実技面接へ
ゼンとコルベルトの面接を終えたハート。
リルフィリアとウィンクルムはどうなったのかと、ハートが大広間を見渡すと、先に面接を終えたリルフィリアが、大広間のドアの近くで一人立っていた。
「どうだった、リルフィリア?」
リルフィリアのそばまで行ったハートが彼女に訊ねる。「──俺のところは個性的な人たちでさ」とハートが苦笑いしていると、
「うん……」
と彼女は曇った表情をしていた。
「……どうかしたのか?」
そんなリルフィリアの様子を不思議に思ってハートが彼女に訊ねると、リルフィリアはハートの手を引いて、ドアから大広間の外に出た。
ガチャンと扉が閉まって、廊下に立つ二人。
「どうしたんだよ」
何かあったのだろうか──人目を避けるようなリルフィリアの行動にハートが不審に思う。
するとリルフィリアは伏し目がちに口を開いた。
「私のところにきた人たち、みんな同じパーティーの人だったんだけど……」
「うん」
リルフィリアが言うには、彼女が面接を担当した三人の男たちは皆、同じ一つのパーティーの冒険者だったらしい。
「始めは名前とかランクとか、いろいろ私が訊いてたんだけど──途中からあの人たち、私に『普段何してるの』とか『どこら辺に住んでるの』とか訊いてきたの」
「え?」
その冒険者たちの面接とは関係の無い逆質問に、ハートは疑問を感じる。
「もちろん答えなかったんだけど……嫌だな、って思っちゃって……」
リルフィリアの顔からは、そのことを不快に感じているのが見てとれる。
彼女の見た目に引かれたのか──先週絡んできたような男たちと同様、彼女に興味を持った輩が応募者のなかにいたようだ。
ハートは、
「ごめんな、リルフィリア。そんな人たちの相手させちゃって……俺が代わりにやればよかった」
と、自分だけ真っ先にゼンのところに向かってしまったことを詫びた。
「ううん……」リルフィリアが首を振る。
「そのことはちゃんとウィンクルムさんに言っておくよ。変な人と一緒に旅なんてしたくないし」
「うん、そうだね」
ハートの言葉にリルフィリアが頷く。
すると、二人の後ろで大広間のドアが開き、ウィンクルムが出てきた。
「すまない二人とも。待たせてしまったな」
「ウィンクルムさん──」
出てきたウィンクルムに、早速ハートが、リルフィリアの件を伝えると、
「……軽薄な男たちだな」
と、ウィンクルムは普段より低めの声でぼそりと言った。
その表情には冷たい鋭さがあった。
彼女もまた不快に感じているようだ。
「その者たちについては、大いにマイナス評価をしておく──すまなかったな、リルフィリア」
「あ、はい……」
毅然としたウィンクルムの言葉に、リルフィリアは少し安心した表情を見せた。
「さて、次に諸君には、その実力を見せてもらうため、特技を披露してもらいたい」
部屋に戻ったウィンクルムは、冒険者たちに向かってそう話した。
「剣技や魔法術、その他各々が得意とすること──それらと先の面接での内容を総合的に評価して、採用の可否を判断させてもらう」
ウィンクルムがそう伝えると、冒険者のなかからリッドが手を上げた。
「それは、ここにいる奴と直接対決してもいいのか?」
リッドの視線の先には剣士アレンの姿があった。どうやらリッドは、アレンと白黒はっきりつけたいようだ。
「手合わせ──模擬戦の類いは、あくまで両者の合意を経るものとする」
とウィンクルムが答える。
「それも大きな怪我といった事故に繋がらない範囲でだ──もちろん、その結果は評価する」
「わかった」
リッドは納得したように腕を組み、好戦的にその口の端を上げた。
ウィンクルムは再び、冒険者全員に顔を向ける。
「──準備が必要な者もいるだろうから、日時は明日の午前九時、場所はビブリアの東の城門に集まってくれ」
その後、今日のうちは解散となった冒険者は各々、大広間を後にした。
部屋にはハートとリルフィリア、そしてウィンクルムが残り、明日の打ち合わせをしていた。
「──ということで、明日は実技面接だ。場所は城門の外か、ゲーンズ隊長に頼んで訓練場を借りよう」
加えて三人は、それぞれが面接した応募者のことを報告し合った。
ハートがゼンとコルベルトのことを報告すると、旅人であり野外活動を得意とするコルベルトに対してウィンクルムは「それは良い人材だ」と評価した。
彼女いわく、冒険者の旅や兵士たちの遠征でも、そういった寝食のこと──難しい言葉で兵站というらしい──はとても大切なのだとか。
しかし一方で、ゼンのことを話すと彼女は苦笑いして、「話では伝えられないことがあれば、明日見せてもらおう」と寛容な姿勢を見せた。ゼンのことがよくわからなかったハートもそれに頷いた。
そして、リルフィリアが対応した冒険者については、そのランクも実績も特筆すべきことはなく、加えてリルフィリアに向かって面接の場にそぐわない言動をしたことから、彼らを採用することはおそらくないだろうとウィンクルムは評価していた。
「──あの、ウィンクルムさん」
「なんだ?ハート」
明日の段取りを話し終え、ハートたちも解散しようというところで、ハートはウィンクルムにある質問をした。
「この間、俺たちが魔物に襲われたことって、冒険者の人たちには説明してあるんですか?」
ハートが気になっていたのは、先日の事件について冒険者たちに伝えられているかということだった。
事件のあともいろいろあったせいで、そのことがハートたち以外の人にどう伝わっているのかは、ハートは知らないでいた。
「ああ、そのことだが──」 ウィンクルムはハートとリルフィリアに説明する。
「まず、魔物に襲撃された件については、ゲーンズ隊長によって話が広まらないようにされている。これは当事者はもちろん、街の一般の人に対してもだ」
ウィンクルムが説明するには、事件のことを直接知っているあの行商人──ハートたちを助けてくれた男とその連れ──には金銭を渡して他言無用の念を押したらしい。
また、当時事件が発覚し、亡くなった兵士たちが収容されたのが夜間であったこともあり、この事件については住民に知られることなく隠密に処理がされたようだ。
また、魔法学校での騒ぎについては、学校が新たな魔法の実験に取り組んでいたと──これは若干強引だが──騒ぎに寄ってきた野次馬には説明がされたという。
「──もちろん、冒険者たちが独自の経路で噂を耳にしている可能性はあるが」
ウィンクルムは腕を組んでそう付け加えた。
「冒険者には、依頼を出した時点では、私たちを『魔物や盗賊から護衛すること』というふうに、抽象的な説明に留めて、私たちに起きたことはまだ話していない──しかし、この選考が進んで、ある程度候補者が絞られたらその時は詳細を説明するつもりだ。危険を伴う可能性があることを知った上で、行動を共にしてもらわなければならないからな」
確かに事実を伏せたまま、もし再び同じような出来事に遭遇したら、採用した冒険者には不意打ちの事態になってしまうだろう。
「ただ、採用するかわからない者に始めから全て話すのは望ましくないと、ゲーンズ隊長と打ち合わせたんだ。ある程度信頼がおけるとわかった者にのみ事実を伝えて、それを承知で私たちに協力してくれる人材が一番いい」
「たしかに……」
ウィンクルムの説明にハートは納得した。
その後ハートたちは解散した。
そうして一夜が明け、いよいよ応募者たちの実技面接が始まった。
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