#113 最後の悪足掻き
敵に捕まった次郎吉は拘束されたままパンツ一丁の姿で夜の森を歩かさせられる。
「一目が無いにしてもこの扱いの酷さはないんじゃないか? お前ら揃いもそろってそういう趣味なんじゃないだろうな?」
「黙れ。ろくでなしの犯罪者が」
「よくわかっているじゃねーか。それで? お前らは一体何様のつもりなんだよ? あぁ……言わなくていい。国を腐らせている偉い偉い宰相さんの飼い犬だったな」
次郎吉の発言を聞いたギルター宰相の手の物は次郎吉の背中を蹴り、次郎吉は地面に転がる。
「立場がわかってねーよだな? お前はギルター様に負けたんだよ」
「そうだな。それで何が言いたい? お前らは俺っちをここでは殺せないよな? ここで俺っちを殺しても犯罪の流れは止められない。俺っちが生み出した犯罪の流れを遮断するためには俺っちを公開処刑して国民に対して罪を重さを教える一つがある。バルバリス王国にも報告ではなく目に見えた結果を示すのが望ましい。違うか?」
鼠小僧や怪盗キャリコの国民人気は強まっている。こうなると模倣犯が次々出て来る異常事態になりかねない。そうなると被害を受けるのは国や貴族たち、悪い商売をしている商売人だ。彼らからすると溜まったものじゃない。
そしてバルバリス王国も文章で鼠小僧を殺しましたと伝えても簡単には信じないだろう。何せシルファリッド王国が次郎吉を匿っている可能性がゼロじゃない。実際に王女様と関わっているしね。そうなるとやはり公開処刑で実際に次郎吉の死を見せたほうが圧倒的にバルバリス王国の信用を得やすい。
「確かに俺たちはお前の殺害は許可されていない。しかしお前をボコボコにすることは禁止されていないぞ!」
「いいぜ? 来いよ。俺っちをギルター様のところに連れて行くのはちょいと手間だぜ?」
地面に転がった次郎吉はどうやら敵の指示通り動くつもりはないらしい。一切の命令を聞かなくなった次郎吉を見た敵は次郎吉をボコボコにして引きずって目的地まで連れていく羽目になるのだった。
そしてギルター宰相の屋敷から少し離れたに森の中で光学迷彩で隠された家に次郎吉は運ばれるとそこにはギルター宰相とトーマンに加えて護衛と思われる騎士たちがいた。オレガ第二王子の姿はない。流石に王がいつ死去するかわからない状態では動けなかったらしい。
「ギルター宰相。国家反逆者。鼠小僧のジロキチを連れてきました」
「遅い。どれだけ時間がかかっているのだ」
「すみません。こいつが言うことを聞かなくて」
「ジロキチ!? ちょっと! あんたたち! ジロキチに何してんのよ! そんなにボコボコにしてあんたたち本当に人間なの!」
重要となるコーネは十字架で貼り付けにされていた。次郎吉のような醜態を晒していないのは政治家が犯罪者だとしても女性に対していやらしいことするのはイメージダウンになるからだろう。そしてボロボロ状態の次郎吉を見たコーネは敵を非難する。しかしこの発言に対してギルター宰相が言う。
「もちろん人間だ。そして君たち犯罪者は人間ではない。それがこの国の法律だ。君たちもそれが分かっていて犯罪をしているのだろう?」
「く……」
コーネとギルター宰相が睨み合う中、トーマンが次郎吉に近づいてくる。
「お前さんが鼠小僧か?」
「そうだ……お前が俺っちを捕まえた男か?」
「いかにも。儂の名前はトーマン。お主の師匠のアーベルトとは一緒に世界で初めてソーサリーファクトを開発した魔道技師じゃ」
「そいつは強いわけだ……俺っちはどうやら最後まで師匠には勝てなかったということらしい」
次郎吉の敗北宣言を聞いたこの瞬間、その場にいる全員が油断する。そしてその一瞬の隙を次郎吉は見逃さなかった。次郎吉は拘束をすり抜けると手からスライムを伸ばし、コーネを捕まえると拘束されたコーネは十字架をすり抜けて解放されると次郎吉に向かっていく。
「なんだ!? この魔法は!?」
「ソーサリーファクト!? 馬鹿な!? こやつはほぼ全裸じゃぞ!?」
「てめぇ!」
ギルター宰相もトーマンも次郎吉のこの動きは完全に予想外のものとなり動けない。次郎吉を取り押さえていた者と護衛の騎士たちが動いたのは流石と言っていい。
「ふぇ!? あ」
次郎吉に向かっていくコーネは次郎吉の口パクを見た。そしてコーネは次郎吉を通り抜けて、壁もすり抜けると遠心力を利用して遠くに飛ばされる。
「ちょ!? あたし、ソーサリーファクトを持ってないんですけど!?」
次郎吉からすると命が助かるだけちょっとした怪我ぐらいは我慢して欲しいところである。そしてコーネを逃がすことに成功した次郎吉はコーネの拘束に動こうとしていた騎士たちに体からぶつかって追撃を阻止した。
「俺っちの首で満足しておけよ。ギルターの騎士ども。欲張るとろくなことにはならないぜ? 小娘に目隠しや口を封じていないってことはあの小娘が何かしても握りつぶせる自信があるからしてないんだろ?」
「貴様……」
「我々を脅すか……」
「やめろ。こいつの言う通り、元々の狙いは鼠小僧の首だ。これ以上騒ぎを起こす必要はない。っ!?」
ギルター宰相の命令を受けて騎士たちは引く。そんな中、ギルター宰相は次郎吉の凶悪な笑みを見る。
「騒ぎは嫌いか? ギルター宰相」
次郎吉の胸と頭から魔力が発生する。これを見た瞬間、トーマンは次郎吉が行った狂気の沙汰を理解した。
「お主、まさか……ソーサリーファクトを自分の体の中に入れたのか!?」
「ご名答」
これが次郎吉がプラムたちに頼んで行ったことだ。流石に手術の経験がない彼女たちにこれをさせるのは相当な負担をかける。ただプリマ王女は次郎吉の火傷の怪我を治療する度胸があった。そして見事にそれをやり遂げた。因みにプラムは次郎吉に麻酔の代わりとなる痛みの感覚を無くす魔法をかけ続けないといけなかった。そうしないと次郎吉も人体のどこにソーサリーファクトを隠すのか指示出し出来ないからね。
「悪いが俺っちとお前の勝負は引き分けにさせて貰うぜ? 俺っちの最後の悪足掻きだ。たっぷり味わいな」
「なんじゃと!?」
その場にいる全員が警戒し、次郎吉から大量の魔力が放出されると次郎吉は倒れ込んでしまった。暫く様子を伺い、一番の実力者であるギルター宰相の騎士たちが次郎吉に近づき、剣で突いて安否確認をする。すると次郎吉は起き上がり、周囲を見渡す。
「あなたたちは誰ですか?」
次郎吉のこの言葉と次郎吉の気配の変化にトーマンは驚愕する。トーマンはこの一瞬で次郎吉が何をしたのか理解してしまった。一方でギルター宰相の配下の者たちは怒り心頭だ。
「なんだ? こいつ? ふざけているのか?」
「散々ビビらせやがって。もう一回ボコボコにしてやろうか?」
「もしかして僕に言ってますか? やめてください!」
流石にこの異常事態に騎士たちが言う。
「こいつ……さっきまでと気配がまるで違うぞ?」
「記憶喪失にでもなったと言いたのか? こいつは?」
「なったんじゃないわい。記憶喪失にしたんじゃよ……く、くくく! わっはっはっは! 全く! なんという犯罪者じゃ! まさに究極の証拠隠滅! これでは確かに本当に鼠小僧を捕まえたのかわからなくなるわい! 見事な最後の悪足掻きじゃった!」
次郎吉が何をしたのか全て理解しているトーマンは笑いながら次郎吉を称賛するのだった。




