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ゆっくり時間~お互いの話

「えーっ、そうなんですか!」

「ふふ……」 

 どこからか聞こえる軽やかに弾む声。

「──ん……」

 女の子たちの楽しげな話し声に、ハートは目を覚ました。

「──あっ、起きた?ハート」

 ベッドから身を起こしたハートに、リルフィリアとウィンクルムが顔を向ける。

 二人はリルフィリアのベッドに並んで座って何か話をしていたようだ。

「ごめんね、ぐっすり寝てたから起こさなかったの」

「宿の主人が朝食を届けてくれた──はやく食べるといい」

 見ると大部屋の中に配膳台が運び込まれていて、上に朝食の乗ったお盆が三つ置かれていた。二つはすでに空になっていて、リルフィリアたち二人は先に朝食を済ませていたらしい。



「今日はどうなるんでしょう?」朝食を食べたハートがウィンクルムに相談する。

「ゲーンズ隊長の迎えを待つしかないが、そろそろ君たち二人の保護者の方も心配しているだろう……」

「あっ……」

 そこでハートは自分が居候させてもらっている居酒屋の主人クラフトのことを初めて思い出した。

 ハートはクラフトに、これまで何の説明もしていない。昨日、学校を無断で休んでリルフィリアの見送りに行った際は、夕方までには戻るつもりであったが、一連の出来事でずっと音信不通のままだ。

 夜になっても帰らないハートをクラフトは心配──もといハートはどこをほっつき歩いているのかと怒っているかも知れない。

「隊長によると、二人の保護者には知らせは行っているらしいが」

(やばい……どう言えばいいんだ……?)

 ウィンクルムはそう言ったものの、ハートは彼にどう説明したら昨日のことを理解してもらえるだろうかと、億劫な気持ちになった。

「ハートには両親がいないと聞いたが?」するとウィンクルムがハートにそう話しかけた。

「あ、ウィンクルムさんに私とハートのこと話してたんだけど、良かったかな……?」

 隣のリルフィリアが少し申し訳なさそうに言い添えた。

「いいけど……」

 両親がいないことを今は特段気にしていないハートは、平然と頷く。

 ハートの両親はハートが物心つくずっと前に不幸な事故で命を落としたと聞いていた。

「リルフィリアから少し聞いたが、自分で働きながら学校に通っているとは、立派なものだ」ウィンクルムはそう言ってハートを誉めた。

「あ、いや……」

 少しくすぐったい気持ちになってハートが首を振る。

「こんなにゆっくりした時間も今までなかったことだし、お互いのことを話さないか?」

 ウィンクルムがそう切り出した。

「あっ、はい!」

 ハートは快く頷いた。



 そこから三人は隣り合うベッドに向かい合って腰掛けて、お互いの身の上や、これまでの生い立ちについて話をした。

 ハートはウィンクルムに、自分が孤児院育ちで、あるときリルフィリアと出会い、そして魔法学校に通うことになったこと、また普段は学校生活と夜の居酒屋の手伝いの二足のわらじの日々を送っていることなどを話した。

 対してウィンクルムは、王都生まれで、父親は王都の騎士で、母親は魔術師というなんとも優れた血統であった。

「だから魔法と剣の両方を使えるんですね」とリルフィリアが納得する。

 ハートは間近では見ていなかったが、ウィンクルムが先の戦いで見せた魔法を併用した剣術のルーツは彼女の両親の血と教育にあるのだろう。


「へー、王都の……」

 お互いのことを話して、三人がだいぶ打ち解けた頃、話がウィンクルムのこれまでの経歴──王都にある騎士の育成学校を出て十六歳で騎士団へ入隊したという──を経て彼女の現在の年齢に及んだ。

「──えっ、ウィンクルムさんって、まだ二十歳なんですか?!」

 ハートが彼女の年齢に驚く。

 きりっとした大人の雰囲気と際立つ美貌を持つウィンクルムは、もっと歳上の女性かと思っていた。

「俺たちと四つ違うだけなんですね……まだ二十歳なんだ……」

 ハートが独りごとのように小声で反復する

 十六歳の自分たちとそう変わらないぐらいの若さなのにどうしたらそんなにも風格を出せるのだろう──ハートはあくまで、そのような意味合いで言ったのだが──

「……ん?」

 不意に流れた沈黙に気がついて、ハートがきょとんとする。

 見るとリルフィリアは「あ……」と口を開けて隣のウィンクルムをちらりと見ている。

 当のウィンクルムは、目を細めてハートに向かって微笑んでいるが、その笑みはなぜかひんやりと冷たい。

「──『まだ』?」

とハートの言葉をつまみ取るウィンクルム。

 獣の尾を踏んづけたような危険な予感……

「いやっ、なんでもないです」

 ハートは急いで前言を撤回した。

  


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