剣を握る
ゼンが立ち去ってから間もなくして、
「二人とも待たせたな」
と、ウィンクルムがハートたちのもとに戻ってきた。
「あっ、どうでしたか?」
ハートがゼンのことはひとまず置いて、ウィンクルムに首尾を訊ねた。
「うん、依頼はしっかり受理されたぞ──明日から掲示されて、募集期間は一週間だ。来週またここに来て応募者を選考する」
「人……集まるでしょうか?」とリルフィリアが案じる。
「ギルドの事務員は大丈夫と言っていた」ウィンクルムが答える。
「報酬を君たちの校長の言う範囲で提示したのだが、それが相場よりなかなか高額らしくて、きっと食いつくだろうとのことだ」
「へえ……」ハートは、ギルドの依頼に対する報酬の相場はわからなかったが、どうやら校長はなかなか良い額の報酬を設定してくれたらしい。
「ともかく、今日はもうこれでおしまいだ──ハート、これから剣を教えようか?」
ウィンクルムがハートのほうを見て言った。
「あっ、はい!」
ハートが勢いよく返事をする。
そうして一行はギルドを後にした。
その後、剣術の指導のためにハートとウィンクルムは城壁まで戻ることになった。
「剣はゲーンズ隊長に言って借りることにしよう──リルフィリアはこれからどうする?」
その帰り道でウィンクルムが訊ねる。
「私は一度、家に戻ります。お父さんとお母さんに、旅のことを説明しないと……」
「そうだな──私も説明に同席しようか?」とウィンクルムがリルフィリアを気遣う。
しかしリルフィリアは首を振った。
「いえ、自分の口でしっかり伝えるので……」
「そうか……?」ウィンクルムが少し心配そうな顔をした。
「──ハートはクラフトさんのところに戻らないの?」
と今度はリルフィリアがハートに訊ねてきた。
「うーん、夕方なったら戻ろうかな。俺も説明しないといけないし、旅に出るまでは夜はお店を手伝わないと……だいぶ手伝いすっぽかしたしなぁ」
ハートはそう答えた。そして、ウィンクルムのほうを見る。
「──なので、剣の訓練は日中でいいですか?」
「ああ、構わない」ウィンクルムが頷いた。
「私は旅の準備が整うまでは先の宿に世話になるから、時間を決めて剣の訓練に来るといい」
「わかりました──でも、リルフィリアはどうする?先生に言われた『自分を守る手段』ってやつ」
「うーん」リルフィリアは少し考えるように間を置いて、
「私は魔法術にしようと思う。先生たちにお願いして、もっといろんな魔法術を身につける」
と静かだが心に決めた様子でそう告げた。
「魔法術か……」
才能のあるリルフィリアなら妥当な選択であるし、剣を一から身に付けようとしている自分より、すぐにものにするだろう。
「……じゃあ、しばらく別行動になるかな?」とハート。
「そうだね」リルフィリアが頷く。
ハートは少し寂しい気がしたが、魔法学校の教師たちに教えを仰ぐなら、それに集中しなくてはならないだろう。
「でも、時々会いに行くから、そのときはハートが剣を持ってるところ見せてね」
「えっ」
突然リルフィリアにそう言われて、ハートがどきっとする。
ハートを見て微笑む彼女の目はどこか悪戯っぽく見えた。
「これは気合いを入れていかないとな、ハート」
ウィンクルムもそれに乗っかって、ハートに発破をかける。
「──はい!」
ハートは力強く答えた。
そしてリルフィリアは帰り道の途中で、今から魔法学校に行くと言ってハートたちと別れた。
ハートとウィンクルムは城壁まで戻り、兵舎にいたゲーンズに剣術の訓練について話した。
ゲーンズは、使っていない予備の兵士の剣と、打ち込みや模擬戦用に使える木刀をウィンクルムとハートに貸してくれた。
またそれに加えて、兵士たちが剣術を訓練する際に使う、開けた場所を案内してくれた。
「では始めよう」
ゲーンズに教えてもらった訓練場に来た二人は、そこで互いに向かい合った。
「よろしくお願いします」
背筋を伸ばすハートにウィンクルムが説明を始める。
「剣術にはいくつか流派があるが、ハートには私と同じ流派──騎士団でも普及している流派の剣術を教えよう」
そうしてウィンクルムはハートに剣を渡し、それを握らせた。
先日の剣の召喚術を除けば、初めて剣を握るハートにとって、それはずっしりと重く感じられた。
「まずは基本の構えからだ──両手で柄を握れ。こうして……」
ウィンクルムが手取り足取り一からハートに剣の扱い方を教えていく。
「そのまま真上に振り上げて──真下に切り下ろす。まずはこれを練習しよう」
「はい」
ウィンクルムの教え方は丁寧で優しかった。
ハートはウィンクルムの指導に従って、剣の振り方を一つ一つ覚えていった。
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