#89 プリマ王女亡命依頼
次郎吉がラピーシア王女の依頼が届いたのはちょうどバルバリス王国国王の死去のニュースが報道された一日後でちょうどフェルに依頼されていた透明マントを納品した後でバルバリス王国にある『アルバ』の拠点でビオラから直接話を聞くこととなった。
「おいおい……何度も言うが俺っちは泥棒であって誘拐犯じゃないんだぞ? その手の話はそっち専門の奴に依頼しろよ」
「残念ながらそこらの誘拐犯よりあなたのほうがずっと実力があるのはもう証明させちゃっているのよね」
「そっちがその系統の仕事を回してきたからだろうが」
「仕方ないじゃない。プラムさんの時点で実績が解除されているんだもの」
次郎吉の誘拐の始まりはプラムだという事実を突きつけられると次郎吉は何も言えなくなった。ここでビオラが次郎吉に今回の仕事の依頼の報酬の話を出す。
「王女は今回の依頼ではなんでも支払うつもりらしいわ」
「なんでもなんて簡単に言うべき言葉じゃないことぐらい教えてやれよ。お前の全てをくれとか言われたらどうするつもりだよ」
「その時は怖い側近の騎士様があなたを殺すわね」
「支払うつもりねーじゃねーか! だがなんでも要求していいんだな?」
次郎吉の目が鋭くなる。これに対してビオラははっきりと答える。
「えぇ」
この瞬間、次郎吉はこの先の未来のことを考えて決断する。
「そうか……ならちょっと待て。王女宛てに手紙を書く。お前さんは中身を見ずに王女にそれを届けてくれ。この約束を守れないならわかっているな?」
「分かっているわよ。それにしてもあたしにも聞かれたくない内容なのね?」
「あぁ……誰にも知られちゃいけない報酬内容だ。それに今回の依頼と同じくらい王女にリスクがある。これで俺っちは王女の今後の覚悟を確かめさせてもらうつもりだ」
次郎吉はラピーシア王女の覚悟がぶれていることに気が付いている。自分の家族の悪事を知ってしまったのだ。覚悟がぶれるのは当然と言える。しかしその覚悟がぶれたままいるといずれ『アルバ』にも悪影響を及ぼす。依頼主の覚悟がぶれるというのはそういうことだ。
だから早いうちにラピーシア王女の覚悟を確かめる必要性が出てきた。そして次郎吉の言葉でビオラも次郎吉の狙いに気が付き、次郎吉に心の中で感謝する。これは本来ビオラや周囲の人間がするべきことだ。しかしながらラピーシア王女はまだ子供で大きな責任を背負わせるべきではないと判断していた。
しかし次郎吉は彼女がもう責任を背負えるぐらいの大人になっていると評価した上で今回試すことにしたのだ。また相手は子供だとしても王族だ。気軽に言える立場に残念ながらビオラや騎士たちはいない。結果として自分たちがしたくても出来なかったことを次郎吉がしたので、ビオラからしたら感謝しかない状況だ。後はラピーシア王女が次郎吉の手紙を見て、どんな決断をするかとなる。
そして次郎吉がラピーシア王女宛ての手紙を書いてビオラに渡したことでまだ報酬を貰えるかわからないが形式的には今回の依頼を受ける形となる。
「本当にいいのね?」
「あぁ。ただ流石の俺っちも何も情報なしでは無理だぞ?」
「分かっているわ。ただあたしたちもそこまで情報を得られていないの。ただ時間が無いのも確かなのよね」
「少なくとも装備更新に拠点に帰っている時間はないな。魔力バッテリーを頼めるか? 俺っちが買いに行くのは色々まずくなりそうだからな」
「そうね。準備も含めて出来る支援はしてあげるわ」
次郎吉たちが準備に動いた頃、バルバリス王国でまた大きなニュースが飛び込んできた。
『戴冠式でバルバリス王国でクーデター発生! 主犯はウィンバース宰相。次期国王夫妻を国家反逆罪で死刑判決を下し、その場で処刑! なおプリマ王女はまだ幼く無罪となった』
国王の国葬が終わり、次期国王に任命するための戴冠式で軍事クーデターが発生したのだ。しかもそこで国王になるはずだった国王夫妻を国家反逆罪でその場で処刑したというとんでもないニュースが入って来た。これを見た次郎吉とビオラは言う。
「おいおい……動きが早すぎるだろ……」
「国王の死は誰が見ても秒読みだったんだもの。準備を整えていたのは当然ね」
「国王夫妻を死刑して子供は生かして操り人形……予想通りの動きではあるな」
「そうね。この動きは予想出来ていたけど、プリマ王女がウィンバース宰相に捕まったのは誤算だわ。次期国王夫妻は動かれる前に先に逃がすつもりだったでしょうから」
プリマ王女を逃がしたくはないウィンバース宰相からすると王族として確実に参加しなければならない国王の国葬とその後の戴冠式を狙うのは当然の判断と言えた。それにしても大胆不敵にもほどがある。それが出来るだけ国の力をウィンバース宰相は掌握していたということだ。
「つまり俺っちはまたどこかに捕まっている人間を盗み出さないと行けなくなったわけだ」
「そういうことね。一応『アルバ』の密偵は放っているから何かしらの情報を得られることに期待しましょう」
しかしそれからしばらくしても密偵が帰って来ることは無かった。
「気付かれたな」
「えぇ……流石軍事国家ね。守りの硬さもそうだけど容赦もないわ」
「むしろ今までがぬるかったんだよ。実権をウィンバースって奴が握ったことで今までのようには行かなくなったとみるべきだな……ビオラ、一度『アルバ』のメンバーを引かせた方がいいんじゃないか? このままだと全員国家反逆罪で捕まるか死ぬぜ?」
次郎吉の忠告を受けてビオラは『アルバ』の所属メンバーを他国に避難するように指示を出す。それと同時に次郎吉はビオラを連れてフェルの秘密の工房の一つに逃げ込んだ。
この次郎吉とビオラの判断は正しくビオラのお店に軍隊がやって来て、逃げ出した『アルバ』のメンバーが国境の検問に引っ掛かり、その場で処刑される。これを見て逃げ出した密偵の一人がなんとかビオラたちと合流し、状況を報告した。
「ただの従業員でも容赦なしみたいね……あたしが甘かったわ」
「僕も他人事じゃないですね。工房のいくつかを騎士団に抑えられました。というか爆破されましたね。僕を捕まえて色々作らせる気満々といった感じでしょうか。最悪です」
「人に命令されて作ったものほどつまらない物はないからな」
「本当にそう思いますよ。自分たちの行為が技術者の創造力を殺していることにどうして気が付かないんでしょうね」
酷評の嵐だが、次郎吉たちの現状は大変よろしくない状況だ。
「ビオラとフェルに聞くがシルファリッド王国に逃げ込むことは可能か?」
「正直僕は難しいですね。というかここもいつバレるかわからないくらいに追い詰められています」
「あたしもいくつか逃走ルートを用意していたけど、読まれている気がするわ」
ウィンバース宰相が徹底的にやる主義だと分かった以上、スパイやフェルを簡単に逃がしてくれるはずがなかった。
「なら比較的安全な逃げ先を俺っちが用意してやるよ」
「そんな場所、あったかしら?」
「あ、なるほど。次郎吉さんだからこそ通れる場所がありましたね」
流石に現地のフェルは気が付くが早かった。そしてフェルの言葉でビオラも理解する。
「魔霧の森があったわね」
魔霧の森はバルバリス王国とシルファリッド王国の国境線を超えている森でバルバリス王国でもここに検問を引くことは出来ない絶対不可侵領域となっている。
「あぁ……あそこからならエルフの支援があればシルファリッド王国に直接入れるはずだ。もう狙われているならわざわざ検問所を通る必要もないしな」
今までは検問所を通って自分たちが不正をしていないと証明する必要があったが相手からもう既に犯罪者として扱われているなら不正を証明する義理もない。堂々と不正出国させてもらおうと次郎吉は考えた。そしてこれにはこの場にいる全員が同意する。
「そうね。でもジロキチはどうするのかしら?」
「俺っちは仕事があるから魔霧の森まで一緒に行った後、別行動でバルバリス王国に潜伏させて貰う」
現状で次郎吉がまだ仕事をやる気になっていることに二人は驚き、ビオラは言う。
「正気? 現状であなた仕事する気なの?」
「当然だろ? 俺っちを誰だと思っているんだ? 指名手配までされた大泥棒の次郎吉様だぜ? この程度で泥棒を諦めるくらいなら最初から泥棒なんてしてねーよ。それよりもそっちも頼むぜ? 王女の報酬が確定しない限り俺っちが本格的に動くことはしないからな?」
「はぁ……わかっているわ。ならあたしの仕事は何とかしてバルバリス王国にいるあなたに王女の手紙を届けるのが今回の仕事ってことになるわね」
ビオラとフェルはこの状況を楽しんでいる次郎吉の姿を見て、改めて次郎吉は天性の犯罪者だと認識するのだった。




