#85 カナリが選んだ道
ガルザたちが怪我は受けた者がいるが全員無事に村に帰還すると残っていた村人全員に代表してガルザが完全勝利を報告すると村人全員から歓声が上がる。彼らの喜んでいる姿を遠目で見ていた次郎吉とプラムにサヤが話しかけてきた。
「ジロキチさん、プラムさん。今日の勝利は獣人の歴史において村に一切の被害を出さなかったのは恐らく初の快挙です。代表者としてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます」
「俺っちたちのソーサリーファクトを評価してくれた言葉として受け取っておく。それよりも大変なのはこれからだぞ? どうやら俺っちたちの戦いを見ていた者が何人かいたみたいだからな」
流石に人間の軍隊が動いたとなると他の獣人からすると自分たちが狙われているかもしれないと考えて警戒するのは当然だ。狙っていなかったと知ったとしても狙いを落とした後についでに周りも狙う可能性もある。
実際にこれまでのビャク王国だと何度も複数の場所を標的に攻撃を行ったことがあった。その結果、この山にいる今回の戦いに関係がない獣人たちは遠目で確認しないわけには行かなかった。
「気付いていたんですね」
「仕事がら視線には敏感でね。しかも色々良くない視線がたくさんあった。俺っちもそうだがサヤもこれから交渉するときは気を付けろよ」
「私は分かりますが次郎吉さんも狙われているんですか?」
「俺っちが人間なこともあるが基本的には俺っちを殺して人間の技術を奪うのが目的だろう。そんな簡単に技術を盗めたら誰も苦労しないんだけどな。しかしそんなことさえ何も知らない奴らが何をしてくるか正直わからない。直接ソーサリーファクトを盗もうと狙う奴もいるだろう」
ソーサリーファクトの起動ならやり方さえ覚えれば獣人なら誰でも起動できる。となればソーサリーファクトを盗んで自分たちの村に設置するのを狙う者はいるだろう。
ただ魔力が全て無くなってしまうと起動の魔力がないため防衛のソーサリーファクトは起動することが出来なくなる。しかも魔力バッテリーもソーサリーファクトも消耗品だ。使い続けていたらいずれ壊れる。だから魔力を供給する者とメンテナンスを行える者が必要不可欠となる。サヤの村でいうとプラムと次郎吉がその役割になっているわけだ。
ソーサリーファクトを盗んでもその場しのぎとなり、次郎吉とプラムを失えば防衛のソーサリーファクトはいずれ壊れてしまう。それらを知っていれば現状次郎吉たちは獣人に狙われることはない。しかし人間への悪感情とそれらを知っていない状況だとどういう行動に出るかわからないというのが次郎吉の本音だ。
因みにサヤの命が狙われるのは村の代表者を倒すことでサヤの村を逆に取り込もうとすることが考えられる。これは獣人の仕来りのようなものだ。動物の世界でもリーダー同士が戦い勝った者が相手の群れを取り込む。これと似たことが仕来りとして残っている。
これらを知ったサヤはこれから他の獣人の村の長たちを相手に自分たちの戦果と自分たちの強みを活かして色々交渉することになる。
一方で次郎吉の方でも一つ決着を付けないといけないことがあった。カナリをどうするかだ。次郎吉は防衛のソーサリーファクトを起動された際に正しく起動しているのを確認した後、カナリの様子を伺っていた。
彼の目は希望と憧れで光輝いていた。それは子供らしい目の輝きと言えるが子供の誰でもその目が出来るかは別問題だ。次郎吉は人間に完全勝利した宴で村が連日騒いだ後、熱が完全に冷めたタイミングでカナリを呼び出した。
「俺っちが作った村を守ったソーサリーファクトを見て、どう思った?」
「凄かったです! 今まで村を襲っていた色んな魔法や火の矢を全部防いだ瞬間、色々な感情が溢れてきました! 今までボクたちは飛んできた物に対して直接止めるしかありませんでしたから。力を持たない母さんたちは体で止めていたほどだったんです」
家や家族を守るために自分から魔法にぶつかることで守っていたんだな。それが体を張る必要が無くなったのはカナリから見て凄い変化に感じたんだろう。
「これで誰かが傷付くことが無くなる。家が燃えることもない。ボクたちは大好きな村を捨てなくていい。色んな感情が渦巻いてただただジロキチさんが作ったソーサリーファクトはとんでもなく凄いものだと感動しました」
次郎吉が観察した通りどうやら初見では圧倒的に嬉しさや感動が勝ったらしい。問題はここからだ。
「そいつはよかった。だがカナリ、俺っちが言った言葉を覚えているか?」
「便利な物には同じように悪用方法がある。でしたよね? ボクもジロキチさんたちのソーサリーファクトを見た後にジロキチさんの言葉がずっと引っかかっていました」
「そいつはちょうどよかった。それなら恐らくもう答えが出せるな? お前が本当に俺っちのような技術者になりたいならお前はどんな技術者を目指す?」
「ボクは……村の人たちを笑顔にする技術者になりたいです! ボクがジロキチさんのソーサリーファクトから感じた感動とかをずっと村の人たちに与えるようになりたい!」
カナリは自分なりの言葉で真っ直ぐ次郎吉に向かって宣言した。次郎吉もカナリの目を見て本心から出た言葉だと理解する。
「お前の気持ちは理解した。なら次の質問だ。お前が作った人を笑顔にするソーサリーファクトがもし悪用されたらどうする?」
「その時はボクは悪用した人を許したくはありません。だってその使い方をボクはして欲しくありませんから」
「うむ。それは悪用した人を懲らしめなければならないという話でいいか? もしそれならお前は懲らしめるためのソーサリーファクトを作るしかなくなるが?」
これは子供が決断するのはかなり重い決断だ。しかしいじめを経験しているなら考えられるはずだと次郎吉は判断した。そしてカナリはこれに対して決断する。
「……いいえ。作りません。その時はボクが自力で自分のソーサリーファクトを奪い取ります」
「ソーサリーファクトを使わず自分の力で奪い取るってことか?」
「はい」
「それはなんとも獣人らしい考え方だな」
人間でも強い人間ならその決断が出来るがなかなかその決断が出来る者はいない。しかし獣人ならある程度戦える。しかもその言葉が戦いが苦手な者から出たというのはかなりの覚悟をしたはずだと次郎吉は思った。
「お前の覚悟は分かった。なら最後の質問だ。お前が前提としていじめてくる者を懲らしめるソーサリーファクトを作ったら、どうするつもりだ?」
「ボクのこと知っていたんですね……確かにボクと同じような気持ちをあの人たちに味合わせたい気持ちはあります。でも、今はそんなことよりも笑顔にするソーサリーファクトを作りたいです。彼らに使う時間は勿体ないと思っています。それでいつか作る時が来たらその時はジロキチさんへの裏切りだと思うので、どんなことになっても受け入れるべきだと思います」
カナリの言葉に次郎吉は笑う。
「ははは! 復讐したい気持ちを認めた上で時間が勿体ないと来たか! 実に技術者らしい答えだな。そしてもし道を外したときはちゃんと責任を取る覚悟をしているか……いいだろう。とりあえず合格点をくれてやる」
「ってことはボクを弟子にしてくれるんですか!?」
「あぁ……だが俺っちはまだお前を完全に信用しているわけじゃない。それはこれからお前が俺っちから色々学ぶ過程で残りの信用を勝ち取って見せろ」
「は、はい! これからよろしくお願いします!」
こうして次郎吉は初めて弟子を取ることになるのだった。




