#90 毒蛇の暗殺者
ウィンバース宰相の追手から逃げ出すために次郎吉たちは生き残っている『アルバ』のメンバーを連れて魔霧の森に向かった。
次郎吉は森に入る前に一人でエルフたちと交渉するために魔霧の森に入る。
「誰だ? ここは我々エルフの森だ。人間はすぐさま立ち去れ」
「俺っちだよ。ダークエルフのプラムと一緒に暮らしている次郎吉だ」
「おぉ! あんたか!」
次郎吉はなんとかエルフと接触することが出来て村に通されると村長たちにバルバリス王国で今起きていることを伝えるとエルフたちも深刻な顔となる。
「では今バルバリス王国で実権を握っているのはかなり過激な人間という理解でよろしいですかな?」
「はい」
「ここが戦火に包まれる可能性は高いと思われますかな?」
「正直高いと思います。しかしすぐにというわけには行かないはずです。暫くは国を完全に支配下に置くことに専念しなければならないはずですから」
いくらクーデターを起こしたからといっても国王派の人間は数多くいるはずなのだ。彼らの対応もしないことを考えるとエルフから手を出さない限り動くことは無いだろう。そのことを伝えるとみんなホッとはしたがエルフたちも来たる戦争に準備をすることが決定した。
そしてビオラとフェルと生き残った『アルバ』のメンバーは次郎吉の交渉のお陰で無事にシルファリッド王国に入ることが出来た。これで次郎吉も自由となる。
「まずは王女の行方を探らないとな。一応ビオラからウィンバース宰相が所有している土地の情報と王女が監禁されている可能性が高い場所の候補は貰っているが時間もないしある程度あたりを付けて探るしかねーか」
次郎吉は魔霧の森を出て、野宿と宿屋での宿泊を繰り返す。残念ながら宿屋の宿泊は簡単にはいかない。何度もウィンバース宰相の騎士団やソリスが現れては襲撃してきたが次郎吉は気配を察知して先に逃げ出すのを繰り返した。
「くそ!」
「また逃げられた……探せ! 我が国で泥棒を繰り返している犯罪者だ! 何としても探し出せ!」
しかし次郎吉は他人の家に隠れたり、下水道に逃げ込んだりを繰り返して悉く騎士団との駆け引きに勝利する。もっともいつも勝つわけじゃなかったが景色に同化するソーサリーファクトで綺麗に騎士団たちの追撃を逃れていた。
そして次郎吉が次々プリマ王女が捕まっている場所の候補地を潰しているとその道中の夜の山道で次郎吉は殺気を感じてその場から飛んで逃げると何者かが落下してきて両手に持った二本の短剣を地面に突き刺した。
すると地面から紫色の煙が上がる。
「毒か」
「ヒヒ……あぁ。そうだよ~」
いきなり襲い掛かって来たのは根暗そうな男の子だった。彼は黒のスカーフをしており、口元だけ隠している。そんな暗殺者の姿が消えると次郎吉は後ろに飛んで躱し、木の枝の上に飛び乗る。すると暗殺者は下向きながら何やら体を震え出す。
「フフ……フフフフフ! ボクの攻撃を二回も躱されたのは始めてだ!」
彼らの目は狂気と喜びに満ちていた。この瞬間、次郎吉は彼のヤバさを認識する。
(こいつ……暗殺大好きな愉快犯だな。完全に狂ってやがる! ッ!? 来る!)
次郎吉の目の前から暗殺者の姿が消えた瞬間、次郎吉も後ろに下がる。すると次郎吉がいた場所に暗殺者が現れると次郎吉を追撃する。これに対して次郎吉は森の木を利用して飛び回るが暗殺者も次郎吉と同じように飛び回って襲い掛かって来る。
(俺っちと同じタイプの暗殺者か! 相性最悪だな)
暗殺者からすると同じタイプの人間で一方的に殺せる状況なら圧倒的に有利となる。違うタイプなら次郎吉は逃げ切れる自信があるのだが次郎吉と同じタイプで次郎吉の動きに完全に対応されたら、通常の手は使えない。
(ソーサリーファクトを使うしかないがどうしたものか)
次郎吉のソーサリーファクトはなるべく王女の誘拐に使わないといけない状況だ。使いすぎると肝心の犯罪の時にソーサリーファクトを使えなくなる。そうなるとほぼ詰みだ。相手は国家権力を掌握しているぐらいの権力者。当然セキュリティも最新技術だと思うべきだからだ。
(最小限のソーサリーファクトで逃げ切るしかねーが……こいつもソーサリーファクト使いなんだよな)
暗殺者は靴のソーサリーファクトで速さを上げている。この他にも足首と手首にソーサリーファクトがあるのを次郎吉は視認しており、簡単に動けない。しかしこのままだと次郎吉が殺されるのも時間の問題となっている。つまり次郎吉が仕掛けるしかない状況だ。
「ハハ! ッ!?」
次郎吉は逃げると同時に服のポケットから取り出したソーサリーファクトを起動させて、その場に落とすと追撃ばかりしていた暗殺者が閃光に包まれる。次の瞬間、次郎吉は靴のソーサリーファクトを起動させて雷速で森の中を移動する。
目くらましのソーサリーファクトと雷速のソーサリーファクトの合わせ技だ。ただこれはかなり危険な行為だ。
初見の森で雷速での移動は一歩間違えば木に激突。下手をすれば枝が人体を貫くことだってあり得る。しかし次郎吉はそうはならなかった。その理由が暗殺者との追いかけっこをしている時に周囲の森を一周したことで森の地形を把握したからだ。
しかしここで雷速のソーサリーファクトの弱点が露呈する。閃光が収まった後に稲妻を暗殺者が視認し、次郎吉の逃げ先を把握されてしまった。その結果、追跡を可能にしたがが暗殺者は次郎吉を見失う。
「く……どこにいった! ボクに斬らせてくれよー!」
(ふぅ……上手くいった。相手が馬鹿で助かったぜ)
次郎吉のスライムのソーサリーファクトで自分の片足の靴のソーサリーファクトを回収する。次郎吉はわざとある程度距離を取ると自分の靴にスライムのソーサリーファクトをくっつけた状態で蹴り捨てた。その結果、雷速の靴は自動で飛んでいき、木にぶつかって、地面に落下する。
その稲妻の動きを追ってしまったことで暗殺者は隠れている次郎吉を気付くことなく、靴を飛ばした方向に向かったのだ。後はくっつけたスライムのソーサリーファクトで引き寄せて回収すればいい。相手の思考を読み、相手を欺き、逃げ切ることこそ泥棒の真骨頂だ。ここでの駆け引きは次郎吉の勝ちと言える。
次郎吉は靴を履くと暗殺者が向かった方向とは逆の元の山道に戻り、目的地に向かおうとした瞬間、次郎吉は遠方からさっきまで感じていた殺気を感じ取る。
(俺っちの位置がバレた!? どういうことだ? ん!? なるほど。そういう仕組みか!)
次郎吉は視線を感じて夜空を見ると謎の飛行物体を発見した。あれで次郎吉の動きを補足されていたのだ。次郎吉が空を飛び上げるとそのソーサリーファクトを掴んで手袋のソーサリーファクトでハッキングすると魔力ラインを使って魔力バッテリーに侵入し、魔力を外に放出させることでソーサリーファクトの電源を落とした。
その後、次郎吉は森の中に落下し気配を消したが暗殺者が腕のソーサリーファクトを起動させた瞬間、次郎吉に向かって短剣が飛ばされる。
次郎吉は上に逃げて、山道に戻ると暗殺者も短剣を回収して次郎吉の目の前に降り立つ。
「へへ……君は鼠らしいね? 僕は蛇だ。毒蛇のボクティネ。さっきは逃げられたけど、次はもうないよ」
「蛇ならその腕のソーサリーファクトは熱感知か」
「へへ……正解。君は逃げ足が速いだけじゃなくて頭もいいんだね。えへへへへ……斬りごたえありそう!」
蛇の中には赤外線センサーのような熱を感知する器官を持つ蛇がいることを次郎吉はアーベルトの修行時に知識の一つとして知っていた。
簡単に言うと暗殺者はサーモグラフィを使って、次郎吉の位置を特定したということだ。これなら気配をどれだけ消したとしても意味がない。そして暗殺者も手加減が無かった。愉悦に浸っている顔をした瞬間姿が消えると次郎吉の目の前に現れる。
「終わり」
次郎吉の首に短剣の刃が迫る。次郎吉はとっさに手に持っていた自分を監視していたソーサリーファクトでガードしようしたが間に合わないことを悟る。
(まずったな)
次郎吉は自分の死を覚悟するのだった。




