面接①──ゼン
ハートとリルフィリアの二人に面接を手伝うように言ったウィンクルムは、集まった応募者たちに向かって、
「準備をするから諸君はしばらく待っていてくれ」
と告げた。
そして、ハートとリルフィリアに対して「少し打ち合わせをしよう」と言って、大広間からの退室を促した。
三人は廊下に出て、案内が済んだ受付のお姉さんもともに退室した。
「──そうだ、何か書くものを頂けるだろうか?」
とウィンクルムがお姉さんに頼むと、受付のお姉さんはにっこりした顔で返事をして、下の階に筆記具を取りに行った。
「──あの、ほんとに私たちが面接していいんですか?」
リルフィリアがウィンクルムに訊ねる。彼女もハート同様、驚いている様子であった。
「うん、やってみるといい」
ウィンクルムが彼女を安心させるように微笑んでみせる。
「これから長い旅路を共にする仲間を選ぶのだ。私だけではなくて、君たち二人が相手に抱く印象も大切になる。いいな、と思える相手がいたら後で教えてくれ」
ウィンクルムは、ハートとリルフィリアも主体的にこの選考に参加することを考えているようだ。
誰を採用するかはてっきりウィンクルムが選ぶと思っていたハートは、自らの主体性を期待されたことに嬉しさを覚えた。
「どういったことを聞けばいいですか?」とハートがウィンクルムに訊ねる。
「始めは基本的なこと──名前、年齢、出身といったことを訊けばいい。次にこの依頼に応募してきた動機や、その者のこれまでの経験や実績、そして得意にしていることを訊いてくれ。加えて君たち二人が気になったことがあれば、自由に訊くといい」
「わかりました」
ハートが意気込んで頷く。
するとウィンクルムがハートとリルフィリアの耳元に顔を寄せ小声で、
「彼らは私が前にいれば多少礼儀よく振る舞うだろう。君たち二人を前にして、どういった態度を取るか……そういったところにも注目するといい」
「ああ……」
ハートは合点した。
まだ年齢の低い自分たちを相手にして、冒険者たちがどのような態度を取るかで、その人となりは分かる。
もしまだ子どもの自分達を不当なまでに下に見るような人間なら、共に旅をすることなど出来ないだろうし、逆に自分達に対しても公平な態度で接してくれるなら、それは信頼できる相手といえるかも知れない。
ウィンクルムはそういうところも見ようとしているのだ。
「誰を担当すればいいですか?」
リルフィリアがウィンクルムに訊ねる。
「そうだな……先ほどぶつかっていた二人──アレンとリッドの組は私が受け持とう。少々面倒そうだからな」
そう言ってウィンクルムが苦笑する。
「二人はそうだな……部屋に入ってから残った人のなから適当に選んでくれ」
ウィンクルムの言葉を受けて、ハートはリルフィリアの方を向いた。
「それならリルフィリア、ゼンは俺が見ていいか?」
「あっ、先週の人?──やっぱりそうだよね?」
リルフィリアもゼンの姿に気がついていたようだ。
「ゼン?」とウィンクルムが首を傾げる。
「あっ、知ってる人がいたんです」とハートは慌てる。
先週、男に絡まれたくだりのことはウィンクルムに言っていなかったから、ここは何でもないように振る舞う。
「──そうか」
ウィンクルムは追及してはこなかった。
「いいかな、リルフィリア?」
ハートがリルフィリアに重ねて問う。
「いいけど……」
「ありがとう!」
前のめりに返事をしたハートにリルフィリアは少し不思議そうな顔をしていた。
その後、階段を上がってきた受付のお姉さんから筆記具を受け取ったハートたちは再び大広間に入室した。
「アレンとリッド、それにその同伴者は私のところに来てくれ」
ウィンクルムが、二人とその連れの冒険者に声をかける。
「えっと、君とそっちの人たちは俺のところです」
部屋の中を進んだハートは、ゼンのところまで行き、彼とその近くにいた二人組──長身の男とその連れであるらしい幼い女の子に声をかけた。
「他の方は私のところです」
リルフィリアが残った冒険者たちを自分のほうへ誘導する。
こうして大広間のなかで三ヶ所に散らばったハートたち三人は、それぞれ冒険者の面接を始めた。
「じゃあ、まずは君から」
ハートは男と幼女のペアには待ってもらい、まずはゼンから面接を開始した。
「うん」ゼンは静かに頷いてハートの誘導に従う。
大広間に対になって置かれた小型のソファにゼンを座らせ、ハートもその向かいに座る。
「この間はありがとう、ゼン」
ゼンと対面したハートは開口一番、彼に先週のお礼を言った。
「気にしないでいいよ」
ゼンは短く答えた。その表情は初めて会ったときと同じで、柔らかなものだった。
「えっと……まずは、年齢を教えてくれるか?」
ハートはウィンクルムに教えてもらった事項を質問し始める。
「歳は十七だよ」
ゼンが答えた。
(一つ年上なんだ……)
馴れ馴れしかったかな──とハートは内心思ったが、態度をいきなりかしこまったものにするのも変なので、そのまま続ける。
「次に……ゼンはビブリアの出身なのか?」
「いいや」ゼンは首を振る。
「へえ──どこから来たんだ?」
とハートが訊ねる。
するとゼンは、
「南の遠く離れたところ。小さな村だから、名前言ってもわからないと思う」
と答えた。
「そうなんだ……冒険者としてビブリアに旅して来たってことか」
「うん」
ゼンは頷くも、何か説明を加えたり、教えてくれたりはしなかった。
「えっと……今日俺たちの依頼に応募してくれた理由を教えてほしい」
ゼンの持つ独特な雰囲気に、自分のペースが乱されそうになりながらハートは質問を続ける。
「報酬が良いのと、王都に行ってみたいから」
ゼンは簡潔に答えた。
先ほどから短めの返答が続くが、別に彼が不機嫌にしているのではない。ハートと相対するその表情は柔和で、ただ口数が乏しいだけだった。
どうやらこれが、彼の素の顔であるらしい。
「そっか……」
報酬はともかく、なんで王都に行ってみたいのかを訊ねたくなったハートであったが、訊いてもまた淡白な感じで返されそうで二の足を踏む。
「じゃあ、今の冒険者のランクは?」
ハートは次に、ゼンの冒険者としての事柄を訊ねる。
「Eだよ」
例によって短く答えるゼン。
(Eなんだ……)
冒険者として一人でビブリアにやってくるほどなのだから、もしかしたらゼンは強いのかなと思っていたハートは、ちょっぴり期待が外れた気がした。
「そうなんだ……」
しかし、それがさとられては失礼なので何もなかったように取り繕う。
「これまでの実績とかあったら、教えてほしいんだけど……」
ハートの質問に対して、ゼンは、
「ビブリアに来てから、薬草の採集を三つと、魔物の討伐を二つやったよ」
「そっか……ありがとう」
ランクもさることながら、実績のほうも目ぼしいものがあるわけでもない。
しかしそれを誇張するわけでもなければ偏屈そうに言うわけでもなく、ただ平然と話すゼンにハートは、掴み所がないように感じていた。
初対面以降、ハートはゼンに興味を抱いていたのだが、これでは後でウィンクルムたちと話すときに、彼について目立って伝えることがない。
少し困ったハートは、最後に彼の特技について訊ねた。
「最後の質問なんだけど……冒険者としての特技──剣とか魔法とか、どういう技能があるのか教えてくれるか?」
するとゼンは答えた。
「僕の技は素手の格闘だよ」
「素手……?」
武器すら扱わないというのだろうか──ハートは訝しむ顔で訊きなおす。
「武器とか使わないのか……?魔法も……?」
「うん」
ゼンはこくりと頷く──しかし、それだけだった。
「わかった……ありがとう」
ゼンに対し、一通りの質問を終えたハート。
しかし結局、ゼンのことがよくわからないまま、彼との面接は終えてしまった。
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