第70話 下降と上昇
喜んで駆け寄る銀之助。
その前にカウンターでサーシャに屁をかまされたが。
まさにカウンタートラップ。
臭い臭い!と言いながら銀之助はエレンの両肩に優しく触れた。
「本当にお久しぶりです銀さん。夢…叶えたんですね。」
両腕と両足が欠損しているので、車椅子での生活なのだろう。
しかし、そのハンデを覆う天使のような笑顔。
エレンは銀之助が夢を叶えたことに心から喜んでいるのだろう。
サーシャとパルムは銀之助の知り合いかなと少し気になっていた。
「よく来てくれたわホンマに!2人が連れてきてくれたんか!」
アミーノとゼクスにニシシと笑顔を向け感謝する。
「せやでぇ、ビックリしたわホンマに。俺今日休みやから散歩しとったんじゃよ。そんだら車椅子からこけて倒れとったんじゃ。」
アハハと少し情けなさそうに振る舞うエレン。
少し服に傷があるのはそのせいか。
「周りのやつらは見て見ぬふりだったしな。」
「いやアレはしゃーないて。死角やったし。情けないけどお前が気づかんかったら俺もわからんかったもん。」
ガタッと椅子を鳴らすモチェット。
「まさか…アミーノお前が…いの一番に動いてこの少年を…?!そうなのかゼクス氏とやら!」
「お、なんやアンタこいつの仲間け。せやでせやで!こいつしけた顔しながらポケットに手突っ込んで歩いてると思ってたら急にバッ!て走り出してな!」
それを聞き慌てながら手を振ったりして否定するアミーノ。
「いやいや!!!そんなんじゃねぇから!!!あんなとこで倒れてたら邪魔だろうが!!!別に助けたわけじゃねぇから!!!」
はいツンデレポイント入りましたー!!!と高らかに声を上げるモチェット。
うるせぇ。
アミーノは、殺すぞモチェット!と叫び胸ぐらを掴みブンブンと揺さぶるも、助けたことは事実だろう。
これみよがしに煽るゼクスとエレン。
「いやぁカッコよかったでぇ〜!さっすが自警団!ヒーローやなぁ〜!」
「カッコよかったなぁ〜。」
「テメェもテメェもぶっ殺す!!!」
アミーノを除く、全員が笑みを浮かべている。
サーシャも最初こそ怪訝な顔をしていたが、あのゼクスと一緒にエレンという少年をここまで連れてきたのだ。
これだけで信用に値するかと言えば違う話になるが、少しは警戒が緩んだのかもしれない。
「そういえば、アミーノお前昨日どこに居たんだ?社長から連絡届いてただろう。俺らもだが、社長が心配してた。あんまり心配かけるなよ。」
ツンデレポイントという謎のメモ帳のページに文字を刻みつつモチェットがアミーノに尋ねた。
「あ?どこでもいいだろ…。てか!!!なにが心配だコラ!!!これ見ろやボケ!!!」
アミーノは携帯を向けた。
ゴルズからのLINE。
内容はこうだ。
[大丈夫かアミーノ?悪いけど帰りローソンでタバコとチキン買ってきてくれねぇか?]
ズコー!!!
「夜中に揚げもん売ってるわけねぇだろ!!!なに考えてんだボスはよぉ!!!」
そこかよ。
「ローソンで買い物したあとに、俺と2人でぶらぶら夜中の散歩しとったんやわ。寝てへん。せやから眠とぉて眠とぉて……ふわぁぁぁ……。」
「ゼクス氏と………2人で…………!?」
「もういいよウゼェから。んで途中でコイツ拾ってこの汚ねぇカフェに来た。コイツが行きてぇって言うから。」
アミーノはイライラしつつ、タバコに火をつけた。
反発心での行動かもしれないが、元よりここは喫煙可能である。
「汚いだのなんだのよくパートナーカフェによぉ言うてくれるわ。みんなここ座り。アミーノ、お前これ飲んでみ。ゼクスくんとエレンはどうする?」
カウンター席にアミーノがドサッと座り、ゼクスがエレンをカウンター席の端っこまで移動させ、失礼しやーすと静かに座る。
アミーノに出されたのはキャラメルラテ。
この間はコーヒーを飲んでマズイと言っていた。
ならばキャラメルはどうかと銀之助は思ったのだ。
ゼクスはカシスオレンジ、エレンはトリスコーヒーオリジナルを頼んだ。
アミーノは香りを嗅いだのち、恐る恐る口をつけた。
「……………………うん。」
「………うん。て、なんやねんこのタコスケ!!!美味いやろがアホンダラ!!!」
やっぱりキレるサーシャ。
汚らわしいものを見るような目でサーシャを見るだけで相手をしないアミーノ。
銀之助とパルムはツンデレだから仕方ないと宥め、これまたアミーノを苛つかせた。
「まぁ…………マシ…なんじゃねぇの。知らねぇけど。」
「そうか、良かったわ。」
銀之助とパルムの笑顔。
こいつらと関わると調子が狂う。
気に入らない。
とくに、こういうのも悪くないかもしれないと思う自分自身が。
「320円ね。」
「金取んのかよ!!!」
「当たり前やろ。商売やぞ。」
やっぱり気に入らない。
「美味しい。」
エレンがコーヒーカップを宙に浮かせ器用に味を楽しんでいる。
超能力しかり、魔法なのだろうか。
驚きたいけど、こんな異星人だらけ魔法だらけの世界なのでなにも驚けない。
「そういや聞いたぜ。おいナトリ。お前早速お手柄だってな?」
「うぅ………まぁ…そうなんだけど…。僕ちゃんよくわかんないんだよ。病院送りにしちゃったのに、称賛する人もいれば叩く人もいて…。まぁおばあちゃん助けられたから良かったんだけど…。どうしたらいいのか…。」
「調子のってるやつらは全員ぶっ飛ばしゃいいんだよ。殺されねぇだけ感謝しろってんだ。楽して金稼げると思ってるからこうなるんだろうが。」
モチェットは頬杖をつきつつ、アミーノの話を聞いていた。
確かにアミーノの言うことも一理あるのだ。
ナトリはうーむと目をつむり顎に指をあて悩んでいる。
サーシャは珍しくアミーノと意気投合。
お互いにナトリを褒め称えていた。
「僕もそれでいいと思いますよ。」
エレンでさえこれである。
そうだそうだと激励が飛び交う。
続いてパルムが口を開いたが、先にエレンが話を続けた。
「でも、これからの自警団を考えたら…手加減は覚えたほうがいいかもしれませんね。ナトリさん、強いんでしょうし。」
「手加減…したんだけどなぁ…。」
「もう少し手を加えれば、完璧ですよ。まぁ僕手ないんですけどね。」
ワハハ!とブラックジョークをかますエレン。
せっかくボケてくれてるのだ。
銀之助たちも笑いあった。
そしてパルムは言いたいことを全部言われたので本当に口を開けて終わった。
「そういや、ガンテは?」
「ガンテ?」
「あぁ、サっちゃんとパルムに言うてなかったの。俺が衛生兵時代の戦友にガンテてやつがおってな。この間会うたんよ!めちゃくちゃ優しいやつでよ!顔も……俺の次に良かったかな。うん!で、エレンはそのガンテの弟やねん。」
「そうなんや!銀兄よりも遥かにイケメンなんや!見てみたいわぁ。エレンくんがこんなハンサムなんやから相当なんやろね。」
「話聞いてた?」
ワッハッハ!!!
先程から笑いが絶えないカフェ。
居酒屋かよ。
しかし、パルムは見た。
ガンテの名が出てきたとき、一瞬。ほんの一瞬だけエレンの目から光が消え失せた。
光の反射具合ではない。
なにか形容しがたいものを感じるも、踏み込んで聞けるようなものでもない。
「兄は…………仕事でして。またいつか来るとは思います。ごめんなさい僕だけで…ハハ…。」
「なに言うとんねん!エレンだけでも嬉しいわい!また今度兄弟仲良く来てや!」
「…………はい!あ、そう言えば…ゼクスさん僕の鞄取ってくれませんか?」
「敬語やめぇな。それにゼクスでええよ。」
「ゼクス鞄取って。」
「対応早。」
ツッコミながらゼクスは丁寧にエレンに鞄を渡した。
エレンは先程コーヒーカップを浮かしたように、鞄からファイルを取り出した。
「それどうやってんの?」
「あ、これですか?銀さん知りません?マジックチョーカー。僕の首輪。これ便利ですよ!手足が不自由な人は杖とか使えませんからね。」
確かにエレンの首には可愛らしいハートのアクセサリーが付いたチョーカーをしている。
ここから本人の魔力を感知して物体を動かしているのだろう。
「なんやもうそんなもん出てるんやな…。杖は時代遅れなんかの。」
「そんな事はありませんけど、確かに数は減ってきてますね。少しさみしい。見せたいチラシがありまして………これです!」
エレンが差し出したチラシ。
銀之助たちはマジマジとそれを眺めた。
「………絶対美少女!ふわふわと癒しのひととき…。」
「あ!すいませんそれお気に入りピンクチラシです!アハハ!」
ズコー!!!
「なんやねんお前…その顔でしっかりドスケベやんけ…。」
「健常者も障害者もみんな男はスケベだよゼクス。て、そうじゃない。これですこれ。」
改めて差し出したチラシ。
そこにはこう書いてあった。
「みんなの居場所えぷしーたうん…って、これこの間来たやつとちゃうんかサっちゃん?」
「せやでせやで。作業所とか色々事業やってるところ。ていうか!!!思いっきり真正面にエレンくん映ってるがな!!!凄いやんか!」
集合写真のど真ん中。
そこにエレンが堂々と映っていた。
話を聞くと、どうやらえぷしーたうんの顔のような立場らしい。
「アハハ、ありがとうございます。作業所の代表みたいなものでして…。でもそんな大層なもんじゃないですよ。」
するとアミーノが腕を組み、はっきりと聞こえるように舌打ち。
「コイツらが来たせいで俺っちポーズトッポ組が追いやられたんだよ。」
「まぁそう言うなアミーノ。気持ちはわかるが…今の時代今までのやり方では通用せん。それに俺たちは生きてる。看板を変えてやり直したらいい。」
「今まで散々用心棒みたいに利用しておいて、時代が変わったなんて名目でゴミみたいに捨てんのか。気に入らねぇ。誰がへんなゴミどもから守ってやってたと思ってんだ。」
なにも返さないモチェット。
ただただ話を聞いてあげるのみ。
ポーズトッポ組は確かにショバ代やら恐喝などをしていた。決してクリーンな組織ではない。
それもそのはず。ヤクザなのだから。
しかし、その分キチンと町は守っていた。
縄張りという名目ではあるが。
「それになにがダンスだ歌だ。ふざけてんのかボスはよぉ!!!裏社会の人間が今更んなことできるか!!!そもそも!!!どこでそのお遊戯会をお披露目するんだよ!!!んなもんーーー!」
「それです!!!」
叫ぶアミーノに対しビシッ!!!と突っ込むエレン。
「なにも僕は自慢したくてこのチラシを出したわけではありません。1ヶ月後、このえぷしーたうん主催の作業所や企業、お店が参加する祭りがあるんです!!!そこで!!!」
エレンはもう一枚チラシを出した。
どうやらまだ発表されていないものであり、本来はまだ出すべきではない。
しかし、これをみんなの前で出した。
ここまで言えばわかるだろう。
「この祭りに参加して欲しいんです!!!トリスコーヒーとポーズトッポ事務所のみなさんに!!!是非ともこの機会に!!!」
これは千載一遇なのだろうか。
確かに今はダンスの練習やらなんやらをしている。
サーシャも参加しているのだ。
しかし、それを発表する場の話は出ていなかった。
ゴルズに聞いても、なんとかするの一点張りで納得できるものがなかった。
元とはいえヤクザ。
受け入れてくれる会館や場所も探すのはむずかしかったのだろう。
「懐かしいな…!今はなにがあったんか参加出来てへんけど、俺の母校のダンス部もこのダンスフェスやってたんやわ!今回はえぷしーたうんが大きく出てるんやの!」
「ええやんか銀ちゃん!参加しようや!!!………でもそれエレンくん一人が決めてええもんなん?」
パルムの疑問も当然である。
エレンは静かに微笑みながらこう返した。
「えぷしーたうんの顔みたいなもんですから。少しぐらいの融通は利きますよ。いや、利かせます!」
頼もしい。
サーシャも俄然やる気満々である。
ついにお披露目の場を獲得できた。
とはいえ練習して4日目。
しかもその催しまで1ヶ月ほどしかない。
なんでいつもこいつらギリギリで生きてんだ。
アミーノは嫌そうな顔をしており、モチェットとナトリはガッツポーズで喜んでいる。
ゼクスも良かったやんけ!と小さく拍手。
エレンとしては、たい焼き屋も出して欲しいとのこと。
トントン拍子で話が進む。
「よし…!!!ありがとうエレン氏!!!早速社長に連絡をせねば!!!」
「…………待てや。」
みんなが盛り上がる中、アミーノだけが怖い顔をしている。
馴れ合いやお遊戯会が嫌いなのもあるだろうが、なにか言いたげだ。
「えと…アミーノさん…でしたっけ?どうされました?」
「なんで今ポーズトッポがアイドルとしても動こうとしてるの知ってんだ?」
アミーノの言葉に反応してかモチェットも少し真剣な面持ち。
「確かにそうだな…。なんでエレン氏が知っているんだ…。」
「何言うとんのよ。アンタんとこの社長が言うてたやないか。歌って踊れる自警団〜!て。」
「確かにボスはそう言ってたけどよ、ナトリが配ったチラシにはそんなこと一言も書いてないだろ。そらそうだ。元ヤクザが自警団を名乗っていきなり目の前で踊りだしたら怖すぎんだろ。奇祭かよ。」
ナトリもハッとした顔である。
パルムも一緒にビラ配りをしていたのでよくわかる。
確かにアイドルのことには触れていない。
エレンは目をつむる。
「………そうでしたね、すみません。まだ確かにそこまで情報が回っていなかったのかも。」
「あ?どういう事だよ。」
「アミーノさんの言う通りです。チラシにはアイドルやらなんやらは書いてませんでした。ただ…ポーズトッポのとある人から情報提供を受けまして。そろそろゴルズさんのところにも情報が入るかと。」
話が見えない。
ゴルズでもなければ、誰がそんな事をエレンに話したのか。
モチェットですらそのことを知らないのだ。
「まさか………。」
腕を組み何かに気づいたモチェット。
心当たりがあるのだろうか。
エレンは良い顔で答えた。
「恐らく、モチェットさんの思う通りです。ポーズトッポの事を詳しく教えてくれた人は…【トレイスト】さんです。」
「ト……トイレ……なに?」
銀之助も不思議そうである。
ここにきて新たな人物が浮上してきた。
「トレイストっす兄貴!ポーズトッポのホストを任されてたやつなんすよ!」
「ホストォ?そんなんもやってたんかいな。ウリはやらんとか言うといて…客の女の子にはやらせてたんちゃうんか。」
ジト目でナトリを凝視するサーシャ。
疑うのも当然である。
しかしナトリとモチェットが手を振りそうではないと否定した。
土日だけの上限ありホストだったらしい。
しかしそれも組織縮小で無くなった。
トレイスト自体はポーズトッポに残っているのは知っていたが、何をしているのかはあまり把握できていなかった様子。
アミーノは相変わらずシケた顔をしており、モチェットは携帯でゴルズに確認を取っていた。
ともあれ、流れ的には良い感じである。
あとは来月の祭りまでに全員仕上げておくこと。
それまでに腐ることなく、これからのために今を楽しむだけである。
ゴルズの携帯が鳴った。
画面にはとある名前。
迷わずに通話を始める。
「もしもし、ゴルズだ。メールは見たぜ。」
[あ、見てくれました社長?じゃあ別に電話かけなくても良かったかもですね〜。]
「いや、寧ろありがてぇ。お前の声も聞きたかったしな。最近顔出せずに悪いな。」
[何をおっしゃるかと思えばw社長は忙しいんですし、俺に構えないのも無理ないですよ♪とはいえ、さみしいのはさみしかった…かな?]
どこか嬉しそうなゴルズ。
デスクには様々な書類が広がっている。
「近いうちにまた合流しよう。トレイスト。」
[えぇ………楽しみにしてますよ社長………フフ♫]




