サバン・オブジェのその後
個人的にサバンさん、結構好きです。
サバン・オブジェさん、あんたサブタイトルに名前使われすぎじゃね?
「ったた……」
まだ痛む腹部を押さえながら、俺は身体を起こす。
どれくらい気絶していただろうか。そもそも、いつ以来だろうか。自分が殴られるのは。
人気のない廊下の窓から射す街頭の光を浴びながら、ぼーっとこれまでを思い返す。
▽
自分はこう見えて、至って普通……いや、普通より少し恵まれた環境で育った。恵まれていたというのは、経済的にというだけではない。
両親の魔術師としての才能を受け継いだからだ。
父は優秀な冒険者で、困難な依頼も単独でこなしていた。
母は父が後にパートナーとして誘い、優秀な支援役として活躍した。
そんな二人は今、冒険者を引退してのんびりと自営業をしている。いや、のんびりという余裕があるのかわからないが、自分はそう見える。
普段はのほほんとした二人だから、偶に本当に凄い冒険者だったのかと疑いたくなる。が、所属していたギルドの記録に二人の活躍が残っていたのを見せてもらったので信じている。第一、自分が優秀なのはその才能が自分にも受け継がれているのだから、疑っても仕方が無いことではある。
とまあ、そんな父と母の元で俺は、悪くない普通の生活を送っていた。
父と母に魔術を教わったのはいつ頃だっただろうか。
今となっては俺が教わろうとしたのか、それとも二人が進んで教えてくれていたのか。覚えていないが、現在となってそれは確実に、しかも大きく俺を成長させてくれていた。
物覚えの良い俺は、二人に褒めてもらうのが嬉しくて一生懸命魔術の知識と技術を身体に叩き込んだ。勿論二人は、あたらしく一つ魔術を披露する度にめちゃくちゃ褒めてくれて、褒められすぎて疲れてしまうこともあった。でもそれはとても嬉しかった。
普段はとても優しいが、魔術のことになると子供扱いしないでとことん真剣に教えてくれる父。
父と俺を常に心配し、でもやはり魔術のことになると人のことは言えない母。
大好きな二人を繋げてくれた“魔術”も、俺はどんどん好きになっていった。
俺が少し大きくなった頃、夢ができた。
冒険者になること……ではなく、魔王軍の騎士になる夢を持った。
きっかけは単純だった。
魔王様の凱旋パレードの時に見た、威風堂々と城へ向かう騎士達に圧倒されたからだ。
それを両親に話すと、二人はそれだったらと言って、直ぐに学校へ通わせてくれた。
俺が入学した所は、そこそこ名のある学校で、まだ小さい子供たちが魔術を習うために通う所だった。
俺はとてもワクワクしていた。どんな新しい魔術を教わることが出来るのか。自分と同じくらいの歳でどれくらい自分より優れた者がいるのか。
そんな期待を胸に、俺はこの学校の門をくぐった。
しかし、俺は落胆した。
レベルの低すぎる授業、ワイワイとうるさいクラスメイト。
ガッカリだった。
そしてある日、俺は父に言った。
どうしてあんな学校通わせたの
父は困ったような笑みを浮かべた。実はこの学校、そこら辺では一番レベルの高い指導をしていると評判の所だったらしい。
そして俺はますます肩を落とした。
そんな俺に父は言った。
お前はまず、自分の今いる地点を知りなさい
何を言っているのかわからなかった。
それもそうだ。当時の俺はこの歳で多数の魔術を習得し、この学校以外のどこかにはそんな人がごろごろと存在していると信じていた。
しかし、次の父の一言で俺は変わってしまった。
お前ははっきり言って天才だ。今のうちは実力をあまりさらけ出してはいけない。損するだけだ。
それを聞いた俺は、初めて自分が特別な存在であることを知った。
今思い出してみればそこからだ。そこから俺は常に内心で人を見下すようになった。
ひとつ上の学校に通うようになり、容姿の良い俺には女性も集まってくる。実習では無双状態。俺は調子に乗った。調子に乗ってしまった。
一年前、この学院に入学した俺は、一人の美人な学生をナンパした。その女性の名は、アレシス・モルド。
笑ってしまう。馬鹿な俺はこの学院最強の人に声をかけてしまっていた。
勿論ふられた。
初めてナンパに失敗し、ムキになった俺は無謀にも彼女に決闘を申し込んだ。
内容は、俺が勝ったらアレシスと付き合う。負けたらなんでもする。
軽く動きを封じこめて実力の差を思い知らせてやろうと、俺は彼女へ向かった。
結果は言うまでもなく惨敗だった。
顔面へのストレート一発で伸びた俺は、彼女が立ち去る姿を見ることすら出来ずに地面へぶっ倒れた。
初めてだった。初めて両親以外に負けた。しかもたったひとつ上の女性にだ。
悔しい。
これも初めてだった。初めて芽生えたこの感情に身を任せ、俺はさらに自分を磨いた。家では、今までチャラかった息子が急に昔に戻ったぞと父と母が大喜びしていたが、今は関係ない。ただあの人に勝ちたいという目標が見え、そして勝って改めて自分が強者だと証明してみせる。
学院での生活はあまり変わることは無い。強いて言うならば、腕に自信のある生徒達に片っ端から勝負を仕掛けて勝っていく。それだけだ。ああ、あと一つ。アレシス・モルドに近づくために生徒会にも入ったんだ。まあ、別にこれはどうでもいいけど。
そして今に至った俺は、新しく目をつけた二人……ツダ・アカネと、レオ・フォンバートに絡んだ。
正直この二人は、今まで出会った中でもかなりの強者の部類に入る。俺も負けるかもしれない。
しかし、ここで負けてはアレシスになど到底追いつけるはずがない。
そしてついに、先程レオに勝負を持ちかけた。ツダはあまり無駄な勝負はしたくないらしく、面倒そうな表情をしていたのでとりあえず挑発をかけてみた。
……結果、ツダに腹パンされ、一発で伸びた。
あの時とほぼ同じだ。
唯一異なる点は、アレシスが顔面を殴ったのに対し、ツダは顔面を狙って殴ろうとしたが、腹へと移動させたことだ。
慈悲とでも言ったら良いのか。
悔しい。悔しいはずだ。
しかし、なぜだか目が覚めたような気がする。
俺はアレシスに勝つことだけを目指してきた。だが、他にも強い奴はいた。
これを望んでいたではないか。
小さい頃、周りの実力に不満で自分だけが飛び抜けていた。それで俺は完全に有頂天になっていた。
しかし、今やっと実感した気がする。
これこそが俺が一番望んでいた環境なんだと。
「……つか、誰も俺を起こしてくれなかったのね」
思い出にふけり今までの自分を思い出し、関係ない愚痴をこぼす。何となく感じる恥ずかしさを誤魔化す為に。
「帰るか」
帰ったら俺は満足げに笑い、大好きな両親に俺の居場所が出来たと自慢してみよう。
負けたと言ったら驚くだろうか。天才と言われた俺みたいなやつが結構いるんだぜ?
楽しみだなぁ。
ようやく自分を見つめ直すことが出来たサバンは、自分を増長させないと誓いながら廊下を歩く。
その姿は堂々として、幼少期の自分が見たならば、自分の夢である騎士そのものであった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
アレシスさんにツダ君、魔術使わないで戦うのやめてもらえます? ただ殴るだけとかサバンさんが可愛そうだから……




