金色の光
「──おお……!」
アレンがゼンに倒されたのを見て、観戦していた他の冒険者たちの間にどよめきが走った。
「アレン!」
それと同時に、アレンのパートナーである弓使いのレイラが地面に倒れた彼の元に駆けていった。
ゼンは、アレンが倒れた後も彼の方を向いてその構えを保ち──いわゆる『残心』を取っていたが、やがて構えを解いて彼に背を向けた。
そのままウィンクルムの方に歩いてくるゼン。
「僕の勝ち?」
ウィンクルムの近くにやって来たゼンは口を開いてそう訊ねた。
「えっ、ああ──」
まだ呆気に取られていたウィンクルムはゼンの問いかけに戸惑う。
(何者なんだ……)
ウィンクルムの頭を占めるのは、前に立つ少年への不可解さ。
一般に、武器を持たない者が武器を持つ者に勝つには数倍の力量さがなければならないと言われている。
ゼンはそれを──しかも相手はAランクの剣士であるアレン相手に──やってのけた。
Eランクの冒険者でありながら、なぜこの少年はこんなにも強いのか……?
ウィンクルムの頭の中に疑問が渦巻く。
するとその時──
「おい!!おまえぇっ!!!」
と、ゼンの後ろから大声がした。
声のした方を見るゼンとウィンクルム。
見ると、いつの間にか立ち上がったアレンが、剣を握ってこちらの方を睨んでいる。
アレンの顔は紅潮し、目はつり上がってすさまじい形相だ。
「調子に乗るなよ雑魚がぁ!!」
アレンが口から泡を飛ばして吠える。
ゼンにやられたことに、アレンは完全に逆上していた。
「アレン……!」とそばのレイラがあたふたしているが、アレンはそれを顧みることなく、手にした剣を横にして、右手をその鞘にかける。
そして剣を鞘に固定していた留め具を外した。
ガシャ──
アレンがすらりと剣を鞘から抜き、鞘を乱暴に地面に投げ捨てた。
「殺す……」
低い声で唸りながら、鞘から抜いた剣を構えるアレン。
鋼の剣が、日の光をギラリと反射する。
「アレン!!」
危険を察したウィンクルムが彼を止めようと大声を出した。
しかし、ウィンクルムの警告を無視して、アレンは血走った眼で、じりじりとゼンのほうに
近づいてくる。
暴走状態──アレンがゼンに危害を加えようとしているのが見てとれた。
「っ──そいつを貸せ!!」
そんなアレンを止めるべく、ウィンクルムが近くにいた冒険者から、持っていた剣をぶん取った。
しかし──
「あっ!」
ウィンクルムがそうしている間に、ゼンがアレンめがけて走っていった。
「何してるっ!下がれっ!!」
危険であるにもかかわらず、自ら戦いを求めるようなゼンの行動にウィンクルムは理解に苦しむ。
「安心しろっ!殺さない程度にしてやる!!」
そう叫びながら、アレンが向かって来たゼンめがけて剣を振るった。
ビュッ!とアレンの剣が鋭く風を切る。
直前の発言はなんだったのか──剣を思いっきり振るうアレンは殺意に満ちていた。
──バッ!
しかしゼンは、アレンの攻撃を機敏な動きでかわして見せた。
「おらあっ!」
しかし一度攻撃をかわされたぐらいではアレンも止まらなかった。
ビュッ!ビュッ!
声を荒げながら、アレンは連続で斬撃を繰り出していく。
猛然とゼンを襲うアレン。その動きは先ほどよりずっと機敏で、おそらくは彼の本気の攻勢だった。
しかし、ゼンもまた敏捷な機動で巧みにアレンの剣をかわしている。動きのスピードやキレがさっきよりもさらに増していた。
「二人ともやめろっ!!」
ウィンクルムが二人に向かって怒鳴る。
しかし、両者は止まらない──アレンはもはやゼンを殺す気でいるとしか思えない動きでゼンに斬りかかり、ゼンもアレンから離れようとしなかった。
(くそっ──)
少々乱暴をしてでも止めなければならない──ウィンクルムが剣を手に両者の間に割り込もうと駆け出した、その時だった。
バッ!
アレンの攻撃の合間を縫って、ゼンが彼の懐に飛び込んだ。
「ぶっ!」
ゼンの拳が、アレンの頬を打つ。
「──このおおっ!」
しかしアレンは怯まず、剣をゼンに向かって振った。
しかし、ビュンと一足で、アレンの剣が届かないところまで後退するゼン。
そしてその直後、空振ったアレンの剣が戻ってくる前に、ゼンは再び一足で再度アレンの目の前に飛び込んだ。
ガン!!
「──ぐはっ」
金属を打つ大きな音がして、アレンの体が前屈みに硬直する。
ゼンの拳が、アレンの腹部を捉えていた。
鎧の拳が当たった部分が大きく凹んでいる。
「……」
動きを止めたアレンに対し、ゼンはそれ以上攻撃を繰り出さずに、ばっと後ろに飛び退いて彼から距離を取った。
その顔は相も変わらず無表情だった。
「ぐっ……ぅ……」
ゼンの拳を腹に受けたアレンのダメージは大きかったようだ。
先ほどまでの勢いは消え失せ、苦しそうな息を漏らしながら、アレンは剣を地面に杖のように刺して、その体を支えようとしている。
(──やったのか……)
自分が割って入るより早く、アレンを制したゼンに驚くウィンクルム。
もうこれ以上はいいだろう──場を納めようとウィンクルムが二人の元に歩み寄ろうとする。
しかし──
「許さないぞ……」
(──!)
剣で体を支えながら、アレンが憎しみのこもった表情をゼンに向ける。
そして彼に向かって、その右手を伸ばした。
「死ねぇっ!!」
怒号とともに、アレンの手の先に赤い魔法陣が出現した。
「──『ブレイズストリーム』!!」
赤く光る魔法力の粒子が渦を巻いて、魔法陣から巨大な炎が噴き出した。
──ゴオオオッ!
炎の渦流が一直線にゼンへと伸びる。
まずい──無防備なゼンを襲う炎に、ウィンクルムが目を見開く。
辺りを赤く照らす巨大な炎がゼンを覆う──その時だった。
「我が信よ成就せよ──」
ゼンが小さく何かを呟いて、その体の周囲を、どこからともなく現れた金色の粒子が舞った。
「──金剛身」
ゼンの体を金色の光が包むと、次の瞬間、ゼンはアレンの炎に呑まれた。




