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スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
悪虐搾取組織殲滅編
69/74

第69話 ネバネバギブアップ

夜道を自転車で走り抜けるゴルズ。

ライトの明るさは十分。

コーナンで買ったリアライトもチカチカと点滅。

これで安全だ。

しかし目的がアミーノ探しなので、夜のサイクリングではないのが歯がゆい。

程なくして、信号に引っかかった。

周りを見渡し、車や歩行者が居ないか確認。

誰もいないのでそのまま赤信号を進もうとした。

その時だった。


「自警団が信号無視かぁ?減点対象やなぁこれは。」


声のするほうに顔を向けると、そこにはエメリィの父である珠雄にジョージことエンジョージア。

そしてボーナの3人が買物袋を引っさげて立っていた。


「お前ら…。」


「夜のサイクリングやあらへんな。まぁちょっち公園行こうや。付き合えよ、社長。」


優しく微笑む珠雄。

しかしゴルズはアミーノを探している。

せっかくの誘いではあるが、今はその余裕がない。


「せっかくの誘いだが悪いな。今は部下を探しててよ。」


「部下?どんなやつや?もしかして髪の毛ツンツンで白粉塗ってんのかてくらい顔白い兄ちゃんか?」


「そうだ。よく知ってるな。どっかで見かけたか?」


「あぁ、さっきな。鯛焼屋の兄ちゃんらとおったからの。のぅボーナ。」


珠雄が剃り残した顎髭をさすりつつボーナの顔を見た。

ボーナは少し嫌そうな顔をするも、えぇまぁと曖昧な返事をした。

ボーナは過去のこともあるのであまり関わりたくはないのだろうか。

ゴルズも気を使っているように見える。


「お前んとこの部下や。変なことはせんやろ。それに俺らが知らん間に、ガキってのは勝手に成長していくもんや。」


「…………そんなもんか。」


「そんなもんや。どないする?公園で飲むか?」


ゴルズは珠雄を見た後にジョージとボーナの顔を覗う。

ジョージは静かに頷き、ボーナは勝手にしろと言わんばかりに顔を背けた。ふんっと鼻を鳴らしながら。

数秒考えた後、ゴルズは自転車を降り珠雄らについていくことにした。

一応アミーノにメールを送りつつ。

公園まで現在地からおよそ徒歩5分。

周りには誰も居ない。

鉄工所で働く汗臭い男3人と元ヤクザのボス。

計4人がベンチに座る。

ゴルズ、ボーナ、珠雄、ジョージの順だ。

泉北は人が多く、商業的にも流通が賑わっているがまだまだ田舎なので禁煙マークは少ない。

それに日中でもないので誰も気にすることなく堂々とタバコを吸える。

贅沢な町だ。

珠雄が缶コーヒーを袋から出した。

プシュッといい音を出しながら軽快に口が開く。

それをゴルズに差し出した。


「悪いな…て、ビールじゃねぇのか。」


「最近どうも肝臓が弱なってきてもうてな。代わりにブラックキメとるんや。」


ゴルズは手を軽くあげ、ブラックを受け取った。

グビッと一口。

美味い。

昔と比べものにならないほど、缶コーヒーは美味くなった。

しかしゴルズはわざとなのか自然に溢れたのか、ポロッと呟いた。


「美味いな…。でも……………あのカフェのコーヒーのほうが美味い。」


「…………………せやな。」


珠雄もまた同様にコーヒーを口にした。

ゴルズも色々と思うことがあるのだろう。

ヤクザ時代、狙っていた土地を知らぬ間に銀之助に買われカフェを建てられた。

そしてその土地を狙い衝突したこともあった。

それが今や、そのカフェの名と場を利用しているのだから。

時代に合わない。

やっていけない。

それで足を洗うべく、自警団とアイドルを合わせた事務所にするという意気込みはいいが、そのためにトリスコーヒーを使っている。

そのせいで常連の一部は離れた。

ネットでの地元スレには心ない文章が並ぶ。

自分が関わらなければ、こんなことにはなっていなかったはずだ。


「これも食えや。」


「いや…あのさ…。」


珠雄がゴルズに差し出したのはおにぎり。

ボーナが何か呟くも、ゴルズは手を軽くあげ礼。

そのままおにぎりを受け取った。

今では安くて260円もするのだ。

物価高。

連想するはやはりトリスコーヒーのメニュー価格。

元より厳しい経済状況。

これ以上、カフェに打撃を与える訳にはいかない。

ゴルズはおにぎりを片手に胸ポケットからタバコを取り出したが中は空っぽ。

すると珠雄がラークをこちらに向けている。

無言だが笑顔。


「いや、だからさ。」


「どないしたんなボーナお前さっきから。お前もタバコ切れたんか?」


「俺の隣は色々とキツイんだろ。昔のこともあるしな。」


確かにゴルズの言う通り、元を辿ればボーナもポーズトッポ組だったのだ。 

逃げるように辞めたわけではないが、やはり顔を合わせ辛いというのもあるだろう。

しがらみだ。


「違ぇよ!!!なんで僕を挟んで並んでんだよ社長!!!コーヒーあたりからアンタらの腕が僕の顔ゼロ距離で交差してるんだよ!!!鼻当たってるし!!!座る順番変えろよ!!!」


ズコーーーーー!!!


順番の問題だった。 


「あ、そうか。確かに。」


「自分が最初に座ったからですね…すみません…。自分、不器用なもんで…。」


「不器用で済ますんじゃねぇよ!!!」


ジョージに突っ込みを入れるボーナ。

探ればもしかしたらボーナはゴルズに対して何か思うことがあるのかもしれない。

でも今のところ、とくにそれは感じられない。

コイツもコイツなりに成長したのだろうか。

夜の公園におっさんたちの笑い声がこだました。


ウーウー


パトカーのサイレンだ。

そう遠くない距離から聞こえる。

またどこかで事件が起きたのだろうか。

とくに闇バイトの事案が増えている。

もしかすると、それ関連かもしれない。


「ゴルズ、お前んとこの若獅子ら…確か見回りしてるんやんな?」


「あぁ。もしかしたら、捕まえたから警察に連絡したのかもな。」


その直後。

ゴルズの携帯がけたたましく鳴り響いた。


「もしもし…モチェットか。どうした?…………………わかった。今行く。」


ゴルズはゴミをポケットに押し込みゆっくりと立ち上がった。

珠雄たちを一瞥し、手を軽く振り礼を言い終えその場を離れた。

ハァ…と小さなため息を残して。






「アカンわ乳痛い。」


マグカップを洗いながらサーシャが呟いた。

パルムがモス子に噛まれたのかと聞くと、そうやねん筋肉痛やねん。と返した。

そうやねんってなんだよ。


「もうダンスとか練習しとるんやろ。それでちゃうんか。」 


「そっかぁ。良かった、生理とかやなくて。」


「生理やったらサっちゃん暴れるがな。」


「せやんねぇ。マジヘルもいらわれへんくらい力増すもんな。」


「聞こえてるんやけどぉ〜?」


他愛もない会話。

これが心地良いのだ。

そして銀之助は客が入ってきた鈴の音で気がついたのだ。

何故か客が多い。

もちろん、前ほどの賑わい…などではないが、明らかに増えている。

そして依頼の相談を持ちかけられる事も増えたのだ。

また以前の姿に戻ろうとしているのかもしれない。

何故急に増えたのだろうか。


カランカラン…


いらっしゃいませー!と声をかけた銀之助が見たのは客ではなくナトリたち。

何故かしょんぼりしている。

サーシャは洗い物を終え、プス〜と警戒にいや軽快に出迎えた。


「いらっしゃいナトリン!モチモチ!カウンター空いてるで!おいでおいで!」


「………………ッス…。」


「……………失礼する…。」


「なによ〜元気あらへんがな。どないしたん?」


カウンターについた2人。

モチェットはブラック。

ナトリはモカを頼んだ。

2人を見守る銀之助たち。

しかし中々口を開かない。

すると周りの客たちがこっちを見てヒソヒソと話し始めた。

とは言え、陰口というよりなにか俳優や声優を見つけたような雰囲気を感じる。

周りの視線を少し気にしつつ、ナトリが携帯を取り出し銀之助たちに差し出した。

一見普通のスマホ。

問題は画面に出ている記事であった。


「ん?お!!!ナトリン、闇バイトボコったんかいな!やるやんか!」


手をたたき軽く跳びはねるサーシャ。

銀之助とパルムはその記事を見た瞬間にあらかた理解できた。

これの影響もあってカフェに人が戻ってきたのだろう。

すると、何故落ち込んでいるのか。


「…………また迷惑かけるかもしれないっす…。」


「迷惑?なんで?」


「…………実はーーー」


ナトリはあの日の夜、民家に忍び込もうとする黒ずくめの5人組を発見。

バールや魔法の杖などを持っており、強盗目的なのはすぐにわかった。

ナトリが目の前に現れると、全員武器を構えこちらに向かってきたのだ。

ナトリは元ヤクザ。

何度も死線をくぐり抜けて今に至る。

闇バイトなんざ相手ではなかった。

しかし闇バイト捕縛に関してゴルズやモチェットから警告は受けていた。


「アイツらは素人だ。ヤクザや半グレとは違う。捕縛においてかなり手加減せんと簡単に殺しちまう。」


ゴルズは書類をデスクに置き、ナトリを見つめる。


「俺らはもうヤクザじゃねぇ。自警団だ。前みたいにボコボコにしたら過剰防衛扱い。すぐサツに目付けられるぜ。だからナトリ………」


めちゃくちゃ手加減して捕縛しろ


そう聞いていた。

ナトリは身軽なフットワークで闇バイトの1人をぶん殴った。

素人相手だからこんなものだろうと。

すると…


ゴギャッッッメギゴギッッッッッッ!!!


ナトリは驚いた。

一般人を殴ったことのないナトリには、手加減が手加減になっていなかったのだ。

重体に近い重症。

こんなにも弱いものなのか…。

闇バイトは血溜まりで倒れていた。

まだ捕縛も出来てない上、まだ相手はこちらに向かい武器を振りかざす。

タイミングは悪いがすぐに警察に連絡したのだ。

しかし、1人を死ぬ寸前までに追い込んでしまったナトリは驚きとこれからの組織としての不安でバールが肩に直撃。

倒れ込んだ瞬間に闇バイトたちは民家に押し入った。

急いで立ち上がり、家の中で戦闘を続行。

手加減があまりにも難しい。

想像以上だった。

焦ったナトリは4人のうち1人を同じように重症に追い込んでしまった。

その後警察が駆けつけ、闇バイトは全員捕縛。

警察にゴルズやモチェットも呼ばれ、署に一旦連行。話し合いとなった。

一応、家主がナトリは守ってくれたと証言してくれたお陰で厳重注意で済んだ。

そして今、トリスコーヒーでコーヒーをしばいている、ということである。






「別にええやん。闇バイトなんざボコボコにしたったらええねん!アイツらめちゃくちゃなんやから!」


シュシュッと空パンチをするサーシャ。

銀之助もパルムも一理あると理解できる。

しかし、心配なのはポーズトッポ事務所の扱い。

また、ヤクザと変わらんだの野蛮だのと言われるのでないか。

そこでモチェットは首を横に振った。

そして差し出した携帯の画面。

そこには地元掲示板スレがたっていた。

内容を読むと…


1:名無しの泉北民

これナトリってあの白い兄ちゃんやろ

トリスコーヒーにおるやつ


2:名無しの泉北民

バールと杖持った5人が民家入っとる時点で殺す気やん

よう止めたわ


3:名無しの泉北民

記事見たけど家主無事なんやろ?

なら英雄やろ


4:名無しの泉北民

2人重傷って結構やりすぎちゃうか


後半には


19:名無しの泉北民

殺せよ

どうせまたやるぞ


20:名無しの泉北民

<<19

これ

重傷で済んだなら安いもんやろ


こう書き込まれていた。

腕を組み、うーんと首を回す銀之助。

よくやった!だけで済めばいいが、このままだとエスカレートしてしまう。

すぐになんでもかんでも殺せ殺せと喚くようになってしまう。

上手いこと線引きが出来ればいいが、人間はそこまで強くはない。賢くもない。


「大丈夫やでナトリくん。寧ろ、かえって助かってる。カフェも元に戻ってきてるわ。お客さん戻ってきてる。よくやったの。」


銀之助はこうナトリに伝え、肩の心配をした。

ナトリは複雑そうな顔をしているが、ゆっくりと微笑み肩の痛みは治ったとストレッチをして見せた。


「サンキューやで。でもな、ナトリくん。これだけは覚えといての。わかってるやろうけど。絶対に調子のったらアカンで。いくらスレとか色々な場所で持ち上げられても。」


パルムの言う通りであるが、ナトリはまだ深く理解出来ずに聞き返した。


「えと……どういう…ことっすか?」


「人間、なんでもエスカレートするからそれに応えようとしたらアカンっちゅう事よ。仮にスレが殺せ殺せしかなくても、芯を貫くんやでってこと。」


ナトリはおぉ!と手のひらにグーをポンッと叩いた。理解出来たのだろう。


「それなら大丈夫っす!任せてくださいっす!絶対に!殺すことはないっすから!生かして罰食らわせ続けるっすよ!」


なら大丈夫かなとパルムは軽く頷いた。


カランカラン…


「いらっしゃいませー!………て……。」


銀之助たち3人は入ってきた客を見つめ、ナトリたちは後ろを振り返った。

そこに居たのは若い大阪府警。

こちらに近づいてくる。


「すんません、ナトリさんでええですよね?」


「え?あぁ…まぁ…そうっすけど………何のご用で?まさか……逮捕!?」


「いえ、違います。ただお話をしたくて。町田さんたちにも少しご協力願えたらなと。」


「あまり派手な動きをしないでいただきたいんです。今回はスムーズに我々にご連絡していただいたのであの5人組を逮捕出来ましたわ。でも…やっぱり自警団言うてもナトリさん方も一般人ですので…。」


「アンタらの動きが早かったらええんちゃうか〜。」


サーシャが警察を睨みながら唇を尖らせる。

銀之助はサーシャを軽く手で宥めるも、もはや効かないだろう。

それもそのはず。

仕事をして、重大な事件になる前に食い止めたのだ。とやかく言われる筋合いなどない。

勿論、警察も一般人の安全保障などの面もあるのでその心配をしているのだろう。

しかし、ここでは手柄を取るんじゃないとしか聞こえない。

それに警察はまだこちらを怪しんでいるはずだ。

元ヤクザ。そしてそれに協力するカフェ。

怪しむのも自然だろう。

しかしサーシャたちからすれば、余計なお世話である。

丁寧に説明するモチェット。

まだ信用出来ないのであればいつでも事務所に来てもらったらいい。大っぴらに警察に伝えた。

若い警察は互いに顔を見合わせる。

どこかまだこちらを訝しんでいる様子。

理解は出来るが、少ししつこい。

サーシャの苛立ちも見てとれる。

パルムがサーシャに肩を置いてなんとか落ち着かせているも、いつ屁こきJKが爆発するかわからない。


そこにまた1人客が入ってきた。

カランカランと鈴が綺麗に鳴り響く。

警察が振り向くと、ビシッと姿勢を正した。


「お疲れ様ですビンカンソ警部。」


「お疲れ。なんや?何しとったんや?そろそろ巡回やし、行くで。」


ビンカンソは銀之助たちに頭を下げ、若い警察を引き連れて外に出ていった。

最後に、またここ遊びに来ますわ!警察やなくて1人の人間として!と言い残して。


「……………警察も大変やの。」


ハァとため息をこぼす銀之助。

サーシャはフンガフンガ言いながらケーキセットを運びにカウンターから出ていった。

取り敢えず今回はまだいい流れなのだ。

ナトリもめげずに、これからもっと手加減を覚え前に進めばいい。

ナトリは元気よく返事をして、モカを楽しむのであった。






「まだ怪しいですね。あのカフェとヤクザ。」


「ヤクザ言うなて。解散届出しに来たやろ?ゴルズさん。もう今は自警団やて。」


パトカーの前で話し合う3人。

ビンカンソはタバコを吹かしつつ、なにか調べ物をしていた。


「でもええんですか?ほっといて。それこそ、間に合わんかったらーーー」


「アカンて。今ぐらいが丁度ええ距離や。これ以上怪しんで踏み込んだら民間からクレームくるわ。あのカフェもなんやかんやで愛されとるし、自警団も頑張って更生しようとしてるんやからの。俺らがするのは見守り。変なことせんように。」


フゥーッと煙を一息。


「それに見張るんやったら闇バイト見張れ言われてまうぞ。反論できへんわ。……………別に感情論で言うてるんとちゃうぞ。アイツら、闇バイトしばいた後に何したよ?」


「後…ではないですけど、僕ら呼びましたね。」


うん、と頷き指をさすビンカンソ。


「それや。アイツらが頑張ってくれたら、捕縛も楽になるやろて。巡り巡って警察にも恩恵あるんやわ。せやから今はこの距離感でええ。」


タバコを吸い終わったビンカンソはゆっくりと踵を返した。


「ええとこ取りですか。」


「言い方悪いなぁ!何事も協力関係に無いとアカンてことや。組織云々の前に、同じ泉北に住む人間同士なんやからよ。相互関係相互関係。ほなお前らもボチボチの。」


ビンカンソは駐車場に停めていた宇宙三輪車に跨った。

キコキコとペダルを漕ぎ、そのまま空高くどこかに行ってしまった。


「………………いつ見てもアレダサいよな。」


「言うなよ。警部泣いてまうから。」






またドア上部の鈴が鳴り響く。

ほんの少しだけ忙しさは戻ってきた。

これは嬉しいしんどさだろう。

銀之助たちが喜んで迎え入れた。


「お前ホンマに下手くそやのぉ!車椅子の押し方一つも知らんのかいな!ホンマにエキスパートなんかぁ!?」


「るっせぇよボケ!!!この車椅子の型知らねぇんだよ!!!」


「車椅子に型もクソも無いわアホンダラ。」


「あるに決まってんだろ!!!」


モチェットが少しだけ目を大きくし、ナトリはパァァと顔を明るくした。

パルムも、おっ?とおどけた表情。

サーシャは少し嫌そうな顔ではあるが、不思議がっている。

ゼクスとアミーノが誰か車椅子に乗せて後ろから押しているのだ。

銀之助は少しだけ間が空いてから声を漏らした。


「ゼクスくんに…アミーノ……それに…………お前……………!!!」


「久しぶりです銀さん。覚えてますか?兄のガンテが世話になってます。エレンです。」

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