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事情聴取⑤──マグナスについて

「先生、というのは訓練場に倒れていた彼らのことだな?」

「はい」ハートが頷く。

「では、あの大きな音や光は君が彼らと戦っていたからだと……そういうことか?」

「はい」

 そこからゲーンズは、シャルロッテの『ヒューマンテイム』について詳しく訊ねてきた。

 ハートたち三人は、それぞれ分かることを答える。

 シャルロッテはかなりの数の人間を同時に操っていたこと。 その一部は、シャルロッテから独立してウィンクルムたちを訓練場に連れてくるという遠隔的な使役──複雑な命令を守らされていたこと。彼らは、傀儡のように体だけを操られるのではなく、正気を失わせてその意識自体を操られていたこと。

「む……」説明を受けてゲーンズが考えこむように顎に手を当てる。

「『ヒューマンテイム』とやらの術……兵士たちを一部隊ごと、そして複数の教師たちを操るとは……並の使い手ではない」

「全くだ……」ウィンクルムも唸る。

 目の前の出来事に必死だったハートたちも改めてシャルロッテの能力を客観視し、その異様さをしみじみと実感した。

「そして、君は一人で魔法学校の教師たちと戦うことになったのだな?」

 ゲーンズがハートに問う。

「はい。シャルロッテが二人を人質にとっていて、言う通りにするしかなくて」とハート。

「六人もの魔術師相手に、どうやって戦ったのだ?」

「シャルロッテは、昼間、魔物相手に俺が戦ったのを知っていたらしくて、そのときの剣をまた召喚するのを期待していたみたいです」 

「なるほど」

「それで、俺は召喚術を唱えたんですけど、うまくいかなくて……そしたらシャルロッテが、リルフィリアに魔法術をかけて、リルフィリアを苦しめて……」

「脅迫、といったところか?」

「はい──俺自身、あの剣のことは何も知らないからすごく困ったんですけど、とにかくリルフィリアを助けないと、って召喚術を唱えました──そしたら、魔法陣のなかから男の人が出てきて」

「男?」

「魔法使いの姿をした男の人でした──名前は……」

 そういえば彼の名前は何と言ったのだろう──ハートが今更ながら疑問に思った。

「──マグナス様です」

 説明に詰まったハートを助けるように、リルフィリアが口を開いた。

「マグナス……」

 ゲーンズとハート、そしてウィンクルムが彼女のほうを見る。

 あの時、シャルロッテの魔法術に痛めつけられていたリルフィリアを救った魔法使いの男──魔術師マグナスは、リルフィリアの前で名乗りはしたが、それは他の者の耳には届いていなかった。

「何者なのだ?」とゲーンズがリルフィリアに訊ねる。

「神話によると、マグナス様は……神様に仕えると言われている天界の魔術師です」

「──天界だと?」

 ゲーンズが驚く。

「すまない、リルフィリア」

 するとウィンクルムが割って入った。

「その、マグナスという名前だが……私は──というよりここにいる皆、(あま)の国』を信奉しているだろうが、少なくとも私は聞いたことがない。……ハートは知っているか?」

 ウィンクルムに訊ねられ、ハートは戸惑い気味に首を振った。

「いや、俺も知らないです……」

 ハートたちは信じる『天の国』には、数多くの神々がいるとされる。

 『天の国』の信者は、大抵はそのなかの中心的な神を信奉しているのだが、マグナスという名前はハートも聞いたことがなかった。

「マグナス様は、神様ではなくあくまで神様にお仕えする方なので……」リルフィリアが控えめな口調で補足する。

「神話のなかでも、そんなに有名ではないといえばそうなのですが……でもやっぱり私たち、魔法術を修める人間にとっては大きな存在です。今、この世の中で使われている魔法術のなかには、マグナス様が人にもたらしたといわれているものも数多くありますから……」

「そうだったのか……私も多少魔法術を使うが、その名前を知らないでいた」

 ウィンクルムが自分を恥じ入るような、畏まった表情で呟いた。

(やばい、俺も知らなかった……)

 ハートも内心気まずくなって、表情を苦くする。

 リルフィリアと同じく、学校で魔法術を学ぶ立場でありながらその存在を知らないとは、我ながら情けない。

 魔法術の授業のなかであったっけ──ハートが記憶を巡らすも思い出せない。魔法術の起源や歴史といった小難しい話はそもそもハートの頭に入らなかったか、忘れてしまっていた。

(リルフィリア、神話の本とか熱心に読んでたしなぁ……)

 ハートは日頃勤勉な彼女の姿を思い出す。

 ハートは魔法術自体には大いに興味関心があったが、神話に関する書籍──分厚くて、しかも中身も何のことを言ってるかよくわからない──は敬遠してしまっていた。

「私も恥ずかしながら知らないのだが……」ゲーンズが口を開く。

「その、マグナスという方は、どういった存在なのだ?──天使とか、精霊の類か?」

「難しいんですけど……」リルフィリアが答える。

「天使さま自体ではないんですけど、天使さまに並ぶ存在とされています」

「彼は人の姿をしていたが、天界の存在でありながら、彼は人間なのか……?」と今度はウィンクルムが疑問を口にする。

 確かに端から見る分には、マグナスは神聖なオーラを発してはいたものの、その姿はハートたち人間とそう違わぬものだった。

 天界に存在すると言われる神や天使は、もっと形而上の──人間の世界では存在しないような姿形をしているはずであるというのがハートたちの認識だった。

「マグナス様は、人の姿をした神格的──あっ、でも神様ではないから、超越的な存在といわれています。あるいは、人の前に姿を現すときだけ、人の姿をするとも……」

「なるほど……」

 リルフィリアの説明を受けて、彼女を除く三人が、深く頷いた。

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