第62話 最後の旅路
だだっ広い宇宙のどこか。
まぁまぁな大きさの隕石の中身をくり抜き、玄関や扉がない開けた空間。
周りはこれでもかと言うほど大量の本が置かれていた。
そこに1人、読み終えたのか本をパタンッと閉じる人物。
「…………よし!お金も貯まったからワープゲートも通れる。事前勉強も終わった。………行こう………地球に…!」
その男は決心し、その場から立ち上がり宇宙空間で遠くの星々を眺めていた。
どこか勇ましげで、どこか儚げで。
「ほな私はケーキセットで〜…ブレンドコーヒーとモンブランちょーだい。」
「あいよぉ!!!ほな繰り返しますで!!!ブレンドコーヒーにモンブランのケーキセットね!すぐに持ってくるからちょっち待っててね〜!」
この日もわずかではあるが、そこそこ賑わうトリスコーヒー。
サーシャは持ち前の愛嬌で接客、銀之助は笑顔でレジとコーヒーを煎れ、パルムは楽しそうに厨房でケーキを作っていた。
「あ、アカン。豆がえらい少ない。そろそろ来るかな〜。あの2人も遠いのに来てくれる言うてくれてるから早いこと揃えときたいんやが…。」
銀之助が呟いたその時。
カランカラン…
ドア上部に付けられた鈴の音色が響く。
「まいどまいどです〜!!!ペンギン急便ですわ〜!!!」
「おぉ!噂をすればなんとやら!どもどもおおきに〜。」
ニシシと歯を見せ笑う銀之助たち。
パルムは出来たケーキを皿に乗せ、サーシャはコーヒーとケーキを受け取りに銀之助の傍まで来ていた。
「あら?いつものペンギンちゃんちゃうやん。今日はコーテーさんどないしたん?」
可愛く首をかしげサーシャが尋ねた。
いつもは若手のペンギン星人のコーテーという兄ちゃんがコーヒー豆を配達しに来てくれる。
しかし目の前に居る男は初めて見る顔である。
「それはそれはどうもですわ!コーテー、あいつ子ども生まれて間もないから有給取らせてるんですわ!そういう話聞いたりしてません?」
そこでサーシャたちはそう言えばそんな事を言っていたと思い出した。
「ワシ、アルビノーて言いますねん!アルビノペンギンのアルビノー!ペンギン急便の社長やらせてもろてますさかい、これからもよろしゅう頼んますわ!」
なんと社長だったのだ。
胸ポケットから名刺を取り出し、改めて挨拶をするアルビノー。
関西弁でハキハキとしたひょうきんなペンギンである。
とはいえ、地球のペンギンと比べ姿形に違いはある。
真っ白な目に真っ白な肌、毛。
仕事で鍛え上げられた腕に見事なビールっ腹。
顎髭を蓄え、ガッハッハと笑う姿は威厳はないがどこか親しみがある。
銀之助たちも釣られて笑った。
そしていつもお世話になっていると言うことで試作のケーキを少しアルビノーに差し出した。
最初こそ仕事ですから!と断ったが、やはり甘いものが食べたかったのだろう。
笑顔でケーキをパクリと食べ、頭を下げた。
そして顎髭を触りつつ、宇宙トーナメント編を見てパルムたちの活躍について熱く少しの時間ではあるが語りだした。
「いやぁ流石ですわ!この3人でしたらそら店繁盛しますさかい!いやぁええとこですわホンマに〜!そこで!3人にお尋ねしたいことがありましてね!」
「お!?なんでしょ!?」
「苦しんでる人がおるでしょう?その人に対して、一番大事な事はなにかわかりまっか?」
「う〜ん……………相手を尊重すること…?」
「相手を受け止めること?」
「歯ぎしり。」 ギチチ
「惜しい!…て、えぇ………なんや姉ちゃん歯ぎしりて………。アカンて歯ぎしりなんか。歯ボロボロなりますやん…。あきませんて…。で、それぞれの答え!正解ですわ!でもねぇ!あるんですよ!皆さんわかってるはずですわ。ほな!ごちそーさんです!」
そう言うと、アルビノーは自分のデカケツをパンッ!と叩き、その場を後にした。
丁寧にドア付近で深々と頭を下げて。
「えぇおっちゃんやったねぇ。それにしても、最後の質問。なんやったんやろ答え。」
「パルムが言うた尊重でも俺の受け止めるでもない…。なんやろな。てかサっちゃん何よ歯ぎしりて。気持ち悪いな。」
「なんか頭にパッと出てきたからwほな、次のオーダー取ってくる〜。」
サーシャがお客さんの席に向かった。
その時またドア上部の鈴がカランカランと店内に木霊した。
いらっしゃいませー!と声を出した銀之助たちの目に映ったのは、あまり見たことのない褐色肌の好青年。
店内を純粋な目で見渡す。
慣れた手つきでオーダーを取ったサーシャがその青年の元に駆けつけ、席案内。
テーブル席は埋まっているので、今はカウンター席しか空いていない。
「ここど〜ぞ!」
「ありがとう。古風でいいカフェだね。貴方が店長さん?」
「ちゃいますで〜!ウチは清楚で儚いプリティな看板娘やで!そっちの前髪が後退してる人が店長やで!」
「それこそちゃいまっせお客さん。その子は看板娘やなくて腹にガスパンパン娘でっせ。でも僕が店長なのはそうですわ。」
ヤンノカハゲドウテイコラァァァ!!!
ナンヤトヘコキオンナァァァ!!!
「ハハハ…ごめんなさいね変なもん見せちゃって。せやせや、これがメニューですわ。」
パルムが苦笑いでメニュー表を差し出す。
青年は笑顔でそれを受け取った。
「いや………羨ましいよ。こういうやり取りが出来るって…………。」
「…………?」
青年の顔はどこか寂しそうであった。
「この新作メニューは今あるのかい?」
「いやぁすんません…。それ告知で来月からなんすよねぇ…。そうやんな銀ちゃん?」
「グゥ………!!!ん?せやで。すんませんお客さん…。もうちょいしたらそれ出す予定なんですよ。もしよかったらまた………来て……ください…!!!」
「ウチが…考えたから…自信作なんですわ!!!また………おいでやす!!!」
サーシャの肩と顔面を抑えつつ青年に伝える銀之助。
そして髪の毛を鷲掴みにして対抗するサーシャ。
「そっか……………飲みたかったな。」
またもや寂しそうな顔。
地球ですら外国から日本の大阪にあるトリスコーヒーに遊びに行くだけでも旅費は馬鹿にならない。
それがほかの惑星ならば更に金がかかる。
今やワープゲートがあるとは言え、地球で言うところの高速代のような費用が発生する。
そうやすやすと遊びに来ることは出来ない。
パルムたちはそう思っていた。
少なくとも、この時までは…。
その青年は無難にブレンドコーヒーとマロングラッセをケーキセット頼んだ。
慣れた手つきでパッパッとセットを提供する銀之助。
青年は手を合わせ、幸せそうにそれを食べていた。
しかし、銀之助とパルムは何故かわからないがこの青年が少し危険に思えた。
性格や動向がと言う事ではない。
目の前でケーキを頬張る青年の姿はまるで…。
「フゥ……美味しかった。確か地球の日本は食べ終わったら、ご馳走様…て言うんだっけ?ご馳走様でした。」
「おぉ、そうでっせ!よく勉強してはりますわ!その通りですわ!」
「あはは!ありがとう!色々と勉強してきたからね。その惑星に行くときの事前勉強は当然かなって思って。」
腕を組み関心する3人。
前までは外人たちが日本に赴いて騒ぐことが多かった。
もちろん、一部ではあるが日本に来ておいて母国のルールを突き出していた。
しかし今や宇宙貿易時代。
外星人たちがやってきた。
ここまで言えばわかるだろう。
外星人が地球の国々で母国ならぬ母星のルールを全面的に大声で叫ぶ者が出てきた。
もちろん言わずもがな、一部である。
ただ年々その数が増えてきている。
トリスコーヒーの客も例外ではない。
安価なのを良いことに、心が底辺の外星人も来るのだ。
しかし、目の前の青年はきちんと学び、郷に入っては郷に従えを実行している。
当然のことであり、当然ではない。
「聞きたいことがあるんだけど、この辺に観光案内してくれる人とか居ないかな?」
「観光案内ですか?う〜ん………なんやったら僕らやりましょか?僕らそういう依頼業とかもやってましてね。」
ニシシと笑う銀之助は依頼ボードを見せた。
ボーナにぶっ壊されて以来新しいデザインを作ってもらったのだ。ちなみに頼んだのはベリィである。
興味が湧く青年。
「そんな事もしてくれるのかい?!面白いなぁ。何も考えずにここに来たけど、正解かも。でも大丈夫?今から出来るの?お金はあるから大丈夫だよ。」
「今からですかい?明日とかはどうです?明日店休みでして。」
「いや……………今日じゃないと駄目なんだ。」
青年の目つきが少し変わった。
怒っているわけではない。
真剣な眼差しになったのだ。
パスポートやら金銭面やらの問題だろうか。
やはりどこにでも金の問題はまとわりつくものである。
青年の“お金はあるから大丈夫”はあくまでも依頼台に対してか。
「銀兄もうお店閉める?多分流れ的にもうお客さん来ぉへんで。」
「う〜ん………でも急に閉めるのもなぁ…。せや!!!モス子!!!ちょっと店番頼むわ!!!」
「モキュ!?!!??!!」
「ほな今から準備しますわ!ちょっち待っててくださいね。えっと………」
「マトレー。僕の名前はマトレー。皆さんの御名前は?」
「マトレーさんか…。ええ名前ですわ…。僕は町田銀之助、こっちがパルムで、こっちがヘコキ虫。よろしくお願いしますね。」
「ヘコキ虫やで〜。これで満足か銀兄?お?」
3人は支度を終え、カフェを後にした。
この流れ的に確かにもうお客さんはほぼ来ないだろう。
しかし芋虫に店番を頼むとは、虐待に近しいものがある。
見た人はすぐに役所に電話しよう!
「で、ここに帰ってきた!て事ですわ!どう?」
「やっぱり地元の事もあって詳しいんだね銀さん。いいところだね大阪って。」
「なんせこのエリートが居るくらいなんだからな。僕が居たらどこでも輝くってもんよ。」
「ごめんなマトレーくん。こいつウザいだろ?」
ワーワー!!!
ギャーギャー!!!
銀之助はトリスコーヒーが点在する泉北地域から南海泉北線を通じて、難波まで観光案内。
「へぇ…レトロショップにカードショップ…それにメイドさんも…。これがヲタクか!!!…………………。」
「そうそう!!!まぁ、昔の方が盛り上がってたんですけどね。でもまた宇宙貿易始まって盛り返してきたかな……て…マトレーさん…大丈夫ですか…?」
マトレーは頭と顔を少し抑え俯いていた。
帰るのが切ない。
そうとも捉えられるが、そうではない何かを感じる。
「はは…だ、大丈夫…だよ。ありがとう。……ん?アレはなんだい?」
「あぁ………大丈夫やったらええんですけど…しんどかったら言うてくださいね?アレはですねぇ…」
古き良き影が残るでんでんタウンを通り、大阪オタロードなどを物色し、時間をかけてここに戻ってきたというわけだ。
途中訪れたカードショップでクエスチョナーたちバカ3人と出会い、なんやかんやで一緒に旅を楽しんでいた。
マトレーが途中ボーナを除く全員に敬語は辞めていいと言うので、みんなタメ口で接していた。
ボーナは最初からタメ口だからね。お前だけ敬語で話してろ。
初めて会ったその日に案内業。
ぎごちなさはあるものの、友達と遊んでいる感覚に見舞われ心地良い時間を過ごせたのだ。
途中マトレーが時間を何度も確認していたのが気になったが、日本に住んでいる訳ではないのだ。
気にもするだろう。
「…………………。」
「マトレーくんホンマに大丈夫か?今日帰るんか?明日?」
「…………違うんだ……。」
「違うって…何がや…?しんどいんやったらホテルまで送…」
「最後の…依頼…いいかな…。」
「え…、そらもちろんや!送るで!どこやろか?」
「送るのは……………ホテルじゃない…【あの世】かな…。」
「…………………え?」
6人がマトレーの言葉の意味を理解出来ずにいた。
どういうことなのか。
あの世に送る…?
穏やかではないのは確かだ。
「日本には確か…介錯っていうのがあるんだよね…。」
「あるというか、あったけど!!!なんでなんで!!?!ウチらの案内下手くそやった!??!それとも新今宮あたりで出た屁、死にたくなるほど臭かった!???!」
「違う違う!!!違うよ!!!確かにそれぐらい臭かったけど!!!理由があるから聞いてよ!!!」
ブンブンと肩を揺するのを辞めるサーシャ。
マトレーは語り始めた。
マトレーは通称破壊星人。
惑星グランバ出身である。
彼の種族はその見事に恵まれた肉体のお陰か仕事探しには困らず、仲間と酒を飲んだりして過ごしていた。それこそ、依頼があればすぐに駆けつけ素晴らしい出来具合の労働を披露し評価されてきた。
それだけ切り取れば、どこにでもとは言わないがありふれた日常の一部だ。
しかし、破壊星人には太古から掟があった。
それは………
「25歳になる前に……………自殺………やと…?」
驚く銀之助。
マトレー曰く、破壊星人は全員疾患持ちの種族でもあるらしい。
25歳の誕生日を迎えた瞬間、自制心が効かずありとあらゆる物を破壊する魔人と化すとのこと。
先程からマトレーがしんどそうにしていた理由。
今日こそ誕生日であり、もうすぐで生まれた時間になるかららしい。
両親は既に他界。
その他一族も掟に従い自決していったのだろうか。
断定出来ない理由としては、破壊星人は魔力数値も身体能力も高い。
やはり利用されるのは戦争。
そこで死んでいった可能性もあるのだ。
しかし…マトレーは物心つく前からずっと1人だった。
周りにある本や機械などを学び駆使し、今まで生きてきたのだ。
しかし、もうそれも出来ない。
自殺ではなく介錯を頼んだのも理由がある。
破壊星人が使っていた自決薬。
もう作るものが居ないので手元にないのだ。
体の頑丈さ故、自殺も出来ない。
「僕を…殺してほしいんだ。人のままで…。」
何も言えない6人。
クエスチョナーがおもむろに口を開いた。
「生まれた時間…何時なんだ?」
「……………19時52分…………。もう……後2分しかない……。ごめん…もっと早く言うべきだった…。楽しいから…………もっと居たいって…遊びたいって……生きたいって思っちゃったんだ………破壊星人のくせに………ごめん…。」
腕を組むのを辞め、ゆっくりと銀之助はマトレーに近づく。
もしかしたらツボか何かが効くかもしれない。
マトレーは危険だというが、ここで出会った縁。
それこそ破壊するわけにはいかない。
残り1分。
ありとあらゆる手を使って試すしかない。
全員が固唾を飲み、2人を見守る。
「そんな事言いなさんな…。宇宙貿易始まって色んな出会いがあるんや。なにも人に限った事じゃない。技術も、機械も薬も。せやから…君は死なんでいい…。」
「銀さん…………。」
(しっかし…なんちゅう魔力じゃ………。この短時間で分析しろってかよ………。この魔力…………バルカン以上なんじゃ…………。)
トスッ…………
最後のツボを押し込み、少し離れマトレーを伺う。
「……………どうやろか……?」
ボーナが携帯で時間を確認。
ジャスト19時52分。
マトレーはうなだれたまま、ひと言も発さない。
そしてゆっくりと顔を上げ銀之助を見つめた。
「マトレーく…………」
たったコンマ1秒以下の世界。
銀之助は悟った。
「銀之助ええええぇぇぇぇぇッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!避けろおおおぉぉぉッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
ヒュンッッッ…………
ドゴオオオオオオオォォォォッッッッッッ!!!
叫ぶボーナ。
間一髪で回避に成功した銀之助。
マトレーは瞳孔が小さくなり、狂気じみた表情へと変貌。
「ウオオオオオオオオオォォォォガァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーーー!!!!!!!!」
叫び魔力が迸る。
地面は大きく揺れ、マトレーを中心に崩壊。
全員が構えを取った。
「クッッッソ!!!アカンかったかッッッッッッ!!!お前ら気つけろッッッッッッッッッ!!!!!」
マトレーを止めろ!!!




