聖なる雨
リルフィリアが右手を胸に当てて目を瞑る。
「聖なる水よ──」
呪文を詠唱し始めた瞬間、リルフィリアの体から、水色の光が波動となって周囲に走った。
ハートの着ているローブがその衝撃を受けてぶわっとはためく。
(すごい魔法力だ──)
リルフィリアの穏やかで静かな佇まいとは裏腹に、リルフィリアに憑依した水の精霊『ウンディーネ』は、凄まじい魔法力を放って辺りの空気をびりびりと揺らす。
「罪の子を無垢に還せ──」
リルフィリアから一筋の細い光が、力強く輝きながら瞬く間に天に昇る。
そしてその光が中心となって、上空に巨大な青の魔法陣が出現した。
「──『イノセント=ティア』」
魔法学校全体を覆う巨大な魔法陣が輝きを放つ。
そしてそこから、無数の光の粒が雨のように降り始めた。
「これは……?」
魔法陣から落ちてきた『それ』が一番先に当たったのはハートであった。
小さな光の粒が、淡い水色に輝きながら降ってきたかと思うと、ハートの腕に落ちたそれはぽっと光の波紋を広げてすぐさま消えた。
雨のようでありながら、しかしハートの体を濡らすことなく消えていった光の粒。それらが周囲に無数に降り始め、地面に小さな光の波紋を広げては消えていく。
(きれいだ──)
聖なる水が雨となって降りそそぐ幻想的な風景に、ハートは心を奪われて辺りを見回す。
そしてその光の雨は、ハートたちの先にいた魔法学校の教師たちの所にも届き始めた。
教師たちもハートと同様に、何が起きたかといわんばかりに辺りに顔を向けていたが、間もなくして光の雨がその体に降りかかる。
すると、教師たちの体から紫色の影がぼっと立ち上ったかと思うと、それらはとたんに虚空へと霧散していった。
そして始めに五人の教師たちが、力を失ったようにぱたりぱたりと地面に倒れていく。
──シャルロッテの『ヒューマンテイム』が解けたのだ。
最後に魔法学校の校長もまた、光の降雨を受けて地面に倒れた。
聖なる雨は、教師たちをシャルロッテの呪縛から解き放った。




