第66話 美味しいお菓子ほどすぐに製造終了になりがち
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カチャ…
コッコッコッコッコッ…
オチン…チンチン…
優美なBGMを背景に、食器が接触する音が静かに響く。
いつもと変わらず、トリスコーヒーは本日も営業中。
しかし違うのは店の表、そして店内の厨房付近のカウンターに貼られた1枚のポスター。
ゴルズとそれ率いる若手がポーズを取っている。
堂々と【町の平和を守ります】と書かれた常套句。
胡散臭さMAXである。
現在時刻は午前11時。
銀之助とパルムは、呆れるようななんとも言えない表情で仕事をしていた。
サーシャだけである。
やる気満々なのは。
「会計頼むわな。」
「はーい!」
1人のお客さんがコーヒーを飲み終え、バカ3人たちに会計を促す。
いの一番にサーシャが元気よく可愛い笑顔でレジをいらう。
てかレジ使えるんや。なんか意外。
ひょうきんにサーシャが注文したメニューの名前を読み上げ、レジ打ちをしていた時。
「あのさぁ、めちゃくちゃええ店やったのになんでよりにもよってヤクザとつるむんなよ。」
「え〜、確かに前までヤクザやったけど今は心入れ替えて本気で動き始めてるで〜!」
「何を言うても所詮ヤクザやぞ。デマカセなんざいくらでも言えるやろて。ええ茶店やったんやけどなぁ。残念やけど…もう2度と来んわ。」
お釣りを受け取った初老の男性客。
怒りとも受け取れるが、少しさみしげな顔であった。
それを困り顔で見つめる銀之助。
「そんなん言わんといてよー!そんなん言うたらもうこんな現役ピチピチのウチに会われへんで?」
「いや、もうええわ。今までありがと。楽しかったわ。」
そう言うと客は憂いを感じる背中を見せ、退店。
サーシャは可愛いポーズのまま白目で固まっていた。
流石に事が事なので、サーシャの可愛い看板力も通用しない。
銀之助は深々と頭を下げ、最後まで客を見送った。
「アカーン!!!ウチのプリチーさが通用せーん!!!」
「しゃあないわなぁ…。元、と言えどヤクザとつるみますて宣言してるんやからなぁ…。サっちゃんはなんも悪ないよ。」
「そうそう。ほら、常連のプヒピッポフォのおばちゃんかて心配しとったがな。そんな連中となんで絡むんや〜て。辞めときて言うてたやんか。」
パルムもサーシャをさりげなくアシスト。
それもそうだろう。
いくら、薬物やウリに手を出していないとはいえ圧と恐喝まがいの行動、ショバ代でブイブイ言わせていたのだ。
それが手のひらを返すように、【心入れ替えて自警団とアイドルしま〜す!よろぴく!】などと抜かしたところで何をイカれた事をと思われるのは当然である。
ムー!と腕を組み悩むサーシャ。
こうなれば、必然的に起こる事がある。
銀之助が後ろの棚に目を移す。
そこには売上が記された書類。
そんなとこに置くな。
そう、客足が少し減った。
先程2度と来ないと言った男性客が最初ではない。
いや、わざわざ宣言してくれているだけわかりやすいか。
生活が忙しいから来れないだけかもしれないが、ほぼ毎日のように顔を見せてくれていた顔ぶれの常連を少しずつ見なくなってきている。
本当にゴルズたちと接触して良かったのだろうか。
ただでさえ経営難の赤字続き。
これでは本当に閉業の2文字である。
悩む銀之助たち。
そこに客の携帯から流れてきたのだろう、YouTubeのニュースが耳に入る。
[異星人と地球人による闇バイト。先日、〇〇に在住の満願さんの家に押しかけーーーー]
殺害。
とてもカフェには似つかわない言葉。
銀之助はわかっていた。
ヤクザは確かに迷惑である。
ゴルズたちには、過去に色々な面で世話になっていた。
ここ、トリスコーヒーは土地バブルにも関わらず極端に安かった。
理由はわからないが、銀之助は迷わずにここを狙い買い取った。
しかしゴルズもその土地を狙っていた。
その時はまだボーナのクソエリートが所属していたので、そいつを介して散々迷惑をかけられた。
しかし反面、ゴルズたちのおかげで闇バイトなどの汚いクズどもが近寄れない動けないようにもなっていたのだ。
もし、ポーズトッポ組がヤクザを続けていたら付近での闇バイトなどはまず起きないだろう。
そんな事をすれば、ゴルズたちは縄張りを荒らされたとその闇バイトや半グレたちに何をするかわからない。
一応治安貢献もしていたのか。
はぁ…とため息をつく銀之助。
これでは性根が腐る。
話を変えよう。
「そういやサっちゃん、アイドル活動の方はどうなん?」
「ん?まだ本格的には始まってないけど、いい感じちゃうかな。この間なんか休み時間にエメちゃんといつもの4人で駄弁ろうとしてたら、ベリィちゃんすんごい真剣な顔でノートになんか書いててさ。ウチらが話しかけてもまるで聞こえてへん。なんや思て見てみたらブツブツ言いながら歌詞書いてたんよ!ほら、ウチらのユニットのために!」
「やるなぁベリィちゃん。何曲頼まれたんやっけ?」
サーシャは指3本を見せた。
3曲。
一つは女の子ユニット、一つは男性ユニット。
もう一つが、両方の曲に使うらしい。
「3曲もか!やるやんけ!」
「ベリィちゃん、ちゃんと金貰ってるんやろな?あと作詞作曲の明記。」
パルムの質問に大きく頷くサーシャ。
前金はすでに貰っているらしい。
完成したらまたそれに合わせての報酬が振り込まれるとのこと。
それならば、今のところは安心だ。
カランカラン
前回ぶっ壊されてから、修復した店のドアが開く。
いらっしゃいませー!と声を出し、客の方に顔を向けるとそこには若手ヤクザ…もとい自警団のモチェット、アミーノ、ナトリが居た。
「兄貴ー!姉貴ー!来ましたぜー!」
「陰気臭ぇよなぁー!俺っちをこんなとこ連れてくんなよな。」
「いい加減にしろよアミーノ。ご無沙汰しております。マスターさんがた。」
インテリのモチェットに可愛い後輩のようなナトリ。相変わらず悪態ばかりのアミーノ。
アミーノは眉間に皺を寄せ嫌そうな顔をしている。
「おぉ、いらっしゃい。コーヒーけ?それとも仕事け?」
「仕事なんすけど、せっかくなんでコーヒーお願いするっす!」
「要らねぇよんなもん。これ渡しに来ただけだっての。」
笑顔のナトリを他所に、資料を出すアミーノ。
サっちゃんはアミーノに見向きもせずに弟分のような立場のナトリと会話しながら資料をぶんどった。
わかりやすい。
アミーノは舌打ちをするもなんのその。
「ん?なんすかなんすかこの芋虫ちゃん!可愛いっすね!!!」
「モキュァ〜!!!」
モス子を撫でるナトリ。
モチェットは初めて見るスペース・ビースターに驚いていた。
アミーノは楽しくなさそうである。
「ははは、取り敢えずコーヒー入れよか。何にする?」
「てなわけっす。なんか分かんないとこありました兄貴?」
「いや、めちゃくちゃわかりやすい説明やった。つまりは…」
ポーズトッポ組改め、ポーズトッポ事務所の最初に持ってきた内容。
それはビラ配り。
とにかく、周りにヤクザ業は閉業という事実を知ってもらう必要がある。
モチェットのリュックにはこれでもかというぐらい、チラシが入っていた。あと捨て忘れた菓子パンの袋とか。捨てろよ。
これを配るところから始まる。
「これ配るん?やりたいけど今営業中やから、後になるで。貰とくなナトリン。」
「どうもっす!ほかの地域には一応配ったんすよね。ポストとかに入れて。嫌な顔されたし怖がられたなぁ。」
「チッ…、だから嫌なんだよ。時代うんぬんじゃなくてヤクザ続けたら良かったんだよ。何考えてんのか組長は。」
「黙れアミーノ。社長、だ。気を悪くしないでくれマスター。」
モチェットはツンデレ信者のキチガイかもしれないが、落ち着いている様子からまだ信用できるかもしれない。
アミーノは不貞腐れながら貧乏ゆすりをしていた。
「そういや、マヤちゃんとジェリーちゃんは?」
「あの2人はまた違うとこでビラ配り。それと、レッスンの準備に取りかかっている。そうだ、その事も伝えにきたんだ。カフェ終わりに合流出来るかサーシャ氏?」
いよいよレッスンの始まりだと喜ぶサーシャ。
銀之助たちは良かったねと笑うも、アミーノだけ小さく、くだらねぇと呟いた。
「なんかお前、ボー」
その瞬間、モチェットとナトリの目が大きく開きナトリがパルムの口を抑え、モチェットはツンデレは至高だよねぇぇぇ!!!と叫んだ。
頭おかしい。
ビックリしているパルムに対してナトリは首を横に振る。
アミーノは聞こえてなかったのか、コーヒーを啜っていた。
禁句なのだろうか。
パルムも小さくウンウンと頷き、理解を示した。
「マッズ…………、泥水啜ってるみてぇ。やっぱり俺っちみたいなエキスパートにはこんな安豆じゃダメだな。」
そう言い残し、アミーノは金も払わずにその場を後にした。
「なんやのアイツ!!!腹立つわぁ!!!ボーナか!!!」
怒るサーシャ。
銀之助もパルムもいい気はしない。
また面倒なやつが増えた。
そう思うばかりである。
ナトリとモチェットは何度も頭を下げ謝ってくれたが、なにもこの2人が悪いわけではない。
気まずい雰囲気。
ナトリは打破するかのように口を開いた。
「そ、そういえばまだ続きあるんすよね。」
「なに。」
「ぼ、僕ちゃんたちの自警団のつ…続き…っすね。」
苛ついているサーシャにビビりながら説明するナトリ。
「昨今、巷で好き勝手暴れてる闇バイト。アイツらを狩るって目標がありまして。」
「闇バイト?あぁ…確かに調子のってるクズどもおるわな。」
「そうなんすよ。それで、その闇バイトに目をつけられないようにするために…これっす。」
ナトリはポシェットからステッカーを取り出し、それを3人に見せた。
「これを住宅…とくに一軒家とか宝石店みたいなよく狙われやすい建物に張ってもらうんす。それで、このステッカーが張ってある家はポーズトッポ事務所に守られてるぞ〜て証拠にするんすよ。自警団として、いい始まりじ」
「張ってどないするん。タダでやるん?」
「あぇ………その…、ま、まず考えてるのが…その…サブスク…みたいな感じで、グレードがあって…その毎月自警団にサブスク代を払ってくれたら金額によって見回り強化…」
「それショバ代と何が違うん。」
「あぇい……、あ………、その…。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
別にサーシャはオーラを放っているわけではない。
しかしナトリからしたらそのようにしか見えないのだ。
ビビりながらしどろもどりに喋ろうとするナトリに代わりモチェットが口を開く。
「すまない。確かに形が変わっただけで正直ショバ代と変わらない。しかしあくまでも見回り強化のレベルを高くするだけなんだ。見回り自体は事務所に所属している社員たちにさせるつもりだ。この泉北地域において全てを毎日回る。」
「…………………。」
「なにも自警団は慈善団体ではない…。何事においても金は要る…。正直、社長には悪いがアイドルもどこまで成功するかわからないんだ。どの口が言っているのかと言いたいのはわかる…!!!すまないわかってほしい…!!!」
カウンターに皮脂をつけないように、ギリギリ浮かして頭を下げるモチェット。
アイドルも自警団もなにもかも初めての試み。
裏社会で生きてきたモチェットたちにしたらよくやっている方なのだろうか。
右も左もわからずに動いているのだ。
仕方ないだろう。
サーシャは静かに目を瞑った。
これは肯定として見てもいいだろう。
「ちなみに見回りはいつから始めるんや?」
「その事なんすけどね兄貴。今夜からっす。」
「今夜?早いな。」
「はいっす。とにかく、実績を上げて少しずつ堅気のみなさ………いや、町のみんなに認めてもらわないとなにも始まらないんすよ。」
「その見回り、俺らも動かなアカンのか?」
「いや、マスターたちにはそこまで迷惑はかけられない。我々だけでやる。カフェの事もあるんだ。ゆっくり休んで欲しい。」
「…………迷惑ねぇ。目に見えるくらい客足減ってるし、常連には切られるし、依頼は来んし、どこぞのエキスパートさんには侮辱されてもう迷惑かけられてるんやけどなぁ。」
細い目で見つめるサーシャ。
うぅ…と縮こまるナトリとモチェット。
こればかりは仕方ない。
本当に迷惑をかけられているのだから。
「…………はぁ…、まぁええわ。ほなモチモチ夜事務所?案内してや!レッスンあるんやんな?」
「あ、あぁ!あるぞ!何事もなく、安全に送り届けよう!約束する!」
モチェットは任せてくれと胸を叩いた。
客足が減っているので、長く店を開けても誰も来ないだろう。
サーシャがアイドルレッスンに行っている間、16時あたりで店を閉め銀之助とパルムはビラ配りでもしようかと相談するのであった。
ガヤガヤ…
ヤガヤガ…
オマタオマタ…
平日の昼過ぎ。
相変わらず人の行き交う姿が視界を覆う。
仕事の休憩帰りか、遊びに行くのか、目的はそれぞれだろう。
その中で、ボチボチ人気がある泉北のたい焼き屋。
坑篭屋。
そこでそこそこイケメンの地球人と異星人のハーフである店主が親子連れに対してたい焼きを渡し、手を振っていた。
「また来てな。」
「おにいちゃんばいばーい!」
ハンカチで汗を拭い、次のたい焼きを焼こうとすると厨房から声をかけられた。
「おーいゼクス、休憩行ってこいよ。」
「お、もうそんな時間け。ほな頼むわのセイコーイ。」
そう、ゼクスである。
まだボーナが所属していたころのポーズトッポ組に迷惑をかけられ、土地を取られたが父親の敦とモット・ホイールズとともに懸命に前を向いて生きている(第5話・6話参照)。
制服を脱ぎ、半袖の羽織りもんを着て、タバコを片手に外に出た。
今の時代、どこもかしこも禁煙の張り紙が張られているが、まだまだ泉北は自然豊かな田舎寄り。
しかし商業施設も潤っているので恵まれた地域なのだ。
周りに人が、とくに子供が居ないか見渡しベンチに座りポケット灰皿を準備し一服。
至福の時。
「……………………。」
首を横に曲げるゼクス。
カンッッッッッッッ!!!!!!!
静かに飛んできた物に目をやる。
それは潰れた空き缶であった。
ゼクスは徐に立ち上がり、くわえタバコで手を使わずに足で缶の端っこを踏み回転させながら宙に浮かばせる。
そしてそれを振り被り蹴り飛ばす。
ガンッ!!!!!!
缶はそのまま勢いよく、最初に缶を蹴り飛ばした本人の後頭部に直撃。
なんとアミーノであった。
「…………いっ…………てぇな………。なんだテメェゴラ…。」
「こっちのセリフじゃボケ。人に当たったらどないすんねんクソ。俺やから避けれたけどよ。」
「あ?知るかよそんなもん。お前俺っちが誰かわかってんのか?あ?ポーズトッポ組のエキスパート!!!アミーノ様だぞおい!!!」
「誰やねん。知るかボケ。ていうか、確かポーズトッポ組て解散したんとちゃうんか。銀之助から聞いたぞ。」
その一言でこめかみに血管が浮かぶアミーノ。
明らかに苛ついている。
「して………ねぇよ………!!!どいつもこいつもふざけやがって…!!!組がおかしな方向にいっちまってる!!!何がアイドルだ何が自警団だアホが!!!」
「何早口でキレとんねん自分。どうでもええけど、その空き缶ちゃんと捨てとけよ。アホくさ。」
せっかくの一服を邪魔された。
違う場所で吸い直そう。
そう思い踵を返したゼクスだったが、ある一言のせいで状況が変わることとなる。
「《《ボーナ》》かよ。」
ピクッ
アミーノは目をかっ開き、次の瞬間ゼクスに殴りかかった。




