか!!!」
「いえ、被害者は…いるにはいるらしいのですが実質0。ただ、詳しく調べんとあきません。」
難儀なもんやで、とつぶやきビンカンソと警察官は交番を後にした。
「おーい!!!銀之助ー!!!」
銀之助が振り返る。
顔に自然と笑みが浮かぶ。
あの日以来だ。
サーシャとパルムは首を傾げ、エレンはやっと来たか…と少し呆れた気味。
「ガンテッッッッッッッッッ!!!!!」
お互いに駆け寄る2人。
熱くハグを交わし、歯を見せてニカッと笑い合う。
ゆっくりとこちらに向かって歩く2人を見る限り、本当に仲の良い昔からの付き合いなのだろうとわかる。
「あ!もしかしてそのイケメンがガンテはん!?」
サーシャが手を合わせてはしゃぐ。
銀之助は嬉々としてガンテを紹介。
「はじめまして!銀之助とは昔からの付き合いでして…。へへへ。って、エレンもうお前来てたのか。」
「そうだよ。連絡送ったろうよ。足あるんだからもっとはやく来いよ。」
フンッと少し気に入らない様子のエレン。
ガンテを呼び捨てなのも、仲のいい兄弟の証拠か。
ごめんごめんと謝るガンテ。
「ホンマにイケメンやんかー!銀兄とは大違い!」
「しばくぞ屁こき。」
「なにー?怒ってんのー?ニシシ!」
「え!!?!こんな可愛い顔して屁こきなの!??!」
「せやでぇ…ホンマに迷惑かけられてるわ…。ガンテの爆遁とは相性悪いわな!ガハハ!」
くだらないがどこか微笑ましい談笑。
いつの間にかアミーノの周りにいた利用者たちもガンテに群がっている。
アミーノ、捨てられる。
「ん?この方らは?」
ガンテを追いかけてきたのか、数人が集まっていた。全員綺麗な服を着ている。
どこかの作業所の職員だろうか。
「あぁ、この前言わなかったもんな。俺、えぷしーたうんに勤めててよ!この人らはえぷしーたうんの職員さん。」
「お世話になってまーす!」
頭を軽く下げる職員たち。
またもや盛り上がる。
直前の毒入りカレーが嘘のようだ。
トレイストはどこかつまらなさそうな顔をしている。いや、元よりつまらない顔なのかもしれない。
流石に失礼か。ごめん。
「ってことは!エレンくんと2人でえぷしーたうん勤めですか!かっこええなぁ。」
パルムもうんうんと頷き称賛。
エレンは看板、ガンテは職員。
素晴らしい兄弟である。
そんな大層なもんですかねー?と後頭部を抑え照れるガンテ。
「貴方は……確かパルムさん…ですよね。銀之助から聞いてますよ。いい相棒だって。」
「…………?お、そんな嬉しいこと言うてくれてたんか銀ちゃん!サンキューやで!ポンコツの銀ちゃん支えてますわ!」
銀之助がなんやとコノヤロー!と怒るのもまた一興。
しかしパルムはしゃぎつつ、一瞬だけガンテから見えたなんとも言えない雰囲気の余韻があった。
どこか悲しそうな、どこか恨めしそうな。
「わー!美味しそうなカレー!いただいてイイですかー?」
一人の女性職員がカレーに手をかけた。
ジェリーはその腕をゆっくりと優しく掴みそれを阻止。
ろくなことにならないよ、と。
不思議そうな顔をする女性職員。
当然だろう。
今までの経緯を丁寧に伝えた。
「えー!!!毒入りカレー!??!なんですかそれー!!!」
声がデカい。
ついでにおっぱいもデカい。
女性職員は大声でビックリしていた。
驚くのは無理もないが。
ジェリーとサーシャは既に警察には通報したので、誰も食べなければ大丈夫と説明。
「なぁんで食中毒なんかが…というか!大丈夫なんですかジェリーさん?!」
「だいじょーぶ。私、ゲームマスターだから。」
「何かよくわかんないけどスゴーイ!流石ヤクザ!!!………あ!そうだ!私えぷしーたうんの職員のスンシーと申します!」
絶妙な空気。
そんなことお構いなしに、それぞれに名刺を渡すスンシー。
ほかの職員は頭を少し抱える。
「スンシー。」
「はい?」
「もっとこう……………デリカシー覚えろ。」
「む??」
困り顔でモチェットが、もうヤクザではないと口とジェスチャーで伝える。
スンシーは、ハッ!となにかに気づいたかのようにすぐに頭を下げ謝った。
「まだ道は長いなぁモチモチ。頑張ろな。」
「そうだな…。」
サーシャがモチェットにポンッと触れる。
その光景を見ていたスンシーはまたもや何かに気づいた。
「あぁぁーーーー!!!!!!もしかして…現役女子高生で初試合にも関わらず、あのトーナメントを優勝した三木サーシャさん!??!!それにパルムさんも!!!!キャー!!!サインください!!!」
声がデカい。
ついでに尻もデカい。
サーシャとパルムも振り回されるばかり。
銀之助はわざとらしく、うんんっ!と咳込む。
「銀兄もトーナメント出たんやでスンシーさん!」
「パルムが優勝したから俺は優勝してへんけどね。うん!」
腰に手をあて、胸を張る銀之助。
「えっと……………、ごめんなさい。誰ですか?」
ズコー!!!
ケロンバたちが色々と銀之助の戦いを語り、スンシーは、あぁ〜と声を漏らした。
「思い出しました!あのバルカン選手に殺されかけた人でしたか!生きてたんですね!良かった!」
いや、その通りではあるがもっと言い方があるだろう。
職員は軽くスンシーをどついた。
「すんません…コイツちょっとデリカシーなくて…。」
「いや…全然大丈夫です…。」
白目で落胆する銀之助。
隣のガンテは頭をなでそっと優しく抱き寄せた。
「しかし…こうしてポーズトッポのみなさんやカフェのみなさん、そして地域のみなさんがこうしてひとつの祭りに出るというのは…こう…感慨深いというか…嬉しいものがありますね…!!!僕はヤビーと申します!」
ヤビーはゴルズと固く握手を交わす。
決してえぷしーたうん代表などではないが、こうやって前に進んで動くことで真面目さを出せる。
ゴルズとしても断る理由がない。
これから変わるであろうポーズトッポを見てもらわなければならないのだから。
その時であった
ウゥゥーーーーー
ウゥゥーーーーー
パトカーの音が聞こえる。
毒入りカレーの通報で来たのだろう。
数人の警察官とビンカンソ警部がゾロゾロと車から出てきた。
スンシーやエレン、マヤたちは利用者たちに大丈夫だよーと優しく声をかける。
大阪府警怖いもんね。
「通報を受けて来ました。早速カレーと使った道具などを調べさせてもらいます。」
警察は丁寧にジップロックなどに道具を入れて行く。
こども食堂のおばちゃんは泣きそうな顔をしているものの、警察はなにも捕まえに来たのではない。
パニックにならないように事情聴取をしていた。
「貴方が…アミーノさんですね?」
「あ?んだポリ公ゴラ。」
「落ち着いて。なにも捕まえるわけではありません。お話を聞きたくて。」
「だからなんだよ。エキスパートの俺っちになに聞きたいんだゴラ。」
「え、エキスパートですか…。少し前に、アミーノさんの近くにトラックが停車していたのはご存知ですか?」
順序よく説明をして、アミーノに話を聞く警察官。
キレながらではあるが、一つずつ質問に対し答えるもやはり聞けば聞くほどアミーノが怪しく見える。
ざわつき始める周り。
その雰囲気とこちらを見てくる目も、アミーノに取ってはケツの座りが悪い。
「署まで来ていただけますか?」
「は?お前俺っちの話聞いてたのか?」
一触即発の空気。
アミーノの警察嫌いが顕著に表れている。
少し前のめりで警察に詰め寄るアミーノは、どう見てもヤの者。
「アミーノさんが怪しいからではありません。アミーノさんの容疑を晴らすために来てほしいのです。」
そんなものはただの揶揄に過ぎない。
どうせ捕まえる気であろう。
トラックだ?細工だ?わけのわからんこじつけで捕まえようとしてるんだろ?
アミーノがキレかけた瞬間、誰かが肩に手を置いた。
「落ち着いて♫エキスパートさん♫」
「トレイスト…。」
「おまわりさんの言う通り、アミーノの容疑をなくすために来てほしいんだよ♪大丈夫♫それに………僕が一緒に行くから大丈夫だよぉ❥」
「いや、俺が行く。」
トレイストが腹立つ顔でアミーノに同行しようとしたが、後ろからゴルズが名乗り出た。
トレイストはなんでわざわざ社長が?自分が行くから大丈夫!社長に任せるには役不足であると伝えるがゴルズは首を横に振るばかり。
「部下がなんか疑われてるんじゃ、社長としても顔が立たねぇ。それにアミーノはなんもしてねぇたろ。そうだろ?だから俺が一緒に行ってやる。」
「なんでボスが来んだよ!!!こんなくっだらねぇもんに付き合う理由なんざ…………!!!」
「気にすんなアミーノ。それに社長だ。ボスじゃねぇ…。それをちゃんとお前にもわかってもらいてぇからな。それとトレイスト、お前には毒の件で警察に話してやってくれ。」
「え…別にいいけど…ジェリーとか要るしそっちに任せたら…。」
「アイツはゲームマスターだの屁こいたりだの警察混乱すんだろ。頭の良いお前が適任だ。頼むぜ。」
ドンッとアミーノの肩に手を置き、ゴルズはパトカーに乗り、警察署に向かった。
トレイストは細く冷たい目でそれを追いかけていた。
「………………。」
ポケットに手を突っ込みトボトボと帰ってきたトレイスト。
「大丈夫なんですか?アミーノさんとゴルズさん連れていかれましたけど…。」
トレイストはスンシーの足から頭までマジマジと見つめた後、笑顔ですぐに戻ると思うよと答えた。
そしてジェリーが事情聴取を受けているのでそれのサポートに向かった。
スンシーはサーシャたちに向き合い、可愛らしい顔で会話を始める。
話すのもいいが、そろそろ手伝いの時間もなくなる。
時間いっぱいまで手伝いをやり切ろうとヤビーはスンシーの手を引っ張っていった。
そしてまたもやスンシーはなにかを思い出したかのように大声で叫んだ。
「兄がいつもお世話になってまーす!!!また今度一緒にカフェ行きますねー!!!」
スンシーとヤビー、ほかの職員たちはだんだん遠く、小さくなっていった。
「…………………兄?誰かわかるパル兄?」
「いんや…わからん。誰や…?クエスチョナー?グレート?」
「いや、顔とかなにもかも全然ちゃうやん。誰かと勘違いしてるんかなぁ?なんかあの子抜けてるし…。」
そうしてサーシャたちはレッスンに戻り、パルムたちは本日最後まで祭りの手伝いをするのであった。
少しずつ人が増えたり減ったりしているものの、なんとか集客0を避けられているトリスコーヒー。
銀之助はカチャカチャと皿やマグカップを洗い、パルムはレジ、サーシャはメニューを運んでいた。
カランカラン…
扉上部の鈴が鳴る。
モチェットとナトリだ。
「おう!いらっしゃい!なんか飲むけ?」
「あぁ、ありがとうマスター。飲ませてもらおう。」
モチェットはホットミルク。
ナトリは紅茶ラテを頼んだ。
「良かったのアミーノ。すぐに警察から解放されたんやろ?」
「あぁ、社長も居てくれたから心強かっただろう。」
「ンハハ!怒ってましたけどね。それと……兄貴たちに伝えたいことがありまして。」
「ん?」
ナトリは携帯の画面を見せた。
そこにはゴルズとの会話履歴。
銀之助はなにかを察したかのように、フゥーッと息を吐いた。
「この間、トレイストに兄貴たち会ったじゃないすか?そのトレイスト、今闇バイトの元締めの調査をしてて。その元締めのヴィルホーンと強い関係がある店があったんすよね。」
「確か、ホストやったよな。」
「そうっす。もうお分かりっすかね。」
静かに頷く銀之助。
この会話はサーシャもパルムも聞いていた。
「そのホストクラブ。潜入捜査に僕ちゃんたちも行きます。」




