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スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
対決!!!マスター盗賊団編

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105/107

第105話 強奪ども

「アカーン!学校でウンコしてたから時間あらへーん!」


必死のパッチで自転車を漕ぐJK、サーシャ。

今日も今日とて学校終わりにトリスコーヒーにバイトに行かなければならない。

しかし便意には逆らえなかった。

校舎で用を足したのだ。

そのせいで時間がない。

銀之助は優しいからタイムカードをいじってくれるが、なんか気持ち的に嫌なのだろう。


ガンッッッ!!!


「痛だだだだ!!!段差痛い!!!股ぐらに衝撃が!!!ショックが欲しい!!!ショックがある自転車が欲しい!!!」


サーシャが乗っている自転車はママチャリ。

いつかお小遣いを貯めて買いたいらしいが、いつも家族に使っているので一向に貯まらないのだ。

優しく下品な女の子。


「…………ん?霧?霧出るとかニュースやってたっけ?」


目の前に広がる霧。

不思議に思いつつ、自転車で中を突っ切った。

微かに鼻の奥に広がる柑橘系のいい香り。

サーシャは気分が良くなってきた。


「なんかよくわからんけど、ええ香りやわぁ。」


もう少しで家に着く。

本当はもっと母と喋りたい。

弟とゲームがしたい。

妹とドラマを見たい。

しかしバイトなので仕方がない。

また休みの日にゆっくり家族と過ごそう。


キキッッッ


ペダルを漕ぐ足が止まった。

家に着いた。

ゆっくりとそして確実に我が家を眺める。


「え……………………なに…………これ………。」


いつも暖かく、自分を迎え入れてくれる家。

おかえりと笑顔を向けてくれる家族。


ゴオオオオオォォォォ


メラメラ………


パキッッッッ


屋姫の家は業火に包まれていた。


「ママ………ドーちゃんッッッ!!!ミルちゃんッッッ!!!」


サーシャは自転車が倒れたことも気に留めず走った。

熱い。

だからどうした。

そんなもの関係ない。


「みんな…!!!みんなッッッ!!!どこよ!!!どこにおるんよッッッッッッッ!!!!!」


サーシャは水遁は使えない。

火遁は使えるが、こんな状況で使っても仕方ない。

アミーノのように周りの炎をコントロールができるわけでもない。


「せや……風遁ならッッッッッッッ!!!!!」


おぼつかない指使いで印を組む。

威力の調整が難しい。

当然だろう。

ロクに練習をしたことがないのだ。

外に出たサーシャは火を吹き飛ばした。


パラ………パラ………


なんとか火をかき消すことができた。

家もボロボロだが残っている。

全面的に黒焦げ。

炭と化した我が家。

サーシャはその場で立ち尽くしていた。


「あらぁ…そんなことできるんだ。」


目線を横にやると、ツインテールの女がなにかを手に持っていた。

トーナメントの優勝ベルトだ。


「………………………誰アンタ…。」


「わたし?わたしはマスター盗賊団のベーション様の右腕のルビー。」


これ貰ったわよ?とこれ見よがしにベルトを掲げたルビー。


「…………お前か………。」


「ん?」


「お前が…………やったんか………。」


ユラァ……


サーシャの全身から紫のオーラが滲み出ている。

あの可愛い陽気な顔がまるで悪魔のように怒りに染まっている。


「そだけど?」


「家族は………ウチの家族は……ッッッッ!!!」


「見たまんまじゃない?」


その言葉を言い終えた瞬間。

サーシャが至近距離まで接近。

拳が目の前に迫っていた。


ドゴオオオオォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!


地面が抉れ、地盤が露出。

サーシャの振り下ろされた拳でデカいクレーターが発生した。


「なんつーパンチ力………!!!魔力練ったわけでもないのに…!!!」


かろうじて回避に成功したルビー。

腰を抜かしかけているが、ベルトは離さず。

それにサーシャのロックオンは続いている。


「ウウウウゥゥゥ…………グルルルルル…………!!!!!!」


歯茎が見えるほど歯を食いしばるサーシャ。

心なしか犬歯が伸びているように見える。

そして地面を蹴り上げ、ルビーに飛びかかった。


「うるさいて姉ちゃん!!!なに一人でプロレスしてんねん!!!」


唐突に聞こえてきた妹・ミルクロの声。


「ぁえ………………?」


何が起きているのだろうか。

目の前にそびえ立つのは、ところどころボロさは目立つも人が住んでいるという歴史や時代が詰まっているであろう屋姫の家。

ミルクロは窓を開け、白目でサーシャを睨んでいた。

焼け焦げるどころか、煤ひとつない。

嘘、一部焼けてる。

サーシャのタバコが原因で焦げた場所があった。

それはさておき、わけがわからない。


「え………?どゆこと………?」


「あ?!!?どゆことてなにが………って!!!なにそのクレーター!!!アホちゃうかなにしとんねんて!!!」


確かに地面は抉れ飛んでいた。

そう言えばルビーはどこに行ったのか。


「……………おらん……。」


その場にはサーシャと屋姫の家に住む家族、そしてバカでかいクレーターしかなかった。


「バイト行ったんちゃうかい!!!学校から帰ってきたと思ったら地面殴って何考えとんねん!!!」


「え……ウチ今帰ってきたとこやねんけど……。」


プンスカ怒るミルクロ。

かえって妹の阿波踊りのような動きを見て冷静になれた。

ルビーが持っていたもの。


「………………持っていかれた……。」






モス子を抱きかかえ走るパルム。

プルプル揺れる宇宙イモムシ。

ゼクスが救急車に運ばれた。

あのゼクスがだ。

一体誰にやられたのか。

とても信じられない。

本当は運ばれる前に、救急隊員に声をかけたかったが間に合わなかった。


「まさか…ゼクスあいつ……パンツ盗もうとして屋根登ってこけたんかな…。」


プルルルルルルル


「なんやねんこんな時に!!!」


はやく病院に向かいたいパルムをよそに、けたたましく鳴る携帯。

シュルシュルと上手い具合に髪の毛をポケットに突っ込み電話に出た。

通話開始時、いきなり銀之助の叫び声が耳に突き刺さる。


『パルムッッッッッッッッ!!!!今どこにおんねん!!!!!!』


「うるさッッッッ!!!なによ銀ちゃんッッッッ!!!今目の前でゼクスが病院に運ばれたんや!!!」


『ゼクスが!???!病院て…どういうことやねん!!!!』


「知らんわボケッッッ!!!!!こっちが聞きたいわ!!!!!誰かにやられたんじゃ!!!!!周り家も道路もボロボロになっとったんじゃよ!!!!!誰かにやられたんや!!!!!!」


うろたえる銀之助。

パルムは続けざまになにがあったのか聞き返した。


『せや!!!!!ゼクスに比べたらまだ可愛いもんやが………………カフェが襲われたんじゃッッッッッッッ!!!!』


ビタッッッッッッッッッッッッッッッ


「モッッッッッッッッッッッッ!!!」


急ブレーキ。

反動でモス子が転げ落ち、ボムボム地面で跳ねた。


「襲われたって………どういうことよ………。」


『わけのわからんやつら2人が急に襲いかかってきやがったんや!!!!!!クエスチョナーがおったからまだなんとかなったけど………ベルト持ってかれたんや!!!!!お前の優勝ベルトオオォォォッッッ!!!!!』


「ベルトが………!???!なんで………てかクエスチョナーおるん!???!お客さんは!???!カフェどないなっとるんよ!!!!!」


両者混乱。

何が起きているのか全く状況が把握できない。

どうやらサーシャもまたバイトに来ていないらしい。

いくら連絡しても出ないときた。


『代わってくれ銀之助。』


聞こえてきたのはクエスチョナーの声。

流石はローカルヒーローショーをやっているだけはある。


「クエスチョナー!!!なにがあったんな!!!」


『取り敢えず落ち着いてくれパルム。一つずつ説明する。まずお客さんはいなかった。だから大丈夫だ。サっちゃんにはマジで繋がらねぇ。だからあとで文里子さんにかける。で、カフェの状況なんだがーーーーー』


バキャンッッッッッッッッッッッ!!!!!!


「な……………!????!」


携帯が手元から吹き飛んだ。

地面に無残に粉々に吹き飛んだ破片。

手が少しヒリヒリする。

パルムは顔を前に向けた。


「お前……………誰な………。」


相手はニヤリと笑い、ゆっくりと口を開いた。


「マスター盗賊団のリーダー…ベーション。久しぶりだなぁ?パァ〜〜〜〜ルムゥ?」






「もしもし???………おい、もしもし!??!!??」


「どないしたんなクエスチョナー!!!」


「………切れた……いきなり切るわけねぇし…パルムの身になにかあったのか………?」


何度もかけ直してみるも、当然のようにコール音が鳴るだけ。

言い方は悪いが、クエスチョナーは諦めて携帯を銀之助に返した。


「アカンか…サンキューなクエスチョナー。取り敢えず、文里子さんに電話かけるわ。サっちゃん心配や…。」


「…………………。」


クエスチョナーは銀之助を見て軽く舌打ちをした。

なにも銀之助に腹がたったのではない。

動きがぎこちない。

身体の震え、目線、汗の量、なにを取っても軽いPTSDの症状だった。

銀之助は強い。

しかし、その強さの原点はかつての軍属時代に培ってきたもの。

戦争を見てきた男なのだ。

サバイバーズ・ギルトもあるだろう。


「……………クソトリックが……。」


クエスチョナーはイラつきながら一言吐き捨てた。

なぜマスター盗賊団のトリックの名前が出たのだろうか。

少し時間を巻き戻そう。

ソリャッ!


〜20分前〜


コトッ


クエスチョナーの目の前に綺麗なカップが置かれた。

中身はエスプレッソ。

スプーンでゆっくりとかき混ぜる。


「ん〜、にしてもなんでグレートと連絡つかんのやろな。」


首をかしげる銀之助。

クエスチョナーは仕事終わりにグレートに電話をかけた。

宅飲みの約束をしていたからだ。

しかし、何度かけても出ることはなく家を訪ねても人の気配がない。

携帯が壊れたのならば、自分に会いに来るかここに来ているはずだ。

そう高をくくっていたが、どうやら違ったようだ。


「マジでどうしちまったのか…てかお客さんいねぇな。いっつもこんな感じだったっけ?」


「たま〜にあるで。でももうちょいしたらチラホラ来るで。」


カランカラン


「ほらの?」


言った直後にお客さんが入ってきた。

今思えば、この時に客のほうを見れば良かった。

今更後悔しても遅いが、クエスチョナーは自責の念があった。

わざわざ客の顔をジロジロ見るのもおかしな話。

なにも悪くはないだろう。


「いらっしゃいませ!今見ての通りガラガラなんで、好きなとこ座ってください。お水ご用意しますわ。」


ひょうきんに愛想よく振る舞う銀之助。

ピッチャーに手をかけた時、客2人が口を開いた。


「いや、いらない。」


クエスチョナーはその声に聞き覚えがあった。


「ん?いりません?無料でっせ?」


「いらないよ。だって…………」


ジャララララララララララッッッ!!!!!!


「ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」


ガシャンッッッッッッッ!!!


ガガガッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!


バギャンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!


フード姿の客の服から大きめの鎖が何本も飛び出した。

トリスコーヒーのガラスや壁を突き破り、テーブルや椅子をなぎ倒した。


「テメッッッッッッッッッッッ……………!!!」


椅子から立ち上がったクエスチョナー。

手刀に魔力を纏わせ、フード野郎に飛びかかった。


「マジカ〜ル・シルクハッツ。」


「ッッッッッッッ!!!!!!!」


横入りしてきたマジシャンのような姿の少年。

シルクハットが複数、宙に浮いている。


「お前……………トリックッッッッッッッッッッッ!!!」


「久しぶりだね…負け犬の【兄さん】。」


時間切れ。

トリックは指を鳴らし、シルクハットから鳩の形をした爆弾を店中にばらまいた。


「てじな〜にゃ。」


それ知ってるもん今おらんやろ。


ドッバァァァァァァァァァァァァァンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!


パラパラ…………


ガガン…………


瓦礫や食器の破片が飛び散り、煙がモクモクと上がる。

トリックはいつの間にかベルトを脇に抱えていた。


「これ、もらっていくね。」


「ま………待てやトリック………!!!」


クエスチョナーと銀之助はお互いに土遁で爆発を軽減。

崩れた土の壁を見れば完全に防ぐことはできなかったか。


「お前…なんでここにいるんだ……あそこから出てきたのか!!!」


「…………………行こうタワシ。」


頷くフード野郎。

名前タワシて。

2人はめちゃくちゃになった店を後にした。






「ベーション………?見たことも聞いたことも食ったこともないぞ…ていうか、なんで俺の名前知っとんねん…!!!」


ベーションを睨むパルム。

それもそのはず。

パルムという名は、銀之助に初めて会った時につけてもらった名前なのだ。(第2話参照)

なのになぜ目の前の男はそれを知っているのか。


「あぁ?なにとぼけてんだ?」


「悪いけど、俺記憶ないんや。最後の記憶はお宝本読みながらUFO運転してたら、隕石にぶつかったあたりで止まっとるんや。」


最悪である。

主人公の姿とはとても思えない。

はやくこの場から離れたかったが、恐らくそれは無理だろうとパルムはなんとなく確信していた。

ベーションから発せられるオーラが物語っている。

ただでは逃がしてくれないだろう。

それに油断していたとはいえ、ピンポイントで携帯を狙い破壊するようなやつだ。

相当強いと見ていいだろう。


「まぁいいわお前なんかど〜でも。俺の狙いはそのスペース・ビースターだからよ。」


「スペース・ビースターて…。」


「そのバトルモスモス。そろそろ成虫に入る段階に入ってる。」


ベーションは得意げに語りだした。

現在宇宙にいるスペース・ビースターの種類は25万。

昔はもっといたのだが、人間の惑星開拓やその希少性が原因で狩られまくり数が減少傾向にあるのだとか。

そしてその中でもバトルモスモスは、蛹のステップを踏まないかなり珍しい種族。

幼虫から成虫に進化する姿を見たものは、富と栄光を手にすると言い伝えられているのだ。


「キュ…………。」


震えるモス子。

身の危険を察知したのだろう。


「んじゃ、いただくぜ。」


「待てや…………。」


「…………………あ?」


上着を脱ぎ捨てたパルム。

手首を軽く柔軟。

いつものバカみたいな顔ではなく、真剣な眼差しでベーションにメンチをきっていた。


「俺の家族になんの用やねん。」


「あぁ…?さっき説明しただろうが。捕まえて金持ちどもに売る。こんな薄汚ねぇとこにいていいような生き物じゃねぇんだよコイツは。」


「モス子は宇宙から落ちてきたんや。偶然かもしれん。たまたまトリスコーヒーの裏口に来ただけかもしれん。でもモス子はここを選んで生まれたと俺は思っとる。」


「は?」


パルムはベーションの前に立ち塞がった。

本当は警察やポーズトッポに連絡を入れたい。

だが携帯を壊されている以上それは叶わない。

そのさなか、可愛いモス子が攫われそうになっているのだ。

ならばやる事はひとつ。

ビビるわけにはいかない。


「やんのか?あ?」


チンピラのようにこちらを見下すベーション。

今ここにいるのは自分だけだ。

銀之助もサーシャもいない。

パルムは拳を握り、構えを取った。


「やってみろやハナクソ。」







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