#78 復讐の騎士団が選んだ道
騎士団が完全に引いたことを獣人の見張りが確認し、一先ず危険を脱した次郎吉たちは村に戻る途中でヤイバが次郎吉に質問する。
「よくあいつらを追い返せたもんだな。それにしてもソーサリーファクトは人間の魔法まで封じられるものなのか?」
「あぁ……封印という話ならあれは嘘だぞ?」
「「「「は?」」」」
ヤイバと見張りの獣人たちが次郎吉の暴露に同じリアクションをした。そして次郎吉は今回使用した罠がどんなものだったのか説明する。
「俺っちたちが用意した罠は魔力コアに多大な負荷を与えて一時的に機能不全にさせる罠だ。だから時間がたてば勝手に魔力コアは再稼働する」
次郎吉たちは魔力爆発が発生した際にソーサリーファクト本体は一切の損傷がなく魔術式などの魔力ゆかりのものが破壊されることに注目した。これは魔力爆発がどれだけ大きくても物質に影響を与えないことを意味している。もちろん魔力爆発で発生した衝撃波などでダメージを負うことはあるけどね。
ここで問題となるのは魔法使いが魔力を生み出す魔力コアとはどういったものなのかが問題となる。結論から言うと臓器の一種だとされている。つまり魔法使いを解剖すると魔力コアを物理的に触れることが出来るわけだ。これはもう世界の常識として知られている事実である。
ただまだその魔力コアがどうやって魔力を生み出しているかは判明していない。しかし魔力を生み出し、貯蔵する能力があることは判明している。であるなら魔力コアに高負荷を加えることでショートさせることが出来るのではないかと次郎吉たちは考えた。
そして『アルバ』の戦線離脱している魔法使いの一人に協力してもらって実験したところショートさせることが可能であり、負荷が強ければ強いほどショートさせられる時間が伸びることが判明した。これはつまり機能不全期間をある程度設定できることを意味している。
ただ『アルバ』の貴重な魔法使いを数週間魔法禁止にするのは問題だった。ただ数回の実験で次郎吉たちは法則性を見つけることには成功した。その法則性が本当に正しいのか実験回数の少なさのせいで確証はない。それでも自分たちの法則が正しいことを信じて一か月から二か月の間に魔力コアが再稼働するように仕込んだ。
だから次郎吉が数週間で戻ると言ったのが本当かどうかは正直わからない。確実に言えるのはいつか必ず彼らの魔力コアは再稼働し、魔法が使えるようになるということだけだ。
この期間設定は罠に引っかかった人間はそれぐらいの期間の間に復讐に来ることを想定して設定している。つまり今回完全に次郎吉たちは国を相手に掌の上で転がした形となった。
「ちょちょ、ちょっと待て! じゃ、じゃあ、あの封印解除のソーサリーファクトはなんだったんだよ!」
「これは指定した者を発光させるソーサリーファクトだよ。ほら」
次郎吉がソーサリーファクトを起動させるとヤイバたちが発光する。これを見たヤイバはため息をつく。
「全く……そういうことは事前に教えておいてくれないか? 心臓に悪すぎるぞ。プラムさんは知っていただろ?」
「そりゃあ知っていないとプラムはもっと心配しているからな。まぁ、教えても良かったんだが相手がどんな手練れかわからず、ヤイバたちの監視に気付かれて安心している姿を確認されると色々勘ずかれる可能性がだったんだよ。人や仲間を騙すのは苦手だろ?」
次郎吉にそこを指摘されるとヤイバは何も言えない。実際にこれはヤイバには出来ない芸当だ。嘘と真実を織り交ぜて相手を騙しつつ、相手の心を掌握する。次郎吉ぐらいの犯罪者相手に言葉を聞いてしまった時点で勝敗は決まったと言えた。
そしてこれから数週間、毎日魔法が使えるようになると信じて魔法を使い続けていた騎士たちが遂に魔法の発動に成功する。
「魔法が出た……魔法が出たぞ!」
「お、俺もだ! 俺の魔法が帰って来た!」
「これで騎士団に復帰できるぞー!」
「「「「……」」」」
騎士の一人が復帰できると喜んだ瞬間、沈黙が場を支配する。喜んだ騎士が自分が浮いていることを理解して全員に聞く。
「お、おい。どうしたんだよ。みんな。魔法が戻ったんだから俺たちは騎士団に戻れるはずだろ?」
「普通に考えるなら戻れるはずだ。クビの原因は俺たちが魔法を使えなくなったからだからな。ただオレガ王子とギルターが俺たちの復帰を望んでいるかと聞かれると望んでいないだろう」
復讐の騎士団のリーダーを務めていた男が事実を突きつけた。彼はこの二人のことをよく知っている人物だ。故に二人がどんな行動を取るのか分かっていた。しかし二人のことを深く知らない騎士には自分たちがどんな状況に今いるか理解出来ない。
「そ、そんなわけないだろ! 俺たちの力は国に必要なはずだ!」
「必要では無くなったから俺たちは捨てられたんだ! そして力が戻り、俺たちが騎士団に戻れたとしてもそれは自分たちが間違った判断を下したと認めることになる。当然王様やノエール王子たちから糾弾されるだろう。そんなことにオレガ王子が耐えられると思うのか? そうならないように動くのがあの人だろう!」
「そ、それってつまり俺たちが消されるってことか?」
ここで復讐の騎士団は自分たちが置かれている状況を正しく理解した。
「……そうだ。俺の言葉を信じる信じないはお前の自由。ここからは一人一人が道を選ぶべきだと俺は思う。国から魔法が使えなくなったと認定されているんだ。魔法が使えるようになった事実を隠して一般市民として生きていく人生も悪くないだろう。そして鼠小僧が言うように闇の仕事に手を出すのも手だ」
復讐の騎士団のリーダーを務めていた男がこれを告げると全員の前から彼は姿を消す。彼の決意は既に決まっていた。ずっと次郎吉の言葉が現実として彼の脳内で再生されていたのだ。そして魔法が使えるようになったことで自分たちをクビにした判断は完全に間違えだったことが分かった。となると元王国騎士団の騎士として正義心を強く持っていた彼は国に対して反旗を翻す決断をするのは必然と言える。
そしてこの気持ちを持っていたのは彼だけではなく多くの騎士が反旗を翻す道を選択し、『アルバ』の暗殺者として登録されることとなる。彼ら自身が『アルバ』の運搬に目を付けていたのだ。接触するのは難しくない。
一方で国に連絡を入れて、田舎の村の空き家でオレガ王子に全てを報告した騎士もいた。
「……そうか。やはり鼠小僧はビャク王国に逃げ込んだか……そして騎士団の大半は帰ってこない道を選ばず、お前は帰って来る決断をしたわけだな?」
「はい! そうです! 私は元騎士団の一員としてあなた様や国を裏切ることなど出来ませんでした!」
「そうか。お前はいい判断をしたな」
「はい!」
元気に返事をする騎士の背後から剣が突き刺さった。
「……え?」
「お前の役目はもう終わりだ。仲間を裏切るような奴は信用できん上にお前は鼠小僧を始末出来なかった役立たずと来た。不安定要素は排除するのが俺の政治だ。ご苦労だったな。後始末しておけ」
国に戻ろうとした騎士はリーダーの男の予想通り消されてしまうのだった。そしてその情報はゲオリオから復讐の騎士たちに伝わり、彼らの決意が確固たるものとなる。こうして『アルバ』は足りていなかった暗殺者要員も大幅な強化に成功するのだった。




