#75 魔道車の生みの親の弟子
次郎吉は『アルバ』を経由してファリース侯爵の執事とやり取りし、報酬を受け取るためにガマードの町が指定された。ガマードの町はシルファリッド王国の北東にある町でバルバリス王国と近いことから貿易拠点の町として発展した町である。
北の海が近いことことと冬場になると大雪が降ることもあり、海産物や農作物、何より酒の物流拠点として有名。次郎吉が指定された日時に訪れると確かに酒場や飲食店が多く宿屋もたくさんあった。
そんな中、次郎吉は指定された家に辿り着くとドアをノックする。
「鼠」
合言葉を言うとドアが開いてファリース侯爵の執事がドアを開けてくれる。
「お待ちしてました。どうぞ中にお入りください」
「あぁ」
次郎吉が家の中に入るとすぐに次郎吉は置かれているソーサリーファクトに反応する。一見すると市販に売られているソーサリーファクトだが、どれもが市場に出回っているソーサリーファクトとは魔術式が異なるオリジナルのソーサリーファクトであることがわかった。
「凄いな……どれも市販の物より遥かに魔力の消費が少ない魔術式になっている」
「僕と同格の魔道技師だという話はどうやら本当のようだね」
次郎吉が声がしたドアを見るとちょうどドアを開けて次郎吉よりも少し年上の眼鏡をかけた青年が現れた。
「あんたが怪盗キャリコの協力者かい?」
「そうだよ。初めまして。鼠小僧さん。僕の名前はフェル・ファクター。バルバリス王国の魔道技師であり、世界で初めて魔道車を作った魔道技師として有名な始まりの五人の魔道技師の一人ターナ・ファクターの弟子だよ。よろしく」
この発言に次郎吉は驚いた。まさか自分と同じ立場の魔道技師が怪盗キャリコの協力者だとは思っていなかったのだ。しかも今まで散々お世話になって来た魔道車の生みの親とは流石に驚きもするだろう。しかしこの話を聞いた瞬間に次郎吉は納得もする。
周りのソーサリーファクトはみんな効率を考えられている。そして魔道車はより性能がいいものを生み出すためには効率を追い求めないといけない。だからこそこの周囲のソーサリーファクトが彼が魔道車の生みの親の弟子だと証明していると次郎吉は感じたのだ。
更にゴンドーラ刑務所で魔改造された魔道車が登場した理由もこれで判明した。そりゃあ、生みの親の技術を継承した弟子なら魔改造ぐらい出来るのは当然だ。
「ご丁寧にどうも。そっちが素性を明かすならこちらも礼儀として俺っちの秘密を明かそう。もうシルファリッド王国にはバレたみたいだしな。俺っちの名前は次郎吉。ジロキチ・ウィンハーク。始まりの五人の魔道技師の一人アーベルト・ウィンハークの弟子だ。よろしくな」
次郎吉の暴露にファリース侯爵の執事とフェルは驚く。しかし同時に納得もした。
「いやはやこれは驚きましたな。まさかあのアーベルトさんのお弟子さんだったとは思いませんでした」
「世界的に有名な魔道技師の弟子がまさか泥棒なんてしているとは誰も思わないだろうな」
「それについては僕も同じですよ。まさか怪盗の手助けをしているとは誰も思わないでしょう」
次郎吉とフェルはお互いに不敵な笑みを浮かべると用意された席に座る。
「お互いに話したいことがたくさんありそうなので、先に執事さんからジロキチさんにお話しがあるならどうぞ」
「では、お先に失礼します。実はビオラ様から鼠小僧様に伝言を受け取っています」
「聞こう」
「あなたが罠に嵌めた騎士たちがどうやらあなたのことを探し回っているようです。目的は恐らく復讐でしょう」
ここで初めて次郎吉は騎士たちが次郎吉の命を狙っていることを知った。それに対する次郎吉の返事はあっけないものだった。
「そう来るだろうな」
「予想通りという感じですかな?」
「まぁ、やられたらやり返すのが人間だからな。やり返す力があるなら尚更復讐を狙って来るだろうさ。それよりも国の動きはどうなんだ?」
騎士をクビとなり無職になった上で単独か少人数ならビャク王国に侵入して騒ぎが起きても問題はないだろう。シルファリッド王国からしたらそいつはもうクビにしているので我が国とは一切関係がない人間です。裁くなら勝手にどうぞで話は終わりになるだろう。
問題はやはり国の動きだ。
「一応あなたは指名手配になりました。最もフルネームは伏せられていたましたが……こちらが手配書となります。それ以外にはこちらの情報網で何人かの政治家や貴族があなたのことを探っているようです。大半はあなたの被害者ですが被害を受けていない者まで調べてますよ」
「貴族間や政治間の連携もあるだろうし、間接的な被害を受けた奴らも俺っちの命を狙うな。後は単純に指名手配の金狙いか国への媚売りと言ったところだろう」
次郎吉は指名手配された手配書をみると鼠小僧ジロキチという名前で指名手配されていたがそれ以外の情報はない。次郎吉が市役所に登録された時点では写真やカメラの技術が無かったので、次郎吉の情報が得られなかったのだろう。
ゴンドーラ刑務所ではふっかむりの形をした変装のソーサリーファクトを起動させていたので、本来の次郎吉を撮影することが出来なかった。ここでも次郎吉は防犯のソーサリーファクトに勝ったと言えた。
そして問題の捕まえた時の懸賞金はかなりの額になっていた。
「随分高く見積もれたな」
「あなたがアーベルトさんの弟子だと知ったことが大きいのではないでしょうか。私もこの額は少々過剰だと思ってましたがアーベルトさんの弟子だと知った今ならこの額に納得がいきます」
「アーベルトの爺さんは結構危険視されていたんだな」
「国嫌いで有名なお人でしたから」
次郎吉はここでアーベルトの国嫌いが有名であることを初めて知った。考えて見ると国からの依頼を蹴り続けていたなら有名にもなるだろう。そして国からすると鼠小僧とアーベルトの関係を公表するのは避けたいらしい。
これは国民的な人気がアーベルトにあることと犯罪者たちが次郎吉に接触して犯罪のソーサリーファクトが爆発的に広がるリスクを回避した形だ。
「アーベルトの爺さんの国嫌いと俺っちの犯行を紐づけている感じか? だとしたら見当違いすぎて笑えるな。とにかく名前の情報と金ぐらいのものならまだまだ大丈夫か。他に情報はあるか?」
「ありません。私の目的はこれで終わりましたので、失礼させていただきます」
ここでファリース侯爵の執事がいなくなったことで二人っきりとなる。
「さて、まずお互いのソーサリーファクトの自慢から始めるか?」
「それがいいでしょうね。楽しい時間になりそうです」
こうして始まりの魔道技師の意志と技術を受け継いだ二人の弟子の会談が始まるだった。




