剣を握る②
「よし、今日はここまでにしよう」
陽が傾き始めた頃、ウィンクルムが初日の訓練の終わりを告げた。
「はい……ありがとうございました」
初日の訓練は、構えと基本的な剣の振り方に終始したが、それでも初めて剣を握ったハートの体は筋肉の痛みを感じていた。
礼を言ったハートにウィンクルムが続ける。
「明日からなのだが、私も私のほうで、次の旅の行程について計画しなくてはならなくてな。一日全部をハートの訓練に立ち会うことができない」
「?」ハートがきょとんとする。
ウィンクルムが言うには、王都へ旅立つにあたってどの道筋で王都を目指すのかというルートの選定や、その道程をどういった日程で踏破するのか、さらにどこで夜営や宿泊をするのかという計画を立てなければならないらしい。
「そうなんですね……」
王都への旅をもっと漠然も考えていたハートは、具体的に計画を立てなければならないということを聞いてはっとした。
ウィンクルムによると、部下たちと王都へ向けて出発した前回も計画は立てられていたそうだが、今回また新たに計画を立て直す必要があるという。
というのは、今回の旅は前回とは旅に出る人数が異なり、またルートについても、件の襲撃者のことを考慮に入れてなければならないからだ。
「計画はゲーンズ隊長と相談して策定するのだが、きっとそれなりに時間がかかると思う。その間は自分で鍛練を積んでくれるか?」
「わかりました。全然大丈夫です」
『ビブリア』の外の世界を知らないハートは、大人たちの協力があることをしみじみと感じ入りながら答えた。
「午前中は訓練できるようにするから、また明日の朝、ここに集まろう」
「はい」
そうして二人は解散した。
ウィンクルムと別れたハートは自分の居候先であるクラフトの居酒屋に帰った。
時間はまだ夕暮れ時で、店はまだ開いていない。
(なんか、かなり久しぶりな気がする……)
この激動の数日間のせいで、クラフトの店のことがとても
懐かしく思えた。
「おう、ハート」
店に入ると今夜の開店に向けて準備をしていたクラフトは、いつものようにハートに声をかけてきた。
「ただいま、クラフトさん」
そんなクラフトにハートは少しぎこちなく挨拶をする。
「クラフトさん、ちょっといいかな」
「ん、どうした?」
開店まではもう少し時間があった。ハートはこれからのことをクラフトに説明した。
「そうか、そういうことなら仕方ねえ」
ハートの話をずっと傾聴してくれたクラフトは、腕を組ながらそう言って頷いた。
「──やることが終わったら、また帰ってこい」
「ごめん……クラフトさん」
王都への旅をすんなり了承したクラフトに、ハートは申し訳ない気持ちになる。
「出発するまではお店のこと手伝うから……」
これまで住むところを提供してくれたクラフトにはお世話になりっぱなして、まだ何のお返しもできていない。
「はは、気にすんな」
そんなハートにクラフトはおおらかに笑って見せ、ハートの肩を叩く。
「嬢ちゃんのこと、しっかり守ってやれよ、ハート」
「──うん」
その言葉に決意をまた新たにするハート。
そして、旅立ちまで少しでも恩返しが出来るように、ハートはその晩の店の手伝いを、これまでより一層頑張った。




