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異世界転生した鼠小僧は義賊になる  作者: とんし
動乱編
77/93

#77 復讐の騎士団と次郎吉の罠

フェルとの協議を終えた次郎吉はサヤの村に無事に帰り、防衛のソーサリーファクトの作製を急いでいると協議してから二週間後、事件が起きる。最初に報告してくれたのはヤイバだ。


「ジロキチ。見張りから報告が来た。シルファリッド王国方面から数人の男がこちらに向かっているらしい」


「俺っちの罠に引っかかった騎士たちだな。真っ直ぐこちらを目指している感じか?」


次郎吉の質問に見張りの獣人が答えてくれる。


「真っ直ぐではありますが周囲を見渡してはいました」


「魔獣への警戒でもあるが村の正確な位置は分かっていない感じか……これは『アルバ』の運搬が嗅ぎつけられたな」


『アルバ』からの情報漏洩で正確な位置を理解しているなら魔物が出現する山など一気に走り抜けた方が圧倒的にいいはずだ。それをしないということは正確な位置を把握していないことを意味している。


それ以外でこちらの情報を得る手段としてシルファリッド王国で利用できそうなのが『アルバ』の運搬だ。いくつかの村や町からオジム山脈に向かっている不自然な運搬している人たちの報告ぐらいは手に入るだろう。


何せ通常ルートを通っていないのだ。一般の人がそんな荷車などを見かけたら変だと思うのが普通。これが一般のルートなら普通に運送している人だなと思うんだけどね。


しかも今回『アルバ』が多くを輸送しているのは木材だ。流石に加工していない木材を数本運んでいたら目立つなというほうが無理がある。そして荷車が通った場所はどうしてもタイヤ痕が残る。恐らく騎士たちはそれを辿りつつ、村の場所を探っている状態だろう。


「どうする? 先に攻撃して消すか?」


「いや。こいつらの相手は俺っちがする。案内ともしもの時のために護衛を頼めるか?」


「わかった」


「気を付けてください。旦那様」


「分かってる。任せておけ」


次郎吉は自信満々で完全装備をしてから家を出る。その次郎吉の様子にヤイバを含めた他の獣人たちは不思議な様子だ。相手が魔法が使えないにしてもそれなら条件は次郎吉と一緒となる。


そして相手は最近まで戦闘訓練を積んできた騎士たちだ。一対一でも分が悪すぎる上に人数差がある。もちろん獣人たちが参加するなら話は分かるが次郎吉は一人で相手する気満々だ。不思議に思うのは仕方がないことだろう。


次郎吉は村の正確な位置を隠すために洞窟に入る前の山道で騎士たちを迎え撃つことにした。そして山道の真ん中に立っている完全武装した人間を騎士たちも目視で細くする。


「……何者だ?」


「分かって俺っちを追ってきたんだろう? 俺っちの家に仕込んだとっておきの罠はどうだったよ? シルファリッド王国の王国騎士団様たち?」


「やはりお前が鼠小僧か!」


騎士たちは一斉に剣を抜き、加速のソーサリーファクトで次郎吉との距離を詰めて襲い掛かったが次郎吉は攻撃を躱す。しかし躱した次郎吉の姿を確認した騎士は追撃して他の騎士たちは次郎吉の逃げ場を塞ぐように動いた。


流石軍事訓練を受けてきた騎士たちだ。連携も攻撃の一つ一つが迷いなく放たれていた。次郎吉は騎士たちが魔法を使える状態だったら、ヤバかったと肌で感じ取る。では、なぜ次郎吉はみすみす姿を見せたのか。それは次郎吉が仕込んだ罠が普通の罠じゃなかったからだ。


「お前たちの人生を狂わせた俺っちが憎いか?」


「憎いに決まっているだろ! 我々はお前のせいで王国騎士団をクビになったのだからな!」


最初に人の家を放火した挙句次郎吉のソーサリーファクトまで狙おうとした騎士たちがその罰を受けた結果なのだが、今の彼らにそんな言葉は通用しない。復讐に囚われた人間というのはこういう生き物だ。次郎吉は騎士たちの連携攻撃を躱しながら会話を続ける。


「魔法が使えなくなったから即捨てか……お前たちに一つ聞くがお前たちがなぜ魔法が使えなくなったのかちゃんと国に調べて貰ったのか?」


「何?」


ここでずっと次郎吉を正面から斬りかかっていた騎士の攻撃が止まる。


「どういう意味だ?」


「お前たちは勝手に魔力を生み出す魔力コアが俺っちの罠で破壊されたことで魔法が一生使えなくなったと思い込んでいるんじゃないのか?」


「お、思い込み? 魔力コアが破壊されたわけじゃないのか!?」


次郎吉の罠の告白を聞いた騎士たちの攻撃が完全に止まる。そりゃそうだ。魔法を一生使えなくなったからその元凶である次郎吉に彼らは復讐しに来た。その復讐の前提条件が崩れてしまったのだ。これを次郎吉は理解していたから次郎吉は直接会う選択をした。そしてここからは次郎吉の話術の見せ所だ。


「俺っちが仕込んだ罠はお前たちの魔力コアを封印する罠だ。俺っちが罠を解けば魔力コアは再稼働し、お前たちは再び魔法が使えるようになる」


「何!? 今すぐ元に戻せ!」


「立場が分かってねーな。俺っちは今、お前たちの今後の人生を人質に取っているんだぜ? まぁ、そんなことはどうでもいいや。お前たちは魔法を取り戻した後、どうするつもりなんだ? また騎士団に戻るつもりか? 魔法が無くなっただけで存在価値無しだと判断し、満足に調べることもしなかった騎士団に?」


「そ、それは……」


騎士たちに次郎吉の言葉が突き刺さる。彼らからすると魔法が戻った未来のことなど考えているはずもなく、それどころか復讐に成功した後のことさえ考えていなかった。一応鼠小僧の討伐報告をしてアピールすることはするつもりだったが残念ながら実力主義の騎士団に魔法がない状態では復帰することは出来ない。


次郎吉はポケットからソーサリーファクトを取り出し、騎士団に向けてソーサリーファクトを発動させる。すると騎士団たちの身体が光に包まれて、光が消える。


「これでお前さんたちの魔法の封印は解かれた。魔法の再使用まで数週間は掛かるだろう」


「な!? ……なぜ封印を解いた? 封印が解かれた以上、俺たちはお前の命を取らせてもらうぞ」


「確証もないのにそれが出来るのか? そして国に色んな意味で裏切られたお前たちはそれでも国に忠義を尽くせるのか? 俺っちには今のお前たちにそれが出来るとは思えないな。お前たちが国を許せないと思うならいい仕事場を紹介してやるよ。国の騎士よりずっと金が貰えるぜ? もちろん正義とは真逆の仕事だけどな」


これが次郎吉の目的。次郎吉は今回の罠で相手が復讐心を利用してくるのを完全に読んでいた。寧ろ国が判断ミスをして復讐心を利用するように誘ったと言える。


「お、おい……どうする?」


「「……」」


次郎吉と恐らく彼らのリーダーを務めた騎士が次郎吉と無言で見つめ合うと決断する。


「……今回は引こう。我々の魔法が本当に戻るのか確認してからでもこいつを消すのは遅くはない」


「そ、そうだな」


「流石国の騎士団に所属していただけあって冷静な判断だな」


「ふん……言っておくが我々だけでお前の動向を探れたくらいだ。お前のことはもう国も把握しているだろう。我々の魔法が戻る前にお前の命があるといいな。引くぞ」


こうして復讐に囚われた騎士団たちは次郎吉を見逃し、シルファリッド王国に戻るのだった。

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