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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
動乱編
84/93

#84 サヤの村、襲撃

GWの連続更新初日です。今日から5月5日まで朝9時に更新しますのでよろしくお願いいたします。

ヤイバの指示の元、罠を次々発動し、ビャク王国の襲撃部隊は洞窟の中で一度進軍を止めた。罠を警戒しながら進軍したことで時間がかかってしまったのだ。夜での行動は基本的に人間側が不利なので攻撃を仕掛けられる場所が基本的に二方向に限定できる洞窟で夜明けを待つ判断は正しいと言える。


これを知ったヤイバは自分が残り、部下に敵部隊の情報を次郎吉たちに伝えて貰う。その情報を元に次郎吉たちは敵の戦力を分析する。


「初手は初見殺しだとしてもあれに魔法使いたちは対応できないか……プラムはどう思う?」


「魔術の発動は無理にしても風や水の魔法で吹き飛ばすなり、氷や土の魔法でガードすることは可能なのでそれをせずに逃げることを選んだのはちょっと疑問ではあります。ただ岩転がしの罠や他の落石の罠は破壊出てきていますし、弱い魔法使いというわけではないですね」


「純粋に瞬発力というか咄嗟の判断に難ありな感じなだけか。強い奴はいてもこれなら予定している作戦通りで勝てそうだな。もちろん油断は大敵だが」


「あぁ。いよいよ明日が本番だ。お前ら! 気合い入れていくぞ!」


ガルザの声掛けに戦士たちも大きな声で答える。そして運命の夜明けを迎えた。最初に動いたのはビャク王国だ。彼らは前日のミスはしないように天井を警戒しつつ、洞窟の出口を出て、部隊の陣形を整えた。そしてサヤの村に対して進軍する。


これに対して洞窟の出口手前の横道に隠れていたヤイバたちも動く。大岩を転がして洞窟の出口を封鎖した。これでビャク王国の部隊は逃げ道を失った。


ヤイバたちはその後、ビャク王国の部隊が洞窟に入って来た場所から外に出ると身体能力を生かして洞窟の上を上がっていき、奇襲部隊と合流を果たす。


それをヤイバたちが火を起こして発生させた煙で次郎吉たちも知る。そしてその煙にビャク王国の部隊は気づくことが無かった。戦闘前で前に意識を集中しており、自分たちの背後を気にする余裕が無かったのだ。


「どうやら上手くやってくれたみたいだな」


「相手が隠れている部隊を潰そうと動いてくれなくて助かったな」


隠れていたヤイバたちを排除に動かれていたら、相当危なかった。一応ヤイバたちは耳で相手の位置をある程度捕捉し、相手がどう動いているか分かった上で行動が取れる。その上洞窟の中は複雑ではないが迷路となっているので、逃げやすい。


ただ完璧かと言われるとそうではない。逃げ道を全て塞がれた上で追われて囲い込まれて詰む可能性は十分にある。その場合はヤイバに囲まれる前に強行突破するように教えてはいるが相手によってはそれが許されない可能性もあっただけに危険な仕事をさせてしまった。


最もヤイバは全て知った上でみんなを導く者として志願したんだけどね。そして見事に仕事をやり遂げた。最後の大仕事があるがヤイバたちが完璧な動いをしてくれたお陰で次郎吉たちの中ではほぼ勝利を確信している状況だ。


そして遂に村に向かって魔法が放たれた。複数の火球が飛んでくると次郎吉は防衛のソーサリーファクトを起動する。すると飛んできた火球は結界に触れると全て消滅した。これを見たサヤの村にいる獣人たちから歓声が上がり、ビャク王国の魔法使い部隊たちは驚きに包まれる。


「魔法が消えた!?」


「あれは結界か? まさか獣人の中にも魔法を使える者が存在していたのか!?」


「いや……恐らく獣人と一緒にいる人間の仕業だろう。別の魔法で攻撃を続行! 火矢も放て!」


しかし別の魔法も消滅し、火矢も結界に弾かれる。


「ダ、ダメです! あの結界、硬すぎます! びくともしていません!」


「魔法だけでなく弓矢まで弾くのか……こんな話は聞いていないぞ。シルファリッド王国の使者め。やってくれたな」


ビャク王国の隊長からするとシルファリッド王国の使者からある程度次郎吉の情報は得ていたがこの結界の話は聞いていない。そうなるとシルファリッド王国の使者が意図的に情報を隠して自分たちをはめたように思ってしまうのは当然と言える。実際はそんな情報シルファリッド王国の使者も持っていなかったんだけどね。


「ど、どうしますか? 隊長」


「……接近戦で直接結界に攻撃を加える。獣人たちが結界から出てくることが予想される。魔法使いたちはその獣人たちを狙え。行くぞ! 槍部隊突撃! 全軍俺に続け!」


隊長はここで総攻撃を指示した。これは結界の種類が魔法の無効化を意識して作れたものだと判断したからだ。実際に魔法と物理攻撃全てに対応した結界を作り出すのはかなり難しい。それこそ国家予算ぐらいのお金が必要となる。


流石に個人がそんなお金を持っているとは考えらない。ということはどちらを特化しているか考えると流石に魔法特化の結界だと軍事に関わる者なら誰でも判断する。


これに対してガルザたちも相手の総攻撃に答える。


「いくぞ! お前ら! 気合いを入れろ! 今までやられていった仲間、家族の無念をここで晴らす!」


「「「「おぉー!」」」」


槍で突撃してきた部隊に対してガルザたちは結界から飛び出すと槍をあっさり剣で弾き飛ばすと隙だらけとなった槍持ちを斬り裂いて倒す。ここで後方で待機していた魔法使いたちがガルザたちを狙うがここで魔法使いたちの後ろの山からとんでもない身体能力で降りてきたヤイバたちが現れて、自慢の脚力を生かして一気に魔法使いたちに襲い掛かる。


「がら空きだぜ! 魔法使いども!」


「へ? がは!?」


「背後からの奇襲だと!?」


「「「「うわーーーーー!?」」」」


奇襲に驚いている隊長の前に仲間たちが空を飛んで落下してきた。前を見ると大剣を大振りして得意げに構え直すガルザの姿があった。前衛を担う軍人がガルザの大剣の一振りだけで纏めて吹っ飛ばされたのだ。


「ば、化け物……」


「……なんだ? あの獣人」


「今、俺は何をされたんだ?」


大剣をぶん回してそれを武器で受けただけで後方に吹っ飛ばされるとは普通は思わない。実際に何が起きたのか現実を直視できない者が現れるほどだ。しかし流石に隊長を任されたほどの男は違った。冷静に武器を構えるとガルザとぶつかる。


流石にガルザを相手にパワー勝負はせずに攻撃を躱した後のカウンターを狙う。しかしそのカウンターも大振りした勢いのまま回転したガルザの蹴りに阻まれ、武器は蹴り飛ばされて、隊長は回転しながら後方に吹っ飛ばされる。


とんでもない飛び方をしたが逆に後方に弾き飛ばされて助かったと言える。追撃に出たガルザに対して援護の火矢が飛んできたことでガルザは追撃せずに大剣で火矢を落とす選択をした。


「武器を貸せ!」


「は、はい! しかし隊長! もう部隊がバラバラです! このままだと全滅します!」


副官も優秀だ。この状況下でちゃんと部隊全体を見て状況判断できるのは凄い事だったりする。ましてや負け戦状態なら尚更ね。


実際にヤイバたちに奇襲を受けた魔法使いたちは襲われている仲間を放置して逃げ出している。魔法使いたちの中には距離を取れた段階でヤイバたちに魔法を放つ者もいたが獣人が簡単に魔法に当たってくれるなら魔法使いたちは苦労しない。


ヤイバたちは魔法を躱すと当然魔法を放ったことで位置バレした魔法使いたちに襲い掛かる。こうなるともう魔法使いたちに対抗する手段はない。もしここで自分たちを守ってくれる盾持ちの部隊がいたら状況はだいぶ違っただろう。護衛がいない魔法使いがどれだけ弱いが証明したと言える。


こうなると隊長としては決断しなければいけない。そしてこの戦いを任せられた隊長は今やるべき選択をよくわかっていた。


「……武器を失った者は引け! 我々が経験したことを本国に伝えるのだ!」


「わ、わかりました! 隊長。ご武運を」


「任せておけ! お前も生き残った者たちのことを頼んだぞ」


「お任せください。引くしかない者は私に続け! 後方の奇襲部隊を叩いて退路を確保する!」


自分の武器を隊長に渡した副官が撤退の指揮を取る。ここでヤイバたちに狙いを定めたのもいい判断だ。これに対してヤイバたちは応戦せずに一度引いて相手に退路を与えた。それを見た副官は不思議に感じた。


(ここで退いた? 何故だ? この戦闘は自分たちの勝利で決まりだから深追いはしないつもりか? いや、罠を見てもそんな優しい相手ではないはずだ。ならばここで退いたのには何か理由が)


洞窟のところまで逃げてきた副官が先に逃げ出した魔法使いたちが立ち往生している姿を見て、絶望する。


「退路を塞がれてましたか……これはこちらの完全な作戦負けですね。申し訳ございません。隊長。あなたからの最後の任務、どうやら果たせそうにありません」


彼らの後ろからガルザとガルザに合流したヤイバたちが誰も犠牲者を出さずに洞窟の前に陣取る。これを見た副官は隊長の敗北を理解する。隊長はガルザに戦いを挑んだがガルザに一方的に押し負けた。しかもヤイバたちが合流したことで撤退の時間稼ぎをしていた部隊は挟み撃ちに合い、全滅という結果で終わった。


副官は武器を持っていた者から武器を貰うと残った者たちでガルザたちに突撃する。結果はもう見えていた。残った者は十人ぐらい。しかも魔法使いが多い中、数でも獣人に負けている状況で勝つ可能性はほぼなかった。それでも彼らは軍人だ。最後まで戦う道を選んでビャク王国の部隊は全滅という形でこの戦いは終わるのだった。

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