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『シャーキア』の異教徒

 炎の中に姿を消したゼンに、息を飲むウィンクルム。

 しかし──

 ブワッ!

「なに?!」

 ゼンを包んだ炎の渦が一瞬膨らんだかと思うと、中から弾けるように炎が辺りに四散した。

 かき消された炎のなかから現れたのは、金色の光を纏ったゼンの姿。

(あれは──!)

 ゼンの体を、薄い光の膜が覆っているように見える。

 その体の周囲には、何らかの魔法力なのか、金色の粒子が漂っていた。

「なっ!!」

 自身が放った魔法を破られたアレンが驚愕する。

 ダッ!!

 しかし、驚くアレンをよそに、光を纏ったゼンがアレンに向かって突進していく。

「っ!!───わああっ!!」

 真っ直ぐ自分に突っ込んでくるゼンに、アレンが慌てて剣を振るった。その顔は驚きと怯えで歪んでいる。

 ビュッ!!

 アレンに向かって飛び込むゼンを、鋼の剣が迎え撃つ。

 しかし、その刃がゼンを襲うその瞬間、ゼンは握っていた左拳を体の外へ払うような動きで、アレンの剣にぶつけた。

──バキィン!!

 ゼンの拳が、アレンの剣を砕いた。

「──?!!」

 砕け散る散る剣の刀身──生身の拳で剣を砕かれたアレンは、信じられないという顔になった。

 そして次の瞬間には、ゼンがアレンの目の前で、腰に構えていた右の拳を彼に向かって突き出した。

「!!」

 ゼンの拳が、短い唸りを上げてアレンへと伸びる。

 そして、アレンの体の真ん中に衝突するその寸前で、ビッと拳が動きを止めた。

──ブワッ!!

「ぐっ──わあっ──!!」

 アレンの体が後ろに吹き飛んで地面を二、三度跳ねて転がっていき、アレンはそのまま地面に倒れ伏した。


「…………」

 あっという間の出来事に、ウィンクルムが言葉を失う。

 それは他の冒険者たちも同様であった。

 ゼンの体から金色の光が消え、普通の状態に戻る。

「──アレン……!」

 先に我に返ったレイラが、ゼンに吹き飛ばされたアレンの元に駆け寄って行った。

 ウィンクルムも彼が無事か確かめるためにアレンの元に行こうとしたが、その前にハートとリルフィリアに声をかけた。

「ハート、リルフィリア」

「あっ、はい──」

 二人もこの事態にまだ驚いていた様子であった。

「私はアレンのところに行くから、二人はゼンのところにいてくれ──後で彼に話を訊きたい」

「わかりました……」ハートが答える。

 無いとは思うが、ゼンがどこかに姿を消すことがないように、ウィンクルムはそう二人に言付けた。



「大丈夫か?」

 アレンの元に駆け寄ったウィンクルムは、彼を介抱していたレイラに訊ねる。

「気を失ってるけど、大丈夫みたい……」

 レイラはそう答えると、離れたところに立つゼンをちらりと一瞥した。

「こんなに本気で殴らなくても……」

 恨めしそうにレイラが呟く。

 どうやらアレンが手酷くやられたと、不満がある様子であった。

 先に危害を及ぼそうとしたのはアレンなのだが──パートナーのことを棚に上げてしまっているレイラに対してウィンクルムは内心そう思ったが、いま彼女と揉めるのは面倒なので言及はしないでおいた。

 それに、とウィンクルムは、先の瞬間に見えたことを口にした。

「ゼンは、拳がアレンに当たる寸前で止めていた……君は見えなかったか?」

「えっ?」

 気を失ったアレンを心配そうな顔で自身の膝に横たえるレイラがはっとして顔を上げた。

 ウィンクルムが目撃したのは、炎を突き破ったゼンがアレンに拳を繰り出したその刹那、アレンの体に直撃する直前でその拳を止めていた光景だった。

「じゃあどうして、アレンは後ろに飛んでいったの?」

 レイラが信じられないという口調で訊ねる。

「おそらくアレンは、そのときの空気の衝撃をくらったのだろう」

「はあ?」 

 アレンの体を吹き飛ばしたのは、ゼンの拳自体ではない──凄まじい勢いで寸止めされたゼンの拳が、アレンの体との間にあった空気を瞬間的に圧縮し、その直後に膨張して生まれた衝撃波がアレンを直撃したのだ。

 あの瞬間に起きたことを見間違えていなければ、そうでないと説明がつかない──ウィンクルム自身も半ば信じられなかった。

「なんなの……あいつ……」

 レイラがぼそりと呟く。

 その表情には、得体の知れないものに対する不気味さと畏れがあった。




 アレンの無事を確かめたウィンクルムが、ゼンやハートらの所に戻ろうと踵を返すと、何やら二人の前に他の冒険者たちが集まっていた。

「──どうした?」

 何やらおかしいと感じたウィンクルムが彼らに後ろから声をかける。

 すると、ハートとリルフィリアが助けを求めるような目で、ウィンクルムのほうを振り返った。

「ウィンクルムさん、なんか、この人たちが……」とハート。

「うん?」

 冒険者一同が、ハートとリルフィリア、そしてゼンと対立するような形で、その真向かいに群れて立っていた。

「おい!そいつは、『シャーキア』だろっ!!」

 冒険者の中からリッドが、ゼンを指差してそう言った。

「なんだ、『シャーキア』って……?」

 ハートはその言葉が何だか知らないらしく、困った顔でそばにいたリルフィリアに小声で訊ねた。

「えっと──」

 リルフィリアは『それ』が何か知っているのだろう──しかし、ハートに説明しようと口を開きかけたリルフィリアであったが、周囲の状況に憚られたようで、彼女はハートに答えるのを躊躇った。

「『シャーキア』……異教徒じゃねえかよ……」

 リッドの言葉が波紋となって広がり、他の冒険者たちもざわついている。

(『シャーキア』──そうか……)

 ウィンクルムは合点した。

 先ほど目にした、ゼンが纏っていた金色の光。

 それに、アレンの放った炎に包まれる前にゼンが口にした『コンゴウシン』という、ウィンクルムたちとは異なる響きを持つ呪文。

 

 『シャーキア』──ゼンは、ウィンクルムたちと信じるものを違える、異教の信徒だったのだ。

 

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