#94 キャリコの予告状とウィンバース宰相の策略
次郎吉が一度仕掛けた日の翌日の夜、バルバリス王国の新聞社からルカ要塞に手紙が届けられる。そこにはこう書かれていた。
『6日後の深夜。バルバリス王国の国宝プリマ王女を頂きに参上させて貰うわ。怪盗キャリコ』
これを見た要塞のロイゼン司令官は手紙を握りしめて地面に踏みつけて怒りを露わにする。
「一体どこのどいつですかね? こんなふざけた手紙を送って来るのは!」
「記者の話によるとシルファリッド王国で有名な怪盗らしい。なんでも正体が先日地位を剥奪されたファリース侯爵の娘らしいですよ。我が国とどんな繋がりがあったのかは不明ですが侯爵ほどの地位なら王族と関りがあっても不思議ではないですね」
部下からの報告を聞いた若く細身が特徴的なロイゼン司令官はここで一度落ち付き、眼鏡を触ると口を開く。
「つまりこいつと王女が友好関係にあって、今回の一件に口を出して来たってことですか……」
「どうしますか? ウィンバース宰相に報告しておきますか? 単独犯のつもりでしょうが元侯爵なら国際問題になると思いますが」
「そうですね。この要塞の情報を売ったスパイもいるようですし、報告はしておきましょう。ウィンバース宰相なら上手にこの情報を使うでしょうしね。くくく」
こうして怪盗キャリコの情報が王都にいるウィンバース宰相に届けられた。そしてウィンバース宰相も手を打って来た。作戦実行日の昼になんと王都でプリマ王女が現れて、国民向けに演説をしたのだ。
内容的には今までの王族の行いの謝罪とウィンバース宰相への感謝の言葉と共にウィンバース宰相に国内政治の全てを任せるという内容だった。
これを既に作戦実行のために行動を開始していた次郎吉たちはリガンド公爵からの通信のソーサリーファクトでこれを知り、慌てることとなる。
「どういうことよ! これ! プリマ王女はルカ要塞に捕まっているって話じゃなかったの!?」
『私にもわからない。しかし息子たちからの通信の情報だ。王都でこの動きがあったのは確実と言っていい。既に王女を操り人形にしており予告状を見て、王女を移動されたという話になると思うが……』
「それはない」
次郎吉が自信満々で答えたことでみんなが次郎吉に注目する。代表してキャリコが次郎吉に聞く。
「どうしてそんなことがわかるのよ」
「俺っちがバルバリス王国の監視のソーサリーファクトを使って、ルカ要塞を監視しているからさ。まさか自分たちのソーサリーファクトの中に敵の手に落ちたソーサリーファクトが紛れ込んでいるとは考えられなかったみたいだな。お陰でここ一週間のルカ要塞のことをよく知れたぜ?」
次郎吉が自慢げに映像のソーサリーファクトを取り出すと今現在のルカ要塞の映像が映し出された。これが次郎吉が一週間前に森から帰る前に仕込んだものだ。
そして次郎吉の言葉にリガンド公爵は戦慄する。次郎吉が手に入れた監視のソーサリーファクトは完全に軍事兵器に入るものだ。当然守りは厳重な上に簡単に使えるような代物ではない。それなのに次郎吉は自分が使えるように逆に改造して敵のソーサリーファクトの中に紛れ込ませたのだ。
普通の人間がこの短時間にやっていい芸当ではないがアーベルトの技術を受け継ぎ、日々精進してきた次郎吉ならではの芸当だった。そしてこんな人間が犯罪者をしていることに王族関係者としては戦慄せずにはいられなかった。
普通に軍事施設の監視をしているソーサリーファクトが敵の手に落ち、軍事施設を逆に監視されでもしたら軍事情報が筒抜けになるし、城を守っている監視のソーサリファクトが敵の手に落ちていたら、王族の情報が筒抜けになる。そうなると暗殺のリスクが跳ね上がるから次郎吉の腕前に戦慄するのは無理もない。
そんなリガンド公爵の様子を放置して次郎吉は話を続ける。
「それにルカ要塞から王都までかなりの距離が離れている。予告状を見てから移動させたとしたら時間が合わない」
『確かに魔道車を使っても間に合いそうにないな。しかしそうなると王都での王女の話がおかしくなるぞ』
リガンド公爵の問いに次郎吉が答えを返す。
「簡単な話だろ? どちらかの王女が偽物なんだよ。そもそも考えて見ろよ。操り人形を作るより自分の命令に忠実な王女の偽物を用意したほうが貴族たちを支配しやすいんじゃないか?」
『それは……確かにそうか? 操り人形にされれば誰かは確実に気づくか。もちろん操れていようが王命なら従うしかないが不満は溜まる結果にはなる。その点、正気の王女からの命令なら納得はいかずとも不満は残らないだろう』
「だろ? しかもこれでルカ要塞を王女の監禁場所に選んだ理由もよくわかった。この作戦は王女を監禁し続けなければならない問題点がある。誰にも知られることなく王女を監禁し続けられる場所としては最高の場所だろう。逃げ出したとしても海は使えば確実に封鎖され、南には王都がある。左右に逃げ先を絞れるなら部隊の展開は簡単だ。そのためにちゃんと左右には要塞都市がある」
次郎吉は地図を広げてキャリコたちに見せると要塞都市の位置を指差す。その要塞都市の位置は次郎吉の言う通りちょうどルカ要塞のほぼ左右にあった。要塞都市ということは軍事クーデターを起こしたウィンバース宰相の支配権にある町と言える。つまりルカ要塞は完全にウィンバース宰相の勢力に包囲されているような場所の要塞だった。これを知ったその場にいる全員が次郎吉の指摘に納得を示す。
『なるほど……全てはこの日のために準備してきたことだったというわけか』
「ちょっと待って。それなら王女を救出して王都に連れて行けばいいじゃない。それで偽物だと証明できればウィンバース宰相の悪だくみもこれで終わりになるんじゃない?」
確かにキャリコの指摘には一理あるように思えるが次郎吉はそれを否定する。
「相手は本物のほうを偽物と言って来るぞ? しかも監禁された王女がどうやって自分が王女だと証明するんだ? この感じだと王女を証明する何らかの物を偽物の王女が持っているから全員が本物の王女だと思っているんじゃないのか?」
『それは正解だ。他国の人間にそれを教えることは出来ないが王族を証明する物を存在している。それを持たれている上に王女の私物を全て押さえられたら、姿が同じなら王女だと見分けるのは不可能ということだ。身近な者ならボロも出るだろうが王女の周囲に偽物じゃないかと疑う人間を置くわけがない』
今回の騒動は長年ウィンバース宰相が計画し練り練った計画だ。簡単に潰せたら誰も苦労はしない。しかしリガンド公爵にもちゃんと考えがあるようだ。
『鼠小僧殿が言うように現時点では逆転は不可能と言っていい。しかしプリマ王女が成長したら逆転する手は打てる』
「つまり私物を全て奪われた上で成人すれば自分が正当な王族だと証明する手段があるわけだな?」
『あぁ、そういうことだ……しかしこれはバルバリス王国の王族しか知らない情報となる。もし知られたら、間違いなくプリマ王女は消されることになるだろう』
「打つ手がない王女なら放置しても大丈夫ってこと? でもそれなら今殺しても問題ないんじゃないかしら?」
確かにキャリコの言う通りではある。しかしこれには大きな問題が発生することをリガンド公爵が指摘する。
『あ奴がプリマ王女を殺せない理由はいくつかある。まず死亡すれば王女が何者なのか市役所ひいては王族や貴族たちに知られることになる。バルバリス王国の身分証明は極めて厳重だ。身元不明な存在がいること自体が不自然なほどにな』
「他国の密偵対策か?」
『そうだ。それがあやつを苦しめる。身元不明な死体があれば徹底的に身元を調べ上げるからな。もしそれでプリマ王女本人だとバレたりしたらウィンバースは身の破滅だ。しかも偽物を使うならどうしてもいつかバレる可能性がある。その時のための保険はどうしても必要だ』
結局プリマ王女の死か行方不明が確定すると王族の権利は公爵であるリガンド公爵たちに行くこととなる。そうなるとウィンバース宰相はもう権力は使えない。だから自分の地位を維持できる存在は確保しておくしかないという感じだ。
それに王女を殺害がバレると当然ウィンバース宰相も王族殺害で死罪となる。まだ幼く政治に関われない王女が悪政していたから殺害したと言っても誰も信じないしね。
この話を聞いた上で次郎吉が今回のウィンバース宰相の狙いを話す。
「つまり今回の偽物作戦は自分に都合よく動けるようにすると同時にプリマ王女を操り人形にするための時間稼ぎでもあるという感じか?」
『偽物の話が事実ならそうなるな。逆に言うとプリマ王女はまだウィンバース宰相の手に落ちていないということにもなる』
キャリコの予告状が効果的に発揮された結果なのかは次郎吉たちは知る術がないがプリマ王女の無事を確信できたのは次郎吉たちにとってはいい話となる。逃げ出す上で要塞都市に対しても策略を練らないと行けなくなったがそこはリガンド公爵が手配してくれることとなり、これで遠慮なく次郎吉たちはルカ要塞に対して仕掛けることが出来るようになるのだった。




