#98 バルバリス砲とリガンド公爵の援軍
無事に外に逃げ出した次郎吉たちだったが目の前に外を監視していた軍人たちが光速のソーサリーファクトで道を塞いできた。このままぶつかっても意味がないと感じた次郎吉は電磁誘導で移動先を変えたが相手も光速のソーサリーファクトを使いこなす軍人だ。一方的に先回りをされてしまう。
「鬱陶しい! っ!?」
そしてここで次郎吉は背後のルカ要塞から嫌な気配を感じ取り、次郎吉が振り返ると次郎吉に謎のマークが付く。
ルカ要塞ではロイゼン司令官の指示でバルバリス王国の最新魔道兵器が次郎吉たちに狙いを定めていた。
「ソーサリーファクト起動! 目標捕捉しました!」
『バルバリス砲! 発射しなさい!』
「は! 発射!」
バルバリス砲は大砲タイプのソーサリーファクトだった。通常の大砲とは異なり、砲弾には金属で覆われたマナ結晶が使われており、火薬の代わりに火属性の爆発魔法と同時に火の上級魔法が使われている。
その結果、バルバリス砲はまるで炎の竜の口に宝玉を加えているように見える。そしてバルバリス砲を確認した軍人たちは一斉に引く。彼らの狙いは兵器発射のための時間稼ぎと雷速を止めて、次郎吉に狙いを定めるための動きだった。
「く!?」
次郎吉が雷速で逃げ出すが炎の竜はとんでもない速度で追尾してくる。
「この印のせいか!」
追跡魔法で敵をロックオンし、砲弾がぶつかるまでに追い続ける。これがバルバリス砲だ。本来なら次郎吉は雷速なので逃げ出せる。しかし発射を見てから逃げ出したことで差がほぼ無く、更にジクザクに動いたことで距離が逆に縮まってしまった。
(逃げられてねー! どうする? こんな魔道兵器、俺っちのソーサリーファクトじゃ受けきれねーぞ。ソーサリーファクトをぶつけるしかねーか? いや! ぶつけられるものなら他にもある!)
次郎吉がいるのは空だ。本来なら自分が持っている物以外に壁となるものは存在しない。しかしルカ要塞の空に限っていれば障害物はあった。
次郎吉は電磁誘導を空を飛んでいる監視のソーサリーファクトに使用し、バルバリス砲に向けてぶつけた。次の瞬間、超爆発が発生し、炎が空から降り注ぐと地面が炎に包まれた。
マナ結晶がぶつかった衝撃で割れて、砲弾とマナ結晶の空間に充満されてあった火の魔力と反応し、砲弾をぶっ壊すほどの大爆発を発生されると更に外のマナとも連鎖反応して爆発が広範囲に広がり、火が地面に落下する結果となったのだ。
「鼠小僧!?」
「がは!?」
「きゃあ!? へ? わたしくを庇って? だ、大丈夫ですか!?」
キャリコが叫ぶ中、次郎吉の身体は無数の灼熱を帯びた金属片が体に刺さり、炎で背中が焼けたことで意識が飛びかける。次の瞬間、次郎吉の脳裏にプラムとコーネの声が響き渡る。
『旦那様!』
『ジロキチ!』
「っ!」
空で燃えながら落下する次郎吉はここで意識を取り戻すと雷速のソーサリーファクトを起動し、脱出ルートに逃げ出した。
「よかった……って安心している場合じゃなかったわ!」
それを確認したキャリコも我に返る。軍人たちが兵器から逃げ出したことでチャンスと見て、雷速で脱出を図る。
しかしそれを確認した軍人たちも光速のソーサリーファクトで次郎吉たちを追跡する。流石に速度では光速には勝てない。次郎吉も兵器の直撃を避けた上に痛みを肩代わりするソーサリーファクトと魔力を吸収するソーサリーファクトである程度のダメージを軽減されたがそれでも全てを軽減されることが出来ずダメージを受け、今も次郎吉の背中は燃え続けている。
正直意識を保っていないのが不思議なレベルである。そんな満身創痍な次郎吉に向かって軍人たちが迫る。
その次の瞬間、軍人たちが光速で割り込んできた何者かたちに攻撃を受けた。
「く!? 敵の追手か! な!? その漆黒の騎士鎧は!?」
「ちょっと待て!? どういうことだよ! なんでこんなところに王族新鋭騎士団がいるんだ!?」
軍人たちを攻撃したのはバルバリス王国の騎士の中でも王族の護衛を任務とする最強騎士団だった。これがリガンド公爵が手配した援軍である。
「敵? 異なこと言うな? プリマ王女を監禁し、命さえ奪おうとする汝らこそが国家の敵である。そして我々は王族の盾であり、王族の敵を滅ぼす剣なり」
「悪いがお前たちをここから先へは行かせはしない」
「我らが罪。ここで一つ贖罪させて貰う!」
そういうと王族新鋭騎士団はルカ要塞の軍人に攻撃を仕掛け、ルカ要塞の軍人もこれに対して応戦する。
本来なら王族新鋭騎士団は王がいる城から離れることはない。しかし今は王は城にはおらず、王族唯一の生き残りがいる場所を知ればそこに駆けつけるのが彼らの仕事であり、義務だ。
ただ偽物がいる中、動くのは難しい。それを可能にしたのがリガンド公爵の発言力であり、彼らは軍事クーデターから王族を守れなかった大罪を背負っている。ここでプリマ王女が死ねばもう取り返しがつかなくなる。彼らはこれ以上、失敗をしないために命がけでここに駆けつけたのだ。
こうして追手を振り切った次郎吉は湖を見つけると脱出コースを変えて湖に着地し、自分の背中の火を消す。
「んぎ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
火傷を負った状態で水に入ったのだ。とんでもない激痛が走り、次郎吉は意識を失う。次郎吉に抱きかかえられていたプリマ王女は慌てて、次郎吉を支える。
その時にプリマ王女は次郎吉の顔を見ることが出来た。その顔には誰も成功できない泥棒に成功した犯罪者の笑顔が浮かんでいた。
「……助けてくださりありがとうございます」
プリマ王女の目を瞑り、顔を次郎吉に近づける。そんなときだった。キャリコが背後に着地する。その顔は怒りに満ちていた。
「ちょっと……何をしようとしているのかしら? この王女様は?」
「ふぇ!? こ、これは違います! 助けていただいたお礼をしなければいけないと思っただけでして」
「ほーん……」
キャリコの視線が突き刺さり、プリマ王女は気まずくなる。自分でも自分の行動に驚いているくらいなのだから脳内は大混乱中だ。そんな彼女にキャリコが近づくと次郎吉を抱え込む。
「今は言い争っている場合じゃないわ。これからあなたをリガンド公爵の元に連れていきます。いいわね?」
「リガンドお爺様の元に? ではわたしくの助けに動いてくれたのは」
「リガンド公爵よ。彼の助けが無かったら、あなたを助けることは出来なかったわ。会ったら、ちゃんとお礼を言いなさい」
「は、はい! もちろんです!」
こうしてキャリコは事前に設定した合流場所に向かい、まずは自分の執事に合流すると魔道車に乗って、リガンド公爵の元にプリマ王女を届けることに成功する。
「まさか本当にルカ要塞からプリマ王女を救い出すとはな……お主たちにはとんでもない恩が出来てしまったな」
「あたしへの恩はラピーシア王女にあげてください。彼女の決断が無ければあたしたちが動くこともありませんでしたから」
「お主がそれでいいならそうするとしよう。既に国外脱出の手配は済んでおる。急ぐとしよう」
「お願いします」
リガンド公爵の手配でバルバリス王国の騎士団がシルファリッド王国側の要塞都市を襲撃したことで無事にプリマ王女と次郎吉たちはバルバリス王国から脱出することに成功したのだった。




