憑依、水の精霊
ゴッ!!
巨大な火炎魔法『プロミネンス』が、校長の放った巨大な流星を真っ正面から迎え撃った。
その超高熱の炎が、流星をその表面から、『溶かす』という域を超えて物質自体を消滅させ始める。
「ぐっ──」
流星に向けて杖を掲げたままのハート。
『プロミネンス』の放射は発動した後も続いていた。
膨大な火炎の噴流が、魔法陣から怒涛の勢いで放出される。
「くっ──」
じり…じり…とハートの足が滑る。その強烈な反動に押し負けないように、ハートは懸命に堪える。
「ハッ──ハッ──」
巨大な炎を放ち続けるハートであったが、息をしようとして苦しい表情になる。
すべてを焼き尽くす大炎が、空気中の酸素を取り込んで、周りは酸欠状態になっていた。
「ハアッ───」
びりびりと肌を焼く熱線。
息苦しさに耐えかねて、思わずハートは口を大きく開いて空気を取り込もうとする。しかし──
「ア"ッ──!!」
その瞬間、揺らいで見えるほど熱された空気がハートの喉を焼いた。
「ゴホッ!──ぐっ……」
こっちの身が持たない──『プロミネンス』のあまりの威力に、ハート自身も苦しくなる。
それでもハートは、術を中断するわけにはいかなかった。
流星を完全に燃やし尽くすまでは、『プロミネンス』を止めるわけにはいかない。
(まだだっ)
ギリと歯を食い縛り、空に杖を掲げ続けるハート。
橙色の魔法陣がひとまわり大きく広がって、拡張されたその光輪から、まるで噴火のように爆炎が溢れた。
「おおおっ─────!」
ハートが、力を限界まで振り絞る。
『プロミネンス』の炎が、ビブリアの空を煌々と赤に染める。
──ゴオオ……
その炎の末尾が空に消えて、ビブリアの夜空がもとの闇を取り戻したとき、壊滅をもらたす流星は、欠片の一つも落とすこと叶わず炎の中に消えていた。
シュウウ……
熱された周囲の地面から蒸気が上がる。
「ハッ──ハッ──」
校長の流星を迎撃したハートであったが、その場に崩れ落ちてしまう。
苦しい──体が渇望する空気を吸い込もうとするも、焼けた喉に激痛が走り、うまく呼吸できない。
片膝を地面につき、杖で体を支えるハート。
「あっ──」
酸欠でぐらりと視界が歪む。
とうとう力を失い、ハートが地面に両手をついて倒れた──その時だった。
パアッ──
ハートの体を、後ろから広がってきた光の波紋が通り抜けた。
「──っ?!」
淡い水色の光が、『プロミネンス』に焼かれた地面を覆い伝っていく。
ハートの体を心地よい潤いが包み、熱に赤くなっていた肌が冷まされた。激痛の走る喉も癒されていく。
「──リルフィリア……?」
その異変に、ハートがおもむろに後ろに顔を向ける。
その先に『彼女』はいた。
視線の先にいた彼女──青い光の柱の中から現れたリルフィリアは、その姿を変えていた。
その瞳は普段の碧色ではなく、水青の光を帯びて水宝玉のように輝いている。
その身には、水色の光が羽衣のように漂っていて、光のヴェールを纏ったその姿は神秘的で、まるで天女のようであった。
青の魔法力が彼女の周辺を淡く照らす。
リルフィリアは、水の精霊『ウンディーネ』をその身に憑依させたのだ。
「……」
その美しさに目を奪われるハート。
「ハート」
そんな彼に、リルフィリアが優しく微笑んだ。
──いけ、リルフィリア。
ハートが頷き、リルフィリアが穏やかにその唇を動かした。




