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スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
新たなる出会い編
61/64

第61話 心からジャムろう

「なんか最近サっちゃん楽しそうやの?なんかあったんけ?」


笑顔で銀之助がサーシャに話しかけた。

いつも楽しんでるがな!と歯を見せニカッと笑う。

確かにいつも愛嬌よく可愛いが、とくに楽しそうである。


「そのうち銀兄とパル兄にも紹介するで〜♪」


「?」


なんのことかわからないが、多分ポジティブな意味だろう。

サーシャはコーヒーとデザートが乗った皿を提供し終えたあたりで定時に気づく。

少し足早にサーシャはタイムカードを切り、銀之助たちに手を振り店を出ていった。

バビビとケツから音を置き去りにして。


「あの女ついに薬に手出し始めたか。いつかやると思ってたぜ。」


嫌味ッたらしくボーナがサーシャに呟くも、銀之助たちに振り返った瞬間目の前にいたモス子に頭を齧られた。


アァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!


「うるさいのボーナ。店の中や。静かにしてくれ。」


「それにしてもホンマにサっちゃん楽しそうやの〜。彼氏でも出来たんかなぁ。」


「それは無いやろパルム。」


「せやんな。」


笑顔の男2人と芋虫に齧られている男たちであった。






雑にカフェの制服を鞄に押し込むサーシャ。

足早に向かった先に居たのはエメリィとベリィ。

なんと今日はベリィの家にお邪魔できると言うではないか。


「ごめーん!待ったぁ?ちょっちお客さん多くてさ!」


「大丈夫よ〜。ね!ベリィちゃん!」


「う………うん!」


時の流れは早い。

ベリィが転校してから一ヶ月は過ぎていた。

エメリィがカラオケで見た、あのスマホの画面。

アレは確実にベリィがDTMなどの【創作】をしている証拠であった。

タイミングを逃したベリィに気を使い、その日の夜にそれとなしに話しやすいようにトークをセッティング。

ベリィは気づいているのかいないのか。

それは分からないが、ドギマギしながら創作について語ってくれたのだ。

少し、ほんの少しずつではあったが。

もう既にサーシャとエメリィはベリィの歌や音楽をYouTubeとニコニコを通じて聴いていた。

全部が全部ではないが、曲についての感想などをメールで送り盛り上がっていた。

ベリィは家族を除き、初めてリアルで人に曲を紹介し、その上褒めてもらった。

これは言っていないが、嬉しくて自室で泣いてしまった。

人に聴いてもらい、人に感想を言ってもらう。

簡単なように見えて、決して簡単なことでは無い。

そうこうしていると、ベリィの自宅の前に着いた。

13階建てのマンション。

6階の一番左側。エレベーター近く。

ここが、チックル家である。


「ど………どぞ…!」


「はーい!お邪魔しま〜す!」


「お邪魔します〜!」


靴を脱いで綺麗に整える。

エメリィはわかるが、サーシャもこういうところはしっかりしている。

気になるのは他人の家での放屁だけだ。

何もかもが壊れてしまう。


「あらぁ!いらっしゃい!ベリィのお友達!?」


廊下の奥から来たのは若い女性。

年齢で言うと、30代前半あたりか。

見方を変えればもっと若く見える。


「あり?ベリィちゃんてお姉ちゃんおったんや。こんちはー!三木サーシャって言います〜!」


「美人な人だね〜!私柳エメリィて言います!」


笑顔で挨拶する2人に対して手をシンバルを叩く猿のぬいぐるみのようにして喜ぶ女性。

笑い方もなんか若干猿っぽい。

後ろでは少し焦るベリィ。


「違う違う!私ベリィの母親してま〜す!!!チックルハニーで〜す!!!それにしても2人とも可愛い〜!!!」


サーシャとエメリィ、そしてベリィを抱きしめるハニー。

ベリィとは違い、めちゃくちゃテンションの高い母親である。

ひょうきんさも持ち合わせている。

ベリィは少し恥ずかしがっているが、みんな幸せそうであった。

その後、3人はベリィの自室へと足を運んだ。

サーシャとエメリィは周りのレコードや機材に目を輝かせた。

レトロなものから最新鋭のものまで勢ぞろい。

マニアが見たらケツから手が出るほど羨ましがるだろう。

サーシャがこれ何?と尋ねるとベリィは相変わらずオドオドしながらではあるが、丁寧に説明。


「…………ん。これボン・ジョヴィとかが使ってたギブソンレス・ポールちゃう?」


サーシャが壁にかけられたギターを見つめながら呟いた。

次の瞬間、ベリィは目を見開きサーシャに急接近。


「そ…………そう!!!こ、このギターはあのボン・ジョヴィが使ってたギブソンレス・ポール!!!た、た、確かに現行モデルで当時の物じゃないし、そんなプレミア付いてるギターは買われへんけどこれは復刻盤のモデルでカラーリングもキチンとサンバースト」


口を空け目が点になるサーシャ。

ちゃんと頭に入っているのだろうか。

エメリィはそれを見てニシシと静かに笑う。


(なぁんだ…。好きなことになったらちゃんと前に出るんじゃん。それで良いそれで良い。)


「〜〜〜〜〜〜〜て事なんよ!!!……………て………あ……。ご……ごめん……!!!」


恥ずかしがるベリィ。

我を忘れ夢中になってしまった。

サーシャは目がグルグルと回しながら、ええんやで〜と返す。

そしてなんとか平衡感覚が戻ったいなや、ベリィに意外な事を尋ねた。


「触ってええ?」


「えぁ………、い……いい………よ!!!ど、どぞ!!!」


丁寧にギターを触る。

ストラップをキチンと肩にかけ、ピックを指に持つ。


「弾いていい?」


少し間が空いてから頷くベリィ。

そしてサーシャは………


ジャカジャカ〜♪♪♪


「息子さんは中三で 受験勉強してた〜♪」


「おぉ…サっちゃん…。」


「夜食のカップヌードル♪お母さんが忘れた〜♪息子さんはすねた♪どうよ!!!!!!!」


「お………おぉ………!!!」


エメリィとベリィが拍手を送る。

ボン・ジョヴィのかの名曲、You Give Love A Bad NameのカップヌードルのCM替え歌ソング。

ていうか普通にこれは歌えるのね…。

カラオケではヘッタクソやったのに…て、そうではない。

軽くギターを弾けることに驚くべきか。

フヘヘと鼻を指でこするサーシャ。


「サっちゃんギター弾いたことあるって言ってもんね。あ、ちなみにベリィちゃん私ベース弾けるんだよ!」


「あぇ、そ……そうな……の?」


「ウチがボーカルとギターやるやろ?エメちゃんがベース、ほなベリィちゃんどないするんよ。」


「いや、ベリィちゃんがボーカルだから。サっちゃんは黙ってギター弾いてて。」


「なによその言い方ー!!!他所の家やから屁こかれへんしそんなん言うの辞めてー!!!」


謎に常識がある女。

というかまず人前でこかないでほしい。


「あとはドラムだけだね〜。どうしよっかベリィちゃん。」


部屋に楽しそうな笑い声が木霊する。

冗談で言っているのだろう。

しかし、ベリィはこんな会話をしたことがない。

全く初めての経験。

こんなにも楽しいなんて。

この冗談を言い合うこの空間がたまらなく愛おしかったのだ。

途中ハニーがニヤニヤしながらお菓子と飲み物を運んで部屋を訪ねに来たりしてその日は快く終わった。

明日は学校である。

ベリィは友達とはこんなにもいいものかと幸せに包まれて眠った。

明日からの学校が楽しみだ。

そして次の日。

ベリィはいつものように、同じクラスなのもあって休み時間にサーシャやエメリィと談笑。

今日も一緒に帰ろうとの話であった。

というかほぼ毎日一緒に帰っている。

ベリィを除く2人はバトン部の活動があるものの、顧問の先生が鳥刺しのダメージのせいか活動日がまばらであるからだ。 

しかし最近また調子が悪いようで。

ユッケなんか食うからである。

ユッケじゃねぇけど。


「あ………さ、サーシャ…ちゃん…エメリィちゃん…。わ、わたし委員会あるからさ、先にか、帰っててもだいじょぶ…。」


ところどころ言葉は怪しいが少しずつ会話に慣れてきたベリィ。

可愛いリュックに教科書やノートなどを入れながら伝えるも、サーシャとエメリィは待つから大丈夫だよと優しく応えた。

嬉しさと申し訳無さの狭間でベリィは委員会で先生の話を聞きつつ、提出物を出し二人の元へ急ぐ。

早く会いたい。

早く話がしたい。

こんな私に付き合ってくれているのだ。

そのお陰で毎日が楽しい。

やや急ぎ足で微笑みながら向かう。

あの角を曲がればあの2人がいる。

そう思い、靴箱の角に差し掛かった時であった。


「でさぁ〜!マ〜ジでアホちゃう?てwww」


「わっかるわぁ〜wアイツホンマにおもろいやっとゃwでもイケメンやし、まぁええんちゃう?エメちゃんどう思う?」


「私も〜  」


あの2人が他の女の子グループと会話をしていた。

相手方はいわゆるギャルっ娘。

JKギャルの典型である。

とても楽しそうであった。

その声を聞いたベリィは…


(…………………なんで私隠れたんやろ……。)


少しだけ目を大きくし、靴箱の後ろに隠れてしまった。

別に相手のギャルたちに嫌な事をされたわけでもなければ、話したことすらない。

それにサーシャとエメリィの友達なのだろう。

隠れる必要など微塵もないはず。

2人は自分が来るのを待ってくれているのだろう。


(……………………………。)


ベリィは携帯を取り出し、ポチポチと文字入力。


ピコンッ


談笑中のJKたち。

携帯に通知が来たので確認するサーシャ。

ベリィからであった。


〔ごめんね。用事思い出したから先に帰るね。待たせたのにホンマにごめんなさい。〕


(用事………かぁ………。)


一緒に帰りたかったが、それならば仕方ない。

そう思いサーシャはエメリィに声をかける。

どうやらエメリィにもメールは届いていたようだ。

ギャルっ娘たちとバイバイと別れ、その場を後にした。

エメリィは色々と頭で考え、おそらくこれだろうと憶測。やってしまったかもしれない、と。






トボトボと歩き家に着いたベリィ。

母親のハニーは今日は休みのようで、笑顔で出迎えてくれた。

しかし、大事な愛娘の表情が浮かんでいない。

どうしたのかと訪ねるも、何もないよ大丈夫と小さな声で呟くだけであった。

力なくリュックや携帯をポスンッとベッドに投げる。

クッションに顔を埋めた。

またしても自分が嫌になる。

嫌なことを言われたわけでもない。

嫌がらせをされたわけでもない。

2人が楽しく話をしていただけ。

なにもサーシャもエメリィも自分の所有物ではないのだ。

そう。ベリィには友達があの2人しかいない。

しかし、2人には他にも友達がいる。

ただそれだけのことなのだ。

友達が今まで居なかった、作り方がわからなかったベリィは深く考え込みその場から動けなかった。


「………………………………ん。」


よくわからないまま、目を覚ましたベリィ。

どうやらあのまま寝てしまっていたようだ。

時刻は19時過ぎ。

中途半端に寝てしまった。

喉が渇いたのでダイニングの冷蔵庫に向かうとするも、母親に今合わせる顔がない。

そんな事はないのだが、ベリィはそう思ってしまっている。

財布にはまだお金の余裕がある。

制服から私服に着替え、近くのコンビニか自販機で飲み物を買うため静かに外に出た。

ほんの少し薄暗い。

まるで自分の心のようだ。

周りには車やスーツ姿の人が行き交う。

仕事帰りだろうか。

友達と談笑するグループ、仲良くデートをしているアベック。

自分はいつまでも脇役だ。

居ても居なくても世界は変わらない。

誰も自分だけを求めるなんてことは無い。

確かに、家族には愛されている。

しかし人間は貪欲であれもこれもと欲しくなる。

ベリィはまたそんな自分を否定する。

フードを深くかぶり、誰にも見られないように歩く。


「ん?ねぇちょっとちょっと!」


肩を触られた。

ビクゥッ!!!と体が反応。

恐る恐る声のする方に顔を向ける。


「あぁ!やっぱしチックルさんじゃん!何してんのここで?どっか行くん?」


焦るベリィ。

なぜなら目の前にはあのサーシャとエメリィが話していたギャルっ娘たちが居たからだ。

ケモケモしい顔面にまでビッシリと生えた毛。

顔洗うだけで大変そうである。

て、そうじゃないそうじゃない。

ここには頼れる2人が居ない。

自分だけである。

声が出ない。

また笑われる。おかしいと思われる。

そう連想をしていると間髪無しにギャルは追い打ちをするかのように話を続けた。


「アタシさぁ〜、クロネコって言うんよね!サっちゃんとエメちーと話してるの見たことない?ある?まぁそれはええんやけどwどこ行くの?コンビニ?」


クロネコの周りの女子たちも近づいてきた。

戸惑うベリィ。

そしてトドメの一撃が来た。


「てかさぁwwwチックルさん、歌とか曲作ってるっしょ???小説とかも書いてるしwww」


「マジで??!ヤッバwww見せて見せてwww」


「あぇ………あ……………あ……………。」


目の前がグルグル回る。

この事はあの2人にしか教えていない。

ということは、あの2人がクロネコたちに話したのだろう。

確かに、誰にも言わないでとは言っていない。

しかし、まさか言われるとは思っていなかった。


(な…………なんで……あの2人……………。)


動機が強くなる。

嫌な汗も出てきた。

手のひらは汗でびっしょりだ。

まだ目の前のギャルたちは何か話しているがまるで聞こえない。

混乱するベリィに、タブレットが突き出された。

恐怖で目を閉じた。

すると…


タンタンタタンドンドンドンッッッッッッ………


(…………………………?)


聴いたことのある曲。

それをドラムで叩いている動画。

それもそのはず。

その曲は自分が作った曲だった。


「これどう???まだアタシ下手くそやけど、叩いてみたんよ。アタシ小学生の時から兄貴の影響でドラムやってたからさ!いい曲やから勝手に叩いた!これ見せたかった!」


「………………ぇ……?」


何が起きたのかわからない。

目の前のギャルが、自分の創作に興味を持ってくれている…?

そんな事があるのだろうか。

ベリィは知らなかったのだ。

人は見た目だけでは分からないということが。

目の前のギャルは目を輝かせ、笑顔でこちらを見ている。

顔とタブレットの画面を交互に見るベリィ。

少し間が空いてからハッと気が付き、ゆっくりと頷いた。

そしてそのままタブレットを観続けた。

少し音は外れていたりするものの、だいたいは叩けている。

ベリィは感情が渦巻きめちゃくちゃではあるものの、整理がつかないまま最後まで動画を見届けた。

そして一呼吸。

疲れからか、少し涙がでてきた。

クロネコたちに心配されるベリィ。

一番レッテルを貼っていたのは自分ではないか。

膝を抱え涙する女の子と周りのギャルたちがだだっ広い世界のそのひとつの点に存在していたのだった。






この日は地元のお祭りの日。

出店がズラッと並び、様々な出し物が出てくる誰もが楽しめる空間。

焼きそばのいい香りや、時たま聞こえてくる爆音の放屁、ガヤガヤといった賑やかな声と人が支配する。

2番目絶対サーシャだろ。

焼きそばの後に出てくるんじゃないよ。

そして漫才や漫談が行われる中、いよいよ次の出し物の出番。内容はJK4人によるバンドらしい。


「お、ついに来るで〜銀ちゃん!!!」


「それにしてもさっきのモルコットていう芸人おもろ無かったなぁ…。他の惑星やったらウケるんかな。ピーモス星あたりやったらウケそうやの。の?グレート。」


「確かに。エリート惑星にはもってこいかもなあのネタ。それより、遂に演奏来るぜ。」


「いやウケねぇから。俺の母星なんだと思ってんの?息するだけで笑う種族かなんかだと思ってる?なめてんのか?」


女の子たちが舞台に上がる。

周りは拍手でお出迎え。

メインボーカルの女の子は少し不安そうであるが、仲間に後押しされ、頑張ってみんなの前で声を振り絞った。


「あぇぅ…………あ………お………、き……聴いて…ください………。」


「タイトルタイトル。大丈夫やから!ウチらもおるし!」


「あ!う………うん………。あ………青空の………し、下で……………。」


パチパチパチパチパチパチパチ!!!


ケモケモしい女の子がドラムスティックを4回鳴らす。


そして音楽が鳴り、歌が始まった。

とても透き通った綺麗な声。

先ほどのどもりが嘘のようである。

そしてサビになった。


“どれほど酷く無様に歩いても

前に進めればそれでいい


歯の間にエノキとかが挟まっても

君の笑顔は素敵だよ


ケツが切れ字でイボ痔で痛んでも

座って休めばいい(痛い痛い!)


心身ともに満身創痍でも

空は青く広がるよ”


ギターが静かに最後の音を決める。

そして周りは先程より大きな拍手で4人を讃えた。

そう、友情とはわからないものである。

ボーカルの女の子は嬉涙なのか、袖で涙を拭う。

ギター、ベース、ドラムの女の子たちが優しく寄り添った。

これぞまさしく青春である。

この4人は、これからも輝いていくであろう。

銀之助たちは優しくそれを腕を組みながら優しい包み込むような笑みで見守った。




「いやなんちゅう歌詞やねん。」















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