ゼンvsアレン②
模擬戦のために一同の前に出たゼンとアレン。
それを見ようと、冒険者たちがウィンクルムの横に広がる。
AランクのアレンとEランクのゼンが一戦交えるとなって、ウィンクルムやハートはもちろん、他の冒険者も興味津々の様子だ。
両者は三メートルほどの距離を空けて、それぞれの構えを取った。
ゼンは両手を握って拳にし、左脚を前にして膝を軽く曲げた半身の構えだ。
(大丈夫なのか……?)
ハートの面接によってゼンが拳闘士であるとは聞いていたウィンクルム。
しかし、その割にはゼンは闘志をみなぎらせているわけでもなければ、相手を鋭く睨むわけでもない。
構えながら相手のアレンをじいっと見てはいるが、その表情は先ほどからの無味なものだった。
それに対してアレンはというと、剣を握ってはいるものの、その顔はまだ『本当にこんな奴を相手にするのか』といわんばかりに困惑と怪訝さで眉をひそめている。
「始め」
ウィンクルムが模擬戦の開始を宣言した。
「…………」
ウィンクルムの号令の後、両者は互いに構えた状態のまま動きを見せなかった。
『互いに出方を窺っている』ということは、強者同士の戦いにおいてしばしば起こりうる。 しかし、その状態というのは一見膠着しているようでその実は、対戦者同士が機の先を奪うべく互いの動きを読み合う、静のなかの心理的ぶつかり合いである。
しかし、アレンとゼンのそれは──特にゼンからは戦意というものが全く感じられない──動きのないただの静寂のように思えた。
アレンもAランクの格を自負してか、あるいは格下相手が仕掛けて来るのを待ち、それをあしらおうとしているのか──ともかく待ちの姿勢である。
このままでは埒があかない──ウィンクルムがしびれを切らして、二人に積極的に取り組むよう口を開こうとした、その時だった。
すっ──
「!」
それは何の前触れもなかった。
三メートルほど距離を空けて向かい合っていたはずのゼンが、いつの間にかアレンの目の前にまで近づいていたのだ。
「っ!」
それを認識したのであろう──アレンの瞼がぴく、と見開かれようとした、その瞬間。
ドドドッ!
三発の打撃音が鳴って、アレンの体が後ろに滑った。
「──ぐっ!!」
アレンはその衝撃を受けて初めて、自分に何が起こったか気がついたようだ。
(──速い)
ウィンクルムが目を見開く。
アレンを襲った衝撃──それは、彼の目の前に飛び込んできたゼンが放った三発の攻撃によるものだった。
瞬く間にアレンとの距離を詰めたゼン。そこから一連の動作で繰り出されたのは、一発目が体の前に構えていた左の拳によるアレンの首もとへの突き。
二発目が、胸元で握っていた右の拳によるアレンの中段──鎧越しではあるが彼のみぞおちへのストレート。
そして三発目が、半身に構えたゼンの右足による前蹴り──これはアレンの下腹部を捉えた──であった。
「…………お前っ」
鎧のおかげか、三発も攻撃をくらっておきながらも、アレンはその衝撃に驚くだけで済んだようだった。
「よくも……」
しかしアレンが、相手に何をされたか認識するにつれて、徐々にその顔色が驚きから怒りに塗り替えられていく。
そんなアレンの様子を見ていたウィンクルム。
(──素手じゃなかったら、勝負はついていた)
アレンは当然のように剣を握ったまま、模擬戦を続ける気でいるようだが、もしこれが実戦で、ゼンがナイフといった何らかの武器をもっていたとしたらどうだろう──今からやり返そうとしているアレンは、すでに命を落としている。
(あの速さは、一体──)
そして不可解なまでに速かったゼンの動き。
『力の魔法術』を使って脚力を強化すれば、アレンとゼンの間合いを一足で詰めてしまうことは不可能ではないだろう。
それでも驚くべきは、その跳躍のための動きの『起こり』──跳躍するために膝を曲げたり、体が揺れたりする動作の前触れが全く見られなかったことだ。
──こいつ、強いのか。
ゼンのまさかの実力に、今度はその動きを見逃すまいと、ウィンクルムは彼の動きに神経を集中する。
「このっ!!」
ゼンに先手を許したアレンが、その感情に任せてゼンめがけて駆け込み、その剣を振るう。
ブン!ブン!
アレンの剣は唸りを上げてゼンを襲うものの、それが届く前にゼンはバックステップをしてアレンの剣を回避した。
「逃げるなっ!」
格下の、しかも武器も持たない相手に攻撃をかわされ、ヒートアップするアレン。
再びゼンに斬りかかろうと剣を振り上げたアレンであったが、その瞬間に直前まで後ろに退いていたゼンが、地面を蹴ってびゅんと前に飛び込んできた。
「!!」
後ろから前方への真逆のベクトル変換──まるで光が反射したかのような瞬間的な前後反復に、アレンは虚を突かれた。
ドドドッ!
「ぐあっ!!」
懐に入られたアレンは、またもやゼンに連続の殴打を受ける。
(鎧を……素手で……)
ゼンの戦闘スタイルに、ウィンクルムは半分信じられない心地だ。
拳闘士なら、拳に布や革、あるいは金属製の手甲を拳に装備して、拳を保護したり強化したりするのが一般的だが、ゼンは素手のままである。
しかし、素の拳をアレンの胴体を覆う鎧に叩き込むゼンには、全く躊躇がない。
魔法力によって強化された拳なら不可能ではないが、それでも重武装の剣士を相手に、素手で殴り付ける様子は、得体の知れない気味悪さがあった。
「──このやろうっ!!」
ゼンの連続攻撃を受けたアレンは、これ以上追撃をくらうまいと、近接したゼンを追い払うように剣を横に薙いだ。
しかしゼンは、そのアレンの斬撃をまたもや後ろに飛び退いてかわす。
「おまえっ……」
アレンがぎりっと歯を噛み締める。
自分の攻撃が当たらず、逆にその隙に何度もゼンの攻撃をくらってしまうことに彼は苛立っている様子だった。
「──ちょろちょろしてんじゃねえっ!!」
アレンが声を荒げてゼンに突進していく。
その表情には、普段見せていたAランク冒険者の余裕は失われていた。
勢いのあるアレンの突撃に対して、ゼンはバックステップで距離を置こうとするも、アレンはその勢いのままゼンに向かって突っ込んでいく。
「逃げるなぁ!かかってこい!」
アレンが回避行動を取るゼンに罵声を発して挑発する。ゼンにことごとく攻撃をかわされていることに我慢がならなかったのだろう。
すると、アレンの挑発に反応してか、それまで後退していたゼンが足を止めてその場に留まった。
「もらったぁっ!!」
我が意を得たりといわんばかりに、アレンがゼンに向かって斜めに剣を振り下ろす。
しかし──
ボカッ!
剣を振り下ろしたアレンの顎に、すり抜けるように脇から伸びてきたゼンの拳が当たった。
「!」
炸裂したゼンのカウンターパンチ──その瞬間をウィンクルムはしっかり捉えていた。
ゼンは、突っ込んできたアレンに対して一歩前に踏み出すと、アレンが振り下ろした剣を、体を半身に反らしてかわし、同時に左の拳をアレンの顔めがけて突きだしたのだ。
「……ぉ……」
ゼンの拳をくらったアレンがおぼつかない足でふら、ふら、と左右によろめく。
真っ直ぐに伸ばされたゼンの拳が、自分の勢いと合わさってその顎を打ち、アレンの頭を揺らしたのだ。
──ドシャッ!
ふらついたアレンが仰向けになって地面に倒れた。
最近、1日300pv越えることが増えました。
読んでいただきありがとうございます!
ブックマークや感想、評価もよろしくお願いします。




