#81 マナ結晶の使い道
翌日、次郎吉はサヤたちを集めて今、必要なソーサリーファクトについて協議することにした。そこで次郎吉は一つ案を出す。
「銭湯ですか?」
「あぁ……簡単に言うと大きなお風呂がある施設だ。本来ならお金を払って利用し、誰でも風呂に入ることが出来る。もちろん男と女は分けるが村人何人かでお風呂が入ることが可能だ」
「風呂は俺たちからすると助かるが……あぁ。家一つ一つに配置する余裕がないってことか」
「まぁ、ぶっちゃけるとそうなるな。昨日手に入れたマナ結晶を使えば結構大規模なソーサリーファクトが作れそうだったから他に優先する物が無いなら作るのも一手だと思う」
ガルザやヤイバは肉体労働しているので、風呂には入りたいだろう。サヤたち女性も風呂に入れるなら入りたいのが本音だ。しかし優先順位が高いかと聞かれるとそこまで高くはない。特にサヤは次郎吉にお願いしたいものがあった。
「食料や水を長期間長持ちさせるソーサリーファクトか……確かにそれは今すぐにでも欲しいソーサリーファクトって言えるな」
「保管していても腐ってしまってはどうしようもないというのが本音でして……」
「そりゃそうだ。問題はそれをどう実現させるかだが」
次郎吉がプラムを見る。こういうのは魔法に詳しいプラムに聞くのが一番となっている。プラムはエルフたちが行っている方法を教えてくれる。
「エルフの村では野菜などを凍らせて保管してますね。結界で閉じ込めて氷の魔法を使えば、温度の低さを維持することが出来ます。それをするとかなり長持ちしますよ。その代わりに鮮度は落ちてしまいますが」
つまりプラムが提案したのは冷凍保存する方法だ。現代においても冷蔵庫は食料品を長持ちさせるという面では必須の機械となっている。これが実現できれば籠城も少しはやりやすくなる。
「そこは気にする余裕がないから大丈夫だぞ。しかし結界か……それを使用するとそこに大切なものがありますよと敵に教えているようなものだからな。結界とは別の方法で低い温度を保つ方法を考えないといけないか」
現在食料は家ひとつをまるまる倉庫にしている状態だ。残念ながら木を繋ぎ合わせただけの家では隙間風がどうしても入ってきて温度を保つのが不可能となっている。一応土などで隙間を埋めることは出来るがそれは長続きはない。土が崩れて穴が開いてしまったら終わりだ。
「一番の方法は金属の家というか箱を用意するのが正解なんだろうが現状だと地下や洞窟の利用が一番早いか?」
「そうなっちゃいますよね?」
地下や洞窟なら冷気が逃げる先は出入口しかない。そこを固めればいいだけなら家より遥かに楽と言える。そしてサヤがヤイバを見るとヤイバは諦めた様子だ。
「はいはい。また穴を掘りますよ」
「よろしくお願いします。お兄様」
サヤにそう言われるとやるしかないヤイバである。しかし地下や洞窟を利用しようにもやはり出入口の問題を結局どうするかが問題となる。そこで次郎吉はマナ結晶の採掘の際に見つけていた鉱石たちを思い出す。
「ソーサリーファクトを自作するためにも金属を製錬するための施設は必要か」
「そいつはありがたいがいいのか? 俺たちにそんなに技術を提供して」
「そこなんだよな……」
金属を作り出すということは必然的に武器も作れることとなる。そこが次郎吉の魔道技師としての主義に触れてしまうのだ。これが人のソーサリーファクトを使うなら問題はない。ただ獣人たちに武器を作り出すノウハウを教えることにはなるので、結局そこが問題にはなってしまう。結局は次郎吉が決断するかどうかだ。
「一先ず木の扉でどれだけ保管できるか試してみてからじゃないと判断できない」
「そうなるわな。じゃあ、ジロキチは凍らせるソーサリーファクトの開発で俺たちは保管場所の確保と保管したものを運び出す仕事だな」
「あぁ……。サヤ、ヤイバ。後で構わないから戦闘には不向きで技術系に興味がありそうな人をいれば教えてくれ。俺っちの目で色々確認したい。おっとカナリって子供は除外してくれ。こいつについてはもう目を付けてる」
次郎吉の言葉にヤイバだけ驚く中、サヤが聞いてくる。
「カナリ君はジロキチさんから見てどうですか?」
「興味と情熱はある。ただ俺っちの技術を受け継がせるなら人殺しの道具は作らせるわけにはいかない。そしてカナリの心の奥には復讐心がある。それを見極めているところだ」
「人間への復讐心もそうですが自身が戦闘には向かない性格なこともあり、色々子供同士であるみたいですからね。彼のことよろしくお願いします」
「任せておけ。それにしてもよく調べているじゃないか。エメリから教えて貰っている感じか?」
「正解です」
サヤには情報提供してヤイバには情報提供しないエメリにヤイバは怒るがそこは女友達の付き合いだ。男では越えられないものがあると知るヤイバであった。
というわけで一つの新しいソーサリーファクトは冷凍のソーサリーファクトに決定した。もう一つは結局銭湯で決定する。本来なら金属製錬を行うための灼熱のソーサリーファクトのほうが優先度は高かったが金属加工技術に踏み込めない以上、銭湯のために使った方がいいと結論づけた。
そんなわけで次郎吉は防衛のソーサリーファクトの改善を行いつつ、新たなソーサリーファクトの開発に挑むのだった。




