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さまーばけーしょん

 襲撃から一夜明け、俺らの学院は少し早く夏休みに突入した。


 襲撃を食い止め、生徒達を眠りから覚まさせると直ぐに混乱が起きた。

 それを学院長が抑え、事情を説明して皆を帰宅させた。

 勿論、俺が皆を眠らせたことは、学院長がやったということにした。


 そして、先程学院から生徒宛ての手紙が届いた。


 その内容が、少し早めの夏休みのお知らせだった。

 理由は思っていた通り、襲撃の影響で校舎の修復が必要だったためであった。

 損傷はあまり酷いものではなかった。しかし夏休みも近く、修理もゆっくり、そしてしっかりとやりたいということで、どうせならもう夏休みにしよう。ということになったのだ。



 「ふわぁ〜」


 てなわけで、それを確認した俺は、二度寝をするところだ。


 「これ、いくら休みだからとだらけすぎは良くないぞ」


 俺が眠りにつこうとすると、リリィが部屋に入ってきてポンと頭を叩いた。


 「うぅ、わかった」


 まだ眠たかったが、リリィにそう言われては仕方ない。


 「おはようなの!」


 ヴァンピィが未だ起き上がらない俺に、ポスンと乗っかってきた。


 「はい、悪魔的可愛いスマイル頂きました」


 と言いながらヴァンピィを抱っこして、リリィと朝食を食べるため、下に向かった。


 


 今日の朝食は目玉焼きだ。あとサラダ。


 「「「「いただきます(なの)」」」」


 因みに今回は、久々にアルバートも一緒だ。


ーーー最近ずっと空気だったな


 と思いつつ、目玉焼きをご飯に乗っけて、箸で黄身を割った。



 「うまそ」



 とろーっ、と黄身が割れ目から流れ、ご飯に染みていく。


 「ゴクリ」



 それから、醤油のような“なにか”を垂らす。


ーーーちょ、これ本当に目玉焼きだよな?


ーーー《私が見る限りではそうですね》


 俺にはそれが、まるで神秘の輝きを放つ史上最高の料理に見えた。



 「よし」 


 何故か、食べるのに異常に緊張してしまう。


ーーーでは、ひと口……


 そして、俺は目玉焼きをご飯と一緒に、口へ運ぶ。


 「はむ…………うっ!!」



 美味い。美味すぎた。



 口へ運び、少し噛むと、


 じわぁ……


 っと、卵本来の甘み、とろみ、そして旨みが口いっぱいに広がった。白身もまたプリプリとした食感がたのしい。


 そして、醤油のような“なにか”だが、これはめんつゆにちかく、少し薄い感じであった。

 それが、卵の旨みを邪魔することなく、また新たな旨みとして誕生するのであった。


ーーー……っべぇ、昇天しかけた


 そう汗を拭うふりをしながら、ふとアルバートを見ると……


 「う……うまぁい」


 目を、カァ! っと開き、そう静かに呟いた。

 と、思ったら、いきなりガツガツと食べ始めた。


 それを見て俺は、


ーーーふっ、わかってないな……じっくりと味わうものなのだよ。これは


 と、何故か得意げにそう思った。


 「次は、サラダ」

 

 と言いながら、レタスのようなものを頬張る。


 「うん、美味いっ」


 みずみずしく、シャキシャキという食感が心地良い。

 かかっていたドレッシングは、青じそのような味がしていくらでも食べられそうだ。


 そんな感じでゆっくりと食事を堪能していると、


 「おかわりなの!」

 「おかわり……頂けますか?」

 

 ヴァンピィが元気よく言い、アルバートが遠慮がちに言った。


 「うむ、沢山食べるのじゃぞ」


 と、リリィが言い二人の分のさらにご飯をよそう。


 「あ、リリィ様っ、私にやらせてください!」


 アルバートがリリィにそう言った。


 「良いのじゃ、これから他のものよりもしこたま働かせるから、今のうちにたんと食べるのじゃぞ」

  「ありがたき幸せ……」  


 リリィの優しさ(?)にアルバートが涙を流した。


ーーーそれにしても、うめぇな……


 と、呑気にそう思っていると、


 「おかわりなの!」  

 「おかわり!……ください」


ーーーはやぁ!! 二人とも、さっきしたばっかだろ!?


 二杯目から数秒でおかわり、という早わざを見せられた俺は


ーーーああもう! これじゃあ無くなるわ!


 と、さっきまで思っていたことは忘れて、俺もまた夢中でがっつくのであった。



 ▽


 「や、やべぇ……動けない」


 食べ過ぎて動けずにいる俺を尻目に、


 「おにいちゃん、いっしょにあそぶのー!」

 「では、私は参ります」


 俺よりも食べていたはずなのに、何事もない様子の二人。


ーーーあの二人の胃袋はブラックホールなのかよ……


 あ、ちなみにヴァンピィが俺のことを“おにいちゃん”と呼ばせているわけだが、これは若干願望が混じっているとはいえ、仕方ないことであった。




 ――昨日――


 襲撃が終わり、城へ帰った俺はまずリリィに事情を説明した。

 そしてリリィは、侵入者を防ぐために、城の守りを固めるようアルバートに指示した。

 

 で、ここからが本題だ。


 リリィがヴァンピィとお風呂に入り、俺が部屋でゆっくりとしてる時であった。


 タタタタタッ


 「ん?」


 突然足音が聞こえ、それが聞こえてくるドアの方に視線をやる。

 すると、


 バン!


 「パパー! 上がったの〜」


 素っ裸のヴァンピィが、俺に飛びついてきた。


 「うお! ……ったく、可愛いなぁ〜。ヴァンピィは」


 まだビッチョリと身体が濡れていたが、可愛いので気にしない。


 すると、



 「これっ、またんか!」



 リリィが来た。

 バスタオルで身体は隠していたものの、際どい。

 

 「まだ拭き終わって……」


 そして俺と目が合う。


 「パパとママ、顔真っ赤なのー!」


 そりゃそうだ。こちとら思春期真っ只中の男子と、うぶな乙女なのだから。


 「で、でもよ、パパとママって?」


 俺が視線をヴァンピィに移し、恥ずかしさを誤魔化すように聞いた。


 「んー? だってヴァンピィを産んでくれたのはパパで、パパのおよめさんがママだからパパとママなの」


 ヴァンピィが“何言ってんのこいつ”みたいな表情をして答えた。


 「いや、あってはいるけども……」

 「おおお、お嫁さんなんて……言ってないからな! まだ言ってないぞ! ヴァンピィには」


ーーー言ったんだな


 リリィのわかりやすい嘘に呆れつつも、可愛らしいと思いながら、


 「でもな、パパとママは実はまだ結婚してないんだ」


 と言った。


 「けっこん?」

 「結婚は、パパとママがちゃんとパパとママになる為にすることなんだ」

 「じゃあ、いますればいいの」


 ヴァンピィがにぱっと笑いながら言う。


 「ははは……でもな、今はちょっと難しいんだ」

 「なんで?」

 「いろいろ忙しいんだ」

 「そうなの?」

 「うん」


ーーーあと、“もう一人の俺”のことも解決させないとな


  「じゃあ、パパとママのことなんていえばいいの?」

 「んー、じゃあ、取り敢えず今はお兄ちゃんとお姉ちゃんって言ってくれ」

 「うんっ、わかったの! けっこんするまでは、おにいちゃんとおねえちゃんってよぶの!」


 ヴァンピィが元気よく返事をした。


ーーー《マスターの願望が入ってません?》


ーーーき、気のせい気のせい……





 話はそこで終わる。

 惚気話とか言われるかもしれないが気にしない。


 「なあリリィ」


 腹の調子も良くなった俺は、リリィに声をかけた。


 「ん? どうした」

 「あのさ、いまって結構忙しそうじゃん?」  

 「うむ、かなりな」


 リリィが深刻そうな顔で言う。


 「そして俺は夏休みでやることが無い」

 「そうじゃな」

 「だからさ、なにか手伝えることないかな」


 いくらリリィに安全が保証された生活が送られると言われても、いつもお世話になっているこの魔王城になにか役に立ちたいと思っていた。


 「ならぬ、お主はもう危険な目に遭わなくて良いのじゃ」


 やはりそう言われた。


ーーーやっぱり真面目で、優しいな


 「でも、俺がやりたいことなんだ。お世話になっている魔王城の皆に少しでも役に立ちたいんだ」

 「ふむ……」


 俺がそう頼むと、リリィが考える仕草をした。


 「なら、だいぶ危険な仕事になるが……それでも良いか?」

 「ああ、頼む」

 

 俺は真面目な顔をして言った。


 「わかった。じゃが……必ず帰ってくるのじゃぞ」


 リリィも力強くそう釘をさした。


 「で、仕事は?」

 「アルネスの森の調査じゃ」

 「アルネス?」


 初めて聞く名前に首を傾げる。


 「うむ、その森の様子がちと妙なのじゃ」

 「具体的には?」

 「なんというか、魔力の流れがおかしいというか……我にもよくわからんのじゃ」

 「なるほど、その森の様子を調査すればいいんだな?」

  「うむ……気をつけるのじゃぞ」


 リリィの表情から察するに、結構やばい森であると感じた。


 「ちなみにあの森は、お主がこの魔界に迷い込んできた時にいた場所じゃ」

 「マジか……ってことは、人間界に繋がる何かがあるかもしれないってことか」


 俺がそう呟くと、


 「そうなれば、アカネは行ってしまうのか?」


 リリィが、寂しそうにそう言った。


 「なわけねぇだろ。ただ、あのスーン王国の調査もできる可能性だってある」

 「なるほど」

 「ま、心配すんな! 必ず帰ってくるからよ」


 こうして俺は、“始まりの場所”であるアルネスの森の調査へ向かうことになった。

 

いつも読んでいただきありがとうございます!

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