第106話 愛の逃非行
時は遡る。
ドアを開け、対面する一人の美少女。
グレートは動悸が早くなり、ジワジワと脂汗が滲み出てきた。
「久しぶりグレートくん。」
「あ……………あぁ……久しぶり……クロッカちゃん………。」
目の前が若干揺れる。
ドアノブを握る手のひらにも汗が滲む。
追い出したいが、そういうわけにもいかないらしい。
クロッカとは一体どんな女の子なのだろうか。
「中入ってもいい?」
「…………へ…?あ……あぁ……そう……だな…こんなとこで立ち話も…あれだし…。」
快くはないが、グレートはクロッカを招き入れた。
可愛らしいスニーカーを脱ぎ、綺麗に整えお邪魔しますと一礼。
ここだけ見れば、礼儀正しい普通の女の子に見えるのだが…。
「ん〜…………。」
「あんまり…広くないだろ…?」
「ん〜…………。」
「狭いし、そんなに楽しいようなもんもないし…居てもそんなにいいことはーーーーーー」
「グレートくんの香りぃ……………。」
クロッカはニンマリと至福の笑み。
それを見たグレートはちょっぴり青ざめた。
危険な香りがする。
「ん?なにか見ようとしてたの?」
目線の先にはジーオンライダーのアニメDVDのパッケージ。
クロッカは顎に指をあて、じっくり眺めている。
「エッチなお宝アニメ?」
「いやいやいやいや!!!そりゃあ確かにエッチなシーン?いやサービスシーンか?もあるけど、決してそんなもんじゃなく!いやまぁ確かに見た目だけじゃ」
「ウフフフ。」
クロッカは口に手を当て笑った。
必死に語るグレートが面白いのだろう。
「グレートくん可愛い♡」
どうやら可愛さもあるらしい。
「私も一緒に見ていい?」
「え………まぁ………いいけど……面白いかわかんないぞ……?」
「グレートくんが好きなものは私も好きだよ。」
ホンマかいな。
グレートはしぶしぶ了承。
ソファーに腰掛けると、クロッカも隣にポスンと座った。
鍛え上げられたグレートの左腕に抱きつき、服の上からはっきりとその大きさがわかる豊満な胸を押し当てた。
「あの…クロッカちゃん…あ、当たってるんだけど…。」
「グレートくん照れてる〜可愛い〜♪」
全然照れてないです。
グレートの顔面今汗だくで青ざめてます。
恐怖に苛まれながら、リモコンの再生ボタンを押す。
一見、一緒に自宅でアニメを見ている仲のいいカップルにしか見えないが、これが違うというのだから難しいところである。
ピンポーン
「ん?誰だろ。」
「………あ、ピザかな。Uber頼んでたから。俺行ってくるよ。」
「ううん、グレートくんはここにいて?私行ってくる!!!」
「え…。」
離れられるチャンスだと思ったが、失敗。
仮に行ったとしても戻ってきたらまたクロッカは抱きつくだろうし意味はないだろう。
玄関先で配達員の声がする。
女性だ。
これだけでグレートはとてつもない不安に駆られる。
しかし、クロッカは平然と対応。
笑顔で戻ってきた。
「は〜い!」
「お………あ、あんがと。」
蓋を開ける。
とても美味しそうなモッツァレラチーズがたんまりと乗ったピザ。
香りからして上等である。
「わぁ美味しそ〜!」
「………………食べる?」
「え!いいの!?」
「いやだって、俺だけ食ってもなんか…へんじゃん…。」
クロッカは礼とともにグレートの頬にキスをした。
そしてまるでいつもそうしているかのように、アニメを見ながら出前のピザを食べる。
微笑ましいと思いたい。
なんやかんやで雑談などを交えて過ごしていると、時間は思ったよりも早く流れた。
「……もうこんな時間か…。クロッカちゃん地球に住んでんの?送って…いこうか?」
「え!いいの!?クエスチョナーくんと約束あるんじゃないの?大丈夫?」
「まだ時間あるし、なんとか大丈夫だと思うぜ。それに……まぁ…せっかく久々に会えた訳だし…。」
クロッカは正面から抱きついた。
本当にグレートのことが好きなのだろう。
(クロッカ……もしかしたら本当に…………)
トボトボと歩く2人。
車通りが増えている。
帰宅ラッシュか。
グレートはポケットに手を突っ込みながら色々と考えていた。
もしかしたら、本当にクロッカは変わったのかもしれない。
いつまでも過去を引きずっているのは自分の方なのかもしれないと。
少しうつむく無言の彼氏に気づいたのか、クロッカは声をかけてきた。
「グレートくん…公園行かない?」
「………………あっ…え?公園?」
「うん…時間大丈夫?」
「時間は…まぁ大丈夫。じゃあ…行こっか。」
2人は手をつなぎ、ルートを変えた。
自然豊かな公園。
昼間は散歩人や軽いご近所ピクニックなどをしている人で賑わっているが、この時間にはほとんどいない。
なんなら今横を通り過ぎた、全身に大量の空き缶を纏ったチャリンコジジイ1人で最後だろう。
「………まだいるんだね…絶滅危惧種だ…。」
「最近減ったよな空き缶マン。」
そんなくだらない会話をしつつ、公園に着いた2人はベンチに腰掛けた。
「綺麗だね…夕日。」
「そうだな…。」
「……………。」
「……………。」
流れる沈黙。
グレートは完全にとは言えないが、心はかなり落ち着き平静を保っている。
なんなら、今このときが少し懐かしい気分になっているぐらいだ。
「…………怖いよね。」
「え?」
「今日のグレートくん…見てたらわかるもん…。まだ怖いよね…私のこと。」
「………………いや…。」
「ううん…いいの。仕方ないよ…。だって私…前にグレートくんのこと刺したんだから…。」
クロッカは過去にグレートをナイフでぶっ刺した経験があった。
最初はグレートの連絡先に女性の知り合いがいたことから始まり、そこからエスカレート。
最終的に、整った綺麗なケツに鋭利な刃物が突き刺さった。
グレートはケツを押さえながらその場から逃走。
少し仰け反った形で必死に病院に行った。
笑ってはいけないが、想像したらちょっと面白いのがタマタマに傷。痛い。
クロッカはまだ未成年だということもあり、逮捕は免れたが少年院入り。
退院したグレートは連絡先から削除し、そこから音信不通になった。
これは齢19歳の話である。
「…………ごめんね…グレートくん…私…本当に本当にグレートくんのことが好きで好きで…たまらなくて…。」
「…………………。」
「中学生の時…私いじめられてたでしょ?クロック人だから犯罪できるだろとか…それで私もその時は奥手だったから、髪の毛切られたり、机に落書きされたり…カバンの中鰹節まみれにされたり、上靴にかいわれ植えられたり…。」
「…………………。」
「でもその時…庇ってくれたのが、助けてくれたのがほかの誰でもないグレートくん。似たような種族…。クロック人とタイマー星人。他の人とは違って…心から悩みを話せた…。」
「…………俺もちっちゃいときはいじめられてたからな…。俺はクエスチョナーに助けられた。だから…クロッカちゃんをほっとけなかった。」
「……………ありがとう…私ね、運命だと思ってるんだ。」
「運命?」
「うん…似たような境遇だった2人が…出会って喋って…あの時本当に嬉しかった…。だから…まぁ今でもだけど、グレートくんのことが大好きすぎて…。ごめんなさい。」
こちらに向き直し、頭を下げるクロッカ。
気持ちとしてはとてもわかるものだ。
周りは誰も助けてくれない。
相談室など役に立たない。
話を聞いてくれるだけだ。
解決する気などさらさらないのだろう。
そこで、現れたヒーロー。
自分と同じく時間魔法が得意な種族。
体を張って守ってくれた男。
そこから気を使ってか、いつも話しかけてくれた。
惚れないわけがない。
「……………もういいよ。」
「……え?」
「あの時は…クロッカちゃん暴走してたけど…今見たらかなり落ち着いてるし…それにその……やっぱり……か、可愛いなって……。」
それを聞いたクロッカの頬が少しずつ染めあがる。
グレートもポリポリと人差し指で顔をかいている。
バカップル。
それでいいのだ。
永遠に、末永く、爆発していただきたい。
「グレートくん…………それでね…私思ったの。」
「ん?」
「あの時…悲しかった。少年院を出たあと…グレートくんに連絡できなくて。あぁ…着拒されたんだって…。」
「……………ごめん。」
「謝らないでグレートくん。私が悪いの。怖かったんだもんね。」
そっとグレートの手に触れる。
とても優しい気持ちが伝わってくる。
もう刺したりはしない。
本当に変わったのだろう。
「私も反省してる…。」
「クロッカちゃん…。」
「あんな過ち…二度と起こさない!だからね…私ね…」
「………うん…うん…。」
「決めたの…。」
その通り。
ここからまた変わればいいのだ。
人は過ちを犯す。
そのたびに…やり直せばいい。
2人はまた、幸せな道を歩み始めるのだ。
手を取り合い、仲睦まじく………
ガシャンッッッッ
「うん?」
「最初からこうすればよかったんだもんね。うんうん。」
両手に手錠のような拘束魔法がかかっている。
なにごと?
「グレートくんを監禁すればいいんだって!」
「うん………………うん??????」
うん??????????????
「これからずっと一緒にいようね!グレートくん!」
……………………………………
「お前やっぱり変わってねぇじゃねぇかよおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
グレートはたまらずその場から逃げ出した。
ズコー!!!
グレートvsクロッカ
ねぇじゃねぇかよおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ
ねぇじゃねぇかよおぉぉぉ
かよぉぉぉぉ………
「グレート…?」
「ハハッ…なんだあの情けない声。男が出していい声じゃないだろ。ま、俺はそんな声絶対に出さないけどな。」
人気が多い場所から少し離れた空き地。
監視カメラもなければ、禁煙マークすら存在しない。
ここで仕事で疲れているボーナはとある男と対峙していた。
「なにがあったのかはわからねぇが、助けに行かねぇぞグレート。僕は僕で目の前の変態ぶっ飛ばさなきゃならねぇからな。」
「変態?やっぱり勉強ばっかりしてきたガリ勉には理解できないか…俺はビスト星人のベルモンドだ。覚えとけよピーモス星人?」
得意げにべらべら喋るコイツは、マスター盗賊団の1人であるベルモンド。
ヘラヘラと笑いながら、ハンサムなルックスからあまり想像できないモフモフした手で印を結ぶ。
「畜生印かよ。」
「おおっと!!!口には気をつけろよぉキモガリ勉。今の御時世そんなこと言っちまえば…全方向から叩かれるぜ?」
〜畜生印〜
印は細長い指でやるものだと世間に通っている。
実際に異星人は指の形が地球人に似ているものが多いからである。
しかし、サーシャの友達であるクロネコや目の前のベルモンドなどの獣人は動物のような手をしている。
なので、通常の結び方ではなく特殊な結び方をしなければならない。
これは【獣人印】や【特殊印】などと呼ばれるが、差別用語として先ほどボーナが吐いたセリフのように【畜生印】というものがあるのだ。
「やっぱりお前みたいな野蛮な男にエメリィちゃんを近づけさせるわけにはいかないな。殺さなきゃならん。エメリィちゃんを守らないと。」
上から目線でボーナを見下すベルモンド。
対するボーナはドン引きしていた。
「も〜…マジでやめてくれよ…なんで仕事終わりに女子高生庇ってお前みたいな変態相手にしなきゃならねぇんだよ…なんの罰ゲームだよこれ…。」
「こっちのセリフだ触覚野郎!!!あの天使の笑顔を振りまくエメリィちゃんに近づきやがって!!!あの子はエンゼル…エンジェルなんだ!!!」
「全部意味同じじゃねぇか!!!」
「あの子はタヌキの天使なんだ…羽は落ちたんだろう…それを拾ったのが俺…そう…これは運命的な出会い…偶然であり必然…神は祝福している!!!」
「お前マジでキショいってッッッッ!!!わけわかんねぇよ!!!!!!お前歳いくつだよ!!!エメリィ16だぞ!!!!!!!!」
「歳なぞ関係あるかッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!そんなもの、ただの数値!!!くだらん発想を俺たちの間に持ち込むな野蛮人ッッッッ!!!」
ビシッと指差すベルモンド。
一体なんの話なのだろうか。
ここいらで少し時間を巻き戻してみよう。
ベルモンドは他のメンバーと別行動を取っていた。
目的は優勝ベルト。
バトルモスモスはリーダーであるベーションが担当。
とは言え、ルビーは屋姫の家に向かいトリックとタワシはトリスコーヒーに向かった。
コーヒーチョコを口に放り込み、トボトボと歩く。
「どこ行きゃいいんだ。ベルトはアイツらが担当するだろうし…スペース・ビースターはリーダーが直接やるだろうし…てかクロッカどこ行ったんだよ…。」
やる気のない死んだような目をしている。
自分はなにをしたらいいのか。
ポーズトッポの事務所に乗り込んで、看板でも奪うか?
いや、話を聞く限りもうヤクザは閉業しているらしい。
アイドル自警団になったやつらの看板を奪ったところでなんだかカッコ悪さが目立ってしまう。
ベルモンドは前髪を弄くり、悩む。
いや、泥棒にカッコいいもクソもないと思うんですけど。
ドンッッッ
「あぁ!すんません!」
平謝りするサラリーマン。
すれ違いざまに肩がぶつかったのだ。
最初こそぶん殴ってやろうかと思ったが、ポケットからコーヒーチョコがバラバラと地面に散らばってしまった。
サラリーマンは既に信号を渡っていた。
「…………ッチ…嫌なもんだな社会人ってのは…あんなに早歩きで歩いて。競歩でもしてるのかよ。あ〜ヤダヤダ。俺はずっとピュアでいたいね。」
盗賊がなんか言ってる。
眉間に皺を寄せながらコーヒーチョコを拾い集める。
この散らばったチョコは人。
それを拾い集めている自分は社会。
取りこぼされたチョコがあれば、それは社会に認められなかった自分。
「全ては歯車…か。ハッハハ…皮肉だな。」
意味不明である。
「えっと………おいおい、あんなとこまで飛んでるよ…ったく。」
ベルモンドが手を伸ばしたその時、誰かの手が触れた。
「これ落としましたよ。」
それがエメリィだったのだ。
笑顔でコーヒーチョコ玉をかき集めてくれていたのだ。
「美味しいですよね~このコーヒーチョコ!私も大好きです!」
チョコを手渡し、モフモフの手をギュッと握る。
「かっこいい手してますね…。私地球人に似た獣人だから、こういう手も憧れるところあるな〜。」
エメリィは手を振り、その場を去った。
始終バカみたいに口を半開きにして硬直していたベルモンド。
エメリィの後ろ姿を眺め、つい口から溢れてしまった。
「…………天使だ………。」
なに言うとんねんコイツ。
ベルモンドはゆっくりと立ち上がり、エメリィを追いかけた。
今コイツの頭には、マスター盗賊団のメンバーとしての矜持などは存在しない。
とにかく、天使を追いかけなければ。
溢れてしまったコーヒーチョコ玉。
その中に自分も含まれていた。
周りの自分と似た境遇のものたち。
社会から弾かれ、後ろ指をさされ笑われていた。
そこに天から舞い降りた美しい天使。
全てをその偉大な手のひらに乗せ、救いを差し伸べてくれたのだ。
その天使には羽がなかった。
その理由はすぐにわかった。
「俺が…俺が羽なんだよ…天使ちゃん…!!!」
危ない。
非常に危ない。
ベルモンドはエメリィを追いかけた。
これは運命なのだと。
すれ違う人をスレスレで避け、とにかく前に進む。
そしてついに姿が見えた。
美しい。
なんて美しいんだ。
「こんな俺にも…救いの手を差し伸べてくれるんだね…………ん?」
誰かいる。
なんだか憎たらしい顔をした触覚野郎にエメリィは接触していた。
「あの触覚…確かピーモス星人…。性格が悪いと悪名高いクソ種族…………これは…マズイッッッ!!!」
ベルモンドは走った。
走るな。
「これは…これは危険だ…!!!そいつは君を利用しようとしている!!!俺が…俺が助けなきゃ…………ッッッッッッッッッッッ!!!」
そんなアタオカをよそに、ボーナは腕を組みながらエメリィと会話していた。
「ごめんね〜ボーナさん。はいこれ!」
「お前…こんなとこで渡すなよ…なんか生々しいじゃねぇか。」
「じゃあどこで渡すのよ?」
手に握られているのは2千円。
ボーナがJK相手にカツアゲしているわけではない。
この間貸した金を返してもらっているだけなのだ。
しかし、これを見たイカレポンチはそんな解釈するわけもなく。
天使を利用している極悪異星人にしか見えていないのだろう。
ドドドドドドドドドドッッッッッッッッッッッ!!!!
「ん?あ、さっきの人…………え……?えぇ!???!!なに!??!なんなの!??!!」
「あ?なんだ…?」
「俺の天使からぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ離れろこの薄汚いピーモス星人がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッ!!!!!!!」
そして、今に至るというわけだ。
「だからお前を倒し!!!正義を示す必要がある!!!神の名のもとにその命返せッッッ!!!」
ベルモンドは全身に力を入れた。
パァァァァァァァァンッッッッッッッッ!!!
「見よ…この肉体…これは天使を抱きしめ、愛を育むために存在する…俺と天使の愛の結晶を守るためにもな………お前のようなやつにはわからんだろう………。」
ムキッ…
ムキムキッッッッ………
ボーナは一呼吸置いて、口を開けた。
「銀之助でもパルムでもクエスチョナーでもなんでもいいから代わってくれえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
ボーナvsベルモンド




