ゼンvsアレン
コルベルトの模擬戦が終わると、今度は弓使いのレイラと、まだ模擬戦をしていない冒険者の男の対戦となった。
レイラは先ほど城壁の外でその弓術と魔法を披露したのだが、本人いわく『普段はアレンのサポートで弓を使っているが、本当は剣も使いこなせる』とのことで、剣による模擬戦も願い出てきたのだ。
本人がやる気というなら断る理由はないと、それを許可したウィンクルム。
しかし、どうやら彼女は剣の実力を評価してもらいたいというよりは、男たちの模擬戦を見て自らも刺激を受けたようだった。
レイラはどこかに携えていたらしい細身の剣を取り出して、まだ誰とも試合をしていなかった、リルフィリアが面接を担当したパーティーのメンバーに命令口調で対戦を申し込んだ。
「──ハアッ!!」
男の剣を払いのけ、その隙に男の喉元に剣を突き付けるレイラ。
「こ、降参だ……」
男は手を上げて、レイラの前から引き下がる。
レイラと男の模擬戦は、そう時間が経たないうちに決着した。
なるほど、確かに自分から模擬戦を申し出るだけはある──レイラの身のこなしと剣捌きには目を見張るものがあって、剣士のアレンには及ばないまでも、下手な冒険者をはるかに凌駕する実力を備えていた。
「ふん」
と、レイラがまさに鼻高々という様子で、髪を左右に揺らしながら相棒のアレンの元に帰っていく。
戻ってきたレイラを、アレンは労うように彼女の顔に手を添えて何か声を掛けていた。
対するレイラの表情もまんざらではない──それを視界の端で見ていたウィンクルムは、彼女にも乙女な部分があることに「ほう」と小さく声を漏らした。
どうやら二人は、単なるタッグを越えた、睦まじい仲であるらしい。
「よし──」
ひとまずこれで応募者たちの実力を一通り見終えたと思ったウィンクルムは、選考の終了を皆に告げようとした。
すると──
「すみません」
と、誰かが声を発した。
「うん?」
その声がした方をウィンクルムが見る。
その先には、片手で控えめに手を上げる少年の姿があった。
ジャケットを着た灰茶色の髪の少年──ハートが面接したゼンという冒険者であった。
「どうした?」
とウィンクルムがゼンに声を掛ける。
するとゼンは、
「まだ何もしていなくて」
と、抑揚の乏しい声で答えた。
どうやら対戦の組み合わせから漏れてしまったのか、ゼンはまだ一度も模擬戦に出ていなかったようだ。
「そうか──」
とウィンクルムが、彼の相手をしてくれる余りの冒険者を探して辺りを見る。
しかし、ゼンの他に模擬戦にあぶれた者はいないようだった。
もう一度誰かに相手を頼もうかと、ウィンクルムがゼンに相応しそうな相手を考える──その時だった。
「出来たら強い人がいいな」
唐突にゼンはそう言い放った。
「──?」
周りの冒険者たちが、一斉に彼に顔を向ける。
「なに?」
ウィンクルムもまた彼の発言を理解しかねて、ゼンに問いかけた。
「強い人がいいんだけど、誰に勝てば合格になるかな?」
ゼンは素朴な顔でウィンクルムに訊いてきた。
その発言を怪訝に思ったウィンクルムは眉を寄せる。
ゼンは、この選考に合格するには、誰を倒せばいいのかと直に訊いてきたのだ。
「はあ──?」
その言葉を聞いた他の冒険者が、『こいつは何を言い出すんだ』といわんばかりに、互いに顔を見合わせる。
「……君は、Eランクと聞いているが、強い相手との模擬戦を希望するのか?」
ウィンクルムがそんなゼンに問いかけるも、ゼンは、
「大丈夫です」
とあっさりと答えた。
(──変わったやつとは聞いていたが……)
彼との面接の様子をハートから聞いていたウィンクルムが、ゼンの突飛な発言にどうしたものかと困る。
本来なら彼とランクや力量の近い対戦相手を選ぶのが妥当だが、当の本人は自分の発言に何の違和感も覚えていない様子で、ウィンクルムの対応を待っていた。
「……それならば、君が対戦したいと思う相手に、直接申し込むといい。今はまだ選考の途中である以上、『誰が一番強いか』ということを、私がここで判断してしまうわけにはいかないからな」
ウィンクルムは遠回りな言い方でゼンの要求を断った。
心のなかでは、この冒険者たちの中で一番の実力者はAランクの剣士であるアレンだと評価している。
しかし、『彼が一番強いから、彼と戦え』と言うのは、選考の途中である今は、他の冒険者たちに角がたつ。
それに、Eランクのゼンの対戦相手に、Aランクのアレンをこちらから指定するのは、余りに不釣り合いに思えた。
それならばいっそ、自分の判断で対戦相手を選ばせればいいと考えたウィンクルムであったが、ゼンは、
「じゃあ、あの人がいい」
と、剣士アレンの方を指差した。
「おいおい……」
周りの冒険者がいよいよ声に出してざわつき始める。
Eランク冒険者の少年──しかもその身なりは、ただのジャケット姿で武器も持っていない──が剣と鎧で武装したアレンに挑もうなど、正気の沙汰ではない。
「君が、俺と──?」
ゼンに指名された当のアレンも困惑した顔をしている。
「何あの子……?」
とアレンの隣に立つレイラも、困惑とゼンを見下すような表情が混ざった顔でアレンに呟く。
「わかった──」
場の雰囲気が乱れ始めたのを感じたウィンクルムは、そこまで言うなら、とゼンに向かって言った。
「それで君がいいなら──アレン、彼と模擬戦をしてくれるか?」
ウィンクルムがアレンに訊ねる。
するとアレンは、
「おい、本気か?」
とまだ戸惑った顔でウィンクルムのほうを見てきた。
「勝負が決まったと見えれば私が止める──彼の相手をしてほしい」
ウィンクルムがアレンに重ねて言うと、
「……どうなっても知らないぞ」
とアレンは渋々とそれを受け入れた。
「それでは、アレンとゼン──前に出てくれ」
ウィンクルムと他の冒険者たちが見守るなか、両者が対峙した。




