#74 カナリの闇
次郎吉と会話してからカナリはずっと次郎吉の宿題について考えていた。そんなある日、同じ世代の虎の獣人のグループに声を掛けられる。
「おい。カナリ。お前暇だろ? お前は弱いんだから俺たち人数分の果物持ってこいよ」
「はい……」
獣人の世界にもいじめが存在した。カナリの場合は性格が臆病で力もないため力が強い獣人の子供たちからパシリに使われていた。この結果、自分の惨めさをより強く感じて更に自分の力の無さを悔やむようになる。このループは非常に危険だ。
「ということを偶然見かけまして」
「なるほど。力がないからこそいじめられていたらソーサリーファクトは光って見えるよな。力が無い自分でもソーサリーファクトを作れるようになればみんなの役に立てるようになるって考えた感じか? いじめが無くなるかも知れないとかいじめてきた奴らを見返すことが出来るとか考えているかは未知数だな」
次郎吉たちが現状把握しているのはカナリは新しい玩具を見つけて、魅了された事実だ。この瞬間だけを見たプラムは純粋に目を輝かせているカナリの姿を見ていたので、この時点では変な考えはないと判断する。
しかしカナリの現状を知った今ではいつソーサリーファクトを復讐の道具にするかわからない状況となってしまった。
「そう遠くないうちにソーサリーファクトの力を自覚する時が来るからその時を見て弟子入りさせるか判断する感じになるな。いじめを乗り越えて復讐心にとらわれない者じゃないと流石に技術を教えられない」
「そうなりますよね」
カナリが技術を身に着けていじめてきた獣人たちを見返してやると思っているなら次郎吉的にはセーフだ。そこに復讐心は多少あれど殺意はない。いじめをしてきた奴らを痛い目に合わせてやるなどの攻撃的な思考になったらアウトとなる。それはどんなに小さいことであっても技術の悪用に他ならないからだ。
「実際にソーサリーファクトの力を見たときにどう感じるかで決めることになるな。そしてその瞬間は今作っているソーサリーファクトが実践投入されたときになるだろう」
「そうですね。その力を村や人のために使いたいと思うのかそれとも復讐に使いたいと思うのか」
「そこがあいつの人生の分かれ道になるだろう……そういえばあいつに親はいるのか?」
「いないみたいですね」
獣人で親がいないということは基本的には人間に襲撃されたときに犠牲になったと考えるのが自然だ。一応土砂崩れなどの自然災害や足を滑られて山の崖から落下したなどの事故で死ぬ可能性はあるが基本的に身体能力が凄い彼らの死因にはなかなかならない。
実際にカナリの両親は村が襲撃されたときに亡くなっていた。これを知った次郎吉は言う。
「そうか……それならまだ希望が持てそうだ」
「そうなんですか?」
「あぁ……何せ俺っちが今作っているソーサリーファクトは守るためのソーサリーファクトだからな。当然感じるのはそこらへんが強くなる。しかも親を失い、更に自分も襲撃を経験していたなら相当なトラウマになっているはずだ。その悪夢がソーサリーファクトの力で覆されたときにどう感じるかだな」
「なるほど。確かに攻撃的な思考にはなりづらそうですね。それでも強大な力でもあるので、襲撃された人間たちを倒せる力だと考える可能性を考えると五分五分でしょうか?」
「う~ん……怒りの感情や復讐心は一生忘れないほど人間の感情の中でもかなり強い感情だから五分五分にはならないな。希望があるだけマシだと思うしかない」
嬉しい文章をたくさんあってもその中に一つだけ嫌な文章があればそれまで見た嬉しい文章は全て吹き飛び、たった一つの嫌な文章が脳に残り続けるほどにマイナスの力はプラスの力より強いことを次郎吉はよく理解していた。
だからこそ次郎吉はカナリに対して注意深く観察して彼が技術を教えるに値する獣人かどうか判断しないといけない。弟子を取るということはそういうことだ。弟子が闇の道に行ったならそれは師匠の責任まで考えないといけない。
『今になってもアーベルトの爺さんの偉大さを思い知るとはな』
アーベルトは次郎吉のソーサリーファクトを見ただけである程度次郎吉がどういう人物か把握した。それが出来るのは長年技術者として多くと人と関わって来たからこそ出来る芸当と言える。まだ若い次郎吉はその領域に立っておらず、あるとしても即決断するアーベルトには頭が上がらないと思う次郎吉であった。




