面接②──コルベルト
「次、どうぞ……」
ゼンの面接を終えたハートは少し脱力した表情で、控えていた長身の男と小さな女の子に声を掛けた。
「おう──よっと……」
男がハートの前のソファに腰掛け、女の子がソファの横に立つ。
男はツバの大きい茶色の帽子を被り、年季のいったジャケットを羽織っている。
肌は浅く焼けており、尖った顎と鋭い緑の双眸が印象的だ。
ソファの隣に立つ少女は、九歳か十歳ぐらいだろうか──身長は百三十センチぐらいで、ポンチョを着用しており、その裾から細い脚が覗いている。髪は白に近い銀色で、左右に分けて結び垂らしている。
少女の紫色の下半月の瞳が、ジトッとした視線をハートに向けていた。
「こんにちは……」
手応えのないゼンとのやりとりを引きずっているハートが、しずしずと挨拶すると、
「よろしくな」
と、男がハートに片手を差し出した。
「あっ、よろしくお願いします」
男の握手にハートが反応し、その手を両手で握る。
ハートの手をくっと握った男の手の厚さに、ハートは目の前の男の貫禄を感じた。
「名前、訊いてもいいですか?」
男と握手をして、ゼンとの面接には無かった人間味を感じられたハートは、ほっとした気持ちになる。
「俺はコルベルト。こっちはアーチだ。」
コルベルトと名乗った男は、立てた親指で、脇に立つ少女を指した。
「コルベルトさんと、アーチ……さん」
コルベルトはともかく、親子ほど歳の離れていそうな幼い少女がどうしてここにいるのだろう──ハートは二人の関係性が気になりながらも、順を追って訊ねる。
「お二人の年齢を教えてくれますか?」
「俺は三十で、こいつは──今年で十だったか?」
コルベルトは横のアーチに顔を向けて訊ねる。
「……」
少女は答えず、それを見たコルベルトは「まあ、それぐらいだ」となぜか大雑把な返答をした。
その答えにさらに不審に思ったハートは、
「お二人は……親子ですか?」
と二人の関係を訊ねる。
するとコルベルトは、
「いや違う」とあっさり答えた。
「えっと……」
困惑するハートにコルベルトは、
「訳あって連れてるんだ」と意味ありげに付け加えた。
(人さらいじゃないよな……)
先ほどから無感情な表情でハートを見ているアーチ。
この男に無理やり連れられているのでは、とハートは内心コルベルトを怪しく思ってしまう。
「二人の出身はどこですか?」
とはいえ、二人の関係についてばかり深く追及するのも変に思われそうなので、ハートは通常の質問を続ける。
「俺たちはサンダウンってところから来た。ここからずっと西にある街だ」
サンダウンという名前をハートは知らなかったが、この二人も他のところからビブリアにやってきた冒険者のようだ。
ただ、それにしてもアーチが冒険者としてはあまりに幼すぎるように思えたので、
「アーチさんも冒険者なんですか?」
とハートはコルベルトに訊ねた。
するとコルベルトは、
「ギルドに登録しているのは俺だけだ。こいつはまだ小さいからな」
と答えた。
「──それに、俺たちは冒険者というよりは旅人だな」
「旅人?」
コルベルトの発言にハートが首を傾げる。
「冒険者ってのはギルドを拠点にして魔物の退治とかを生業にしてる奴だろ?俺たちはどちらかっていうと、この世界のいろんなところを旅して回ってるんだ」
「旅人……でも、そしたらなんでギルドに来てるんですか?
」
旅人というならギルドとは関係なさそうだが、どうしてコルベルトはギルドに登録しているのだろう。
するとコルベルトは、
「旅っていっても、多少の路銀は必要だからな。俺たちは旅をしながら、着いた先のギルドでちょくちょく仕事をしてるんだ」
「はあ」
「旅の道中でいろんなものを見ながら、時折このビブリアみたいな各都市に滞在する。路銀も稼いで一通り街を楽しんだらまた次の街へ向かう──それが俺たちの生き方さ」
コルベルトが自らを旅人というのは、他の冒険者と各地を渡り歩く点では同じだが、その主眼を旅に置いているかららしい。
「そうなんですね……じゃあ、ビブリアに来たのも最近なんですか?」
ハートがコルベルトに訊ねる。
「ああ、二週間ぐらい前に着いた」とコルベルト。
「次はどこに行くか考えながら小銭稼ぎにギルドにきたんだが、そこでお前さんたちの依頼を見つけたんだ──報酬は高いし、王都に行くって内容だったから、こりゃいいなと思ってな。王都には一度行ってみたかったんだ」
なるほど──それがコルベルトたちが依頼に応募してきた動機らしい。
「えっと……じゃあ、実績とか特技を教えてほしいんですけど、いいですか?」
ハートたちの依頼は王都までの護衛だ。この二人に戦いに関する技能はあるのだろうか?
「特技か──まあ、二人で旅をする以上、魔物だとか盗賊とかから身を守る心得はあるつもりだ。あと俺たちは各地で旅先案内人を請け負うことがある」
「旅先案内人?」ハートが訊ねる。
「俺たちが滞在する街には時々、旅に出たいって奴がいる。俺たちはそいつの世話をしてやるのさ。別の街や自然の名所に行きたいが、自分だけでは心細い奴──普段、街で生きてきた人間は野宿するにも一苦労だろ?俺たちはそんな奴らに同行して、道案内から食事……夜営まで一通りの世話をしてやるんだ」
「なるほど……」
「だから、そうだな──特技といえば俺たちはそっちのほうが特技か」
コルベルトは顎に手を立てて「うんうん」と自ら納得するように頷く。
「ここにいる他の冒険者ほど戦いには長けちゃいないが、お前さんたちが俺たちを選ぶってんなら、俺たちはその世話をしてやれる──旅の道中の飯は、野草や獣をその場で調達してまかなえるし、必要な装備はもう俺たちが持ってるから夜営の心配もしなくていい」
そこまで言ってコルベルトはハートに訊ねた。
「──お前さん、この街から外に出たことはあるか?」
「いえ……」ハートは首を振る。
「なら、飯をつくるにも夜寝るにも苦労するだろう。俺たちがいれば、多少は旅が楽になるぞ」
そう言ってコルベルトは、にやりと笑ってみせた。
確かに──とハートは頷く。
王都までの道中には、野外で食事をすることも夜を越すこともあるだろう。
もちろんハートも、食事や夜営の支度といった、旅のなかでやらなければならないことにはしっかり取り組むつもりだ。
とはいえ、そういったことに関しては素人である以上、騎士として経験があるウィンクルムに頼らざるを得ない。
しかし、ハートとリルフィリアの面倒を彼女一人が見るのはきっと多大な負担になる。
もし、旅に熟達した彼らがいてくれたら、ウィンクルムにかかる負担は軽減されるだろう。
「──まあ、他の冒険者も夜営とかには慣れてるんだろうがな」
コルベルトはそう付け加えた。
「あとはそっちで考えてくれ」
「あ、はい──」
そう言って席を立ったコルベルトをハートは見送った。
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