#121 鼠小僧の王都脱出
そしてコーネは逃げ出そうと足の雷速のソーサリーファクトを起動されたが移動中に撃ち落とされて、建物に激突する。
「くぅ~……ルル様!?」
「悪いですが悪運もここまでです。私が代わりにあなたたちを処刑いたしましょう」
コーネと次郎吉の二人の逃走を阻止したのはラピーシア王女の側近騎士のルルだった。彼女もまた王国騎士としての仕事を全うする覚悟だ。
それを見たガルザたちとキャリコは救いに動こうとしたがソリスが邪魔して動けない。プラムたちエルフもまたゼファルコミッショナー率いる部隊と騎士団と戦闘しており、助けに動くことが出来なかった。
コーネの顔が絶望に染まり、次郎吉を抱きしめた。次の瞬間だった。次郎吉の目に衣服と装備を無くしたルルの姿を映る。
「へ? きゃああああああ!?」
突然全裸になったルルは必死に自分の身体を隠してその場に蹲る。現在この場には多くの国民がおり、鼠小僧を視線で追っていた男たちは一斉に鼻血を出し、ルルの姿をガン見したのは言うまでもない。
「どうやら悪運はまだ尽きてはいないようですよ?」
現れたのは下着泥棒のホーキングだった。彼の手には綺麗に畳まれたルルの服と剣がある。
「あなたは?」
「私は彼のファンの下着泥棒です。私のことは気にせず行きなさい」
「は、はい! ジロキチ! いくよ!」
「う、うん!」
ホーキングの言葉を受けてコーネと次郎吉は逃げ出す。しかしソリスと騎士たちの数は多い。当然全員が二人を追うが次々ソリスと騎士たちは謎の国民から攻撃を受けて妨害される。彼らはホーキングが集めた裏社会の人たちだ。
「く! 鼠小僧と同じソーサリーファクト……あなた何者よ!」
「それはもう言いましたよ。それと鼠小僧と同じソーサリーファクトではなく鼠小僧が私と同じソーサリーファクトを作ったんですよ。このまま何も起きないなら私たちも騒ぎを起こすつもりはなかったんですけどね。彼が解放されてしまう奇跡を見てしまった以上、手を貸さずにはいられません」
そう。今日この場に集まった全員が打ち合わせをしているわけではない。彼らはそれぞれが考えた次郎吉の奪還作戦の思惑が色々重なった結果がこんな結果となったのだ。
もちろんそれぞれ誰が動くのかの読み合いはあった。キャリコが動いて、処刑台の人たちが完全に安心したタイミングを見計らっていたコーネが上手かったと言える。
「何を言っていているの変わらないけど、私の服を返しなさい!」
「はははは! あなたの服なら自室にあるはずでは? 私が持っているこの服は私が盗んだものです。つまりこれはもう私のものなのですよ」
「泥棒の理屈なんて知らないわよ!」
「いいのですか? そんな状態で戦闘して? 国民が見てますよ? さっさと城なり自分の家に帰って着替えたほうがいいのでは?」
ルルの騎士道と女性としての羞恥心が交差してルルは攻めきれない。ここで女性騎士たちがルルの助けに入り、ルルはなんとか体を隠すことには成功したが正直もう手遅れとも言える。
しかもルルが体を隠しているのは女性騎士たちから渡された鎧などだ。流石にこのままでは戦えないので、一部の女性騎士たちには壁になってもらいつつ、強い女性騎士たちがホーキングと相対する。そんな女性騎士たちにホーキングが言う。
「次、衣服を盗まれたいのはあなたたちですか? いいですよ。かかってきなさい。全員国民の前で裸にしてあげましょう」
「「「「ぐ……」」」」
ルルの無残な姿を見てしまった女性騎士たちは下手に手出しすることが出来ないのだった。
一方ハゲッツは次郎吉の脱走を受けて嬉々とした顔を浮かべる。
「記憶を失ってもお前はそう来ないといけないよな! ガベラーザ!」
ハゲッツは自分の体を硬くして建物に突撃するとまるで戦車のように建物を破壊しながら進み、次郎吉たちの確保に動いた。
「鼠小僧ー!」
「おらー!」
「ぐぅううううう……てめぇ」
これに対してガルザも同じように大剣で建物を破壊してハゲッツの動きに跳躍で追いつき、ハゲッツに蹴りをお見舞いした。これでガルザも吹っ飛ぶが足で地面をえぐりながらブレーキをかけるとなんとか止めた。
「行け!」
「はい!」
「行かせるかよ!」
「それはこっちの台詞だ!」
ハゲッツをガルザが抑え込み、コーネと次郎吉は城門近くに辿り着くとエルフたちと王国騎士団、ゼファルコミッショナー率いるソリスたちとの魔法バトルが発生していた。そしてこの戦闘はなんとエルフたちが有利を取っている。
流石に魔法対決だけならエルフに分があった。これに対してソリスたちや騎士たちもソーサリーファクトや剣で対応したがエルフたちが逆にソリスたちの接近戦に対して身体強化の魔法で対抗してきたのが予想外だった。
この辺りはソーサリーファクトの事をよく知っているプラムが事前に考えた対抗策だ。魔法使いと獣人の戦闘を見て、魔法使いの弱点を認識し、獣人たちが何をされたら嫌かしっかり考えた上で答えを出した。この考え方は犯罪を行う前に次郎吉がしてきた行動そのものだ。
「コーネさん! こちらです!」
「プラムさん!」
「く! 行かせるか!」
「あなたの相手はわたくしがします」
ゼファルコミッショナーが次郎吉確保に動いたが身体強化の魔法を受けたプラムがゼファルコミッショナーを止める。
「どうしてお前たちはあいつに加担するんだ? あいつは人間だぞ」
「彼はエルフの恩人であり、わたしくは彼のメイドであり、妻です。わたしくには彼を助ける義務がある」
「なるほど。奴隷島の一件か。それにまさかエルフと付き合っていたとはな。だから俺はあいつの人間関係をちゃんと調べろと言ったんだよ」
記憶を失った次郎吉をどれだけ調べても情報が出て来るはずがない。それでも次郎吉が国民である以上、ある程度の調査は出来るはずだったのだ。しかし調査しても犯罪歴と美人と暮らしていたぐらいの情報しか出てこなかった。
それも当然で次郎吉が失敗したことでビオラは次郎吉の情報を消しており、当然王女も次郎吉の情報を消しにかかる。国が関与してしまってはソリスが完璧な捜査は不可能となる。それをゼファルコミッショナーも理解していたが結果この有様なので文句の一つぐらい言いたくなったのだ。
「あなたの事情は存じ上げませんがどうしますか? このまま続けるならこの町の被害はもっと拡大しますよ?」
各地で発生する戦闘と魔法の被害で王都は結構深刻な被害が出ていた。必死に国民や建物を騎士やソリスが守ってはいるがどうしても限界はある。何せエルフたちは遠慮しなくていい。寧ろ被害を出して騎士やソリスを足止めしたほうが時間を稼げるという認識だ。そこに加えて建物を壊すソリスまでいるしね。
更に城門を守っていた騎士たちもエルフたちの魔法によって戦闘不能だ。結果としてコーネと次郎吉は城門の外に出ることに成功する。すると二人の前に魔道車が突っ込んできて、ドリフトしながら止まると現れたのはファリース侯爵の執事さんだ。
「乗ってください!」
「はい!」
「行きますよ!」
ファリース侯爵の執事がスイッチを押すと魔法ブースターが火を浮き、一気に加速していった。
「ゼファルコミッショナー! 追撃命令を!」
「あー……ちょっと待て。……はい。分かりました。ノエール王子からのご命令だ。我々は王都で暴れている馬鹿どもの逮捕に向かう。お前たちの目的が鼠小僧ならこれ以上王都で暴れたりしないよな?」
王様の代行をしているノエール王子が王都の惨状を見て、これ以上被害を出すと経済損失がどんどん膨らむ結果を恐れて、この場は引く決断を下した。
「はい。わたしくたちの目的は達成しました。引かせてくれるのでしたら引かせてもらいます」
「いいぜ。ならさっさと引け。だがお前たちが今日した犯罪は消えないからな?」
「それも承知の上です。しかしエルフはもっと怖い存在ですから攻めて来る気なら相応の覚悟をしてください」
そういうと城門の周りで深い霧が発生して、エルフたちの姿は霧の中に消えるのだった。
「手加減してこれだもんな。そりゃあ、怖い存在だろうよ」
「ゼファルコミッショナー?」
「独り言だ。お前ら? 何してるんだ? 俺はもう命令を出したぞ? さっさと動け!」
「「「「は、はい!」」」」
ゼファルコミッショナーはエルフたちが本気を出していないことに気が付いていた。何せ王都には鼠小僧がいるのだ。本気を出して王都を壊滅されたら当然鼠小僧も犠牲者になる。そんな状態で本気を出せるはずが無かった。
「く……! 待ちなさい! 怪盗キャリコ!」
「くく。なんだよ。お前もまた逃げられたのかよ」
「ハゲッツ……あなたにだけは言われたくありません」
「しょうがねーだろ? 獣人を刺激して国民を殺戮されたんじゃ溜まったもんじゃねーよ」
ハゲッツもまた獣人には手を出さない方針でガルザたちを王都から逃がす。国民の命を優先するならこの判断は正しい判断と言えた。
「ほら! 逃がしたなら切り替えろ。他にも馬鹿どもがいるんだからな」
「わかっています!」
今回の騒動で逮捕者は約100人。その内犯罪歴があるものは約20人という結果に終わる。逮捕された残りの80人は騒ぎに応じて騎士やソリスを攻撃した市民たちだった。明らかにホーキングのようなやばい犯罪者が多くいたが結局騎士やソリスはほとんど捕まえることが出来なかった。ホーキングを用意した犯罪者たちのレベルの高さが伺える結果でこの騒動は終わった。
無事に魔道車で脱出した次郎吉はここで一言言う。
「僕は……生きてていいのかな?」
それはまるで冤罪を被せられて、処刑されることになった人間から出る言葉だった。そんな次郎吉にコーネは抱きしめた。
「良いに決まってるじゃない! 今のジロキチはもう犯罪者じゃないんだから! 帰ろう! あたしたちの家に!」
もちろん記憶喪失になったとしてもその人が行った犯罪が消えるわけではない。そんなことはコーネも分かっている。しかしそれでもコーネはジロキチに生きていて欲しかった。
「うん!」
それを聞いた次郎吉も彼女たちのために生きる選択を選ぶのだった。




