#118 サヤの村、バルバリス王国襲撃
翌日の夜、サヤの村に対してバルバリス王国の軍が攻撃陣形を整えると副官が隊長に質問する。
「ここまで相手の動きは無しでしたね」
「指揮官を失った影響と考えられるが不気味さは俺も感じている。油断するなよ? 何せ相手は獣人。俺も戦闘したことがない敵だ」
「分かっております」
一応獣人の情報はバルバリス王国のビャク王国から聞いている。身体能力が人間より高く、ビャク王国の商人を何回も襲っているところを見ると奇襲が得意だと予想が出来た。しかしその奇襲は一切なし。雪の影響とも考えたが純粋に大軍相手に奇襲しても意味がないと判断された可能性が高いと隊長は考えていた。
奇襲の利点は相手の不意を突けることだが大軍相手に不意を付いたところで陣形を乱すぐたいの効果しか得られない。あわよくば隊長の首を取れる可能性はあるが余程の突破力がないと無理だ。それよりも相手の物資を奪って兵糧を無くしたほうが大軍相手には効果的だったりする。
それこそ獣人の得意分野で隊長は警戒していたが獣人たちはその選択を取らなかった。無駄死に恐れたのかそれとも何か別の作戦を用意しているのか。隊長からすると後者の可能性が高く感じており、それにはちゃんと理由がある。
「ビャク王国軍はまだ当直していない様子ですがいかがいたしますか?」
「雪山で奴らのことを待つ必要があると思うか? そもそもビャク王国の奴らがこの戦いに参加する気があるのか怪しむべきだと俺は思うが?」
ビャク王国の動きが遅れたせいで獣人たちは今、バルバリス王国の軍隊だけを見ているだけでいい状態となっている。つまり自分たちを撃退するために全神経を集中させているのだ。何か勝つための秘策があるように隊長には思えてならなかったのだ。
「確かに……ではどうしますか? 我々の目的は偽物の王女の排除です。奴らが引き渡しに応じるなら引くのも手だと思います。契約を破ったビャク王国へのお返しにもなると考えますが」
「そうだな……しかしそんな甘っちょろい考えをしている間に標的を逃がすわけにもいかん。何より我々の命もかかっているしな。バルバリス王国らしく問答無用で敵を蹂躙するぞ」
「了解いたしました。全軍攻撃用意! ……攻撃開始!」
バルバリス王国の魔法使い部隊から一斉に大魔法が放たれる。これに対してカナリが次郎吉のソーサリーファクトを発動させて魔法を無効化した。そして急いで魔力バッテリーを空の魔力バッテリーに交換するように指示を出す。
その結果、見事にバルバリス王国の魔法連射攻撃を耐えきった。
「情報通りのようだな」
「はい。では予定通りこちらもソーサリーファクトを起動させます」
「頼む。バルバリス砲までの時間を稼ぐ! 弓矢部隊! 構え! 放て!」
バルバリス王国の隊長は弓矢で結界を攻撃して獣人たちを外に出さないようにした。次郎吉の魔法無効化技術は元々バルバリス王国のもの。当然弱点である魔力吸収のキャパオーバーのことも理解しており、その準備のためにわざわざバルバリス砲を山奥まで運んできたのだ。
結果、獣人たちは外に出れずにバルバリス砲の魔力チャージが完了してしまった。
「攻撃休め! バルバリス砲、発射ー!」
次郎吉を苦しめたバルバリス砲が放たれる。これが結界にぶつかれば勝負ありだ。しかしバルバリス砲の情報は次郎吉が教えている。当然その対処法も考えられていた。
「魔剣技! ザッシュ!」
風の刃がバルバリス砲で放たれた大砲を斬り裂くと大砲は結界に当たるより遥か遠くで爆散してしまう。
「何!?」
「情報にあったダークエルフの仕業……な」
バルバリス王国軍全体が結界の前の岩柱の天辺に乗っている敵の姿を見て、戦慄する。そこには立派な剣を持った獣人がいた。
「まさかあの獣人が風の魔法を使ったのか?」
「ありえません! 獣人が魔法を使えるなど聞いたことがない! しかもバルバリス砲を砲弾を斬り裂くほどの高密度の風の刃を作り出すなんて一流の風の魔法使いでも難しいですよ」
「そんなことは分かっている。全軍落ち着け! 獣人が魔法を使えようが大した問題ではない! 攻撃続行! 弓矢部隊! 攻撃再開!」
残念ながら獣人が魔法を使えるという新情報は大した問題なはずがない。何せ獣人の身体能力の高さに加えて魔法まで使えるとなると人間の優位性が完全崩壊する。
そして無慈悲にその獣人は魔法陣を展開した。
「クース・バーン!」
その獣人が魔法を発動させると竜巻が発生し、弓矢を全て弾き、強大な雪の竜巻はバルバリス王国に向かう。しかしバルバリス王国の魔法使いも流石に負けておらず巨大な火球を作り出して竜巻にぶつけると火球が爆発し、竜巻は消滅する。
「ち……本来なら体温奪われて俺たちの勝ちだったんだが流石に軍所属の魔法使いが相手となると無理があるか」
難を逃れたバルバリス王国軍だがサヤの村からとんでもない魔力の高まりを感知する。
「大いなる大地よ。我が怒りを聞き届け給え。大地を踏みつけし者たちよ。大地の怒りと声を知れ。断罪の時は来た。この場にいる全ての者たちよ!地面に這いつくばり命乞いをするがいい!」
プラムが怒りの詠唱をする。これに対してバルバリス王国軍は突撃を指示した。流石に結界内の大魔法詠唱をすぐに止める術はない。なら歩兵は前に出て、魔法使いたちもプラムの大魔法を向かい打ちしかない。
そんな彼らの姿を見た魔法使いの獣人が姿を消すとバルバリス王国の魔法使い部隊に襲い掛かった。そして彼らはその目で動く白い狐耳と動く狐の尻尾を目撃してしまった。その現実が彼らに魔法を使える獣人が実在しているという事実を突きつけた。
これに対して流石にバルバリス王国の騎士たちが応戦に出るがどうしても獣人の耳と尻尾に意識を取られ、追い打ちとばかりに目の前で風魔法を披露する。
「く! こいつ!」
「強い!」
「怯むな! 相手は一人だ! 全員で確実に仕留めろ!」
「「「「は!」」」」
バルバリス王国の隊長からするとこの謎の獣人を生かしておくと後々バルバリス王国にとって災いになると確信していた。何せ自分たちは今まさに獣人を怒らせることをやっているのだ。彼らの恨みがバルバリス王国に向く可能性は十分に考えられた。
しかしこれは判断ミスだ。次郎吉作製の白い狐の獣人に化けることが出来るソーサリーファクトを装備しているゲオリオは時間稼ぎに成功したので、空を飛んでサヤの村に帰る。そして雪山で絶対に遭遇したくない自然現象をプラムは発生させる。
「オガ・ゼーノ・ヴァンギオン!」
魔力の高まりが消える。
ゴゴゴ……
その音は残念ながら雪と風が吹く外ではなかなか気づくことが出来ない音だった。だがこの音こそ大地の怒りの音。そして彼らへの死刑宣告となる。次の瞬間、バルバリス王国軍はプラムが使用した魔法を理解する。
「な、なんだ!?」
「体のバランスが!? これは地震!?」
プラムが使った魔法は巨大地震を起こす魔法。そして雪山で地震が発生すると雪山災害の中でも最強の自然災害が発生する。それはバルバリス王国軍にとっては最悪の自然災害だ。
「こ、今度はなんだ!?」
「景色が遠のいていく?」
「おいおいおいおい!? 冗談じゃないぞ!? 俺たちが立っている雪がずり落ちてる! 全軍、逃げろ! 雪崩に巻き込まれるぞ!」
そんなことを言われても地震の揺れで彼らは立つことが出来ない。しかももう雪崩は始まっている。この状況で逃げ出すことが出来るのは空を飛べる手段を持つ者か雪崩に巻き込まれても滑れるスキーヤーかスノーボーダーだけだ。
「「「「助けてくれ~!?」」」」
空に逃げた魔法使いたちと飛行のソーサリーファクトを持っていた騎士たちは雪崩に飲み込まれていく無残な自分たちの部隊を見送ることしかできなかった。
直接攻撃する大魔法だったら、バルバリス王国軍は対処出来ていた。しかしこの地震の魔法は事前に地震の魔法が来ると分からなければ対処不可能な魔法だ。全てを見越したプラムの魔法センスが完全にバルバリス王国軍の魔法使いたちを超えたと言っていい。
「おーおー。プラムの嬢ちゃんを怒らすと本当に怖いな」
「……敵には絶対に回したくないタイプ。……そして獣人のゲオリオの破壊力がやばい。……次郎吉の神ソーサリーファクトに感謝」
「ただ狐の耳と尻尾を取り付けて動かくだけのソーサリーファクトなんだがな。魔法使いに使わせてここまで敵を動揺させるとは本当に次郎吉とプラムが敵出なくてよかったとつくづく思うぜ」
バルバリス王国軍の無残な姿を見ながらゲオリオとクインは心の底から本音を言うのだった。




