#117 サヤの村、二度目の侵攻
次郎吉の遺言が届けれてから一週間後の夜、サヤの村に緊張が走る。
「ん? お、おい! あれ!」
「なんだよ……黒い煙!? まさか本当にビャク王国が!? 急いでガルザたちに報告に行くぞ!」
山の崖でうまく下の様子が見れなかったが空高く上った黒煙のお陰で襲撃に気が付いた。しかし慌てていたのはこれを見た彼らだけではなかった。
逆方向つまりシルファリッド王国とバルバリス王国方面を監視していた獣人たちも慌てて報告を入れた。
「バルバリス王国方面より無数の灯りを確認! 真っ直ぐこちらに向かってきてます!」
「まさかバルバリス王国とビャク王国が手を組んだのか!?」
「現状そう見るしかないですね……その為の同盟ですし」
「あの~……その同盟の話なんですけど、黒い煙が上がっているということはどこかの村が襲撃を受けているってことじゃないですか?」
監視の意見に全員が息を呑む。そして同盟を組んだ村の伝令がサヤの村にやってきて救援要請を出した。しかしこの状況で救援など出せるはずがない。それを聞いた伝令役を当然キレるが伝令役の獣人に現実を突きつけた。
「あれは……」
「バルバリス王国の軍だ。もう部隊の展開を終わらせている。これで俺たちは上下から挟まれた。俺たちの逃げ場は左右しかない。右に行けば海。左に行けば隠れる場所がない丘と草原だ。当然あいつらはこれを分かっている。なら当然待ち伏せしているだろう。あいつらは俺たちを絶滅されるつもりだ。俺たちに残されたのはそれでも逃げるか村に立てこもって戦う道しか残されていない」
「そんな……」
伝令役は絶望する。何せ自分の村はもうビャク王国の攻撃を受けて命からがらサヤの村にやって来たのだ。自分の村が防衛に向いていないことを一番理解している彼にガルザは言う。
「俺たちはこの村でバルバリス王国とビャク王国を迎え撃つ。お前も伝令役なら俺たちの戦いに参加したい者を集めろ。誰でもこの村の中に入れてやる。それでいいよな?巫女様」
「もちろんです。監視の皆さんは今すぐ各地に散ってこの戦いに参加してくれる人を集めてください」
「「「「は!」」」」
こうしてサヤの村はビャク王国から襲撃を受けて逃げ回っている獣人を集めることにした。
一方ビャク王国がサヤの村を襲撃するのではなく近くの大きい村たちを襲撃したのにはちゃんとした理由があった。
まず第一に最初の侵攻で返り討ちにあったので、サヤの村に手を出したくはない。そもそもサヤの村を潰したいと思っているのはバルバリス王国とシルファリッド王国なのだ。鼠小僧を捕まえたのならシルファリッド王国がサヤの村に関与する理由は無くなった。
一方バルバリス王国はプリマ王女の潜伏先の可能性が高いので、サヤの村は潰しておきたい。それを分かっているビャク王国はバルバリス王国にサヤの村を任せて、周辺の獣人の村を潰しつつサヤの村から逃げる獣人たちを始末することにした。
ビャク王国からすると獣人は目の上のたん瘤。バルバリス王国と共に獣人を潰せるならこんな嬉しい話はない。
ただ問題なのはビャク王国のこの動きをバルバリス王国は知らされていない。この侵攻は両軍がサヤの村を襲撃する約束で結ばれている。しかしビャク王国が他の村を襲撃するということはそれだけ両軍の足並みが遅れており、襲撃で消費する労力も使った。
そして天気もサヤの村に味方した。
「雪ですね……」
「護衛役の俺としては嬉しい天気だ。それでプラムさんはどうするんだ?」
「わたしくは今でも旦那様第一主義です。そしてこの村は旦那様が帰るべき場所。そこを破壊すると言うのならわたしくの敵ということになります。何より旦那様の言いつけで自由にやっていいと言われましたから。存分にダークエルフの力を教えてあげますよ」
「心強いこった。さて、次郎吉。お前がこの日のために作ったソーサリーファクト。使わせて貰うぜ?」
ゲオリオとプラムは戦う気満々だ。両軍の動きの乱れと雪という天候、そして地形的有利が勝敗にどう影響が出るのか歴史は知ることになる。
まずバルバリス王国からの侵攻前日。雪は降り続けており、時間帯によっては大雪となった。しかし獣人たちは木から木にジャンプし、雪に足を囚われるのを避けて、命からがら逃げて来た獣人たちを集める。視界が雪で奪われても獣人には鼻がある。
しかし見つけても全員が戦闘参加するわけではなかった。援軍に来なかったサヤの村を批判し、同じ目に会えと言う獣人も結構いた。ただ詰んでいるこの状況に対してサヤの村に希望を持つ者もいたのが救いとなる。
「そうですか……皆さんはわたしくを恨んで村と共に運命を共にしましたか」
「はい……サヤ殿はどうお考えですか?」
「これはわたしくの罪です。わたしくから同盟の提案をしておいて結局救援要請に応じなかったのですから恨まれるのは当然のころだと思います。しかし今、死ぬわけには参りません。わたしくもこの村の代表。この村とこの村にいる人を守る義務があります」
「わかりました……我々も今だけは共に戦いましょう。その先の話は共に命が助かってからするといたしましょうぞ」
「感謝いたします」
サヤが交渉した各村の代表は既に亡くなっていた。そして脱出した権力がある者たちがサヤを非難したがこのままだと獣人が絶滅するということも理解している結果、この難局を突破するためにサヤの村には多くの獣人が集結することとなる。
これは先にビャク王国が周辺の村を手あたり次第襲撃した結果だ。ちゃんと包囲して殲滅していればこんなことにはならなかった。逃げたとしてもバルバリス王国と挟んでいる現状なら逃げ道はもうないと思い込んだ慢心から出た行動だ。戦場での慢心がどれだけ危険なことか彼らはまだ知らないのだった。




