選考スタート
ギルドに入ったハートたち三人は、受付のお姉さんにより、建物の二階にある大広間に案内された。
二階に昇る階段の途中、
「今回応募された方々のなかには、Aランク冒険者の方もいらっしゃいます」
と、受付のお姉さんがハートたちに話してくれた。
「それは楽しみだ」
とウィンクルムが返す。
ギルドに登録している冒険者はその実力と実績をもとにEからSまでの階級で分類されている。
Sランクの冒険者については、制度上その分類があるものの、その数はごくわずかで、ビブリアのギルドを中心に活動する冒険者のなかには存在しない。
そのため、Aランクの冒険者がビブリアのギルドの実質的なトップランクだ。
そんなAランクの冒険者が自分達の依頼に応募してくるなんて──ハートはわくわくする気持ちを覚えた。
「どうぞこちらです」
受付のお姉さんがドアを開けてハートたちを大広間に入れた。
「──!」
ハートたちが中に入ると、すでに入室していた応募者たちがそろってハートたちのほうを振り向いた。
人数は十人ほど。その身なりは人それぞれで、剣士の格好の者もいれば魔術師らしき姿の者もいる。それだけでなく、弓を携える者もいれば、武器らしき物を持たない軽装の者もいた。
姿や格好は違えど、皆に共通するのはその視線の鋭さ──自分一人の力で各地を渡り歩く強者が持つ無言の迫力だった。
(あっ)
するとハートは、その冒険者たちの端に、見覚えのある姿を見つけた。
灰茶色の髪を持ち、ジャケットを着た軽装の少年──粗暴な男たちに絡まれていたとき、ハートたちを助けてくれたゼンの姿があった。
「こちらが今回の依頼者の、ウィンクルムさんとハートさん、そしてリルフィリアさんです」
受付のお姉さんが、応募者の前でハートたちを紹介する。
それを受けてウィンクルムが一歩進み出て、応募者たちに対して挨拶と簡単な礼を言った。
「今回、多数の方が応募されましたが、選考はどうなさいますか?」
受付のお姉さんがウィンクルムに訊ねる。「依頼される方は面接を行われることが多いのですが」
「そうだな……我々も面接をしようと思う」とウィンクルム。「そこで、各々の実績や特技を聞ければ──」
すると、
「ちょっといいか?」
突然、応募者の中から一人の男が口を挟んだ。
「?」
ハートたちが男の方に顔を向ける。
「君は?」
とウィンクルムが男に誰何した。
男は鞘に納められた剣を脇に携え、革製の防具を着けた軽装の冒険者姿をしている。
「俺はリッド。今はCランクの冒険者で、こいつらと一緒に行動をしている」
リッドと名乗った青年の男が、その後ろにまとまって立っている男女を示す。それぞれリッドと同じくらいの年齢の、戦士姿の男と魔術師らしき女性であった。
「リッド。何か意見があるのか?」
ウィンクルムがリッドに訊ねた。
「ああ──選考の方法だが、面接だとか実績ではなくて、俺たちの実力を直に見てくれないか?」
「面接では、不十分といことか?」とウィンクルムが訊ねる。
するとリッドは、他の冒険者のほうを指差した。
「あそこにいる二人組は、Aランクのアレンとレイラだ」
リッドが指し示したのは、男女二人の冒険者で、剣士姿の男と弓を携えた女性だった。
アレンと呼ばれた男──光沢のある鎧に身を固め、背には長剣を背負っているその青年は精悍な顔していて体格もよく、威風堂々とした佇まいだ。
また、アレンのそばに立つレイラと呼ばれた弓使いの女性は、目を引くような凛とした顔立ちをしていて、上質な装備を身に付けている。
二人の雰囲気は、周囲のほかの冒険者とは何か線を引いたように違うものがあった。
彼らが、受付のお姉さんが言っていたAランクの冒険者のようだ。それにリッドの口ぶりからして、どうやら二人はペアで行動している冒険者らしい。
「──実績ばかり評価されるんじゃ、あいつらのような高いランクの冒険者に仕事が集まるばかりだ。あんたたちもきっとあいつら二人を選ぶだろう」
リッドが続けて主張する。
「高ランク冒険者は、いつも優先して良い仕事を受けられる。それでまた評価が上がってまた良い仕事を受ける、その繰り返しだ。だから、俺たちみたいな中堅ランクには報酬の低い仕事しか回ってこない。これじゃ不公平だ」
彼は、ウィンクルムたちがアレンとレイラのランクや実績に惹かれて彼らを採用するだろうと踏んでいるのか、それを先んじて牽制してきた。
確かに、アレンとレイラのペアは、その見栄えのある容姿から目を引くものがあるし、加えてAランクの実力者ともなれば、彼らが選考の上位になるのは今この時点でも予感できる。
「なんか引っ掛かる言い方だな──リッド」
すると、剣士の男──アレンが口を開いた。
「それじゃまるで俺たちがギルドに贔屓されているみたいじゃないか」
「それはそうだろう。他所で強い魔物を倒したか知らないが、突然ここでAランクを名乗ったかと思えば、ビブリアに居座って良い仕事ばかり独り占めしやがって」
そう言うリッドの言葉には含みと棘があった。
両者の間で、にわかに空気がぴんと張りつめる。
「冒険者がいろんな場所を渡り歩いて何が悪い──それにこのランクは、各地のギルドが共有する公式のものだ。文句があるなら、自分のランクを上げたらどうだ?」
とアレンがリッドに反論した。
「なんだと」
その言葉にリッドが顔に怒りを滲ませる。
ハートたちを前にして、勝手に火花を散らし出す両者。
二人の間には、ハートたちの知らないところでの事情とそれによる確執があるようだった。
しかし、だからといって依頼者を前にして、それを全面に出して二人で衝突してもらっても困るのだが──
「リッド、君の言い分は分かった」
するとウィンクルムが口を開いた。
「我々も何もランクや評判だけで決めるつもりはない。求めるのは今回の依頼の性質にあった技能と、旅という形で長い時間を共にするのに支障のない人となりだ。君の意見を踏まえ、面接で話をしたあと、各人の実技を我々に見せてもらおう」
「それならいい……」
ウィンクルムの発言の後ろのほうで、釘を刺されたのか、リッドはそれ以上は何も言わなかった。
「ひとまずはそれぞれのパーティーやペアと話をしたい」
ウィンクルムはそう言うと、ハートとリルフィリアのほうに顔を向けた。
「二人とも手伝ってくれるか?──手分けをしてそれぞれ面接をしよう」
「えっ!あ、はい──」
突然話を振られて、ハートは戸惑いながらも返事をした。
描写が難しかったです…
ちゃんと伝わったかな…?




