#79 対魔法防衛ソーサリーファクト
復讐の騎士たちが魔法を取り戻していたほぼ同じタイミングで次郎吉もついにサヤの村の最強防衛ソーサリーファクトの試作品を完成させた。そして今からそのテストを行おうとしていた。
「プラム、準備はいいか?」
『こちらはいつでも行けます』
次郎吉とプラムは通信のソーサリーファクトを使用して会話している。次郎吉がソーサリーファクトの起動係でプラムが敵側を想定して実際に魔法を放つ係だ。
「それではテストを行う。防衛のソーサリーファクト起動!」
次郎吉がまるで巨大な発電機のようなソーサリーファクトにあるレバーを下すとソーサリーファクトが起動し、ソーサリーファクトに取り付けられているアンテナから魔力が真上に流れると村の上空で全面に広がると村を囲うように結界が展開された。
「プラム、聞こえるか?」
『聞こえています。旦那様』
「通信遮断は出来ない。改良の余地ありっと」
次郎吉は実験結果を見て、問題点、改良点を記載していく。こういうことをしないと物の品質が良くなることは無い。地味だが大切なことなのだ。
「ヤイバ、結界を通り抜けて見てくれ!」
「わかった。行くぜ!」
ヤイバが内側から結界に突撃すると通り抜けた。今度は外から結界に入ろうとすると結界にぶつかる。
「人の移動制限に問題なしっと……次、防衛テストに移行。みんな、頼む」
次郎吉が合図すると獣人たちが一斉に村の中から外に向かって石を投げると通り抜けた。逆に外から石を投げると結界に阻まれる。これで外からの攻撃は防御可能で村から敵に向けて攻撃可能であることが証明された。
「問題なし。次、物理耐久テスト。ガルザさん頼む」
『任せておけ! 思いっきり行かせて貰うぜ! おぉおおお! らぁあああ!』
ガルザが飛び上がると大剣を思いっきり真後ろに振りかぶり、結界に向けて渾身の一撃を結界に放つ。するとガルザが弾き飛ばされて、結界は無傷だ。
「おいおい……とんでもないもん作ったんじゃねーのか? 次郎吉の旦那は! おらおらおらおらおら!」
ガルザはそういうと大剣を構えなおして怒涛の連続攻撃を同じ場所に行うと流石に徐々に結界にひびが入り、遂には砕けてしまい結界に穴が開く。
「一発の物理攻撃への耐久は問題なし。連続攻撃には改善の余地ありっと」
「ガルザさんの全力の連続攻撃をあれだけ耐えたのでしたら十分な気がしますけど」
「その意見はわかるが魔道技師としてソーサリーファクトが破られただけで改善の余地ありとなるんだよ。しかも今回は多くの命と生活が懸かっているからな。妥協した結果、失敗しましたでは悔やんでも悔やみきれないだろ?」
「それはそうですね」
サヤは次郎吉が真剣にこの村を守ろうとしていることを改めて認識する。そしてその言葉は他の獣人も聞いており、その中にはカナリの姿もあった。次郎吉の技術者としての姿を見せることは彼にとって決して無駄にはならないと次郎吉たちが判断した。
「ソーサリーファクト再起動。再起動時間に若干の時間経過あり。破れた結界を回収した結果だな。魔力の無駄遣いを減らすために考えたが防衛のことを考えると時間のほうが優先度高いか? 改良か削除だな。よし、最終テスト。魔法耐久テスト、開始。プラム、頼む」
『はい! いきます!』
プラムが火球を作り出し、結界にぶつけると火球が結界に吸収されることで消滅する。これを見た獣人たちから驚きの声が上がった。
一方次郎吉は大忙しだ。
「火属性の魔力供給を確認。問題なし。プラム、どんどん頼む」
『はい!』
同じ規模の違う属性の魔法が次々放たれるが結果は同じとなった。
「全ての属性で魔法吸収を確認。魔法の連射にも対応可能を確認。魔力供給にも問題はなし。よし。じゃあ、仕上げと行こう。プラム、大魔法を頼む」
『はい! 行きます! 荒ぶる火の精よ。その怒りの叫びと共にあらゆるものを消し飛ばせ! バクゥード!』
結界で大爆発が発生するがその魔法も結界に吸収されて、結界は無傷となった。
「村に被害なし、結界に損傷無し。おし、テスト終了。全員お疲れさん」
次郎吉の言葉と同時に村人全員が歓声を上げた。獣人たちからすると初めての村の安全を確保するための装置が出来上がった瞬間に思えたんだから嬉しさがこみあげて来るのはしょうがないことかもしれない。
その日の夜は村人全員の賛同得て、宴が開かれた。今回の宴の主役である次郎吉は猛烈な歓迎を受けてお腹いっぱいとなって宴が終わるとサヤの家で今後の話し合いをする。
「まだ物理攻撃への耐久が弱すぎるからそこをまずは改善させていくつもりだ」
「最悪俺たちが戦えばいい話だが、村の心配せずに戦わせてくれたほうがずっといいからな」
今までの獣人たちの戦闘ではまず先制攻撃は遠距離攻撃がある人間が取る。魔法が村に降り注いでいる中、獣人たちは接近して人間と戦う。その間も魔法使いたちは村を攻撃し続けて獣人は村人を守りに入ると魔法使いを護衛していた人間たちが今度は前に出てきて、魔法の支援がある中獣人は戦いを強制される流れとなっている。
この結果、獣人の戦士たちが次々戦場に残る結果となり、獣人の戦士たちが犠牲になるのが止まらないのが現状だ。それが結界という守りが手に入れば獣人たちは遠慮なく接近し、戦闘を継続できる。
ここで人間側がどういう判断を下すかがわからない。そのまま戦闘継続するのか今までに経験したことが無い獣人の動きを警戒して対策を講じるために一度引くのかこれは指揮官の采配で決まる。
よってそこを気にするより、今は自分たちに目を向けるべきだと次郎吉は考えた。
「後、今回の宴をみて感じたがソーサリーファクトへの過信がかなり強かった。何が起こるのかわからないのが戦場だ。やはり何か起きた時のための保険はどうしても必要だろう。ヤイバ、そっちの進捗はどうだ?」
「もしもの時の避難場所は確保出来たぜ。脱出先は用意している最中だ。まだちょっと時間がかかるな。その代わりに防衛の罠はほぼほぼ完成したぜ? 村の備蓄はどうなっている? サヤ?」
「ガルザさんたちのお陰で食料と水の備蓄は順調です。不安が全くないかと聞かれると首をひねってしまいますけどね」
戦闘が始まれば籠城戦となる。籠城戦の基本は相手の兵糧が先に尽きるのを待つか援軍が来ることで敵を挟み撃ちにするかが作戦の肝だ。どちらも耐えるために大量の備蓄が必要となる。それを考えるとサヤが首をひねるのは無理もない。
一応援軍としてはサヤが他の獣人の村に話し合いに行っているが上手くは行っていない。理由は三つある。
一つは一度人間に襲撃された場所に村があるので、人間にバレやすく攻撃を受けやすい。二つ目はサヤの村の力不足だ。援軍に駆けつけても人間に力負けしたら共倒れとなる。そこを警戒して協力に踏み込まない。
最後は人間と協力しているサヤたちと次郎吉への不信感だ。人間である次郎吉に不信感を抱くのは当然であり、人間と協力しているサヤたちも何も知らない獣人からすると裏切者に見えている。それだけ人間と獣人の憎しみと戦いの歴史が深いということだ。
「どうすればいいんでしょうか?」
「話は単純だろ? 力を証明すればいい。俺っちが今回作ったものを見せるのも手ではあるがそれでも協力関係は難しいだろう。本格的な交渉は俺っちたちが人間の軍隊に一度戦い勝ってからが始まりになるな」
敵に見つかっても守り切れればどうということはない。人間との戦闘に勝てれば力の証明としては十分。最後に次郎吉の技術力が獣人のために使われていることを知れば多少の不信感は解消されるはずだと次郎吉は考えた。
これについてヤイバが別の意見を出す。
「一応他の村が襲われたらこっちが援軍を出す選択もありだと思うが?」
「それもありだが、犠牲が出るリスクが高すぎるからな。俺っちは待った方がいいと思うぜ? ここに人間が攻めて来る可能性はかなり高いからな」
援軍を出すほどの人数的余裕がサヤの村にはない。獣人単体の能力の高さを考えても防衛でギリギリの戦力だ。そんな援軍を出して人間に返り討ちにされたら村の防衛まで出来なくなって目も当てられない状況となる。なので今は防衛強化に全力を尽くすときだとその場の会議で決まるのだった。




