#76 フェルとの技術協力
フェルと次郎吉の対談の初めてはお互いのソーサリーファクトの見せあいから始まった。
「電磁誘導を使った変則的な雷速移動。移動先が分かる弱点はあれどそもそも雷速で移動しているなら対処はかなり難しい。しかもこれは思考起動型でそこに移動させると見せかけて別の場所に移動先を変えれるようにしているね。安全装置もあるしよく考えられている」
「そりゃどうも。へぇ。魔道バッテリーまで自作しているのか。考えて見ると魔道車を作っているなら当然の技術か。それにしてもこの大きさでこれだけの魔力を貯蔵できるとは恐れ入るぜ。しかも素材の差じゃなくて魔術式で克服しているな。こっちは市販の物を使っているからどうしても効率が悪いって言うのに……俺っちも自作するべきかと思いのしたが諦めたんだよな」
「魔道バッテリーは素材の入手の手間暇を考えると市販で買った方が無難ではあるからね。正直市販の魔道バッテリーを改造して効率化させたほうが買う側からするとそっちのほうがいいと思います。素材が安定して入手できるなら結構な儲けになりますよ」
「だろうな」
魔道バッテリーはソーサリーファクトの中でもかなり高級な素材なのでぼろ儲けになっていることは次郎吉は知っている。それでも一般的な魔道技師はそれに頼らざるを得ないのが実情だ。しかしこれについては実は次郎吉も魔道バッテリーの自作に可能性が出てきている。
というのも魔道バッテリーにはマナ結晶という素材が使われている。これは大気中に存在しているマナが結晶化したものでマナの濃度が非常に高い場所で生成される。マナの濃度が濃い場所というのが地中奥深くや山の中の洞窟などが候補となる。基本的には魔物が出現する場所に生成されるという理解でいい。
つまり次郎吉が今いるサヤの村の近くにもマナ結晶が生成される可能性が非常に高い。今は防衛のソーサリーファクトが作製でそれどころではないが後々、次郎吉はマナ結晶探しに行く予定だ。
ただマナ結晶を手に入れれても簡単に魔道バッテリーを作製できるというわけじゃない。サヤの村でソーサリーファクトの完全生産を実現させるとなるとソーサリーファクトの外側を作るために必要な金属と加工技術など設備が圧倒的に足りていないのが実情だ。逆にいうと設備が整えばそれが可能となる。これは魔道技師にとって最高の工房の誕生を意味している。次郎吉が今、目指しているのはここだ。
それからソーサリーファクトの見せ合いが続くとフェルも次郎吉のソーサリーファクトの異常性に気が付いた。
「この魔術式……見たことが無いものだね。今までの魔法使いたちが作って来た魔術式とアプローチの仕方がまるで違う」
「それは俺っちの協力者にエルフがいるからだ」
「なるほど! エルフの魔術式ならこの魔術式にも納得がいく。しかしエルフが人間に協力するとは思えないが……」
「俺っちの師匠が実は悪い貴族に狙われてな。結果は自殺だったんだが、自殺に追い込んだことは変わりない。でも俺っちは泥棒。殺人はするつもりはない。その結果、悪い貴族のお宝だったエルフを盗んでやったのさ」
次郎吉の暴露を聞いたフェルは大笑いする。
「はははは! それはいいな! なんとも泥棒らしい復讐の仕方だ。それならエルフの協力者がいるのも納得がいく。それにしても君の師匠の死はそんな壮絶な物だったんだね。こちらの師匠は老衰だったよ」
「それで死ねるならそれが一番さ。たぶんそっちはそっちで苦労したんだろ?」
「まぁ……そうでしたね。国の奴らがしつこい上にせこいのなんの。信じられますか? 老衰で倒れている老人に遺産相続を国に譲渡する書類に名前を書かせようとしたんですよ? おかげで僕は国嫌いになって同じような悪者嫌いの怪盗さんに手を貸すほどです」
「怪盗キャリコに手を貸していた理由がそれか。納得したよ」
ここでお互いのことをある程度認識してそれぞれが求めているものが何か大体把握したので、本題に二人は入る。
「俺っちは魔力バッテリーに興味がある」
「私はエルフの魔術式に興味があります」
「じゃあ、お互いに技術協力していく感じでいいか?」
「いいと思います」
ここに二人の最強の魔道技師の弟子が手を組むことが確定した。
「手始めにお互いソーサリーファクトを送り合いましょうか。何か私に依頼したいソーサリーファクトはありますか?」
「そうだな……山道に適応した運搬重視の魔道車は作れそうか?」
「いいですね。ちょうど普通の魔道車の作製に飽きてきたところです。ではこちらからは透明になるコートをお願いします。僕も結構危ない橋を渡っている身でして。逃げる手段の他に隠れる手段を確保しておきたいですし、応用して魔道車の透明化に挑戦したいです」
どうやら国に命を狙われているのはお互いのようだ。それだけ国とのいざこざは酷かったのだろう。
「任せておけ。セキュリティはどうする? 信頼するなら付けないが」
「そこはお互いのためにつけておきましょう」
「そうだな」
防犯システムを搭載するということは相手が良くないことややらかしを警戒しているということになる。次郎吉の言うように相手を信頼しているなら搭載しなくてもいいシステムだ。しかしお互いの技術が今回価値が大きすぎるので、何かあった時のためにお互いにリスクに対して保険をかけるのは当然の判断と言えた。
その後、二人はお互いの技術の流出を防ぐための約束事を決めて正式に魔道技師として協力関係になるのだった。




