#120 鼠小僧の公開処刑
あれから数か月が経過し、季節は春となったシルファリッド王国。今日が鼠小僧の公開処刑日で国中がざわついていた。
「鼠小僧の公開処刑、お前はどうする?」
「見に行くに決まっているだろ。あれだけ世間を引っ掻き回した泥棒の素顔がどんな顔が生で見てみたいってもんだ」
「そうだよな。俺も仕事休み取っちまったよ」
「おい! お前ら! 急げ! もう広場には人が集まっているぞ!」
市民からすると貴族や政治家を苦しめた次郎吉はこの世界でも英雄視された。お金をばら撒いたわけじゃないのにそれでも自分たちから税を取り、私腹を肥やす人たちが罰を受けるのは気持ちがいいことだったようだ。
一方その頃サヤの村にはゲオリオとプリマ王女がいた。
「次郎吉様はどうなると思いますか? ゲオリオ様」
「分からんが国もソリスも何か起きることを想定しているはずです。実際にここ数か月驚くほどに国が静かだった。まるで嵐の来る前兆かのように……結果がどうあれジロキチの公開処刑は荒れるのは間違いないと思います」
「そうですね……どうか奇跡が起きますように」
そういうとプリマ王女は天に祈りを捧げるのだった。
ゲオリオの言う通り、広場とシルファード中をソリスが厳戒態勢を敷いていた。そんな中、国中から人が集まって来ており、町の外まで人が溢れかえる事態となる。それだけ次郎吉はシルファリッド王国で人気があったということだ。
一方その頃ソリスの本部にはハゲッツの姿があった。
「あぁ……めんどくせー。早く公開処刑の時間来いよ」
「あなたはさっさと持ち場に行きなさい!」
「悪いがお断りだ。あいつが逃げ出すならそれを止めるのが俺の最後の仕事になる。悪いが他のソリスにも王国の騎士にも邪魔はさせねーよ。もちろんお前にもな」
「はぁ……このことはゼファルコミッショナーに報告しますからね」
ハゲッツもまた次郎吉の公開処刑はただで済むとは思っていなかった。もしこれで次郎吉が逃げ出したとしたらハゲッツからすると嬉しいことではある。しかしソリスとして手を抜くことなどありえない。だからハゲッツは今日が次郎吉との最後の戦いの気持ちで命令無視をしてまで自分の欲を優先した。
そしてハゲッツのこの気持ちをエッティスとゼファルは分かっている。しかし彼らにも立場があるので、ハゲッツのことを注意はするが止めもしない。その代わりに後で命令無視の罰を与える形でお互いに納得している感じだ。
「そろそろ時間だな……行くか」
そして次郎吉の公開処刑時間が近づき、ハゲッツも広場に向かうのだった。そしてシルファードの中でも色んな動きが発生する。
「おい! そこの君たち!」
「……何かご用ですか? 用がないなら通してくれますか?」
「……はい、お通りください」
一人の女性に声を掛けた門番たちは女性の目が見た瞬間、目が虚ろになり、女性の命令に従ってしまう。更に門の外には謎の集団がいた。そんな状況で次郎吉の公開処刑が始まり、次郎吉が処刑人に連れられて、城から出てきた。
すると集まった国民から一斉に大歓声が発生した。
「あいつが鼠小僧か! でも思ったより凶悪犯な顔をしていないな?」
「あいつが国中を引っ掻き回したとは思えないな。なんていうか雰囲気が予想していたどの感じと違う感じだ」
「ん? あいつ、俺の店に来たことある奴じゃないか? いや、違うか?」
「やだ。思ったよりイケメンじゃない」
国民それぞれで意見が違っていた。国民は次郎吉がまさか記憶喪失となっており、別人格になっていることなど知るよりもない。そしてこの次郎吉は流石にもうソリスたちから説明を受けており、自分の前の人格が凶悪犯でそのせいで自分は処刑されることを知っている状況だ。
「ありがとうー! 鼠小僧!」
「お前は国の! いや! 国民の英雄だ!」
「処刑なんてするなー!」
そんな説明だったから公開処刑される次郎吉は国民から憎しみの感情をぶつけられると思っていたが多くの国民から応援や感謝の言葉が贈られて、処刑台で困惑することとなった。
(な、なんで感謝されているの? 僕はとんでもない悪者だったんじゃないのか?)
次郎吉は公開処刑を受け入れていたが国民たちの様子を見て、僅かに受け入れる心が揺らぐ。そんな彼に対して次郎吉の罪状が告げられる。泥棒、家宅侵入、脱獄の手伝い、数多くの建物の破壊、他国への不正入国など伝えられ、それを聞いたことで自分の中でやっぱり公開処刑されるべき人間という認識に戻る。
「では、これより鼠小僧 ジロキチ改めジロキチ・ウィンハークの公開処刑を行う!」
この瞬間、城に向かって、無数の魔法が放たれて、外から謎の一団が跳躍し、城壁を登るとそこからまた跳躍し、一気に広場に走り込んだ。
「なんだ!?」
「この人たち、魔法使い!?」
国民が信じられる身体能力を目撃した瞬間、人間だった彼らの姿がガルザたちに変化した。
「どけー! 人間ども!」
「俺たちの大切な仲間を返してもらうぞ!」
サヤの村にいたガルザとヤイバは少数精鋭で次郎吉奪還を決めた。今回は別にシルファリッド王国と戦争するわけではない。次郎吉を救い出して、国外脱出すれば勝ちなのだ。わざわざ大軍を出してシルファリッド王国を刺激する必要はない。最もそこまでの戦力は無いんだけどね。
更に門番を洗脳の魔法で突破し、シルファード内部から魔法を放ったのはプラムが率いているエルフの一団だった。プラムはサヤの村を出てから母国と祖国に帰り、戦力を集めていたのだ。エルフたちも次郎吉には仲間が奴隷から解放して貰った恩がある。その恩を返すために集まったのだ。
しかしエルフたちの魔法に対して王国騎士団が魔法で相殺し、更にガルザは乱入してきたハゲッツの拳で殴り飛ばされた。
「嘘だろ……」
「悪いが鼠小僧を逃がさせるわけにはいかないんだよ」
「……そりゃそうだろうな。だから力づくで奪い返しにきたんだよ!」
「は! いい覚悟だ! 獣人と戦うのは初めてだ。楽しませてくれよ?」
ガルザとハゲッツが激突すると衝撃波が発生する。これを見たヤイバは先に進もうとしたがハゲッツの部下のソリスが獣人たちを妨害した。
それらの動きを見た瞬間、シルファードの建物の一つから稲妻が処刑台目掛けて走ったが光線がそれを弾き飛ばした。交差したのは怪盗キャリコと光速のソーサリーファクトを使用したエッティスだった。両者は処刑台ではなく、広場に落下して相対する。
「エッティス!」
「あなたなら救いに来ると思ってましたよ。怪盗キャリコ! 今日こそ私があなたを捕まえて鼠小僧と運命を共にさせてあげましょう!」
「素敵な決まり文句ね。ならここで鼠小僧を救い出してあなたが言うように運命を共にさせてもらうわ!」
各地で戦闘が発生するが流石に多勢に無勢だ。奇襲が失敗し、次郎吉が救い無かった時点で彼らに活路はもうない。
「罪人、鼠小僧を処刑せよ!」
「「は!」」
「「「「やめろ(やめて)ー!」」」」
みんなが叫ぶ中、次郎吉の首目掛けて日本の剣が振り下ろされる。次の瞬間だった。処刑人二人が感電した。
「は? ぎゃ!?」
公開処刑を指示した刑務所の所長も感電する。そして透明化するソーサリーファクトで姿を消していたコーネが現れた。
「助けに来たよ! ジロキチ!」
コーネがそういうとコーネは腕のソーサリーファクトを操作すると次郎吉を拘束していた拘束具が酸化して壊れた。
次郎吉のソーサリーファクトは次郎吉の手によって、全部破壊されている。それならなぜコーネが次郎吉と同じソーサリーファクトを使えるのか謎である。その謎の秘密はアーベルトにある。コーネはソーサリーファクトに興味を示さなかっただけでアーベルトからソーサリーファクトの知識を実は教わり済みだったのだ。
残念ながら自作するまでは到達していないが他人の魔法陣を真似して類似品を作ろうと思えば作れたのだ。それなら後は腕利きの魔道技師と次郎吉のソーサリーファクトの知識があれば数か月で再現することは可能である。そしてアーベルトの家には現在フェルが住んでおり、アーベルトの自宅には次郎吉と共に過ごした記録が残されている本があった。
「君はだれ?」
「あたしは君のお姉ちゃんだよ。君は助からないといけない。あたしを初めとした今頑張っているみんなのためにね」
コーネにそう言われて、手を差し出された次郎吉はその手を掴むのだった。




