赤錆の大剣②──リルフィリアと
「なんだコレ……」
大剣の姿を目にしたハートは唖然とした。
「えぇ……」
ハートが訝しみながら大剣に近づいく。
大剣は切っ先が刺さる形で地面に立っている。
その表面は全体が赤い錆で覆われており、ハートが大剣に触れると、ざらざらとした錆の触感とともに茶色の汚れが手についた。
大剣は幅の広い両刃の刀身を持っていたが、その刃の部分も錆びている。ハートは直接刃に手で触れてみたが、切れ味は失われていた。
これではなまくら刀どころか、ただの鉄の塊だ──まるで長い間雨風に晒したかのような大剣の朽ち果てぶりに、ハートは眉をひそめる。
(これ、本当に天界の武器なのか……?)
それでも何か秘密があるのかも知れないと、ハートが大剣の柄を握る。
「ふんっ」
力を込めて地面に刺さった大剣を引き抜くハート。しかしその直後に、支えを失った大剣の重みが不意にハートの手にかかる。
「うわっ!」
そのあまりの重さに耐えられず、ハートが大剣の柄から手を離す。
倒れた大剣はゴワン、ゴワンと二、三度跳ねて地面に倒れた。
(何も、起きない……?)
光の剣もマグナスの時も、ハートはそれらの武器を手にした瞬間、それらを自在に操ることができた。
しかしこの大剣はハートが触っても何も起きず、ハートはその重さに力負けしてしまい大剣を倒してしまった。
(どうすればいいんだこれ……?)
ハートがもう一度柄を両手でしっかり握る。
「うお……」
魚を釣り上げるような要領で、左右の手をてこにしてハートは大剣を引き起こす。
両足を広げてしっかりと踏ん張り大剣を保持するハート。
大剣の切っ先が天を向く。
「あっ!無理──」
大剣を中腰に構えたハートであったが、その重量に負けてすぐに大剣を地面に下ろしてしまった。
その重さに任せて、大剣がその切っ先をガッと地面に食い込ませる。
「はあ──」
構えるだけで一苦労の大剣に、ハートが困惑のため息をつく。
(召喚術が失敗だったのかな……)
光の剣やマグナスの杖に比べたときのあまりの落差に、ハートが召喚術の失敗を疑った。
「───ハート!」
「ん?」
すると突然、遠くから覚えのある声がしてハートはそのほうを振り返った。
「リル……」
見ると、リルフィリアが向こうからハートのいる訓練場に駆けてくるところであった。
「見つけた──ハート」
ハートの前に走ってやってきたリルフィリアが、肩を上下させて息をつく。
「どうしたんだよ?」
リルフィリアが来るとは知らなかったハートが驚いた顔をする。
「えへ、びっくりした?」
リルフィリアはそう言って笑い、走ったせいで乱れた髪を手でといた。
「学校に行くんじゃなかったのか?」
昨日リルフィリアが言っていたことを思い出し、ハートが訊ねる。
「うん、先生と約束したよ。明日から訓練するの」
リルフィリアが言うには、明日から魔法学校の先生に魔法術の訓練を受けるという。
ただその訓練は午前中に行われるので、午後は時間が空くそうだ。
そして今日はもう用事がなくなったので、ハートとウィンクルムが言っていたこの訓練場に、途中兵士にその場所を尋ねながら、ここまで訪れてきたという。
「そっか……」
ハートは頷きながら、少し嬉しい気持ちになった。
「うん」リルフィリアも頷く。
「──ハート、それはなに?」
するとリルフィリアが、地面に横たわる錆だらけの大剣に気がついた。
「あ……これか──?」
ハートがリルフィリアに大剣を見せてやり、これが現れるに至った経緯を説明する。
「──えっ、これ召喚したの?!」
と、話を聞いたリルフィリアが驚く。
「すごいよ、ハート!」
眉を上げ、ぱっと大きな瞳を輝かせるリルフィリア。
召喚術のこととなると、いつも彼女は人一倍の興味を示す。
「いやでもこれじゃあ……」
ハートのことを称賛するリルフィリアに、ハートが苦笑いする。
召喚ができても、それが使い物にならなければまるで意味がなかった。
「──これ、重たすぎるんだよ……」
そう言ってハートが、リルフィリアに向けて大剣を持って見せようとする。
しかし──
「いたっ!」
大剣の柄を力一杯握ったハートが急に声を出して、大剣から手を放した。
「どうしたの?!」
リルフィリアが驚いてハートに近づく。
「手のマメが……いてて……」
そう言ってハートが、リルフィリアに自身の両手の手のひらを見せた。
「うわ、すごい怪我……」
リルフィリアが心配して呟く。
ハートの両の手のひらは、ここ二日間の剣術の訓練で早くもマメでいっぱいになっていた。
膨れたマメの一部は破れ、血が滲んでいる。
急に慣れないことをするせいだ──リルフィリアに情けない姿を見られ、ハートは少し恥ずかしくなる。
「大変……」
痛々しいハートの手のひらを見たリルフィリアが、ハートの手に自分の手を添える。
「痛い?」そして彼女はハートに上目遣いをして訊いてきた。
「まあ───でも大丈夫」
と気丈に答えるハート。
「ちょっと待って……」
するとリルフィリアが、ハートの手を自身の手で包むようにして、その目を伏せた。
「……?」
怪訝そうな表情をするハート。
黙ったリルフィリアは何かに集中しているようだった。
さらにリルフィリアは、包んだハートの両手を自分の胸のほうに引き寄せる。
「まことの恵みと栄光をここに──」
するとリルフィリアが呪文の詠唱をし始めた。
「!──」
少し驚いたハートであったが、そのままリルフィリアに任せる。
「……」
静かにリルフィリアを見守るハート。彼女の長い睫毛が間近でよく見えた。
パア……
すると、優しい緑色の光がハートの両手を包んだ。
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