#82 本格化していく商売
次郎吉が防衛のソーサリーファクトの改良が終わった頃、コーネとグソウが軽トラックより少し大きいぐらいのダンプカーに見た目が似ている見たことが無い魔道車に乗ってサヤの村にやってきた。
「よ! 次郎吉! この魔道車! 最高だぜ!」
「それは俺っちが依頼した魔道車だろ?」
「売らないか?」
「絶対に売らねーよ」
どうやらグソウは相当フェルが新しく作った魔道車を気に入ったらしい。実際に運搬業の人なら是が非でも欲しい魔道車だろう。何せこの世界の道はまだ完全に整備されていない場所がほとんだ。そこを縦横無尽に通れるだけでなく、道から外れてショートカットも可能となる。
しかもかなり多くの荷物まで運べるのだから需要としてはかなり高い。ただ良いことだらけかと言われるとそうではないらしい。コーネが助手席を開けて倒れながら出てきた。
「き、気持ち悪い……お尻も痛い……」
どうやら揺れの対応がまだ上手く出来ていないらしい。その結果、コーネは車酔いと体が何度も浮かんだことで尻を何度も強打することになった。これに対してグソウは言う。
「この振動と衝撃が良いんだろうが」
「全く理解できません!」
これが乗り物好きとそうじゃない人間との差だなと思う次郎吉であった。そんな二人を次郎吉は家に招いてガルザとプラムも呼び、五人で情報交換と今後の話をすることにした。
まず最初にコーネから『アルバ』の報告を受ける。
「シルファリッド王国の使者がビャク王国に入ったみたい。使者と言っても国が正式に送り込んだ使者じゃないみたいだけど……狙いは恐らく」
「ここだろうな。幸い防衛のソーサリーファクトは完成して罠と脱出先の確保、飲食の備蓄は進んでいる。どれぐらいの規模になるかわからないがここは山頂付近。大軍は難しいだろうからなんとかなるだろう。ガルザ」
「あぁ。ヤイバたちにこの話をしておくぜ。見張りも数を増やして対応する」
「頼む」
怪盗キャリコの脱獄事件からもうだいぶ時間が経過している。復讐の騎士たちにもある程度の場所はバレているし、ビャク王国が持っている可能性が高いこの村の情報と合わせれば次郎吉の潜伏先はすぐ特定されるだろう。
「それにしても今頃使者を送るんだな。随分対応が遅い気がするが?」
「一つの原因はキャリコさんだよ。再び暴れ始めて貴族たちに結構な被害が出ている。後は秘密裏に動いているから国に知られないように慎重に動きたくて今動いたじゃないかとビオラさんは予想してた」
怪盗キャリコがあの事件をきっかけにして美味しい汁を吸った貴族をターゲットに暴れ出したことで当然第二王子や宰相と繋がっている貴族たちは二人に助けを求める。その結果、次郎吉への対応が後手に回ったのだ。
そして次郎吉を狙いたい第二王子や宰相は王様や第一王子、第一王女に次郎吉の命を狙っていることを知られたくはない。もし知られると自分たちが行った悪事の疑惑が発生するからだ。下手に嗅ぎまわられると非常に厄介な事になるので、慎重に動かざるおえないというのが彼らの現状である。
一応次郎吉も晴れて指名手配された大悪党となったので、犯罪内容から見ても騎士団派遣は出来る。これについては王様たちも反対はしない。ただビャク王国に逃げ先となると騎士団派遣は許可できない。
正式にビャク王国と共闘関係を築くことが出来れば話は別だが、一人の犯罪者と少数の獣人を相手にビャク王国が共闘を了承しないだろう。するとしても相当な代償をシルファリッド王国が支払うことになるはずだ。何せ提案をしているのがシルファリッド王国側だからね。
結果としてこの交渉をするためにまず秘密裏にビャク王国と接触し、ある程度の話し合いをした後に今後の動きが決まる流れとなるだろう。次郎吉はシルファリッド王国からの依頼を受けてビャク王国単独で討伐に動いてくると予想する。そっちのほうがビャク王国は報酬が美味しくなり、シルファリッド王国からすると手を下さず邪魔者を排除できるのだからお互いに美味しい話となる。
その後、『アルバ』から泥棒の依頼と情報をいくつか受け取り、コーネからの話はこれで終わる。ここからは次郎吉たちの話となる。
まず最初に現状報告をした後に次郎吉からビジネスの話が行われる。まず最初に話されたのは次郎吉が発見した金属鉱石の山とマナ結晶の話だ。
「そんなにたくさん見つけたのか?」
「あぁ。ここは人間からすると未開拓の地だからな。この魔道車を使えば結構な量の運搬可能だろうし、山から下りた先で積み荷を渡せば商売として成り立つんじゃないか?」
「直通じゃない分、金はかかるが商売としては十分な売り上げを見込めるはずだぜ? なんならそこらへんの手配は俺がやってもいい」
「そいつは助かる」
グソウに任せておけば安心だろう。ただ新型の魔道車だからどうしても目立つ。そこの対策は次郎吉側で用意しないといけないと次郎吉は思った。
次に金属製錬の話をして、そこはビオラの管轄で話をしてくれることとなる。正規の会社ではまず依頼できないので、どうしても裏ルートを頼るしかない。この話はフェルとホーキング、ファリース侯爵の執事にも話をして次郎吉も独自ルートを探すことになる。
最後に銭湯の話をすると読みが良いグソウは言う。
「なるほど。それで商売の話をしたわけか」
「バレたか」
「当然だろう? 採掘の報酬でお金を渡して銭湯で金を使わせるわけだ。それで金を回して人間社会の勉強を獣人たちにするのが狙いだろ?」
「人間の村に潜伏させても人間の生活を何も知らないままだと怪しまれるからな。俺もかなり苦労したぜ」
人間の姿にするソーサリーファクトで人間の村への侵入は出来るが人間のお金がないと生活することは出来ない。その結果、犯罪してしまっては本末転倒だ。だから次郎吉は獣人たちに商売させて、金の使い方を学ばせることにした。これで獣人たちの潜伏が本格化するはずだ。最も慣れるのに相当な時間がかかることになるけどね。
ここでコーネが全く関係なし銭湯の話をする。
「それにしてもみんなで入る大きなお風呂か……どんな感じなのかな? というかこの話をビオラさんにしたら、凄い食いつきそうな気がする」
「そりゃするだろ。今までない商売の話だからな。というかコーネも商売の話に敏感になったもんだな」
「汚れちまったな。お前」
「勝手に汚さないで! そもそもあたしが汚れたんだったら、原因はみんなだからね!」
これだけ周囲に汚れた大人が多ければコーネもこうなってしまうのは必然だったかも知れない。コーネの気づきもあり、次郎吉の新しいソーサリファクトの情報はビオラに伝わり、ビオラが銭湯の話と冷凍保存のソーサリーファクトの話に興味を持つことになるのだった。




